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white_robe_love_syndrome:scr00905

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[001]【看護師】

[002]「沢井さーん、おはようございまーす!

[003] 検温でーす!」

[004]【かおり】

[005]「ほぇっ!?

[006] ふぁ、ふぁいっ!!」

[007]やってきた看護師さんに体温計を渡された。

[008]それを腋の下に挟んで、ぎゅっと腕で挟む。

[009]【看護師】

[010]「沢井さん、

[011] 穿刺した場所の痛みはどんな具合ですか?」

[012]【かおり】

[013]「あ、もうだいぶ痛くないです」

[014]ここは帝都大学医学部付属病院。

[015]コーディネーターさんから連絡があって、

[016]主任さんと勤務調整をした後、

[017]骨髄を提供するために、

[018]ここに――堺さんと同じ病院に入院になったの。

[019]入院翌日に骨髄を採取されたんだけど、

[020]全身麻酔だったから

[021]痛いとか怖いとか、そういうのは全然なくて。

[022]ただ、全てが終わって目が覚めたら、

[023]腰、というか、お尻がちょっと痛かったくらい。

[024]この病院では、骨髄穿刺の患者さんは

[025]入院期間を穿刺後一週間って

[026]設定してるらしいの。

[027]中には熱を出したり、

[028]痛みが引かなかったりする人がいるんだって。

[029]他の人はそうなのかもしれないけど、

[030]わたしの場合は、骨髄を提供した翌々日くらいから

[031]もう痛みはほとんど消えてたから、

[032]退院しちゃってもいいかなって思ったんだけどね。

[033]【なぎさ】

[034]「ダメよ! 骨髄提供にだってリスクはあるのよ!

[035] クリニカルパスに沿った入院日数に従うべきだわ!

[036] 感染とか起こしちゃったらどうするの!」

[037]【やすこ】

[038]「ええやん、どっちみち退院したかて

[039] あんたは休みやねんから、ここでゆーっくり休んで

[040] 白衣のお姉ちゃん見て、ニヤニヤしとき」

[041]【はつみ】

[042]「患者として看護師の動きを見る機会は少ないわ。

[043] この機会に、他のスタッフの動きを見て

[044] 休暇中でもしっかりと勉強しなさい」

[045]お見舞いに来てくれたなぎさ先輩に叱られ、

[046]山之内さんは勝手なことを言って笑い、

[047]主任さんには、とっても主任さんらしい

[048]ご意見をいただきました。

[049]でも、退屈な入院生活も今日で終わり!

[050]お昼ごはんを食べたら、

[051]帝大病院の患者という身分からは卒業なの!

[052]【かおり】

[053]「今までどうもお世話になりました!」

[054]詰所の前であいさつをすると

[055]師長さんらしき人が出てきた。

[056]【師長】

[057]「いえいえ〜、

[058] わたしたちは何もしてませんよ。

[059] 何も起こらなくて良かったわね」

[060]【師長】

[061]「でも、あなた、

[062] ドナーになるなんて偉いわね」

[063]【かおり】

[064]「いえ……、

[065] わたしにできることをしたまでです」

[066]わたしには、こんなことしかできないから……。

[067]【師長】

[068]「……きっと、あなたから骨髄をもらった人は

[069] 元気になれると思うわ」

[070]【かおり】

[071]「はい。

[072] そうだったら嬉しいです」

[073]にっこりと笑うと、

[074]師長さんも笑ってくれた。

[075]【かおり】

[076]「あ、そうだ。

[077] この病院に堺さゆりさんって人が

[078] 入院していると思うんですけど」

[079]師長さんの眉がピクッと動いた。

[080]【師長】

[081]「……それが?」

[082]にこっと師長さんが笑ってくれている。

[083]今、師長さん、ちょっと顔色が変わったよね?

[084]堺さんに何かあったのかな。

[085]【かおり】

[086]「ついで、というのは変ですけど、

[087] ちょっとお見舞いに行こうかなって思うんですが、

[088] 病室、わかりますか?」

[089]堺さんは前処置に入った時点で

[090]無菌室へと移送された。

[091]前処置に入ってからはお見舞いに行けなかったので、

[092]わたしは堺さんの病室の場所を知らないのよね。

[093]【師長】

[094]「堺さゆりさんはこの棟の地下にある

[095] 血液内科の無菌室に入院中ですよ」

[096]【師長】

[097]「でも、面会はガラス越しだけど……

[098] それでもいいのかしら?」

[099]【かおり】

[100]「はい、それはわかってます。

[101] どうもありがとうございました!」

[102]ぺこりと頭を下げて、階段へと足を向ける。

[103]たとえガラス越しでも

[104]堺さんに会いたい。

[105]わたし、頑張ったよ。

[106]だから、わたしのこの頑張った姿を

[107]堺さんに見せてあげたかった。

[108]そして、きっと堺さんも治るよ、って

[109]言ってあげたかったの。

[110]でも。

[111]【かおり】

[112]「……そう、なんですか……」

[113]血液内科病棟の詰所前で少し待たされて、

[114]やっと来た看護師さんから、

[115]当の本人である堺さんから面会を拒否されたと

[116]言われちゃったの。

[117]……本人が会いたくないって言うんなら

[118]仕方がないよね……。

[119]しょんぼりしながら、立ち上がる。

[120]とぼとぼと階段を上る。

[121]【かおり】

[122]「堺さんには会えなかったなぁ……」

[123]【看護師】

[124]「待って!

[125] お見舞いの人、ちょっと待って!」

[126]立ち止まって振り向くと、

[127]さっきとは別の看護師さんが駆け寄ってきた。

[128]【看護師】

[129]「これ、堺さんから、あなたに」

[130]メモ用紙を渡された。

[131]開いてみると、

[132]数字とアルファベットの羅列。

[133]これ……!

[134]堺さんのケータイの電話番号と

[135]メールアドレスだ!

[136]【かおり】

[137]「あ、ありがとうございます!!」

[138]【看護師】

[139]「たしかに渡したわよ?」

[140]階段を駆け下りていく看護師さんに頭を下げて、

[141]わたしは手の中のメモをくしゃくしゃにならないよう

[142]そっとポケットに入れた。

[143]【かおり】

[144]「うふふ」

[145]やっぱり自分が白衣を着て

[146]看護師として仕事をするのはいいな。

[147]……見慣れた患者さんの顔の中に

[148]堺さんの顔がないのが残念だけど、

[149]そのさみしさにもちょっと慣れてきた。

[150]だって、だって!!

[151]実はわたし、

[152]毎晩、堺さんとメールしてるんだもん!

[153]堺さんのメールは堺さんらしく素っ気なくて、

[154]でも、時々、感情が溢れたような

[155]長文メールの時もあるの。

[156]これがわたしの毎晩の楽しみ!

[157]ああ、早く夜にならないかな〜!

[158]【かおり】

[159]「い……ったぁ〜!」

[160]誰かがわたしの背中を叩いた。

[161]また山之内さんかと思って、

[162]文句言ってやろうと振り向いたら……。

[163]【なぎさ】

[164]「今頃、堺さんも頑張っているんでしょう?

[165] 沢井も頑張らなきゃダメでしょ!」

[166]そこに立っていたのは、なぎさ先輩だった。

[167]ちょっと怒った顔をしている。

[168]【なぎさ】

[169]「仕事中にぼんやりしてる沢井なんて、

[170] 沢井らしくないよ!

[171] しゃっきりしなさい!」

[172]【かおり】

[173]「なぎさ先輩……」

[174]【なぎさ】

[175]「沢井はウザいくらいに熱血じゃないと!」

[176]は?

[177]わたしって、いつ熱血キャラになったの!?

[178]もしかしたら、なぎさ先輩には

[179]わたしが熱血に見えていたのかな?

[180]……それって、ちょっと微妙。

[181]微妙だけど……、

[182]熱苦しいくらいに仕事熱心って思ってもらえてた

[183]……って考えると、喜ぶべきことなのかも。

[184]【かおり】

[185]「そうですね!

[186] わたし、堺さんに負けてられませんよね!」

[187]【なぎさ】

[188]「そうよ、その調子!」

[189]なぎさ先輩と笑い合った。

[190]【やすこ】

[191]「先輩、わたし、先輩のことが大好きで

[192] 仕事に身が入らないんです!!」

[193]【やすこ】

[194]「あたしもよ、沢井。

[195] 沢井のことが好きすぎて

[196] つい強く叩いてしまうの」

[197]【なぎさ】

[198]「ちょっ!?

[199] なに言ってんですか!!」

[200]【やすこ】

[201]「ああ、なぎさ先輩、

[202] わたしをもっと叩いてください」

[203]【かおり】

[204]「えええええーーー!?」

[205]【やすこ】

[206]「わかったわ、沢井。

[207] 歯を食いしばれ、ビシィッ!!」

[208]【なぎさ】

[209]「やめてー!

[210] あたしも沢井も、

[211] そんなヘンタイじゃないー!」

[212]【はつみ】

[213]「……あなたたちの趣味嗜好はどうでもいいから

[214] ちゃんと仕事しなさい……」

[215]気持ちのいい風が吹いている。

[216]ゆっくりとあみちゃんが振り向いた。

[217]【あみ】

[218]「まるで逢い引きみたいですね、

[219] わたしたち」

[220]そういえば、まだ堺さんがいた頃の夜勤で

[221]堺さんと屋上にいたら

[222]山之内さんやなぎさ先輩に

[223]『逢い引き』って言われたんだっけ。

[224]【かおり】

[225]「……この場所に来ると、堺さんを思い出すの。

[226] 屋上では彼女、素直な表情を見せてくれてたから」

[227]【あみ】

[228]「……かおりんさんたら、さゆりんのことばっか。

[229] もう、やんなっちゃう!」

[230]あみちゃんは、プンプンと

[231]可愛く怒っている。

[232]【あみ】

[233]「わたしもさゆりんみたいに、

[234] 人に嫌われるのを恐れないで、

[235] 本音でぶつかっていけば良かったのかなぁ?」

[236]【かおり】

[237]「でも……人に嫌われるのは怖いよね。

[238] わたしは……、わたしには

[239] 堺さんみたいな言動は怖くてできないよ」

[240]【あみ】

[241]「うん……。

[242] 普通はできないですよね」

[243]【かおり】

[244]「そう考えると、

[245] 堺さんって強いなぁ……」

[246]【あみ】

[247]「もー、またさゆりんのことばっか!」

[248]ポカポカとあみちゃんに叩かれた。

[249]もちろん、全然痛くない。

[250]こみ上げてくる楽しい気持ちのままに、

[251]わたしは笑い声を上げた。

[252]【かおり】

[253]「あはは、あみちゃんったらぁ!」

[254]【あみ】

[255]「もう! かおりんさんが

[256] さゆりんのこと大好きなのはわかったから!

[257] のろけるのも自重してください!」

[258]のろけているわけじゃないんだけどなぁ。

[259]でも……。

[260]のろけ、かぁ。

[261]わたしは小さく笑った。

[262]そうか……わたし、

[263]堺さんのことが好きなんだ……。

[264]恋を自覚しただけで

[265]胸の中にあたたかいものが生まれた。

[266]そんな気がした。

[267]【あみ】

[268]「もう!! またそんな顔して!!

[269] いっつもそんな顔してるんでしょ!!

[270] なぎさんが可哀想!!」

[271]【かおり】

[272]「へ?

[273] なんでここでなぎさ先輩の名前が出るの?」

[274]【あみ】

[275]「んもー、ニブチン!!

[276] かおりんさんなんか知らないっ!」

[277]ぷりぷり怒りながら、あみちゃんが立ち去った。

[278]【かおり】

[279]「……??」

[280]どうして怒ってるんだろう、あみちゃん。

[281]でも……あみちゃんは怒ってる様子も可愛いなぁ、

[282]ああいう風に可愛く怒れるなんて

[283]うらやましいなぁ。

[284]           あ……。

[285]        ……また……夢の中。

[286]      目の前には無表情の女の子。

[287]   わたしは女の子と向き合って立っている。

[288]   女の子の雰囲気は

[289]   どことなく堺さんに似ている気がした。

[290]【かおり】

[291]「あなたは……堺さん……?」

[292]おそるおそる訊ねてみる。

[293]女の子は無表情のまま。

[294]【???】

[295]「わたしは、あなた。

[296] あなたの中のわたし。

[297] ……でも、あなたよりはむしろ、あの子に似てる」

[298]え……?

[299]【???】

[300]「愛してほしくて。

[301] でも、愛されなくて、

[302] 心の底で泣いているの」

[303]【かおり】

[304]「…………」

[305]【???】

[306]「わたしは今までずっと頑張ってきた。

[307] 大好きな人たちに幸せになってほしくて

[308] ずっと頑張ってきたの」

[309]【???】

[310]「でも、わたしの想いは誰にも伝わらない……。

[311] 叫ぶこともできなくて、

[312] ここで……ずっとひとりぼっち」

[313]無表情のまま、

[314]女の子がポロリと涙をこぼす。

[315]この子が誰なのか、わたしにはわからない。

[316]けれど、この子が感じている孤独は本物だ。

[317]それだけはわかる。

[318]【かおり】

[319]「辛かったね……」

[320]無表情で泣く女の子を、そっと抱きしめた。

[321]何かが……、

[322]心をざわつかせるような何かが

[323]女の子から流れ込んでくる。

[324]         『大好き!』

[325]      『かおりちゃん、大好き!』

[326]  『泣かないで、お姉ちゃん、

[327]   わたしはかおりちゃんの中で、

[328]   かおりちゃんのために生きているから!』

[329]ハッと顔を上げた。

[330]女の子の顔をしっかりと見る。

[331]……どこかで見たことのある顔。

[332]【かおり】

[333]「あなたは……誰なの?」

[334]【???】

[335]「わたしは――」

[336]幼い頃の自分に似てない、わたしじゃない誰かの……。

[337]【かおり】

[338]「…………っ!!」

[339]思わず飛び起きた。

[340]あの女の子は、一体、誰なの!?

[341]今日の夢で、

[342]女の子の謎がまた深まったような気がする。

[343]それにしても……。

[344]【かおり】

[345]「うわ、汗びっしょり。

[346] シャワーでも浴びてこようかな」

[347]ベッドから降りて、

[348]シャワーへ行こうとした時、

[349]ケータイの着信ランプが

[350]パカパカ点滅してるのに気づいた。

[351]【かおり】

[352]「……メール」

[353]【さゆり】

[354]『浅田さんから連絡をもらいました。

[355] 恥ずかしいから、第三者の前で

[356] のろけるのはやめてください』

[357]【かおり】

[358]「…………」

[359]相変わらずの素っ気ない堺さんらしいメール。

[360]けれど、このメールを打ちながら、

[361]堺さんはどんな顔をしてたんだろう?

[362]その前に

[363]あみちゃんから話を聞いた時に、

[364]どんな顔をしてたんだろう?

[365]そう考えると、

[366]愉快な気持ちになっちゃうよね。

[367]時計を見ると、朝の五時。

[368]予約送信でメールを打つ。

[369]【かおり】

[370]「ええと、『のろけたつもりはないけど、

[371] 顔に出ちゃうみたい。だって、

[372] 大好きな気持ちは抑えられないから』。送信!」

[373]さて。

[374]このメールを受け取って

[375]読んだ堺さんはどんな顔をするのかな。

[376]また、真っ赤になってくれるかな。

[377]逆切れメールが送られてきたりして。

[378]なーんてね、ふふ。

white_robe_love_syndrome/scr00905.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)