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white_robe_love_syndrome:scr01011

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[001]【はつみ】

[002]「みなさん、揃いましたね?」

[003]いつものように申し送りが始まろうとしていた。

[004]主任さんが集まったメンバーを見回している。

[005]その時、山之内さんが

[006]「ちょっといいですかー」と中断させた。

[007]【はつみ】

[008]「何ですか、山之内さん。

[009] 今から申し送りです、手短にお願いします」

[010]渋々ながらも、

[011]主任さんが許可を出した。

[012]山之内さんがチラッとわたしを見て、

[013]にやりと笑う。

[014]うっ、

[015]何なの、その不安を誘う笑い方……!!

[016]【やすこ】

[017]「えー、コホン。

[018] お時間くださり、光栄です。

[019] 不肖、山之内やすこは、みなさんに宣言します」

[020]振り向いた山之内さんに手を掴まれ、

[021]無理に引っ張られたと思うと、

[022]肩を抱かれて、みんなの前に立たされた。

[023]【やすこ】

[024]「ここにいる沢井かおりの先輩看護師として、

[025] 人生の先輩として、沢井かおりを指導して、

[026] 一生を添い遂げることを誓います!!」

[027]【かおり】

[028]「あひょーっ!?」

[029]【なぎさ】

[030]「えええええええっ!?」

[031]あまりのことに頭がフリーズする。

[032]い、今、添い遂げるって言わなかった!?

[033]ねぇ、言ったよね!?

[034]【やすこ】

[035]「うちも素直になろう思たんや。

[036] 全力でうちにぶつかってきた、あんたみたいに」

[037]決意を込めた眼差しに、

[038]わたしの中心が強く射抜かれた。

[039]【かおり】

[040]「や、山之内さん……」

[041]【なぎさ】

[042]「ちょ、ちょっと、

[043] どういうことなの!?」

[044]【やすこ】

[045]「どうもこうもない。

[046] 今、言うた通りや」

[047]【なぎさ】

[048]「どうもこうもって……!!

[049] 何がどうなってるのよ!?

[050] あんたたち、ケンカしてたんじゃなかったの!?」

[051]【やすこ】

[052]「なんや、藤沢、耳でも遠なったんか?

[053] もっぺん言おか?

[054] うちと沢井はゾッコン・ラブやねんで?」

[055]【はつみ】

[056]「……山之内さん、

[057] その単語、わたしでもわかる死語よ……」

[058]【なぎさ】

[059]「う、ウソ……ぉ」

[060]なぎさ先輩は固まっている。

[061]他の看護師さんや介護士さんは

[062]ただニヤニヤして、わたしたちを見ている。

[063]その間に、わたしは

[064]山之内さんのカーディガンの袖をくいくいと引っ張った。

[065]【やすこ】

[066]「何や、沢井?」

[067]【かおり】

[068]「あ、あの……そういうことは、

[069] わたしとふたりきりの時に言ってほしいなぁって

[070] 思うんです……」

[071]きっと、山之内さんがもう一人いたら、

[072]「ひゅーひゅー」とか言って冷やかすんだろうけど、

[073]ここには冷やかすような人は

[074]山之内さんくらいしかいない。

[075]代わりにいるのは……。

[076]【はつみ】

[077]「……で、どうでもいいけれど、

[078] そろそろ申し送りを始めてもいいかしら」

[079]呆れ顔の主任さんだけだった。

[080]まるで結婚宣言のような一件は、

[081]病棟中に伝わっていたらしい。

[082]【さゆり】

[083]「あなたたち、馬鹿なんじゃないですか?」

[084]うっ、

[085]馬鹿って言われちゃったよ……!

[086]【あみ】

[087]「でもでもっ、

[088] 神聖な職場で『一生を添い遂げます!』なんて

[089] 宣言されるなんて、すごく憧れちゃう〜!」

[090]【やすこ】

[091]「祝儀は弾んだりや〜」

[092]【さゆり】

[093]「……祝儀、って。

[094] 患者に、しかも未成年に

[095] 言うようなことではないと思うんですが」

[096]【やすこ】

[097]「ん〜、

[098] お嬢ちゃんはアホやね〜」

[099]【さゆり】

[100]「な……っんですって!?」

[101]【やすこ】

[102]「うちら看護師にとっての最大のご祝儀は、

[103] 患者さんが健康になって、

[104] 自分の足で退院してくことやないの」

[105]【やすこ】

[106]「あんた、看護学生やのに、

[107] そんなこともわからへんの〜?」

[108]【さゆり】

[109]「くっ!!」

[110]【やすこ】

[111]「そんなんで、うちにケンカ売るんはまだ早いねぇ!

[112] はよ病気治して、とっとと看護師になって、

[113] 出直して来んかい!」

[114]【さゆり】

[115]「い、言われなくても、さっさと治して、

[116] あなたの同僚になってやりますからっ!!

[117] だから、治療を受けてやりますっ!!」

[118]売り言葉に買い言葉なのか、

[119]堺さんはものすごいことを言った。

[120]【かおり】

[121]「え……堺さん、

[122] 治療を受けるって……?」

[123]【さゆり】

[124]「ここで温存療法を受けてても、先は見えてるもの。

[125] 攻めに転じないと、起死回生は狙えないわ!」

[126]【やすこ】

[127]「ほほぅ、

[128] つまりは免疫抑制療法を受けるってことやね?」

[129]【さゆり】

[130]「さっきからそう言ってるじゃないですか!

[131] 耳が遠くなったんですか?

[132] 山之内さん、アラサーですものね!」

[133]あわわ、

[134]山之内さんに対して、なんて暴言を……!!

[135]青くなって山之内さんを見たら、

[136]何故か機嫌良さそうに、全開の笑顔を浮かべていた。

[137]【やすこ】

[138]「よっしゃ、その意気や。

[139] お嬢は素直でエエ子やね〜」

[140]あれ?

[141]年齢のことを言われたのに、

[142]山之内さんは嬉しそうに笑ってる……?

[143]【さゆり】

[144]「治療を受けて、学校にも戻って、

[145] 看護師になって、ここの病院に入って、

[146] あんたたちの邪魔してやるんだから!!」

[147]真っ赤になって、ぷいっと横を向く堺さん。

[148]素直と言われて、照れちゃったのかな。

[149]山之内さんは、

[150]それでこそお嬢や、って笑ってるし。

[151]あみちゃんとわたしは顔を見合わせて、

[152]こっそりと微笑みを交わした。

[153]あの衝撃の山之内宣言を境に、

[154]山之内さんはわたしを『かおり』って

[155]名前で呼んでくれるようになった。

[156]【やすこ】

[157]「なぁ、かおり。

[158] 五輪さんの結石、出たか聞いてきてくれる?」

[159]【なぎさ】

[160]「…………」

[161]だから、わたしも

[162]山之内さんのことを名前で呼んでみた。

[163]【かおり】

[164]「はい、やすこさん!」

[165]【やすこ】

[166]「その名で呼ぶなァッ!」

[167]【かおり】

[168]「きょひゃーん!?」

[169]いきなり山之内さんが

[170]手にしていた書類の山を放り上げた。

[171]【やすこ】

[172]「次にうちを下の名で、呼んでみぃ、

[173] 詰所に血の雨降らすで!?」

[174]刺々しい雰囲気の山之内さんに、

[175]何故かニヤニヤして、

[176]なぎさ先輩が話しかける。

[177]【なぎさ】

[178]「山之内さん、

[179] 『やすこ』っていう名前が嫌いなんですか?」

[180]【やすこ】

[181]「父親の昔の女の名前なんや!!

[182] 冗談やない! うちは自分の戸籍さえ

[183] 抹消したいくらいや!!」

[184]【かおり】

[185]「あー……」

[186]なるほど、

[187]そういう『理由』があるのなら、

[188]二度と呼ばない方がお互いのためだよね……。

[189]山之内さんの、

[190]予想外に重い発言に、

[191]なぎさ先輩は引いてしまったらしい。

[192]【なぎさ】

[193]「……山之内さんって、

[194] 変なところで謎な人だよね。

[195] じゃあ、何て呼ぶのがいいと思う?」

[196]【かおり】

[197]「あみちゃんが呼んでるみたいに

[198] 『やっちょんさん』……とか?」

[199]【なぎさ】

[200]「なーんか、しっくりこないわねぇ」

[201]【やすこ】

[202]「名前なんか飾りですよ、

[203] 偉い人にはそれがわからんのです」

[204]【かおり】

[205]「……何ですか、それ」

[206]【やすこ】

[207]「つか、うちとかおりのラブラブ会話に

[208] なんでウシ沢が混じってんのか、

[209] そっちのが不思議やなぁ」

[210]【なぎさ】

[211]「あ、ああ、あああたしは、

[212] 沢井の先輩として、まっとうな道から

[213] 足を踏み外さないようにと……」

[214]【はつみ】

[215]「もうっ、やまさんでも、やっちょんさんでも、

[216] やまちーでも何でもいいから、

[217] 仕事をしなさーいっ!!」

[218]主任さんの雷が落ちて、

[219]わらわらと詰所から出てゆく。

[220]【やすこ】

[221]「かおり!」

[222]名前を呼ばれて、足を止める。

[223]【やすこ】

[224]「続きは、うちの部屋で……な」

[225]【かおり】

[226]「あっ……はぅん!」

[227]囁くついでに耳にキスされて、

[228]思わず変な声が出てしまった。

[229]【なぎさ】

[230]「ぐぉぉぉ……、認めない!

[231] あたしは認めないからぁああっ!!」

white_robe_love_syndrome/scr01011.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)