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white_robe_love_syndrome:scr01042

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[001]【かおり】

[002]「ふー、今日もいっぱい働いたなぁ……!!」

[003]自分の部屋に戻って大きく伸びをする。

[004]お風呂に入ろうと、下着を出して、

[005]ふと最近、山之内さんの

[006]原稿のお手伝いをしてないことに気づいた。

[007]デビューが決まったって話は聞いたけど、

[008]やっぱりプロの原稿だもんね、

[009]わたしみたいな素人がお手伝いできるレベルじゃ

[010]ないのかもしれないな……。

[011]それはそれでさみしいけど、

[012]でも、山之内さんはプロになったんだもん、

[013]喜ぶべきこと……なんだよね。

[014]【かおり】

[015]「……か、顔を見に行くくらいは……いいよね?」

[016]誰にともなく言って、

[017]一度は出した下着をしまい込んだ。

[018]【かおり】

[019]「ひょあっ!?

[020] はーい!!」

[021]【やすこ】

[022]「よぅ!

[023] ご機嫌よろしゅう!!」

[024]目の前に、ぬっと四角い箱を突き出されて、

[025]思わず受け取ってしまった。

[026]【かおり】

[027]「な、何ですか、これ……?」

[028]山之内さんはニコッと笑って、

[029]わたしの質問に答えず、

[030]ずかずかと部屋の中に入り込んできた。

[031]【やすこ】

[032]「黙っとこ思うたけど、フェアやないから、

[033] あんたには言うとこかな、て思うて」

[034]……フェアじゃない……?

[035]【やすこ】

[036]「うち、今日で百合ヶ浜を退職してん。

[037] 今夜中にこの寮を出る」

[038]【かおり】

[039]「!?」

[040]一瞬、頭が真っ白になった。

[041]今……、何て言ったの……?

[042]【やすこ】

[043]「湿っぽいの苦手やし、

[044] 主任には黙っといてもろてんけど……

[045] あんたには世話んなったから」

[046]ニカッと笑っている、山之内さん。

[047]いつもと同じ、

[048]何か悪戯を企んでいるような微笑み。

[049]でも、いつもと違う……。

[050]【かおり】

[051]「ど、どうしてですか!?

[052] 仕事まで辞めなくても、今のままで

[053] 漫画を描いていたらいいじゃないですか!!」

[054]クスッと山之内さんが笑った。

[055]【やすこ】

[056]「沢井……あんたは素直な子やね」

[057]【やすこ】

[058]「素直すぎて……見てるんが辛いねん、

[059] 自分がヨゴレてんのを

[060] 見せ付けられてる気分になる」

[061]【かおり】

[062]「…………」

[063]汚れてる……?

[064]そんなことありません、

[065]山之内さんは汚れてなんていません!

[066]そう言いたいのに、

[067]涙で言葉が出てこない。

[068]もう……引き止めることもできないの……?

[069]【やすこ】

[070]「あんたは悪ないねんで?

[071] うちが……ダメで汚い大人やっただけ」

[072]【かおり】

[073]「や、山之内さん……」

[074]【やすこ】

[075]「じゃあな、沢井」

[076]ポン、と頭の上に手を置かれて、

[077]山之内さんがわたしに背中を向けた。

[078]【やすこ】

[079]「……あんたには、あんたに相応しい、

[080] 素直で綺麗な人がおる。

[081] もううちみたいな腹黒にひっかかったらアカンよ」

[082]【かおり】

[083]「…………」

[084]引き止めることなんて、できなかった。

[085]引き止めたって、

[086]聞き入れる人でもないことなんて

[087]嫌ってほどわかってる。

[088]だって、

[089]そんな山之内さんが好きだったんだから……!

[090]【かおり】

[091]「……さん……山之内、さん……!!」

[092]後から後から、涙が零れて頬を伝う。

[093]その場にへたり込んで、

[094]山之内さんが渡してくれたお菓子を抱いて

[095]泣き崩れることしかできなかった。

[096]――山之内さんがいなくなって数ヵ月。

[097]季節はもうすぐ春。

[098]山之内さんのいない病棟にも慣れてきた。

[099]主任さんは今でもやりにくそう……。

[100]そりゃそうだよね、

[101]山之内さんは主任さんの右腕のような存在だったもの、

[102]穴埋めできるような人材がそう簡単に育つわけもないし、

[103]見つかるわけもない。

[104]【かおり】

[105]「……ん?」

[106]ポストに少し大きな封筒が入っていた。

[107]【かおり】

[108]「……コミック・クィーン……姫百合編集部……?」

[109]封筒に印刷されたロゴを読み上げてから、

[110]ハッとした。

[111]これって、

[112]山之内さんをスカウトした雑誌の名前……!!

[113]慌てて部屋に戻って、

[114]硬い四角いもの――雑誌が入った封筒を開ける。

[115]見覚えのある絵柄は、

[116]何度も手伝って、目に馴染んだ絵柄。

[117]『沢之内モエ、衝撃のデビュー!!

[118] ドクターとナースの激突ラヴ!!』

[119]デカデカと表紙に印刷された文字に、

[120]慌ててページをめくる。

[121]医療物の漫画。

[122]サイドポニーテールの女医と美人看護師が、

[123]患者の治療方針について、

[124]腹黒なまでに、権謀術数を駆使してやりあいつつも、

[125]私生活ではラブラブというもの。

[126]……山之内さんが求めていたのは、

[127]きっとこういう相手だったのかな?

[128]【かおり】

[129]「……たしかに、

[130] わたしには、こんなこと

[131] できないもんね……」

[132]【かおり】

[133]「相手の思っていることの裏を読んだり、

[134] 相手の思惑を自分の考えに引き寄せたり、

[135] 寄せられたフリで相手の思考の裏を読むなんて」

[136]沢之内モエという印刷の上に、

[137]ぽたりと水滴が落ちる。

[138]山之内さんは

[139]どんな気持ちで、このペンネームにしたんだろう……。

[140]わたしは……

[141]わたしが山之内さんの隣に立つには

[142]何もかもが足りなさすぎた……。

[143]わたしがもっとちゃんとした看護師だったら、

[144]今頃、山之内さんは

[145]隣で笑っててくれてたのかな……。

[146]【かおり】

[147]「……っく」

[148]濃く変色した丸い跡が模様のように

[149]紙面の上に、いくつも落ちていくのが見えた――。

white_robe_love_syndrome/scr01042.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)