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white_robe_love_syndrome:scr01202

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[001]       あれ……、

[002]       また何もない空間……。

[003]       またあの夢なの?W

[004]フッと目の前にあらわれた女の子は

[005]何やら深刻な表情をしている。

[006]【???】

[007]「あの人を助けるには

[008] どうすればいいんだろう……」

[009]【かおり】

[010]「……あの人って?」

[011]【???】

[012]「ねぇ、どうしたらいいと思う?」

[013]女の子の言う『あの人』が誰かはわからないけど、

[014]ここは助言をするところ……なんだよね?

[015]直接本人に訊けばいいんじゃない?

[016]必要な時に手を差し伸べれば?

[017]【かおり】

[018]「えっと……、

[019] 直接、本人に訊けばいいんじゃない?」

[020]スッと、女の子が無表情になった。

[021]【???】

[022]「それができれば苦労はしないわ」

[023]【かおり】

[024]「えっと……、

[025] そっと見守っていて、必要な時に

[026] 手を差し伸べればいいんじゃない?」

[027]【???】

[028]「…………」

[029]食い入るように見つめられて、居心地が悪い。

[030]【かおり】

[031]「あ、あの……?」

[032]フッと女の子が微笑む。

[033]【???】

[034]「人は忘れることで悲しみを癒すことができるもの。

[035] 時間が薬にならないのは……

[036] 辛いと思わない?」

[037]また謎かけのような質問が来た。

[038]そうだね

[039]そうかな?

[040]【かおり】

[041]「そうだね」

[042]女の子の言葉に同意する。

[043]時間が心を癒す薬になる――

[044]それは大切な人を失った時に

[045]一番相応しい処方箋だと聞いたことがある。

[046]わたしはまだそんな経験したことはないけど。

[047]【かおり】

[048]「わたしが死んだ後、両親や妹、友達が

[049] ずっと嘆いてるかもしれないって考えると、

[050] 悲しくなるもんね」

[051]女の子は無言のまま、

[052]悲しそうに微笑んで消えてしまった。

[053]【かおり】

[054]「そうかな?」

[055]思わず反論をするような言葉が

[056]口を突いて出た。

[057]【かおり】

[058]「忘れたくないことを忘れてしまう方が辛いよ」

[059]女の子は無言のまま、

[060]悲しそうに微笑んで消えてしまった。

[061]ふと、胸騒ぎを覚える。

[062]わたし自身が、忘れたくないことを

[063]忘れているような……そんな不思議な感覚……。

[064]何だろう、これは。

[065]ノックをしなくても良いと言われたので、

[066]そのままドアを開けた。

[067]【かおり】

[068]「こ、こんにちはー」

[069]【まゆき】

[070]「ああ……」

[071]少し暗い顔で、まゆきちゃんはテレビを消して、

[072]イヤホンを外した。

[073]何か嫌なニュースでも見たのかな?

[074]【まゆき】

[075]「……おまえは死にたいと思ったことはあるか?」

[076]突然、すごいことを訊かれて、面食らう。

[077]でも、まゆきちゃんは

[078]冗談を言っている雰囲気じゃないから、

[079]ここは真面目に答えないと……。

[080]【かおり】

[081]「……うーん、

[082] 生きたいと思ったことはあるけど、

[083] その逆はない、かなぁ?」

[084]【まゆき】

[085]「そうか」

[086]ふっとまゆきちゃんの表情が少しだけ和んだ。

[087]【まゆき】

[088]「自殺者が増えているとニュースでやっていた」

[089]【かおり】

[090]「あ……うん」

[091]【まゆき】

[092]「そう死を急がずとも、

[093] 人はいつか必ず死ぬというのに……無駄なことを」

[094]【かおり】

[095]「…………」

[096]随分と達観した事を言うなあ……この子。

[097]【まゆき】

[098]「人は自分の余命がわかれば、

[099] 命尽きるその時に向けて精一杯生きようとする」

[100]【まゆき】

[101]「命の刻限がわからないゆえの自殺、

[102] ……なのかもしれないな」

[103]【かおり】

[104]「まゆきちゃん……?」

[105]それはまるで

[106]自分の命の刻限がわかっているかのような言葉。

[107]ふっとまゆきちゃんが笑った。

[108]【まゆき】

[109]「どうせ死ぬのなら、その健康な内臓を、

[110] 移植にでも何でも使わせてやれば良いと

[111] 思わないか?」

[112]【かおり】

[113]「…………」

[114]何も言えなかった。

[115]わたしは昔、大怪我をして、生き延びたから。

[116]その時に、誰かの内臓を移植されたと

[117]聞いたことがある。

[118]死ぬかもしれない恐怖を考えると、

[119]健康な内臓を欲しがる気持ちはわかる……というより、

[120]当時、わたしに肝臓や腎臓を提供してくれた人が

[121]いなければ、今のわたしは存在しない。

[122]ゾッとする。

[123]そう思うと、

[124]咽喉から手が出るくらいに欲しい。

[125]死にたくない。

[126]……でも、それを

[127]こんな幼いまゆきちゃんに言っても

[128]いいものだろうか。

[129]それに、言葉の内容にも違和感を覚える。

[130]まゆきちゃんはまだ子供なのに、

[131]どうしてこんなシニカルな笑いを

[132]浮かべているんだろう……。

[133]――まるで人生を悟ったみたいに。

[134]【まゆき】

[135]「せっかく来てもらって悪いが、

[136] 今日はひとりでいたい」

[137]【かおり】

[138]「あ……うん、わかった。

[139] 何かあったら、ナースコールで呼んでね?」

[140]【まゆき】

[141]「ああ」

[142]【さゆり】

[143]「…………」

[144]点滴ボトルを交換するわたしの手元を

[145]じっと見ている堺さん。

[146]うう……っ、

[147]この視線、キンチョーする……。

[148]【かおり】

[149]「…………」

[150]ふと、さっきのまゆきちゃんの言葉が浮かんできた。

[151]【まゆき】

[152]「どうせ死ぬのなら、その健康な内臓を、

[153] 移植にでも何でも使わせてやれば良いと

[154] 思わないか?」

[155]わたしは何も言えなかったけど、

[156]堺さんなら何て言うだろう……?

[157]【かおり】

[158]「あの……、訊いていい?」

[159]【さゆり】

[160]「……手短にどうぞ」

[161]【かおり】

[162]「ニュースで自殺者が増えたって言ってたんだけど、

[163] どうせ死ぬんなら、健康な内臓を移植に

[164] 使ってあげればって……思う……?」

[165]【さゆり】

[166]「…………」

[167]堺さんは呆れたような、怒ったような表情をしている。

[168]【さゆり】

[169]「それをわたしに訊くわけですか……。

[170] 相変わらず、空気が読めないんですね」

[171]【かおり】

[172]「はぐっ」

[173]しまった……、

[174]地雷踏んだ……!!

[175]【さゆり】

[176]「あなた、

[177] 今まで死にたいって思ったこと、ないでしょう?」

[178]【かおり】

[179]「え……っと……」

[180]たしかに、瀕死になったことも、

[181]生きたいと願ったこともあるけど、

[182]一度として死にたいと思ったことはなかった。

[183]けど、それが何の関係があるんだろう?

[184]【さゆり】

[185]「はっ……おめでたい人。

[186] それでも看護師ですか?」

[187]【さゆり】

[188]「死に急いでる人が、誰かに内臓を提供してからなんて

[189] 考えてる余裕もないなんてこと、

[190] ちょっと考えればわかるでしょうに」

[191]【かおり】

[192]「…………」

[193]ということは、

[194]堺さんは死にたいと思ったことが

[195]あるのかな……。

[196]【さゆり】

[197]「あなたのそういう偽善的な考え方って、すごく不愉快。

[198] もう少し、当人の身になって

[199] 物事を考えられないんですか?」

[200]【さゆり】

[201]「だから、あなたは偽善者だって言うんです、

[202] お優しい沢井かおりさん」

[203]【かおり】

[204]「う……っ」

[205]偽善者……。

[206]【さゆり】

[207]「もう用事が終わったんなら、

[208] 出てってくださいますか。

[209] あなたの顔を見てると、気分が悪くなります」

[210]【かおり】

[211]「あ、うん。

[212] ごめんね……」

[213]偽善者、か……。

[214]グサッときたけど、

[215]……でも、言われても仕方がないって

[216]わかってる。

[217]それに、あの堺さんが

[218]死にたいって思ったことがあるのかも気になるけど……

[219]まゆきちゃん、

[220]どうしてあんなことを言ったんだろう?

[221]彼女の病気は、

[222]今すぐどうなるってほどの重病じゃないはずなのに。

white_robe_love_syndrome/scr01202.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)