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white_robe_love_syndrome:scr01104

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[001]        またあの夢だ……。

[002]      何もない空間、

[003]      ひとりで立っている女の子。

[004]女の子がわたしをまっすぐに見た。

[005]【???】

[006]「友達に『他人を不幸にする死神』って言われたら、

[007] どうしたらいいんだろう?」

[008]そんなのひどい!

[009]それは才能だよ

[010]【かおり】

[011]「死神だなんて、ひどい!

[012] そんなこと言われて、黙ってちゃダメだよ!」

[013]【???】

[014]「……どうしてあなたが怒るの?

[015] あなたが言われたわけでもないのに」

[016]【かおり】

[017]「そりゃそうだけど!

[018] でも、もしわたしや、わたしの大切な人が

[019] 死神なんて言われたら、きっと黙ってられない!」

[020]【???】

[021]「……ありがとう」

[022]女の子は、微笑を浮かべながら消えてしまった。

[023]【かおり】

[024]「もし、誰かを不幸にする能力があるんなら、

[025] それはそれで才能だと思う。

[026] 使い方次第じゃないかなぁ?」

[027]【???】

[028]「…………」

[029]女の子は目を丸くして

[030]わたしを見ている。

[031]【かおり】

[032]「……あ、あれ?

[033] わたし、変なこと言った?」

[034]【???】

[035]「……そんな風に

[036] 考えたこと、なかったな……」

[037]女の子は、笑って消えてしまった。

[038]主任さんや山之内さんの言いつけ通り

[039]ひとり、部屋で謹慎中。

[040]演奏会のことを思い浮かべる。

[041]清らかに響くフォルテールの音に

[042]まるで包み込まれるようだった。

[043]一度でもあの音に包まれたことがあるなら、

[044]無理をしてでもまた聴きたいって

[045]みこちゃんが思うのも当然だと思う。

[046]……でも、主任さんの言う通り、

[047]手術を受ければ、また機会は来る。

[048]なぎさ先輩は、みこちゃんの頼みを断るべきだったし、

[049]わたしも、なぎさ先輩の肩を持つべきではなかったと

[050]あれからずっと考えてた今ならそう思える。

[051]……今、わたしにできることは、

[052]今回のことをちゃんと反省して、

[053]二度と、こんな風に患者さんに同情して、

[054]優先順位を無視したり、流されたりしないこと。

[055]みこちゃんのケアは

[056]担当のドクターやベテランでもある

[057]同僚の先輩看護師さんたちに任せて、

[058]わたしはしっかり反省しよう。

[059]あみちゃんが退院して、

[060]もし良いよって言ってくれたら、

[061]みこちゃんのお見舞いに行くのもいいかもしれないよね。

[062]きっとあみちゃんのことだから、

[063]二つ返事で一緒に行ってくれると思うの。

[064]【かおり】

[065]「……あみちゃん」

[066]演奏会で

[067]いきいきとしていたあみちゃんの姿を思い出す。

[068]あみちゃんのことを考えると

[069]胸の中に、愛おしいような

[070]切ない気持ちが湧き上がってくる。

[071]妹として愛しい?

[072]それとも、ひとりの女の子として?

[073]ふと、影った表情のあみちゃんが思い浮かんだ。

[074]あんなことが起こって、

[075]演奏会を中断されたあみちゃんは

[076]責任を感じたらしく、ひどく傷ついていた。

[077]ただでさえメンタルが不安定だったのがわかってたのに、

[078]結果的に、わたしたちが

[079]更なる追い討ちをかけてしまった……。

[080]また食事も残してるのかな。

[081]もしかしたら、

[082]ひとりでお布団に潜って

[083]泣いているかもしれない――!!

[084]そばに行って、

[085]大丈夫だよって慰めてあげたい。

[086]でも、わたしは謹慎中の身。

[087]あみちゃんの顔を見に行く

[088]おとなしくしておかないと……

[089]思い浮かんだ考えに、

[090]思わず顔を上げる。

[091]見つかったら、絶対に叱られる。

[092]謹慎が延びるかもしれないし、

[093]もしかしたら、クビになっちゃうかもしれない。

[094]でも……

[095]あみちゃんのことが心配で心配で、仕方がない。

[096]ちょっとだけ、

[097]一目だけ、あみちゃんの顔を見たら

[098]すぐ帰ろう!

[099]ダメだよ、

[100]わたしは今、謹慎処分なんだから、

[101]その意味を考えないと。

[102]あみちゃんのことは心配だけど、

[103]病棟には主任さんや山之内さんをはじめ、

[104]バイトや派遣のベテラン看護師さんたちがいる。

[105]わたしのような新人がしゃしゃり出るような

[106]場面じゃないよね。

[107]わたしが今すべきことは、

[108]しっかりと反省することだもんね。

[109]……来ちゃった……。

[110]白衣を着て病棟に出るわけじゃなくて、

[111]あみちゃんの年上の友達として、

[112]お見舞いに来ただけだもん!!

[113]誰かに見つかったら叱られるかもしれないけど、

[114]謹慎中だからって、お見舞いに来ちゃいけないって

[115]わけじゃない……よね……?

[116]…………。

[117]えと……、

[118]いけないかもしれないけど、

[119]反省はしてるし……。

[120]それ以上に

[121]あみちゃんのことが心配なんだもんっ!!

[122]こっそりと、

[123]人通りの少ない方の階段をのぼって……。

[124]【???】

[125]「謹慎中の人が、

[126] 何故、ここにいるんですか?」

[127]ドキーン!!

[128]おそるおそる振り返る。

[129]【かおり】

[130]「さささ、堺さん……っ」

[131]【さゆり】

[132]「しかも私服だなんて。

[133] お見舞い客に紛れようって魂胆ですか、

[134] 姑息ですね」

[135]【かおり】

[136]「あ、あのね……

[137] これには理由が……!」

[138]【さゆり】

[139]「はっ、理由?

[140] どうせ浅田さんの顔を見に来たとか、

[141] 彼女が心配で……とか、その程度なんでしょう?」

[142]【さゆり】

[143]「あなた、バカなんじゃないですか?

[144] 謹慎という言葉の意味、ご存知ないんですか?

[145] ああ、バカだから知らなくても当然ですよね」

[146]【かおり】

[147]「ぐ……っ」

[148]あ、相変わらずの堺さん節……!

[149]慣れたとはいえ、

[150]やっぱ胸にグサグサ来る……!

[151]【さゆり】

[152]「……と、まぁ、冗談はともかく」

[153]は?

[154]冗談!?

[155]【さゆり】

[156]「あなたの顔を見ることで、

[157] 浅田さんが動揺するとは考えないんですか。

[158] あなた、どこまで自分本位なんですか」

[159]【さゆり】

[160]「患者さんは

[161] あなたの自己満足を満たす道具じゃないって

[162] わからないんですか?」

[163]【かおり】

[164]「そんなこと思ってない!!

[165] わたしはあみちゃんが心配で……」

[166]【さゆり】

[167]「それが余計だって言ってるんです。

[168] 謹慎処分になった本当の意味を考えなかったんですか、

[169] あなた、どこまでバカなんですか」

[170]【かおり】

[171]「そ、んな、バカバカ連呼しなくても……」

[172]【さゆり】

[173]「バカにバカと言って何が悪いんですか。

[174] というか、バカという言葉では、

[175] あなたのバカさ加減は到底、言い表せません」

[176]【あみ】

[177]「……さゆりん、誰としゃべって……!!」

[178]【かおり】

[179]「あみちゃん!!」

[180]さっとあみちゃんの顔色が変わったのが見えた。

[181]あみちゃんを守るように、

[182]堺さんが立ち位置を変える。

[183]その途端――!

[184]【さゆり】

[185]「きゃ……!?」

[186]ずるりと、堺さんが階段を踏み外した。

[187]【かおり】

[188]「危ない……っ!」

[189]慌てて堺さんを支えようとしたけど、

[190]逆に自分が足を踏み外して、

[191]大きくバランスを崩してしまった。

[192]【あみ】

[193]「かおりんさん!!」

[194]天地がまっさかさまになる感覚の中、

[195]誰かの腕に抱きとめられて――!

[196]【???】

[197]「ダメッ!!」

[198]誰かが頭の中で叫ぶ。

[199]抱きついてきた『誰か』を強く抱き締めて、

[200]落下のダメージから何とか守ろうとした。

[201]――そういえば、

[202]昔、こんなことがあった気がする。

[203]あの時も、大切な誰かが

[204]わたしをかばって……。

[205]十年前の事故の時、

[206]わたしをかばって、迫り来る車の間に

[207]割り込んできた子がいた。

[208]顔も名前も思い出せないけど……。

[209]【???】

[210]「かおりちゃん!!」

[211]あの必死そうな声が耳に蘇る。

[212]ゆっくりと目を開けた。

[213]目の前には

[214]気を失っているあみちゃんの顔。

[215]わたしを庇って、

[216]階段から一緒に落ちた、大切な子。

[217]きっといろいろと傷ついているのに、

[218]それでもわたしを庇ってくれた。

[219]ああ……、

[220]やっぱり顔色が悪いね、

[221]ちゃんと食べてなかったのかな。

[222]ふと、頭の中で誰かの声がした。

[223]【???】

[224]「……さようなら、かおりちゃん……」

[225]【かおり】

[226]「…………」

[227]その声は、夢の……

[228]【???】

[229]「元気になったかおりちゃんには

[230] もうわたしは必要ないから……。

[231] 今まで、とっても楽しかったよ、ありがとう」

[232]【かおり】

[233]「……っ!」

[234]名前を呼んであげたかった。

[235]でも、わたしは彼女の名前を知らない。

[236]いつもわたしを優しく呼んでくれる声に

[237]応える術を知らないなんて――。

[238]【???】

[239]「かおりちゃん……元気でね」

[240]ひどくあたたかいものに包まれている気がする。

[241]そのあたたかさが、

[242]ゆっくりと自分から離れてゆくような気配がした。

[243]――もう、行ってしまう……。

[244]何故か、涙が零れる。

[245]【???】

[246]「こっちです、早く!!」

[247]【???】

[248]「手が空いてる人は手分けして、浅田さんを病室へ!

[249] ドクターコールとレントゲンにポータブル指示を!!

[250] 沢井さんは空いてる306のベッドに寝かせて!」

[251]慌てた様子の主任さんの声を聞きながら、

[252]ゆっくりと意識を手放した。

white_robe_love_syndrome/scr01104.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)