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white_robe_love_syndrome:scr01211

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[001]   ハッと気付けば、何もない世界にいた。

[002]     ここは、いつもの夢の中……?

[003]あの女の子とまゆきさんが

[004]ふたり揃って目の前に立っている。

[005]【まゆき】

[006]「このままでいい。

[007] 治療もしなくてもいい」

[008]【まゆき】

[009]「今はただ、

[010] 最後に好きになった人と一緒に

[011] 残り時間を過ごすことができれば、それでいい」

[012]【???】

[013]「ダメだよ、まゆきちゃん。

[014] 欲しいものは欲しいって言わなくちゃ!」

[015]【まゆき】

[016]「しかし……!」

[017]【???】

[018]「思っているだけじゃダメ!

[019] 気持ちは口に出さないと、

[020] 相手には伝わらないよ!!」

[021]【まゆき】

[022]「しかし……しかし、そんなこと

[023] 言えるはずがないではないか、

[024] わたしはあと三年で消えてしまうのに!」

[025]【かおり】

[026]「まゆきさん……」

[027]そっと、まゆきさんの肩に手を置く。

[028]わたしはここにいるよ、って、

[029]それを教えたくて。

[030]【まゆき】

[031]「……望んでも良いというのか……?

[032] 手に入れることができないものを

[033] 望むことは罪ではないのか……」

[034]【???】

[035]「いいんだよ、まゆきちゃん。

[036] 望むことは罪なんかじゃないんだから」

[037]【???】

[038]「それに、まゆきちゃんは散々苦労したんだから、

[039] ちょっとくらいワガママ言っても、

[040] 許してもらえるよ!」

[041]まゆきさんの肩が

[042]小刻みに震え始めた。

[043]【まゆき】

[044]「生きたい……

[045] 死にたくない……

[046] もっともっと、生きていたい」

[047]【まゆき】

[048]「老いさらばえてゆく身内を見送りたくない!

[049] 父親や母親の葬式に出られないのも、

[050] 妹が年老いてゆくのを見ているのも、もう嫌だ!」

[051]【???】

[052]「そう、

[053] それでいいんだよ、まゆきちゃん」

[054]女の子はニコッと微笑んで、

[055]スーッと消えてしまった。

[056]どこからか声が聞こえる。

[057]【???】

[058]「かおりちゃん、わたしはもう消えるね。

[059] まゆきちゃんをよろしく……」

[060]【かおり】

[061]「――ちゃん!!」

[062]思い出せそうで思い出せなかった、

[063]その子の名前を必死で呼んだ。

[064]はっと我に返ると、自分の部屋にいた。

[065]耳に残る女の子の――はづきちゃんの声。

[066]【かおり】

[067]「はづきちゃん……」

[068]どうして忘れていたんだろう、

[069]あんなに仲が良かった子だったのに。

[070]【まゆき】

[071]「かおり……」

[072]まゆきさんが

[073]わたしのパジャマの裾を

[074]くいくいと引っ張った。

[075]【まゆき】

[076]「はづきが……

[077] 私の代わりに消えてくれた……」

[078]すーっと、

[079]まゆきさんの頬を

[080]涙が伝い落ちている。

[081]はづきちゃんが

[082]まゆきさんの代わりに『消えてくれた』……。

[083]【かおり】

[084]「じゃあ、あれは

[085] やっぱりただの夢じゃなかったんだ……」

[086]はづきちゃんが何をしたのかは、わからない。

[087]ただ、まゆきさんの病気が治ったらしい、

[088]ということはわかった。

[089]何かを吹っ切るように、

[090]まゆきさんが小さく微笑んだ。

[091]【まゆき】

[092]「……おまえは仕事があるだろう。

[093] もう、寝よう」

[094]【かおり】

[095]「でも……」

[096]朝、起きたら、

[097]まゆきさんがいなくなってるかもしれない、

[098]……そんな不安が胸をよぎる。

[099]【まゆき】

[100]「そんな顔をするな。

[101] わたしはもう……」

[102]言葉を区切って、

[103]まゆきさんは晴れ晴れしい笑顔を浮かべた。

[104]【まゆき】

[105]「わたしはもう、死に怯えることはない。

[106] おまえと一緒に、これからの時間を

[107] 共に歩んでゆけるのだから」

[108]翌朝、ふたりで出勤(?)した。

[109]詰所の前を通り過ぎようとして、

[110]主任さんが立っていることに気がついた。

[111]【かおり】

[112]「しゅ、主任さん……!」

[113]【はつみ】

[114]「…………」

[115]主任さんは

[116]今にも泣きそうな顔をしている。

[117]けど、ぐっと堪えて、

[118]柔らかな微笑みを浮かべた。

[119]【はつみ】

[120]「……何も言わなくてもわかっているわ。

[121] 若本さんの病気が良くなって、良かったわね」

[122]てっきりまゆきさんの無断外泊とか

[123]勝手に判断したこととかを叱られると思っていたので

[124]ちょっと拍子抜けしたのは否めない。

[125]けど。

[126]【かおり】

[127]「主任さん、

[128] どうしてそのことを……?」

[129]しかも、

[130]まゆきさんの病気が良くなったことまで知ってる……?

[131]主任さんは黙ったまま、曖昧に微笑んでいる。

[132]どうやら訊いてはいけないことらしい。

[133]【まゆき】

[134]「世話になったな、はつみ。

[135] おまえには、散々、八つ当たりもしたな」

[136]【はつみ】

[137]「そうでしたか?

[138] 昔のことは忘れました」

[139]微笑むふたり。

[140]このふたりの間には

[141]わたしなんかが割り込めないような

[142]時間の積み重ねがある。

[143]それは、思いの深さや強さだけでは

[144]決して乗り越えられないものだってことは

[145]いくら鈍感なわたしにでもわかる。

[146]【はつみ】

[147]「さ、もう仕事が始まるわ、

[148] 沢井さんは詰所へ入って。

[149] 若本さんはご自分の病室に戻っていてください」

[150]【はつみ】

[151]「昨日の夜勤さんには、

[152] わたしが独断で外泊届けを出しておきました」

[153]【はつみ】

[154]「後で沢井さんに病室まで持っていかせるので

[155] サインを書いてくださいね」

[156]そう言い置いて、

[157]詰所に戻ろうとした主任さんの背中に、

[158]思い切って、質問を投げてみた。

[159]【かおり】

[160]「しゅ、主任さん、

[161] わたしの中にいたはづきちゃんって

[162] 誰なんですか……!?」

[163]ビクリと肩を揺らして、

[164]主任さんが振り返る。

[165]【はつみ】

[166]「……どうしてそんなことを

[167] わたしに訊くの?」

[168]【かおり】

[169]「主任さんなら、

[170] きっと知っているような気がして……」

[171]主任さんは、

[172]ちょっと考えるような仕草をしてから、

[173]にっこりと表情の読めない微笑みを浮かべた。

[174]【はつみ】

[175]「……わたしは

[176] 百合ヶ浜総合病院内科病棟の看護主任よ。

[177] それ以上でも以下でもないわ」

[178]【かおり】

[179]「……そ……うですね」

[180]そっと手を合わせて、胸に当てる。

[181]深呼吸しても、何の変化もない。

[182]もうひとりのわたし……

[183]親友だったはづきちゃんは

[184]本当に消えてしまったんだ……。

[185]【はつみ】

[186]「何をしているの、沢井さん。

[187] 申し送りが始まってしまうわよ」

[188]【まゆき】

[189]「はつみ、

[190] あまり怒鳴るとシワが増えるぞ?」

[191]【はつみ】

[192]「若本さんは黙っていてください!」

[193]怒って詰所に入ってしまった主任さんを見送って、

[194]まゆきさんと微笑み合った。

[195]【かおり】

[196]「じゃ、まゆきさん、また後でね」

[197]【まゆき】

[198]「ああ、待っている」

white_robe_love_syndrome/scr01211.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)