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white_robe_love_syndrome:scr01102

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[001]        あ……、

[002]        またあの夢だ……。

[003]【???】

[004]「……ねぇ、

[005] 人はどうして生きていかなくちゃいけないの?」

[006]この質問って、

[007]わたしに向けての質問……なんだよね?

[008]うーん……。

[009]昔、事故に遭ったわたしは、

[010]どうして生きていかなくちゃって考えたんだろう?

[011]リハビリだってすごく辛かったし、

[012]あのまま死んじゃった方が楽だったかもって

[013]病院で何度も思ったのに。

[014]死にたくなかったから

[015]周囲の人を悲しませたくなかったから

[016]【かおり】

[017]「わたしの場合は、

[018] 死にたくなかったから、かな」

[019]【???】

[020]「どうして?」

[021]【かおり】

[022]「死ぬって、とても怖いことだもん」

[023]【かおり】

[024]「死んだら、たくさんの人……

[025] 少なくとも、お父さんやお母さんが悲しむって

[026] 思わない?」

[027]【???】

[028]「…………」

[029]【かおり】

[030]「わたしの場合は、お父さん、お母さんや妹を

[031] 悲しませたくないって思ったから」

[032]【かおり】

[033]「それに、よく言うじゃない、

[034] 『生きていたら楽しいことや嬉しいことが

[035] いっぱいある』って!」

[036]【???】

[037]「……それって綺麗事だと思う」

[038]今日もまた、

[039]女の子は無表情のまま、フッと消えてしまった。

[040]【かおり】

[041]「失礼しまーす。

[042] お膳、下げますねーって、わぁ!」

[043]【さゆり】

[044]「……なんですか?」

[045]【かおり】

[046]「すごいよ、堺さん!!

[047] 最近、食事量が増えてるけど、

[048] 今日は8割以上食べてるよね!!」

[049]【さゆり】

[050]「ふん、人間だって生き物なんですから、

[051] 食べなきゃ元気になれないのは

[052] 当然でしょう?」

[053]【かおり】

[054]「ほへ?

[055] ……まぁ、そりゃそうなんだけど……」

[056]でも、あの偏食家で、

[057]食の細かった堺さんが

[058]連続してたくさん食べてくれるのは

[059]すごく嬉しいっ!!

[060]【さゆり】

[061]「……あなた、他に仕事はないんですか?

[062] ボケーッとお膳を持って、突っ立ったままで!」

[063]【かおり】

[064]「あ……えと、

[065] 嬉しくて、ちょっと感動に浸ってたっていうか……」

[066]堺さんは、フンと鼻を鳴らして

[067]そっぽを向いた。

[068]【さゆり】

[069]「手の空いた時で構いません。

[070] 主任さんを呼んできてくれますか?」

[071]【かおり】

[072]「ひへっ!?」

[073]もしや、またクレーム!?

[074]【さゆり】

[075]「……余計なことを考えないで下さい。

[076] 治療に前向きになるって

[077] 主任さんに意思表示をしたいだけです」

[078]【さゆり】

[079]「あなたのことなんか、

[080] これっぽっちも頭にありませんよーだ」

[081]いーだってするように、

[082]堺さんが歯をむき出す。

[083]……ちょっと子供っぽい……って思ったけど、

[084]それを言ったら、また何倍にもなって返ってくるから、

[085]黙ってようっと。

[086]それにしても

[087]治療に前向き、って……。

[088]【かおり】

[089]「それって、

[090] 免疫抑制療法を受けるってこと……?」

[091]【さゆり】

[092]「へぇ、

[093] あなたでも一応は勉強してるんですね」

[094]むっ。

[095]【さゆり】

[096]「転院することになるから、あなたの顔を見ずに済んで

[097] せいせいするけど、ストレスをぶつける相手が

[098] いなくなって、逆にストレスがたまりそう……」

[099]【さゆり】

[100]「転院先の病院には、

[101] いくら何でも、あなたほどドン臭い看護師なんて

[102] いないでしょうしね」

[103]【かおり】

[104]「は、ははは……」

[105]聞き流そう、

[106]スルー、スルー……。

[107]何はともあれ、

[108]堺さんが治療に前向きになっているのは良いことだ!

[109]……と思うことにしよう。

[110]そう思いながら、

[111]頭を下げて、部屋を出ようとした時――。

[112]【さゆり】

[113]「あ、そうそう。

[114] あの変なあだ名をつけたがる子だけど。

[115] 気をつけてあげてね」

[116]えっと思った時は、

[117]既に廊下に出てしまっていた。

[118]さっきの言葉の真意を知りたいけど、

[119]……部屋の中に戻ったところで、

[120]堺さんは教えてくれなさそうな気がする……。

[121]それにしても、

[122]あみちゃんに気をつけてあげてって、

[123]どういうことだろう?

[124]堺さんに言われたからというわけじゃないけど、

[125]あみちゃんの様子が気になる……。

[126]そういえば、

[127]最近、あの屈託のない明るい笑顔も見てないし、

[128]何よりも、あの過剰なくらいのスキンシップも

[129]ほとんどなくなってる。

[130]今日の昼食だって、

[131]殆ど手をつけられていなかったし……。

[132]何となく気になって、

[133]あみちゃんの癒しスポットでもある屋上へ

[134]行ってみることにした。

[135]【あみ】

[136]「…………」

[137]あの不思議な楽器・フォルテールは

[138]カバンに入れられたままで、

[139]あみちゃんは柵にもたれて

[140]ぼんやりと空を見上げていた。

[141]【かおり】

[142]「どうしたの?

[143] 今日は演奏しないの?」

[144]【あみ】

[145]「……そんな気分じゃないんです」

[146]【かおり】

[147]「わたし、

[148] あみちゃんの演奏、聴きたいなぁ」

[149]【あみ】

[150]「……今の心理状態での演奏なんて、

[151] とてもじゃないけど、

[152] かおりんさんに聴かせられません……」

[153]いきなり涙ぐむ、あみちゃん。

[154]わたし、何か変なこと言った!?

[155]【かおり】

[156]「ど、どうしたの?

[157] どっか痛いトコでもあるの?

[158] あっ、撫でてあげれば良くなるかなぁ?」

[159]【あみ】

[160]「…………」

[161]不意に、ぎゅっとあみちゃんに抱きつかれた。

[162]【あみ】

[163]「……ぎゅってしてください」

[164]【かおり】

[165]「え、でも……」

[166]【あみ】

[167]「ぎゅってして、ナデナデしてください」

[168]……泣かれちゃったら、

[169]しょうがないよね……。

[170]【かおり】

[171]「……うん」

[172]そっと抱き締めて、

[173]落ち着かせるように、優しく背中を撫でた。

[174]あみちゃんは、

[175]何か辛いことを抱え込んでるみたい。

[176]こんなことで気が楽になるなら

[177]いくらでもしてあげるけど……

[178]でも、それは『逃げ』でしかないんだよ?

[179]【かおり】

[180]「わたしにできることは……他にある?」

[181]言外に、

[182]抱き締めることと、撫でること以外で、と

[183]匂わせてみた。

[184]あみちゃんは

[185]目元をほんのり染めて、わたしをじっと見上げてくる。

[186]【あみ】

[187]「……じゃあ、

[188] チュッてしてくれますか……?」

[189]【かおり】

[190]「それは……」

[191]【あみ】

[192]「……冗談です」

[193]サラッと言った言葉とは裏腹に、

[194]表情は今にも泣きそうな顔をしてる。

[195]【かおり】

[196]「あみちゃん……」

[197]そんな顔されちゃ、断れないよ……。

[198]【かおり】

[199]「……今回だけ、だからね?」

[200]そっと顔を近づけて、額にちゅっとキス。

[201]【かおり】

[202]「……これで元気になる?」

[203]【あみ】

[204]「…………」

[205]一瞬で、あみちゃんの顔が真っ赤になった。

[206]【かおり】

[207]「症状も安定してきたし、

[208] 元気になって学校に戻らないと、ね!」

[209]【あみ】

[210]「…………」

[211]けれど、真っ赤になった顔から血の気が引いて、

[212]またあみちゃんは泣きそうな顔になる。

[213]……どうしたんだろう、

[214]気になるなぁ……。

[215]【かおり】

[216]「そういえば、この前の日曜、

[217] 病院のロビーで桜立舎の制服の子を見たよ。

[218] あみちゃんのお見舞いに来たの?」

[219]【あみ】

[220]「そんなこと……」

[221]【かおり】

[222]「あみちゃん?」

[223]【あみ】

[224]「そんなこと、かおりんさんには関係ないっ!!」

[225]フォルテールを置き去りにしたまま、

[226]あみちゃんが走って行ってしまった。

[227]【かおり】

[228]「……え……、あみちゃん……?」

[229]残されたフォルテールと

[230]あみちゃんの去った方を交互に見て、

[231]わたしは途方に暮れてしまった。

[232]無人のあみちゃんのベッドの上に

[233]屋上に置き去りにされたフォルテールを置いて、

[234]詰所に戻ってくる。

[235]【かおり】

[236]「戻りましたー」

[237]【なぎさ】

[238]「……はぁ」

[239]詰所に戻った早々、

[240]なぎさ先輩の溜め息に遭遇する。

[241]【かおり】

[242]「どうしたんですか、

[243] 溜め息なんて、なぎさ先輩らしくもない」

[244]「何だとぅ!」って反撃されるって思いきや、

[245]なぎさ先輩はまた溜め息をついて、

[246]熱型表を指でトントンと叩いた。

[247]【なぎさ】

[248]「んー、あみちゃんなんだけどねー、

[249] このままじゃ退院取り消しになりそうでさー」

[250]なぎさ先輩の指す食事欄には

[251]0〜2の数字が並んでいる。

[252]【はつみ】

[253]「沢井さん、個人的に浅田さんと仲が良いわよね。

[254] 何か聞いていないかしら?」

[255]突然、主任さんに声をかけられて、

[256]思わず、キョドッてしまいそうになる。

[257]【かおり】

[258]「わ、わたしは別に……」

[259]【やすこ】

[260]「ワガママ娘がワガママ言わへんくなった思うたら、

[261] 今度はあみちゃんがワガママ娘になったんかいな。

[262] 難儀やなぁ」

[263]【はつみ】

[264]「山之内さん、

[265] そういう類の不適切な発言は

[266] 若手の前では控えてください」

[267]【やすこ】

[268]「へいへい、すんませんでしたー」

[269]主任さんと山之内さんの会話を

[270]聞くともなしに聞いていて、

[271]ふと、思い出した。

[272]【かおり】

[273]「……あみちゃん、

[274] やっぱり退院したくないのかも……」

[275]チュッてした後の真っ赤な顔から、

[276]泣きそうな顔への変化も、

[277]たしか退院の話をした時だったよね。

[278]【なぎさ】

[279]「そうねぇ。

[280] あみちゃんの食事摂取量が落ちたのって、

[281] 退院の話が出た直後からだし……」

[282]【はつみ】

[283]「でも、このままでは経管栄養になってしまうわね。

[284] 嚥下障害もないのに、チューブに頼るようなことは

[285] 正直、したくないわ」

[286]【やすこ】

[287]「ま、ウダウダ言うなら

[288] いっぺん、あの可愛いお鼻に

[289] 鼻カテでもぶっこんだったらどないです?」

[290]【やすこ】

[291]「あまりの痛さと恥ずかしさに、

[292] 二度とワガママ言わへんくなるかもしれませんで?」

[293]【はつみ】

[294]「……だから、

[295] そういうことをしたくないから言っているのよ」

[296]相変わらずなんだけど、

[297]主任さんと山之内さんは連携が良いなぁ。

[298]とか思っていたら、

[299]脇をちょんちょんと突付かれた。

[300]【なぎさ】

[301]「ねぇ、あたしじゃ無理っぽそうだから、

[302] 何とか沢井があみちゃんを説得してくれない?」

[303]【かおり】

[304]「わたしが……ですか?」

[305]【なぎさ】

[306]「さっき主任も言ってたけど、

[307] あみちゃん、何だかんだで

[308] 沢井に一番心を開いてるんだよね……お願いっ!」

[309]なぎさ先輩が両手を合わせて

[310]わたしにお願いしてる。

[311]ううう……、

[312]こんな風にお願いされちゃ、

[313]イヤなんて言えないよね。

[314]【かおり】

[315]「はい……、

[316] が、頑張ってみます……」

[317]取り敢えず、そう言ってはみたものの、

[318]どうやって説得するかなんて、

[319]何もわかんないよぅ!!

[320]夜勤さんへの申し送りが終わって、

[321]記録も着替えも全部終わってから、

[322]寮へ帰る直前に、あみちゃんの部屋に寄ってみた。

[323]【あみ】

[324]「……か、かおりんさん……?」

[325]【かおり】

[326]「こんにちは。

[327] もうすぐ夕食だね!」

[328]食事の話になると、

[329]途端に暗い表情になった。

[330]【かおり】

[331]「ねぇ、あみちゃん、食事のことだけど……

[332] このままだと鼻から管を入れることに

[333] なりそうなの……」

[334]【あみ】

[335]「もう、わたしのことは

[336] 放っておいてくださいっ!」

[337]叫ぶように言った後、

[338]あみちゃんは布団をかぶって、丸くなってしまった。

[339]【かおり】

[340]「ほっとけないよ!

[341] だって、病院は治療する場所だもん!!」

[342]【かおり】

[343]「ご飯も食べずに勝手に病気になろうとする子、

[344] 放っておけるわけないよ!」

[345]【あみ】

[346]「…………っ」

[347]ビクッと、あみちゃんの肩があるらしき部分が

[348]小さく震えた。

[349]こんもりと盛り上がった布団を

[350]優しくポンポンと叩く。

[351]【かおり】

[352]「……学校に、行きたくないの?」

[353]【あみ】

[354]「…………」

[355]しばらくの沈黙の後、

[356]布団の中で、こくりと頷く気配が伝わってきた。

[357]【かおり】

[358]「でも、元気になったんなら、学校に行かなくちゃ。

[359] きっと楽しいよ?」

[360]【あみ】

[361]「…………」

[362]【かおり】

[363]「ね、あみちゃん……。

[364] チュッてしてあげたら、

[365] 学校に行く気になるかなぁ?」

[366]【あみ】

[367]「…………」

[368]【かおり】

[369]「わたしもね、入院してたことがあるんだけど、

[370] その間、学校のことが気になって

[371] 仕方がなかったなぁ……」

[372]【かおり】

[373]「半年以上休んで、お陰で勉強についてけなくて

[374] すごく大変だったけど、

[375] やっぱり学校に行けるっていいなぁって」

[376]布団を跳ね除けて、

[377]あみちゃんが起き上がった。

[378]その顔は、見たことがないほどに

[379]怒りで真っ赤になってる。

[380]【あみ】

[381]「うるさいって思ってるの、わかんないんですか!?

[382] もうっ、かおりんさんなんて嫌い!

[383] 嫌い嫌い大嫌いっ!!」

[384]あみちゃんはまた布団をかぶってしまった。

[385]【かおり】

[386]「ご、ごめん……。

[387] じゃあ……帰るね。

[388] 明日もまた来るから……」

[389]失敗した、ということがわかった。

[390]ふと、この間の夜勤さんの言葉が

[391]脳裏を横切る。

[392]……この年頃の子って難しいんだなぁ……。

[393]【かおり】

[394]「……失礼します……」

[395]いつものルーチン、

[396]いつもの点滴交換。

[397]昨日のあみちゃんの件を引きずって、

[398]なかなか笑顔が作れない。

[399]わたし、まだまだだなぁ……。

[400]【さゆり】

[401]「何ですか、その顔!

[402] こっちまで辛気臭くなるとは思わないんですか?

[403] わたしの病気を悪化させるつもりですか!?」

[404]【かおり】

[405]「……ご、ごめん……、

[406] 感情の切り替えができなくて、つい……」

[407]素直に謝ると、

[408]堺さんが大げさに溜め息をついた。

[409]【さゆり】

[410]「……浅田さん?」

[411]【かおり】

[412]「!!」

[413]あみちゃんの名前に、

[414]思わず反応してしまう。

[415]【さゆり】

[416]「やっぱり! あなたのことだから、何も考えずに

[417] ドストレートに突撃して、玉砕したんでしょう、

[418] ほんっと呆れるわ、馬鹿じゃないの!?」

[419]【かおり】

[420]「堺さん、あみちゃんのこと、

[421] 何か知ってるの!?」

[422]【さゆり】

[423]「知ってるか知らないか、ってことなら、

[424] 何も知らないわ。

[425] 知ってるのは些細なことよ」

[426]堺さんの言葉に、

[427]思わずがっかりする。

[428]何か情報を得られるかと思ってたのに……。

[429]【さゆり】

[430]「ただ、今までウザいくらいにやって来てた彼女が

[431] ぱったりと来なくなったこと、退院が決まって

[432] おめでとうと言ったら泣き出したこと……」

[433]【さゆり】

[434]「廊下で見かけても暗い顔をしていること、

[435] そして……お見舞いの子が来てから、

[436] 様子が変なのが加速したこと、くらいね」

[437]全然『くらい』なんかじゃないよっ、

[438]すごい情報じゃない!!

[439]お陰で、がっかりした気分は吹き飛んで、

[440]代わりに、すごく感心してしまった。

[441]【かおり】

[442]「……さすが堺さん、よく見てるのねぇ!」

[443]【さゆり】

[444]「寝てるだけっていうのは、意外と暇なんです。

[445] あと、これはずっと

[446] 気になってたことなんだけど……」

[447]【さゆり】

[448]「出てきて当然のはずの学校の友達の話題が、

[449] 彼女から全然聞いたことがないのって、

[450] 何か理由があるって思いません?」

[451]そういえば

[452]なぎさ先輩もそんなこと言ってたっけ。

[453]わたしも、あみちゃんとはいろいろな話をしてるし、

[454]学校の話もしたけど、

[455]その中で、お友達の話なんて

[456]今までに一度も出なかった気がする……。

[457]【さゆり】

[458]「高校生っていえば、学校が楽しい頃でしょう?

[459] わたしは学校なんて大嫌いだったけど、それでも

[460] 訊かれれば、それなりの返事をしていたわ」

[461]【さゆり】

[462]「でも、彼女にはそれさえもない。

[463] ……何かありそうって考えるのが普通でしょう?」

[464]【かおり】

[465]「うーん……」

[466]実際に目の当たりにしたあみちゃんの様子や、

[467]教えてもらった堺さんの言葉から

[468]いろいろと推理してみる。

[469]学校の話題はいくつか聞いていた。

[470]お嬢様学校で、

[471]厳しくて優しい先生がいて、

[472]フォルテールが好きで……。

[473]【かおり】

[474]「そっか、フォルテール!!」

[475]浮かんだ名案に、思わず立ち上がった。

[476]【やすこ】

[477]「はいはーい、そこの若者〜。

[478] 大声出して立ち上がるくらいはええねんけど、

[479] ここ職場なー、忘れたらアカンでー」

[480]【かおり】

[481]「フォルテールですよ、フォルテール!!」

[482]【やすこ】

[483]「……なぁ、藤沢。

[484] あんたの後輩、いきなりワケワカランこと言うて

[485] 騒ぎ出したで、何とかしたり!」

[486]【なぎさ】

[487]「そう言われても、

[488] あたしにも何が何やら……」

[489]【かおり】

[490]「何、言ってるんですか!

[491] あみちゃんです、

[492] 彼女を元気にさせる方法ですよ!!」

[493]【なぎさ】

[494]「あみちゃんを元気にさせる方法?」

[495]【かおり】

[496]「あみちゃんはフォルテールが大好きなんです!

[497] そのフォルテールの演奏会を開いて、

[498] 気分転換させてあげるとかどうでしょう!?」

[499]【なぎさ】

[500]「そうねぇ……。

[501] いい考えだとは思うけど、

[502] 病室で演奏するのは難しいんじゃない?」

[503]【かおり】

[504]「じゃあ、屋上とかどうですか!?」

[505]【やすこ】

[506]「屋上ミニコンサートか……、

[507] 面白そうやないですか、ねぇ、主任!」

[508]気がつくと、主任さんが詰所にいる!!

[509]【はつみ】

[510]「その案、悪くないわね。

[511] 浅田さんは退院間近だからあまり問題はないけれど、

[512] 参加者の選定には注意してあげて」

[513]【はつみ】

[514]「風が気持ちの良い時期だけれど、

[515] 紫外線も強いし、体力のない患者さんは

[516] 参加できないわよ?」

[517]【やすこ】

[518]「しゃーないなぁ。

[519] ほな、そこらの選定はうちがやったるわ、

[520] 任しとき!」

[521]【やすこ】

[522]「藤沢は沢井と組んで、

[523] あみちゃんに元気を取り戻させる方向で!

[524] 説明、失敗すんなや?」

[525]【はつみ】

[526]「……今すぐは無理だけれど、もし状況が許すなら、

[527] 外科や外来にも声をかけてもいいわね。

[528] 患者さんにも、良いレクリエーションにもなるわ」

[529]話が大きくなってきたけど、

[530]取り敢えず、あみちゃんに伝えなきゃ!

[531]【かおり】

[532]「なぎさ先輩、善は急げですよ、

[533] 早速、あみちゃんに伝えに行きましょう!!」

[534]【なぎさ】

[535]「そうね!

[536] あみちゃん、きっと喜ぶわよ〜!」

[537]なぎさ先輩とふたりで、

[538]あみちゃんの病室へ行く。

[539]【かおり】

[540]「あみちゃーん?

[541] カーテン、開けていいかな?」

[542]【あみ】

[543]「……はい」

[544]【かおり】

[545]「今日はね、なぎさ先輩と一緒に

[546] すごく良いニュースを持ってきたんだよ!!」

[547]【あみ】

[548]「あの……かおりんさん、

[549] 昨日は……嫌いだなんて言ってごめんなさい。

[550] あれから、わたし、自己嫌悪で……」

[551]隣で、なぎさ先輩が驚いた顔をしてる。

[552]だって、さすがにあみちゃんに

[553]大嫌いって言われちゃったなんて

[554]なぎさ先輩には言えないもんなー……。

[555]【かおり】

[556]「大丈夫、気にしてないよ。

[557] あみちゃんは今、ちょっとナーバスに

[558] なってるだけだってわかってるから」

[559]【あみ】

[560]「ホントに……怒ってない……?」

[561]【かおり】

[562]「うん、全然!!

[563] だって怒る理由がないもん!」

[564]ホッとしたのか、

[565]ふわりとあみちゃんの表情に笑顔が戻る。

[566]……でも、栄養が足りてないせいだろう、

[567]顔色が本当に悪い。

[568]【なぎさ】

[569]「そんなことよりも、

[570] あみちゃん、演奏会しない?」

[571]【かおり】

[572]「ぴょ!?」

[573]あまりにも直球すぎるなぎさ先輩の言葉に

[574]変な声が出ちゃったよ!

[575]【あみ】

[576]「え……、えんそうかい……?」

[577]ほら〜、あみちゃんも

[578]驚いているじゃないですかー!

[579]【なぎさ】

[580]「あみちゃんさ、フォルテール演奏するの、

[581] 大好きって言ってたじゃない?」

[582]【なぎさ】

[583]「それで、患者さんの良いレクリエーションになるから、

[584] 浅田さんにお願いしてくれないかしらって

[585] 主任さんに頼まれたんだけど……どうかしら?」

[586]【かおり】

[587]「…………」

[588]うわぁ〜、ウソも方便!

[589]さすがなぎさ先輩だなぁ、

[590]なるほど、こういう風に話を持っていくのね!

[591]【あみ】

[592]「…………」

[593]一方のあみちゃんは、ぽかんとしたまま。

[594]【なぎさ】

[595]「退院間際だし体力的には問題ないでしょうって。

[596] この時期、風も気持ちいいから、

[597] 屋上で演奏会なんて素敵じゃない?」

[598]【なぎさ】

[599]「あみちゃんが嫌なら

[600] 別のレクリエーションを考えなきゃいけないから、

[601] 引き受けてくれると、すごく助かるんだけどなー」

[602]なぎさ先輩の言葉を聞いて、

[603]不安そうな目がわたしへと向けられた。

[604]ニコッと笑って、駄目押しをする。

[605]【かおり】

[606]「わたしも、あみちゃんの演奏、

[607] また聴きたいなっ!」

[608]【なぎさ】

[609]「沢井だけじゃないよ!

[610] あたしも聴きたーい!!」

[611]あみちゃんはちょっと考えた様子で、

[612]それから、おずおずと口を開いた。

[613]【あみ】

[614]「……わたしの演奏で、

[615] レクリエーションになるんですか……?」

[616]【かおり】

[617]「なるよ!

[618] 前に聴かせてもらった時、心の奥がね、

[619] スーッてなったもん!」

[620]【あみ】

[621]「本当に!?」

[622]にっこりとあみちゃんが笑った。

[623]やっぱり、この子は笑顔が似合うなぁ。

[624]【あみ】

[625]「……じゃあ、わたしで良ければやりますって、

[626] 主任さんに伝えてくださいますか?」

[627]【なぎさ】

[628]「OK!

[629] 間違いなく伝えておくから!!

[630] 助かるわー、あみちゃん、ありがとう!!」

[631]【かおり】

[632]「楽しみだね、あみちゃん!」

[633]【あみ】

[634]「はい!!」

[635]良かった……

[636]あみちゃんに笑顔が戻って。

white_robe_love_syndrome/scr01102.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)