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white_robe_love_syndrome:scr01105

Full text: 387 lines Place translations on the >s

[001]あれから、すごく叱られた。

[002]【はつみ】

[003]「謹慎中に私服で病院に来た挙句、

[004] 患者さんに怪我をさせるなんて!!

[005] まったく、何を考えているの!!」

[006]もう、本当に申し訳なくて仕方がない。

[007]でも、不幸中の幸いというか……わたしも

[008]あみちゃんも大きな怪我はしなかったの。

[009]……それはきっと

[010]わたしの中から消えていったあの子が

[011]守ってくれたからじゃないかなって思ってる。

[012]【はつみ】

[013]「……でも、浅田さんにとっては、

[014] 良かったのかもしれないわね」

[015]【はつみ】

[016]「あなたの謹慎を延期すると言った途端、

[017] 交換条件を持ちかけてきたわ。

[018] ふふ、ちゃっかりした子ね」

[019]【はつみ】

[020]「ちゃんと食事を摂取する、その代わり、

[021] 沢井さんのお咎めはなしということで。

[022] ま、結果オーライってやつかしらね」

[023]【あみ】

[024]「かおりんさん、お具合はいかがですか。

[025] 謹慎中なのにわたしのために病院に来てくれて、

[026] ありがとうございました」

[027]【あみ】

[028]「謹慎の延期はしないって主任さんが

[029] 約束してくれたので、明日で謹慎も終わりですね。

[030] 明後日が待ち遠しいです」

[031]【あみ】

[032]「みこちゃんも、大事には至らなくて

[033] 明日には306に戻ってこれるそうです。

[034] 良かったぁ〜!」

[035]【あみ】

[036]「早くかおりんさんに会いたいです。

[037] 会って、いろいろお話をしたいです。

[038] あみ」

[039]【かおり】

[040]「…………」

[041]あみちゃん……。

[042]今日から復帰!

[043]詰所に入る前に、

[044]こそっと306に行って

[045]あみちゃんの顔を見てこよう!!

[046]【???】

[047]「だーれだ!」

[048]後ろから伸びてきた手に目隠しをされた。

[049]ふふふ、

[050]こんな悪戯をするのは……。

[051]【かおり】

[052]「えー、誰かなー?

[053] ヒント、ほしいなぁ?」

[054]【???】

[055]「えー、ホントにわたしのこと

[056] わかんないんですかー?」

[057]【かおり】

[058]「わかんないわけないでしょ。

[059] ちょっとからかってみただけよ、

[060] あみちゃん!」

[061]【あみ】

[062]「あははっ、あたり!!」

[063]振り返ると、目の前に

[064]笑顔のあみちゃんがいる。

[065]【かおり】

[066]「ごめんね、

[067] 本当に……あみちゃんには

[068] いろいろな迷惑をかけてしまって……!!」

[069]すっと唇に人差し指が押し当てられた。

[070]【あみ】

[071]「ストップです!」

[072]【あみ】

[073]「わたしも……かおりんさんに黙ってたことがあったり、

[074] 嫌な態度取ったりしたから、

[075] ……そこはおあいこ、にしてください」

[076]【かおり】

[077]「でも……」

[078]【あみ】

[079]「……わたし、頑張ってお食事、食べてるんです。

[080] 現実に向き合おうって……もう逃げないって思って。

[081] だから、もうすぐここも退院」

[082]【あみ】

[083]「それで……お願いがあるんです。

[084] 後でで構いませんから……

[085] わたしのお話、聞いてくださいませんか?」

[086]【かおり】

[087]「うん、喜んで!」

[088]【あみ】

[089]「……嬉しい……」

[090]頬を染めて微笑むあみちゃんが愛しくて、

[091]抱き締めてあげたくなるのを堪えるのが大変だった。

[092]【はつみ】

[093]「おはようございます。今日から謹慎の解けた

[094] 藤沢さん、沢井さんが復帰します。

[095] みなさん、温かく迎え入れてあげてください」

[096]【なぎさ】

[097]「今回の件で、自分がまだまだ未熟者だと痛感しました。

[098] 3日間も勤務に穴を開けて、

[099] 大変申し訳ありませんでした」

[100]【かおり】

[101]「わたしも同様に、自分の未熟ぶりを反省しました。

[102] 今まで以上に頑張りますので、

[103] 今後ともよろしくお願いいたします」

[104]ふたりで頭を下げる。

[105]【やすこ】

[106]「穴開けた分はカラダで返してもらうで!

[107] ビシバシ、こき使たるから、覚悟しとき!!」

[108]一斉に笑い声が上がる。

[109]【はつみ】

[110]「では、夜勤さん、申し送りをお願いします」

[111]――またいつものように、勤務が始まる。

[112]【かおり】

[113]「て、点滴の交換に来ました……ぁ」

[114]【さゆり】

[115]「……はぁ……」

[116]うう……、

[117]わざとらしいくらいの溜め息……。

[118]居心地悪いなぁ……。

[119]【さゆり】

[120]「……で?」

[121]【かおり】

[122]「ふひ?」

[123]【さゆり】

[124]「ふひ、じゃないでしょう!?

[125] あんな大騒ぎを起こしておいて、

[126] 事の顛末をわたしに何も言わないつもり!?」

[127]【かおり】

[128]「……もしかして、知りたいの?」

[129]【さゆり】

[130]「〜〜〜〜〜〜っ!!」

[131]うわっ、

[132]堺さんの視線が怖いよぅっ!!

[133]【かおり】

[134]「よ、良くわかんないんだけど、一緒に落ちたことで、

[135] あみちゃんは何かを吹っ切ったみたいでねっ。

[136] この後、彼女と会うことになってるんだけどねっ」

[137]【さゆり】

[138]「ふーん」

[139]……うっ、せっかく説明したのに、

[140]何、この気のない返事。

[141]【さゆり】

[142]「そういえば、演奏会で倒れた子、

[143] 無事に306に戻ったようですね」

[144]【かおり】

[145]「うん、あみちゃんから教えてもらった。

[146] 大事にならなくて良かったよね」

[147]堺さんはつまらなさそうに、

[148]フンッと鼻を鳴らした。

[149]【さゆり】

[150]「……彼女から伝言です。

[151] 無理をして浅田さんの演奏を聴けたお陰で、

[152] 手術を受ける勇気が湧きました……だそうです」

[153]【かおり】

[154]「はへ?」

[155]【さゆり】

[156]「胸と心臓に穴を開けて、中を縫うんです。

[157] いくら覚悟していても、

[158] 及び腰になるのが人間ってもんでしょう?」

[159]【さゆり】

[160]「特に彼女はまだ中学生……手術しなきゃいけないって

[161] 頭ではわかっていても、本当は逃げ出したいって

[162] 思っても不思議じゃないわ」

[163]【かおり】

[164]「…………」

[165]そっかぁ……そうだよね。

[166]でもそうなると、なぎさ先輩の行動は

[167]全部が全部、間違ってたわけじゃないのか……。

[168]怪我の功名ってやつかもしれないけど、

[169]やっぱり看護って難しいなぁ。

[170]【さゆり】

[171]「元気になったら、浅田さんの演奏を聴く機会を

[172] 作ってくださいって言ってました。

[173] ……ちゃんと伝えてくださいね、浅田さんに!」

[174]【かおり】

[175]「……う、うん!

[176] 伝えるよ、あみちゃん、きっと喜ぶよ!!」

[177]堺さんも素直じゃないなぁ、

[178]自分で直接、あみちゃんに伝えればいいのに。

[179]【さゆり】

[180]「あと、それから、

[181] わたしも彼女同様に勇気をもらったって

[182] 伝えてください」

[183]【かおり】

[184]「いくらあみちゃんが苦手でも、

[185] そういうことは、自分で伝えた方が

[186] いいんじゃないかなぁ……」

[187]【さゆり】

[188]「そ、そんなこと、あなたに言われなくても……っ!

[189] あなたに、浅田さんを褒めるネタを

[190] 増やしてあげただけでしょう、ホント鈍い人!!」

[191]【かおり】

[192]「ほひ?」

[193]真っ赤になって、そっぽを向く堺さんは

[194]何だかいつもと違う人に見えた。

[195]いつも憎まれ口ばかりだけど、

[196]わたしのことやあみちゃんのことを

[197]ちゃんと考えてくれてるんだなぁ……。

[198]患者さんたちは昼食後の自由時間。

[199]今日の業務は比較的、落ち着いていて、

[200]大急ぎでお昼を食べた後、

[201]あみちゃんと一緒に屋上に来た。

[202]【あみ】

[203]「風が気持ちいいですね〜。

[204] こうして空に近い場所にいると、

[205] 夏が近づいてるんだなーってわかります」

[206]【かおり】

[207]「夏かぁ……。

[208] 今年は仕事で手一杯で

[209] 海で遊ぶとかは無理かなぁ……」

[210]しばらく無言で、

[211]あみちゃんと並んで、柵の向こうの海を見る。

[212]【あみ】

[213]「……あのね、かおりんさん。

[214] わたし……夏休みに入る前に、

[215] 学校に戻ろうって思ってるんです」

[216]何かを決意した口調。

[217]【かおり】

[218]「うん、それがいいね」

[219]敢えて、さらりと言ってみた。

[220]【あみ】

[221]「……わたしね、3月に、

[222] すごく仲良かった友達ふたりと

[223] ケンカしちゃって……」

[224]【あみ】

[225]「その時に、売り言葉に買い言葉で

[226] ひどいことを言っちゃったんです」

[227]【あみ】

[228]「4月に入院したのは、

[229] それをずっと気にしてたからで……」

[230]【かおり】

[231]「ああ、原因不明の腹痛、だっけ?」

[232]【あみ】

[233]「わたし、本当はわかってたんです。

[234] 自分が逃げてるってこと」

[235]【あみ】

[236]「病院に来て、いい子にしてたら、

[237] ナースさんたちが優しくしてくれる。

[238] だから、すごく居心地が良くて……」

[239]【あみ】

[240]「ナースさんたちは……

[241] かおりんさんは仕事だから、

[242] わたしに優しくしてくれてるのに……」

[243]【かおり】

[244]「それは違うよ、あみちゃん」

[245]【あみ】

[246]「え……?」

[247]【かおり】

[248]「たしかに仕事だからっていうのもあるよ。

[249] でもね、それだけじゃないよ。

[250] 優しくしてあげたいから、優しくしてるのよ」

[251]【かおり】

[252]「あと、個人的にはちょっと後悔してるの……

[253] あみちゃんにお姉ちゃんって呼んじゃダメって

[254] 言ったこと」

[255]【かおり】

[256]「でも……もうあみちゃんも退院だし、

[257] 退院したら呼んでも怒られないかなって思うけど、

[258] ……どう?」

[259]【あみ】

[260]「……かおりんさん……」

[261]【かおり】

[262]「あっ、でも、あみちゃんだけだからね!

[263] 他の子にはナイショにしててね?」

[264]【あみ】

[265]「……はい……」

[266]【かおり】

[267]「特に堺さんにはナイショね!

[268] 堺さんにお姉ちゃんって言われるのは、

[269] ちょっと怖いもんね」

[270]【あみ】

[271]「……プッ、

[272] あはははっ!」

[273]わたしをお姉ちゃんって呼ぶ堺さんを想像したのか、

[274]あみちゃんが大笑いした。

[275]【あみ】

[276]「あははっ、

[277] もう……可笑しすぎです、

[278] かおりんさんったら!」

[279]ふと、その笑い方が

[280]泣き笑いになっていることに気づいて、

[281]そっと抱き締めた。

[282]【あみ】

[283]「……わたしね、素直になれなかったんです。

[284] 友達に嫌なこと言って、

[285] 先生にも素直になりなさいって叱られて……」

[286]【あみ】

[287]「フォルテールは気持ちをうつす鏡なんだから、

[288] そんな気持ちで演奏しては、聴く人にモヤモヤした

[289] 嫌な気持ちを発生させてしまうでしょうって」

[290]【あみ】

[291]「そんな時でした。友達が……わたしの音を

[292] 『聴いた人を不幸にする死神の音だ』って

[293] 陰で笑ってるのを聞いてしまったんです」

[294]【あみ】

[295]「辛かった……。

[296] モヤモヤした気持ちで演奏してたから

[297] 否定もできなくて……っ」

[298]【かおり】

[299]「そのストレスで

[300] ネフローゼが悪化した……?」

[301]こくん、と、

[302]あみちゃんが頷いた。

[303]【あみ】

[304]「先生や友達が、お見舞いに来てくれても、

[305] わたしは外来とか地下とか屋上に逃げて……

[306] 学校の人に会うのが怖かったんです」

[307]【あみ】

[308]「学校なんかもういいって……ただ、かおりんさんが、

[309] わたしの音を好きって言ってくれたのが嬉しくて……

[310] それだけで良かったんです……」

[311]【かおり】

[312]「うん、

[313] あみちゃんらしい、可愛らしい、

[314] のびのびとした音だったもの」

[315]泣き笑いに似た表情が

[316]わたしへと向けられた。

[317]【あみ】

[318]「……この間、友達が来てくれたんです。

[319] わたしの陰口を言ってたのを謝ってくれました、

[320] 『死神の音』なんて言ってごめん、って」

[321]【あみ】

[322]「仲直りしたくて、でも、お互い素直になれなくて、

[323] ずっとイライラしてたって言って頭を下げられました。

[324] 今更、謝られてもって思ったんですけど……」

[325]あみちゃんが

[326]ほぅと小さく息を吐いて顔を上げる。

[327]【あみ】

[328]「……でも、わたしもそろそろ

[329] 現実に向き合う時が来たんですよね。

[330] 手術や治療……、みんな、戦ってる」

[331]【あみ】

[332]「わたしも戦わなくちゃって思ったんです」

[333]向けられる、強い瞳。

[334]幼く見える外見だけど、

[335]あみちゃんはもう大人になりつつある女性なんだ……。

[336]【あみ】

[337]「……かおりんさん。

[338] かおりんさんに、お願いがあるんです……」

[339]【かおり】

[340]「なぁに?」

[341]強い瞳が、

[342]ふっと戸惑うように揺れて、伏せられた。

[343]【あみ】

[344]「わたしに……現実と戦う勇気をください」

[345]ちょっとだけ迷ってから、

[346]少し震えてるあみちゃんの肩を

[347]そっと抱いて……。

[348]【かおり】

[349]「あみちゃんが

[350] 現実と戦える勇気を……」

[351]触れるだけのキスを額に落とす。

[352]【あみ】

[353]「…………」

[354]見上げてくるあみちゃんの

[355]不満そうに尖った唇に、

[356]笑ってしまいそうになるのを必死で堪えた。

[357]【かおり】

[358]「ダメだよ、あみちゃん」

[359]【かおり】

[360]「唇へのキスは、頑張った子へのご褒美。

[361] あみちゃんはまだ

[362] スタートラインに立っただけでしょ?」

[363]【あみ】

[364]「あーん、かおりんさんのイジワル!

[365] ちょっとくらいオマケしてくれても

[366] いいじゃないですかぁ!」

[367]【かおり】

[368]「じゃあ、ナデナデもつけてあげる」

[369]ポッとあみちゃんの頬が赤く染まった。

[370]【あみ】

[371]「……屋上で服を脱ぐのは、

[372] ちょっとハードルが……」

[373]【かおり】

[374]「あ、あみちゃん……?」

[375]【あみ】

[376]「あははっ、冗談ですってばぁ!」

[377]笑いながら、あみちゃんが身体を離す。

[378]【あみ】

[379]「無事に退院したら、ちゃんと友達と仲直りして、

[380] もっとたくさん友達作って、みんなで演奏会とか

[381] 開きたいなぁって思ってます!」

[382]【あみ】

[383]「そしたら……そしたら、

[384] 絶対に見に来てくださいね、

[385] わたしだけの……かおりお姉ちゃん!」

[386]【かおり】

[387]「うん、絶対に行くよ!!」

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