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white_robe_love_syndrome:scr01212

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[001]あの後すぐ、まゆきさんは退院し、

[002]苦労したせいか、年齢よりは上に見える妹さんと

[003]姉妹水入らずで一緒に暮らしながら、

[004]中学校に通うことになった。

[005]本当は、中学校に通う必要はないんだけど、

[006]ここから改めて人生をやり直したいって

[007]まゆきさんが希望したらしいの。

[008]そこで、いろいろな人が動いて、

[009]中学校に通うことになった――のは

[010]良いんだけど……。

[011]……でも、

[012]中学校って、義務教育だよね。

[013]ってことは、

[014]まゆきさんの戸籍って今、どうなってるのかな。

[015]なんだか訊いちゃいけないような気がして、

[016]取り敢えずは『まゆきさんが中学校に通ってる』って

[017]事実だけを受け止めることにした。

[018]スルーりょくって

[019]意外と大事だよね、うん!!

[020]そして、わたしの勤務に合わせて、

[021]寮の部屋にやってくる。

[022]――こんな風に。

[023]【まゆき】

[024]「これがメイドプレイというやつか?」

[025]【かおり】

[026]「ふわふわのスカートの上に座る気分は如何ですか、

[027] お嬢様?」

[028]【まゆき】

[029]「ふむ、悪くはない」

[030]くすくすと笑い合う。

[031]【かおり】

[032]「それはそうと、学校はどうですか?

[033] 楽しいですか?」

[034]【まゆき】

[035]「くだらん」

[036]【かおり】

[037]「……またそんなことを……」

[038]【まゆき】

[039]「授業は既に知っていることばかりで、退屈この上ない。

[040] 教師も教師だ、ただ教科書を読み上げるだけなら

[041] テープレコーダーを置いておけば良い」

[042]うわー、ケチョンケチョンだ……

[043]先生も気の毒に……。

[044]【まゆき】

[045]「だが、たくさんの若者に囲まれて勉強するのは

[046] そう悪くはない。

[047] 毎日が刺激的だ」

[048]【かおり】

[049]「今はまゆきさん……じゃなかった、

[050] お嬢様も、その『若者』のひとりなんですよ?」

[051]くすりとまゆきさんが笑う。

[052]少女のような、大人のような、

[053]不思議な微笑み。

[054]【まゆき】

[055]「ああ、そういえば、昨日はラブレターをもらった。

[056] ああいうものは、時代が変わっても

[057] 変わらないものなのかと思ったな」

[058]【かおり】

[059]「ラブレター……?」

[060]むむ!

[061]まゆきさんったら、

[062]わたしを嫉妬させて楽しむつもり!?

[063]【まゆき】

[064]「もっとも、わたしには

[065] 心に決めた者がいるからと断った。

[066] ……泣かれたのには参ったがな」

[067]【かおり】

[068]「…………」

[069]【まゆき】

[070]「どうした、かおり。

[071] 妬いたのか?」

[072]【かおり】

[073]「妬いてませんー」

[074]ふーん、という顔で、

[075]まゆきさんがわたしを見上げてくる。

[076]【まゆき】

[077]「……その相手が、泣きながら

[078] 『思い出にキスしてください』と言った……

[079] としたら?」

[080]え……!?

[081]【かおり】

[082]「……キス、したの……?」

[083]【まゆき】

[084]「フッ、妬いたなら妬いたと素直に言え」

[085]【まゆき】

[086]「わたしはもう、かおり以外に唇を許すつもりはない。

[087] おまえは違うのか?」

[088]【かおり】

[089]「……違わない。

[090] わたしも……まゆきさん――お嬢様だけ……」

[091]一度、キスしてしまうと、

[092]なかなか離れられなくなっちゃうな……。

[093]【まゆき】

[094]「ずっと一緒にいてやる。

[095] だから、おまえもずっと一緒にいろ」

[096]【かおり】

[097]「……ん」

[098]まゆきさんたら、

[099]『一緒にいてくれ』じゃなくて

[100]『一緒にいろ』って命令形なのね。

[101]【まゆき】

[102]「共に同じ時間を過ごしてゆこう……。

[103] ……わたしは……今度こそ、

[104] 愛する者の葬式に出られる……」

[105]【かおり】

[106]「…………」

[107]愛する者の葬式、って、

[108]わたしが死ぬこと、前提なの?

[109]そりゃ、ずっと生きていられるわけじゃないって

[110]わかってるけど……。

[111]【まゆき】

[112]「……情けない顔をするな。

[113] 順番でいえば、おまえが先に逝くことになって、

[114] わたしがそれを見送ることになる、それだけだ」

[115]【かおり】

[116]「それは、わかってるけど……」

[117]こんな幸せな時間に

[118]お葬式の話をするなんて……。

[119]【まゆき】

[120]「わたしが先に逝く可能性もなくはない。

[121] ……だが、わたしは愛するものに、

[122] 取り残されるさみしさを与えたくはない」

[123]【まゆき】

[124]「わたしなら、取り残され慣れている。

[125] ただ、葬式に出られるだけで――、

[126] 最期のあいさつを許してもらえるだけでいい」

[127]【かおり】

[128]「ま、まゆきさん……」

[129]まゆきさんの言葉に、

[130]心臓が引き絞られるように、ぎゅっと痛んだ。

[131]唐突に理解する。

[132]そうか……、

[133]まゆきさんは、若返りの奇病のために、

[134]世間から隔離されて生活してたんだっけ。

[135]隔離の間に、ご両親が亡くなって、

[136]でも、そのお葬式にも出られなかった……。

[137]たったひとりであの波の音を聞きながら、

[138]お父様やお母様の法要にも参加できない自分を……

[139]人前に出られない病気になってしまった自分を

[140]ひどく責めてたんじゃないだろうか……。

[141]順番で言えば、

[142]妹さんのお葬式には出られるだろうけれど、

[143]……でも、これ以上、まゆきさんに、

[144]辛い思いを強いてもいいの?

[145]妹さんが先に逝くのは仕方がないとしても、

[146]わたしまで

[147]まゆきさんを残して先に逝ってしまっても、いいの?

[148]【まゆき】

[149]「馬鹿だな、おまえは。

[150] あの忌まわしい奇病はもう治ったのだ、

[151] おまえがそんな情けない顔をする必要はない」

[152]頬にキスをされて、

[153]初めて頬が濡れてることに気がついた。

[154]【かおり】

[155]「……わたしが看取るよ」

[156]はっとまゆきさんが息を呑んだ。

[157]【かおり】

[158]「もう、まゆきさんに

[159] そんな辛い思いをさせたくないの」

[160]【かおり】

[161]「わたし、おばあちゃんになっても、

[162] ずっと一緒にいて、

[163] まゆきさんより長生きするから」

[164]【かおり】

[165]「もう、取り残されるさみしさを味わうことがないよう、

[166] わたし、頑張って長生きするから。

[167] だから……」

[168]【かおり】

[169]「先におばあちゃんになるわたしを

[170] 見捨てないでね?」

[171]わたしの気持ち、

[172]ちゃんとまゆきちゃんに届いたかな。

[173]【まゆき】

[174]「馬鹿にするな、何年、生きてきたと思っている?

[175] 愛する者の外見が変わったところで冷めるような

[176] そんな中途半端な恋なぞしてはいない」

[177]【まゆき】

[178]「おまえがどんなにしわくちゃになろうと、

[179] ブクブクになろうと、ガリガリになろうと、

[180] おまえであることには変わりはない」

[181]【かおり】

[182]「まゆきさん……」

[183]にっこりとまゆきさんが微笑んだ。

[184]【まゆき】

[185]「わかったら……キスの続きをしよう。

[186] わたしはおまえのキスが好きだ」

[187]まゆきさんの言葉に微笑んで、

[188]そっとくちづけを落とす。

[189]【かおり】

[190]「……好きなのは、

[191] わたしのキスだけ?」

[192]【まゆき】

[193]「まさか。

[194] おまえの……全てが

[195] たまらなく……愛しいよ」

[196]何度もキスをする。

[197]額に、頬に、まぶたに、鼻筋に。

[198]もちろん、唇にも。

[199]【まゆき】

[200]「おまえのキスは……気持ちがいいな。

[201] ふわふわした気分になる……」

[202]ずっと、チュッチュしていたくなっちゃう。

[203]【かおり】

[204]「もっとふわふわした気分にしてあげる。

[205] 癒しの手はもうないけど……

[206] その分、わたしで気持ち良くなって?」

[207]【まゆき】

[208]「ああ……癒しの手なぞなくてもいい。

[209] おまえがおまえであればいい……」

[210]【かおり】

[211]「うん……

[212] 大好きだよ、まゆきさん……」

[213]深くなるキスに、

[214]メイドごっこなんてそっちのけで、

[215]わたしたちはお互いの唇をたっぷりと味わっていた。

[216]長い年月を積み重ねてきたまゆきさんの

[217]辛い思い出を少しでも癒したくて

[218]ただただ、キスを重ねる。

[219]メイドごっこも、深いキスも、

[220]この先、何度も機会があるとわかっていても、

[221]今はただ、こうしてくっついているのが幸せで、

[222]手放したくなかった。

[223]何度もこうして繰り返されるキスの感触が

[224]いつか優しい思い出に変わって、

[225]辛い記憶を塗り替えてくれることを祈りながら――。

white_robe_love_syndrome/scr01212.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)