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white_robe_love_syndrome:scr01131

Full text: 108 lines Place translations on the >s

[001]階段を落ちた時に、

[002]あみちゃんは右手首を折ってしまった。

[003]百合ヶ浜の外科は手が足りなかったのと、

[004]整形外科を専門とするドクターがいなかったため、

[005]あみちゃんは県内の水沢救命救急センターに搬送され、

[006]折れた右手を手術した。

[007]そして季節は流れ、春。

[008]あみちゃんは、

[009]神庫の桜立舎学苑分校から

[010]地元の普通の高校に転校し、

[011]そこの三年生になった。

[012]あみちゃんの夢はフォルテール奏者。

[013]プロになれるかどうかはわからなかったけど、

[014]その夢に向かっていたのに、

[015]折れた右手では、その夢は叶わない。

[016]以前のようにフォルテールを奏でられないし、

[017]普通の人として生きざるを得ないからと

[018]普通の高校に転校したのだそう。

[019]桜立舎の時のお友達とは

[020]街で時々、すれ違うことはあっても、

[021]だからといって話すことなんて何もないって

[022]さみしそうに言ってたっけ……。

[023]三年生からの転校だし、

[024]ずっと音楽を中心に生活してたこともあって、

[025]クラスの子とも話が合わないらしくて、

[026]あみちゃんは一層深くなった孤独を抱えてる。

[027]……彼女の孤独を癒せるのは、わたしだけ。

[028]【あみ】

[029]「えへ、また来ちゃった……」

[030]あみちゃんは真新しいセーラー服を着ていた。

[031]その肩には、見慣れた大きなカバン――

[032]フォルテールが入っている。

[033]【かおり】

[034]「いらっしゃい、あみちゃん。

[035] どうぞ、入って?」

[036]【あみ】

[037]「……いつもごめんなさい。

[038] お邪魔します」

[039]わたしの部屋で

[040]手早くフォルテールを組み立てるあみちゃん。

[041]【あみ】

[042]「家で演奏すると、お母さんが泣くから……」

[043]【かおり】

[044]「うん、わかってる。

[045] ここでなら、いくらでも演奏していいからね」

[046]【あみ】

[047]「……ありがとうございます」

[048]以前のようには演奏はできなくても、

[049]簡単な曲なら演奏できるもんね。

[050]ごめんね。

[051]ごめんね、あみちゃん。

[052]そう言いたいけれど、

[053]言ったところで現実は変わらない。

[054]リハビリのお陰で、少しは動くようになったものの、

[055]やはり以前のように演奏できないのがもどかしいらしく、

[056]辛そうな表情でフォルテールに向かっているのは

[057]見ているわたしも胸が痛いけど……。

[058]【かおり】

[059]「…………」

[060]辛い現実と向き合ってるあみちゃんを見守ることが、

[061]わたしに与えられた罰だもの。

[062]わたしよりも、

[063]あみちゃんの方が何倍も辛いはずなんだから、

[064]わたしが泣いてちゃダメなのに……。

[065]涙を見せたくなくて、

[066]フォルテールを演奏してるあみちゃんを

[067]背後からそっと抱き締める。

[068]【かおり】

[069]「…………」

[070]こっそり涙を流すわたしに、

[071]あみちゃんがにっこりと微笑みかけてきた。

[072]【あみ】

[073]「そんな顔、しないでください、

[074] かおりお姉ちゃん。

[075] これでもわたし、幸せなんですよ?」

[076]せめてもの罪滅ぼしとばかりに、

[077]あみちゃんにお姉ちゃん呼びを許したけど、

[078]それでも、この胸の罪悪感は軽くならない。

[079]【かおり】

[080]「あみちゃん……」

[081]【あみ】

[082]「わたしの演奏を聴いてくれるのは

[083] かおりお姉ちゃんだけ……」

[084]【あみ】

[085]「みんなのかおりお姉ちゃんを、

[086] 今は……今だけはわたしが独占していられるの」

[087]【かおり】

[088]「うん……、

[089] わたしはあみちゃんだけのものよ」

[090]無理に微笑みかけると、

[091]あみちゃんは幸せそうに笑ってくれた。

[092]【あみ】

[093]「大好き、かおりお姉ちゃん……本当に大好きなの。

[094] かおりお姉ちゃんが側にいてくれるだけで、

[095] わたし、他に何もいらないくらい大好き」

[096]【あみ】

[097]「ねぇ、かおりお姉ちゃん、

[098] ずっとわたしだけを見ていてくれる?

[099] ずっとずっと、側にいてくれる?」

[100]【かおり】

[101]「もちろんよ」

[102]【かおり】

[103]「一生、一緒にいて、ずっと見ていてあげる。

[104] わたしは……あみちゃんのお姉ちゃんだから」

[105]嬉しそうに微笑むあみちゃんを

[106]そっと抱き締める。

[107]物悲しいフォルテールの音が

[108]わたしたちを包み込んだ。

white_robe_love_syndrome/scr01131.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)