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white_robe_love_syndrome:scr01221

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[001]  ハッと気付けば、何もない世界にいた。

[002]    ここは、いつもの夢の中……?

[003]あの女の子とまゆきさんが

[004]ふたり揃って目の前に立っている。

[005]女の子は、わたしを見てにこっと笑った。

[006]そして、フッと

[007]まゆきさんの中に消える。

[008]いつも夢の中で会っていた女の子。

[009]親近感を覚え始めてた彼女が消えたことに

[010]ショックを隠しきれない。

[011]名前を呼んであげたかったのに、

[012]わたしは、彼女の名前さえ

[013]思い出せないなんて……!

[014]彼女には優しい声で

[015]『かおりちゃん』って呼んでもらったのに……

[016]何度も!!

[017]【かおり】

[018]「――ちゃん!!」

[019]なのに、わたしは

[020]そんな彼女の名前を

[021]呼んであげることもできないなんて!!

[022]頭の中で、

[023]『わたしのことは気にしないで、かおりちゃん』と

[024]優しい声が響いた――そんな気がした。

[025]思い出せそうで思い出せなかった、

[026]その子の名前を必死で呼んだ。

[027]ゆっくり目を開けると、

[028]わたしたちは元通り、わたしの部屋にいた。

[029]いつの間にか流れていた涙を

[030]まゆきさんに指摘されない内に

[031]サッと手で拭う。

[032]けど、目の前のまゆきさんまで

[033]何故か泣いていた。

[034]【かおり】

[035]「まゆきさん……?」

[036]【まゆき】

[037]「……失敗だ……」

[038]【かおり】

[039]「え……?」

[040]【まゆき】

[041]「はづきの能力を持ってしても、

[042] わたしの病気は治らなかったということだ……」

[043]はづきちゃん……!

[044]そう、

[045]あの子の名前は、はづきちゃんだった!!

[046]【かおり】

[047]「そんな……!」

[048]【まゆき】

[049]「……すまん……。

[050] はづきにも、そして、おまえにも

[051] 辛い思いをさせた……」

[052]【かおり】

[053]「そんな、そんなことって……!!」

[054]まゆきさんが、ふっと微笑む。

[055]夢の中の女の子・はづきちゃんは

[056]わたしの子供の頃の親友だった女の子。

[057]大好きだった親友の名前を、

[058]どうして今まで忘れてたんだろう?

[059]【まゆき】

[060]「さ、今度こそ本当に眠ろう」

[061]翌朝、ふたりで出勤(?)した。

[062]主任さんは全てを理解しているようで、

[063]かなしそうな微笑みを浮かべている。

[064]【かおり】

[065]「あ、あの……、主任さん……」

[066]【はつみ】

[067]「いいの、……いいのよ。

[068] 最悪の事態は免れた……。

[069] 今はそれだけで良いの……」

[070]ぽろりと主任さんが涙を流した。

[071]わたしは何も言えないまま、

[072]まゆきさんを病室に送る。

[073]【まゆき】

[074]「……わたしはこれまで通り、

[075] 毎年のように若返って、

[076] 三年後に消滅するのだな……」

[077]【かおり】

[078]「それでも、わたし、

[079] まゆきさんの最期の時まで一緒にいるから!!」

[080]穏やかな瞳で、

[081]まゆきさんは小さく微笑んだ。

[082]【まゆき】

[083]「人様の能力を利用しようとした

[084] 罰が当たったのだろうな」

[085]【かおり】

[086]「だって、辛かったんでしょう、

[087] しょうがないよ!!

[088] 誰にでも幸せになる権利くらい、あるよ!!」

[089]【まゆき】

[090]「権利……か。

[091] 権利を主張する者は、

[092] 義務を遂行しなければならない」

[093]【まゆき】

[094]「……思えばわたしは今まで

[095] 懸命に生きようとはしていなかった……」

[096]【かおり】

[097]「まゆきさん……!!」

[098]それ以上、聞いていたくはなくて、

[099]まゆきさんを強く抱き締めた。

[100]その日は、主任さんの機転で、

[101]急遽、お休みをいただいた。

[102]まゆきさんと一緒にいた昨夜は

[103]あまり眠れなかったので、

[104]ありがたくお言葉に甘えさせてもらった。

[105]そして――。

[106]【なぎさ】

[107]「……元気出してよ、沢井……」

[108]屋上で、

[109]なぎさ先輩が慰めてくれる。

[110]【なぎさ】

[111]「せっかく若本さんと仲良くなったのに、

[112] 離れることになったのは残念だけど……」

[113]【なぎさ】

[114]「でも、外国で最新の治療が

[115] 受けられることになったんだから、

[116] 結果的には良かったじゃない」

[117]【かおり】

[118]「…………」

[119]わたしがお休みした、たった1日の間に、

[120]まゆきさんは百合ヶ浜総合病院から退院していた。

[121]海外で最新の治療を受けるために出国したのだと、

[122]主任さんはスタッフに説明したらしい。

[123]けれど――。

[124]【かおり】

[125]「……はい」

[126]――あの人は、死に場所を求めて、

[127]誰も自分を知らない場所へと旅立ったのだと

[128]何となくわかった。

[129]心の声は、もう聞こえない。

[130]もう、何も聞こえはしない。

[131]わたしのことが好きだと言ったのに、

[132]冷淡にも、わたしの存在を切り捨てて行ったまゆきさん。

[133]連れて行ってくれたのは、

[134]わたしがまゆきさんを好きだと思った、

[135]その気持ちだけ。

[136]まゆきさんはもう、

[137]わたしの手が届かないところに行ってしまった……。

[138]【なぎさ】

[139]「ねぇ、沢井、泣かないでよ……」

[140]【かおり】

[141]「……泣いてませんよ」

[142]きっとまた、逢えるはずだから。

[143]治療が成功して戻ってきた時に、

[144]年上で年下の、大好きなあの人に

[145]相応しい人間になっていないといけないから。

[146]……だから、泣いている暇なんて、ない。

[147]そう自分に言い聞かせて、

[148]わたしは顔を上げた。

white_robe_love_syndrome/scr01221.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)