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white_robe_love_syndrome:scr00954

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[001]夜勤帯になったけど、

[002]こはくちゃんの一件があるから、

[003]まだ帰れない。

[004]今度はクラリスちゃんが呼ばれて、

[005]主任さんと、当事者のさゆりちゃんの三人が、

[006]奥の休憩室にいる。

[007]【なぎさ】

[008]「……どうなるのかしら……」

[009]【かおり】

[010]「わかりません……」

[011]クラリスちゃんを見たさゆりちゃんが

[012]傷ついたような顔をしていたのが気になる。

[013]【クラリス】

[014]「No!! Nothing!!

[015] 生きていても、何も良いことなんか

[016] ないじゃない!!」

[017]ものすごい音に続いた、

[018]クラリスちゃんの怒鳴り声と、その内容に、

[019]慌てて休憩室のドアを開けた。

[020]【クラリス】

[021]「わたしの何が悪い!

[022] 好きでこんな顔に生まれてきたわけじゃない!

[023] こんな髪の色に生まれてきたわけじゃない!」

[024]【クラリス】

[025]「こんな目の色なんて、大嫌い!

[026] こんな試練を与える神様なんて信じない!!

[027] 病気になったこんな身体、要らないっ!!」

[028]クラリスちゃんは肩で息をしている。

[029]さっきのすごい音は

[030]コップを投げつけた音だったんだとわかった。

[031]足元に粉々になった陶器の破片が

[032]散らばっている。

[033]【さゆり】

[034]「あなたがどんなに嫌っても、

[035] その身体があなたのものという事実は変わらないわ」

[036]【クラリス】

[037]「だったらこんな身体捨ててやる!!

[038] わたしはみんなと同じ黒髪が欲しかった!!

[039] さゆりのような黒い髪が良かった!!」

[040]【さゆり】

[041]「髪の色が問題なら染めればいいわ。

[042] 顔が嫌なら、整形すればいい。

[043] 目の色が嫌なら、カラーコンタクトレンズもある」

[044]【さゆり】

[045]「そうすれば、

[046] あなたはあなたの身体のことを好きになれるの?

[047] ハッ、くだらない」

[048]【クラリス】

[049]「……っ!!」

[050]さゆりちゃんが立ち上がって、

[051]クラリスちゃんを責める。

[052]【さゆり】

[053]「あんたのそんなちっぽけなニヒリズムで、

[054] こはくちゃんは死ぬかもしれなかったのよ!

[055] わかる、あんたは殺人者よ、Killer!!」

[056]【さゆり】

[057]「山之内さんがたまたま部屋を覗かなければ、

[058] こはくちゃんは死んでいたかもしれないのよ、

[059] この人殺し!!」

[060]【さゆり】

[061]「あんたがあんたの都合で自分勝手に死ぬなら

[062] 勝手に自殺でも何でもすればいいわ!

[063] でも、それは退院してからにして!!」

[064]【はつみ】

[065]「ちょっと、堺さん……。

[066] 相手はまだ子供なんだから、

[067] 手加減してあげないと……」

[068]主任さんがさゆりちゃんをなだめるようにそう言うと、

[069]さゆりちゃんは小さく息を吐いた。

[070]【さゆり】

[071]「わたしがクラリスちゃんの年齢の時、

[072] 親はとうに離婚してて、わたしは母親から

[073] 食べるものも満足に与えてもらえませんでした」

[074]【さゆり】

[075]「近所の人から食事をもらう生活……信じられますか?

[076] あの母親は学校に給食費も払わなくて、服もなくて、

[077] ……薄汚れたわたしには友達がいませんでした」

[078]【さゆり】

[079]「わたしが愛されないのは、わたしが悪い子だから。

[080] だから、わたしは自分が嫌いで、

[081] 自分なんかいなくなればいいって思ってました」

[082]【かおり】

[083]「さゆりちゃん……」

[084]初めて聞いた、さゆりちゃんの過去。

[085]お母さんと何かあったんだろうってことは

[086]遺産の生前分与の件でわかってたけど、

[087]まさか、こんな酷い過去があったなんて……。

[088]【さゆり】

[089]「病気になって、この病院に入院して、鬱陶しい新人が

[090] 担当になって、気晴らしに苛めてみたりもしたけれど、

[091] 全然気分は晴れなくて……」

[092]【さゆり】

[093]「……ねぇ、あなた、点滴弄って人のせいにしてみたり、

[094] こはくちゃんに甘いものを食べさせたりして、

[095] 気が晴れた?」

[096]【クラリス】

[097]「…………」

[098]【さゆり】

[099]「自分が不幸だと思ってる間は、不幸にしかなれないの。

[100] 幸せになりたいなら、幸せになりたいって

[101] 強く願わなきゃダメ!」

[102]さゆりちゃんの言葉に、

[103]クラリスちゃんが泣き出した。

[104]【クラリス】

[105]「でも……、No! 無理!!

[106] わたしはみんなと同じじゃない!!」

[107]【なぎさ】

[108]「そうかなぁ。

[109] あたしはクラリスちゃんの外見、好きだなー。

[110] ほら、あたし、外見が普通でしょう?」

[111]のんびりした声で、なぎさ先輩が言う。

[112]【なぎさ】

[113]「特に美人ってわけでもなく、モチロン、

[114] ブスってわけでもない。こんな外見だと、

[115] 患者さんに名前を覚えてもらえないのよね」

[116]【はつみ】

[117]「わたしは、あなたの丸くて大きな目が羨ましいわ。

[118] わたしって吊り目だから、普通にしていても

[119] 『怒ってるの?』って訊かれちゃうのよ」

[120]【かおり】

[121]「わたしは、そのぷっくりした唇が可愛いなって思う!

[122] 目も大きいし、大人になって、お化粧したら、

[123] きっとものすごく映えると思う!!」

[124]【さゆり】

[125]「わたしは自分の黒い髪が嫌いだから、

[126] クラリスちゃんみたいな髪になってみたいかしら」

[127]【さゆり】

[128]「この髪で三つ編みにすると、

[129] 注連縄のようになっちゃうんだから!

[130] 知ってる、注連縄。神社にあるんだけど……」

[131]【クラリス】

[132]「……シメナワ……」

[133]さゆりちゃんが

[134]そっとクラリスちゃんを抱き締める。

[135]【さゆり】

[136]「あなたのこと、一番愛してあげられるのはあなただけ。

[137] 自分のことを愛してあげられない内は、

[138] 幸せは来ないの」

[139]【さゆり】

[140]「わたしはクラリスちゃんが好きよ。

[141] クラリスちゃんは……どう?」

[142]【クラリス】

[143]「ごめ……ごめんなさ……!

[144] ごめんなさぁいぃ!!」

[145]【さゆり】

[146]「謝る相手が違うでしょう?

[147] あなたが謝る相手は、

[148] 沢井さんと……」

[149]【???】

[150]「ううん、あたしはいいの。

[151] 久しぶりにクッキー食べられたから」

[152]【クラリス】

[153]「えっと……こはく……?」

[154]入り口に、こはくちゃんが立っている。

[155]その背後には、

[156]悪戯っぽく笑ってる山之内さん。

[157]【やすこ】

[158]「ついでやから、連れてきてしまいました〜」

[159]こはくちゃんを見て、

[160]クラリスちゃんが立ち上がる。

[161]【クラリス】

[162]「Sorry……!

[163] わたし……その、わたし……」

[164]【こはく】

[165]「あたしね、クラリスちゃんのこと、

[166] ずっと可愛いなぁって思ってたの」

[167]【こはく】

[168]「だからね、クラリスちゃんがくれたクッキー、

[169] 食べちゃダメなんだってわかってたけど、

[170] どうしても食べたかったの」

[171]【クラリス】

[172]「……こはく……」

[173]【こはく】

[174]「ねぇ……、

[175] あたしと、友達になってくれる?」

[176]【クラリス】

[177]「Amazing!!

[178] わ、わたしの方こそ!!」

[179]さゆりちゃんの腕を振り払うように飛び出して、

[180]クラリスちゃんは、こはくちゃんに抱きついた。

[181]【クラリス】

[182]「Sorry……

[183] ……ゴメン……ね?」

[184]【こはく】

[185]「うん、もういいってば……」

[186]ああ、ここに

[187]新しくも可愛い友情が生まれたんだなぁ〜。

[188]【クラリス】

[189]「こはく……、

[190] I Love You……。

[191] 日本語で、何?」

[192]うん?

[193]ラブ……って言わなかった?

[194]【こはく】

[195]「うん……?

[196] 大好き、って言葉でいいと思うよ?」

[197]【クラリス】

[198]「そう?

[199] こはく、だーいすき!!」

[200]【やすこ】

[201]「…………」

[202]山之内さんがニヤニヤしてたけど……ほっとこう。

[203]見ると、主任さんもなぎさ先輩も

[204]何だか微妙な顔をしてるけど……、

[205]ま、いっか。

[206]【さゆり】

[207]「本当にクラリスちゃんは

[208] わたしと同じだったんですね……」

[209]わたしの淹れた紅茶を飲みながら、

[210]さゆりちゃんが、ほぅと溜め息をつく。

[211]【かおり】

[212]「さゆりちゃん……」

[213]さゆりちゃんの壮絶な過去を直接聞いて、

[214]どう言えばいいのかわからない。

[215]【さゆり】

[216]「わたしの過去について気にしてるんですか?

[217] だったら、もう終わったことです、

[218] 気にしないでください」

[219]【かおり】

[220]「う、うん……」

[221]【さゆり】

[222]「それよりも、今ですよ。わたし、幸せです。

[223] ……自殺なんかしなくて良かったって、

[224] つくづく思います!」

[225]【かおり】

[226]「うん……」

[227]じわじわと嬉しさがこみ上げてくる。

[228]良かった……、

[229]今、わたしの傍にいてくれて……。

[230]【さゆり】

[231]「それにしても、あそこまで

[232] わたしと同じにならなくてもいいと思いませんか?」

[233]【かおり】

[234]「あそこまで、って?」

[235]【さゆり】

[236]「八つ当たりした相手に心を開かされて、

[237] いい雰囲気になることですよ」

[238]【かおり】

[239]「いい雰囲気、って……、

[240] クラリスちゃんも、こはくちゃんも

[241] まだ子供なんだし……」

[242]【さゆり】

[243]「三つ子の魂百まで、って諺もありますよね」

[244]【かおり】

[245]「…………」

[246]言い切られちゃったよ……。

[247]自信満々なその言い方に、

[248]ふと、思い当たることがあった。

[249]【かおり】

[250]「あの……、気を悪くしたらごめんね。

[251] さゆりちゃんの初恋の人って……」

[252]【さゆり】

[253]「小学校の担任の先生だったかなぁ、

[254] ふんわりしたワンピースが似合う先生でした。

[255] ……すぐにいなくなっちゃったけど」

[256]ああ、さゆりちゃんの境遇を心配して、

[257]オムレットを作った先生のことか……。

[258]【さゆり】

[259]「かおりさんは絶対に

[260] わたしの前からいなくならないでください。

[261] いなくなるなら、先にそう言って……」

[262]【かおり】

[263]「ずっといるよ」

[264]それ以上、聞きたくなくて、

[265]さゆりちゃんの言葉を遮るように抱きしめた。

[266]【かおり】

[267]「わたしが、さゆりちゃんの傍にいたいの。

[268] だから……ずっと、ここにいるよ……」

[269]そっと顔を近づけると、

[270]さゆりちゃんがそっと目を閉じた。

[271]【かおり】

[272]「さゆりちゃんこそ、

[273] いなくならないでね……?」

[274]【さゆり】

[275]「……はい、約束します。

[276] ずっと、一緒です……」

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