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white_robe_love_syndrome:scr00902

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[001]         また、だ……。

[002]         また夢の中……。

[003]     昔から見ている夢に似てる夢……。

[004]      この夢には、一体、

[005]      どんな意味があるんだろう?

[006]【かおり】

[007]「ひゃっ!?」

[008]ドン、と後ろから

[009]誰かがぶつかってきた。

[010]あどけない笑い声が周囲に満ちる。

[011]【???】

[012]「大好き!」

[013]見ると、わたしの腰に女の子が抱きついて、

[014]あの花が咲き乱れるような笑顔を向けてくれていた。

[015]【???】

[016]「驚いた?

[017] ねぇ、驚いた?

[018] へへ〜、いたずらしちゃった」

[019]【かおり】

[020]「もー」

[021]抱きついていた女の子の小さな身体を

[022]ぎゅっと抱きしめる。

[023]この子が誰なのか、とか

[024]なぜ、こんな夢を見るのか、とか、

[025]疑問は残ってるけれど。

[026]でも、この子がわたしに向けてくれる、

[027]曇りのない笑顔が嬉しい。

[028]素直にぶつけられる好意に、心が軽くなる。

[029]【???】

[030]「わたしのこと、嫌いにならない?

[031] 見捨てたりしない?」

[032]あれ?

[033]以前もこんなこと言ってたっけ……?

[034]何かあったのかな?

[035]【かおり】

[036]「大丈夫、

[037] 嫌いになんかならないよ」

[038]女の子はニコッと笑った。

[039]そしてまたフッと消える。

[040]【かおり】

[041]「……え……」

[042]――誰もいない、何も聞こえない、空間。

[043]広い空間に取り残されて、

[044]どんどんと不安になる。

[045]【かおり】

[046]「ねぇ……ねぇ!?」

[047]呼びかけようとして、

[048]わたしはあの子の名前を知らないことに

[049]初めて気がついた。

[050]     遠くから聞こえてくるのは……

[051]     救急車のサイレン?

[052]     そのサイレンが近づいてくる……。

[053]      ……どんどん、近づいて……。

[054]【かおり】

[055]「!!」

[056]ガバッと飛び起きた。

[057]【かおり】

[058]「はぁ……、はぁ……」

[059]こ、ここは……、わたしの部屋……?

[060]やっぱり、あれは夢だった。

[061]    「わたしのこと、嫌いにならない?

[062]     見捨てたりしない?」

[063]頭の中に残ってる、

[064]夢の中の女の子が言ってた言葉。

[065]嫌いにならないでほしい、

[066]見捨てられたくない。

[067]【かおり】

[068]「…………」

[069]……うん、

[070]わかるよ、その気持ち。

[071]だって、わたしも

[072]ずっとそう思ってたから。

[073]ううん、今でもそう思ってるから。

[074]わたしは昔、

[075]生死の境をさまようほどの交通事故に遭ったけれど、

[076]今はこうして生きてる。

[077]事故のことはあまり、というか、ほとんど覚えてない。

[078]即死しててもおかしくない

[079]すごく大変な事故だったんだって。

[080]だから、

[081]その事故から生還できたわたしは

[082]ものすごく運がいいんだって、

[083]後でたくさんの人に言われた。

[084]でも、わたしは覚えてないの。

[085]なぜ、わたしが車にはねられたのか、

[086]はねられる前に何があったのか、

[087]事故に関することは何一つ思い出せない。

[088]思い出そうとすると頭が痛くなったり、

[089]気分が悪くなったりするし、

[090]「無理に思い出さなくてもいいよ」って

[091]診察してくれた先生も言ってくれた……。

[092]先生は『事故のショックによる逆行性健忘症』だと

[093]診断したのだけれど。

[094]でも、黙っていたけど、

[095]事故の後のことについても

[096]ところどころ思い出せないところもあるの。

[097]覚えているのは、

[098]両親や妹に迷惑をかけたくなくて、

[099]辛いリハビリを頑張ったことくらい。

[100]これ以上の心配をかけたくないから、

[101]事故の後の出来事に対する記憶障害

[102]――前行性健忘症について、

[103]わたしは誰にも言えなかった……。

[104]療養のため、小学校にはほとんど行けず、

[105]おかげで、中学校に入学した後、

[106]授業に全然ついていけなかった。

[107]それでも、心配をかけたくなくて、

[108]笑顔で中学校へ行き、

[109]平気な顔をして、友達と遊んだんだっけ。

[110]遊びから帰ってきてから、

[111]夜遅くまで小学校の勉強を復習して、

[112]何とか授業に追いついて、同級生たちと一緒に

[113]高校受験ができるまでになったの。

[114]だって

[115]一緒に高校受験ができないようなバカな子、

[116]きっと友達に見捨てられちゃうから。

[117]それに、お父さんやお母さんに

[118]バカな子だと思われたくないし、

[119]妹だって、バカなお姉ちゃんなんて

[120]恥ずかしいだろうしね。

[121]そう、

[122]わたしもあの子と同じ。

[123]好きな人に嫌われたくない、

[124]見捨てられたくない一心で、

[125]わたしは必死に頑張って生きてきた。

[126]今だって、そう。

[127]今はまだ未熟な新人だから

[128]満足な仕事ができてないけど、

[129]それでも同僚に迷惑をかけないように頑張ってる。

[130]癒しの手、なんてウワサもあるけれど、

[131]そんなわけのわからないものに頼らなくても、

[132]わたしは一人前の看護師になる!

[133]なれるはず!

[134]自分でもわかってるの。

[135]わたしの全ての原動力は、嫌われたくない、

[136]見捨てられたくないという心だって。

[137]あの女の子に何があって

[138]わたしと似たトラウマを抱えてるのかはわからない。

[139]けれど、あの子より

[140]わたしの方がお姉さんな分、

[141]小さなあの女の子の支えになってあげたい。

[142]支えに……なってあげられたら、いいな。

[143]いつもと同じ朝の風景。

[144]夜勤さんが患者さんの夜間の様子を伝え、

[145]それを日勤さんがメモしていく。

[146]そんないつもの朝の申し送りは、

[147]予想を裏切って、主任さんの言葉で

[148]いつもと違う風景になった。

[149]【はつみ】

[150]「夜勤さん、お疲れ様でした。

[151] けれど、朝の申し送りを終わる前に

[152] みなさんに報告があります」

[153]【はつみ】

[154]「昨日出た検査結果で

[155] 堺さんの白血球値が上がったのは

[156] みなさん、知っていると思います」

[157]え……。

[158]わたし、知らなかった。

[159]担当を外れたからって

[160]チェックしてなかっただけなんだけど……。

[161]わたしの顔色を見て、

[162]山之内さんが手を挙げた。

[163]【やすこ】

[164]「はーい!

[165] 沢井さん以外は

[166] みなさん知っていると思いまーす」

[167]バイトの看護師さんや

[168]夜勤さんがクスクスと笑う。

[169]主任さんがチラッとわたしを見て、

[170]小さくため息をついた。

[171]もう、山之内さんったら

[172]わざわざそんなこと言わなくていいのに!!

[173]【はつみ】

[174]「ドクターを交え、

[175] 師長とも協議したのですが……」

[176]【はつみ】

[177]「沢井さんを

[178] 堺さんの担当に戻すことにしました」

[179]【かおり】

[180]「え……?」

[181]一瞬、耳を疑った。

[182]わたしを、堺さんの担当に戻す……?

[183]【やすこ】

[184]「良かったな!」

[185]山之内さんに背中を叩かれて

[186]ハッと我に返った。

[187]ううっ、痛い……。

[188]【かおり】

[189]「い、痛いです〜」

[190]【はつみ】

[191]「……担当を外れたからと気を抜いて

[192] 患者さんの検査値チェックを怠るようでは

[193] 先が思いやられるけれど」

[194]【やすこ】

[195]「まぁまぁ、主任。

[196] この子もヘンなところで遠慮して

[197] カルテ見たらアカンとでも思たんでしょー」

[198]……山之内さんが

[199]わたしのフォローをしてくれた……。

[200]う、嬉しい。

[201]【なぎさ】

[202]「もー! 山之内さんは、面倒な患者さんを

[203] 沢井に押し付けることができるから

[204] 喜んでるだけでしょ!」

[205]え……?

[206]【やすこ】

[207]「いややわー、藤沢!

[208] うちはそんなん全然思うてへんよ?」

[209]【やすこ】

[210]「沢井はリベンジできる、うちは受け持ちから

[211] 面倒……ゲフン、クセの強い患者さんが

[212] ひとり減って、負担が軽くなる」

[213]【やすこ】

[214]「んで、他のややこし……じゃなくて、

[215] ケア山盛りの患者さんたちに集中できる。

[216] めでたいことやんなぁ」

[217]【なぎさ】

[218]「もー!

[219] また上手いことばかり言って!」

[220]……なるほど、

[221]そういうことなのね。

[222]でも、これはこれで、

[223]わたしにとっては嬉しいこと、なんだよね。

[224]だって、また堺さんの担当に戻れるんだから!

[225]【はつみ】

[226]「……沢井さん」

[227]静かな声で主任さんに名前を呼ばれた。

[228]【はつみ】

[229]「あなたの気持ちはどうなの?

[230] 堺さんの担当に戻る気はあるの?」

[231]心の中を見透かすような、目。

[232]一瞬、考える。

[233]強がった堺さんの顔が目に浮かんだ。

[234]担当に戻れるならまた戻りたい……。

[235]担当に戻ったところで

[236]わたしに何ができるかわからないけど。

[237]でも、堺さんのあの凍った心を溶かしてあげたい。

[238]そんなに強がらなくてもいいんだよって

[239]そう言って、安心させてあげたい。

[240]【かおり】

[241]「正直言って、自信はありません。

[242] けど、頑張りたいです、

[243] 頑張りますっ!」

[244]【はつみ】

[245]「そう。

[246] 前向きな意見が聞けて嬉しいわ」

[247]あ、主任さんが

[248]にっこり微笑んでくれた。

[249]【はつみ】

[250]「では、今日から

[251] 堺さんの担当に復帰してください」

[252]【かおり】

[253]「ええっ!?

[254] 今日からですか!?」

[255]【はつみ】

[256]「明日に延ばしたところで意味はないでしょう?

[257] どのみち、やることは同じ。

[258] どうせ担当に戻るのなら、早い方がいいわ」

[259]え、そういう問題ですか!?

[260]【はつみ】

[261]「では、そういうわけで

[262] 堺さんの担当は

[263] 山之内さんから沢井さんに変更です」

[264]【はつみ】

[265]「また、堺さんのデータ向上に伴い、

[266] 安静度もアップとなります。

[267] 山之内さん……」

[268]【やすこ】

[269]「わーってますって。

[270] あみちゃんに、さゆりんの部屋に行ってもええで、て

[271] 言えばええんやろ?」

[272]【はつみ】

[273]「あみちゃん、ではなく、浅田さん、ね。

[274] ただ、あまり疲れさせないようにしてくださいね」

[275]【やすこ】

[276]「ま、うちが言いに行かんでも、

[277] あのふたりやったら、トイレで遭遇! とか

[278] いろいろあるやろうけどな」

[279]【はつみ】

[280]「それならそれで結構です。

[281] では、夜勤さん、お疲れ様でした。

[282] 日勤さん、よろしくお願いします」

[283]【看護師A】

[284]「はい、お疲れ様でした。

[285] お先に失礼します」

[286]【看護師B】

[287]「じゃあね、沢井さん。

[288] ガ・ン・バ・レ!」

[289]すれ違いざまに、わたしの肩を叩いて

[290]夜勤さんが帰っていく。

[291]えっと……。

[292]わたし、何したらいいんだっけ?

[293]【やすこ】

[294]「おむつ交換や点滴とかは

[295] うちと藤沢でやっとくから、

[296] あんたは記録読んで、予習復習な」

[297]あ、そうか。

[298]担当から外れてた期間の記録を読んで、

[299]堺さんの様子をしっかりと頭に

[300]叩き込んでおかなきゃいけないよね。

[301]【なぎさ】

[302]「さ…沢井……って、ちょっと!

[303] 山之内さんっ!

[304] 引っ張らないでくださいっ!」

[305]【やすこ】

[306]「ほらほら、藤沢!

[307] 患者さんのおむつが待っとるでー?」

[308]【なぎさ】

[309]「ちょ、山之内さん!

[310] 引っ張らな……、んもー!

[311] もーもー!!」

[312]【やすこ】

[313]「うっさい、ウシ沢!

[314] モーモー言うな」

[315]【なぎさ】

[316]「ウシじゃないもん!

[317] もー!」

[318]なぎさ先輩が山之内さんに引きずられるように

[319]詰所から出て行った。

[320]……おっと!

[321]ぼんやりしてる場合じゃない、

[322]堺さんの記録をちゃんと読まないと!

[323]【はつみ】

[324]「……賑やかですこと」

[325]深呼吸を二回。

[326]【かおり】

[327]「すー、はー……、

[328] すぅ〜〜、はぁぁ〜〜……」

[329]うう、久しぶりに会うから

[330]どうしても緊張しちゃう!

[331]交換用の点滴ボトルも持った、

[332]点滴用の物品も持った、

[333]白衣の乱れもナシ、

[334]寝癖も大丈夫!

[335]よし!

[336]【さゆり】

[337]「どうぞ」

[338]【かおり】

[339]「て、点滴の交換にやってきまし、た〜」

[340]【さゆり】

[341]「…………」

[342]久しぶりの堺さん。

[343]ちょっと痩せた……かな?

[344]そして、表情は、といえば、

[345]相変わらず不機嫌そう。

[346]【かおり】

[347]「えと……、わたし、

[348] また堺さんの担当に戻りました。

[349] その……よろしくお願いします」

[350]ぺこりと頭を下げる。

[351]【かおり】

[352]「じゃ、じゃあ、点滴の交換

[353] しちゃって、いいかな……?」

[354]【さゆり】

[355]「…………」

[356]ああ、堺さんが

[357]無言でわたしを凝視してる……。

[358]視線が痛いよ。

[359]せめて何かしゃべって、お願い〜!

[360]【さゆり】

[361]「……相変わらずですね」

[362]【かおり】

[363]「ほぇ?

[364] なにが?」

[365]【さゆり】

[366]「自信のなさそうな顔。

[367] わたし、あなたのそんな表情、大嫌い」

[368]う。

[369]キタよ、堺さんの攻撃ならぬ口撃が!

[370]【さゆり】

[371]「そんな自信なさげな顔をしていると、

[372] 患者さんが不安になると思わないんですか。

[373] ハッタリくらいきかせれば? プロなんでしょ」

[374]ああ、この口調!

[375]相変わらずの堺さん節だなぁ。

[376]【かおり】

[377]「うん、そうね、そうだよね」

[378]懐かしさにジーンときた。

[379]多少、痩せたくらいじゃ変わらない、

[380]堺さんは堺さん、なんだよね!

[381]全然変わらないでいてくれたことに、

[382]嬉しくなってくる。

[383]【さゆり】

[384]「何、ニヤニヤしてるんですか、

[385] あなた、ドMですか」

[386]どうやらわたしは

[387]ニヤニヤしてたらしい。

[388]やだな、恥ずかしい……。

[389]恥ずかしいけど……、

[390]堺さんを前にしてニヤニヤしてたなんて

[391]ちょっとおかしいよね。

[392]【かおり】

[393]「え、えへへ……」

[394]【さゆり】

[395]「なに笑ってるんですか。

[396] キモチワルイです。

[397] わけがわかりません」

[398]堺さんが

[399]ふいっと顔を背けた。

[400]でも、わたし、見ちゃったの。

[401]怒ったような顔をした堺さんの、

[402]その頬がほんのりと赤い。

[403]もしかして、堺さん……照れてる?

[404]だとしたら、ちょっと嬉しいな。

[405]【かおり】

[406]「戻りました〜!」

[407]詰所に戻ってすぐ、

[408]心配そうな顔をしたなぎさ先輩が

[409]駆け寄ってきた。

[410]【なぎさ】

[411]「あ、沢井!

[412] 大丈夫だった!?

[413] いじめられなかった!?」

[414]【かおり】

[415]「やだなー、なぎさ先輩、大げさですよ。

[416] それより、おむつ交換と点滴回り、

[417] ありがとうございました!」

[418]ぺこりと頭を下げる。

[419]それでもなぎさ先輩の心配そうな顔は

[420]相変わらずだ。

[421]うーん、

[422]ずいぶん心配かけちゃってたんだな、わたし。

[423]【やすこ】

[424]「なんやなんや、ニヤニヤしよって。

[425] で、ワガママ娘は相変わらずか?」

[426]山之内さんに肘でつつかれ、

[427]わたしは大きくうなずいた。

[428]【かおり】

[429]「はい、

[430] わたしの自信なさげな様子が

[431] 嫌いだと言われました」

[432]【やすこ】

[433]「嫌い言われて、なにを嬉しそうに……」

[434]【かおり】

[435]「何故かはわかりません。

[436] でも、嬉しいなって思うんです」

[437]【やすこ】

[438]「このドMが」

[439]【かおり】

[440]「それ、堺さんにも言われました。

[441] わたし、ドMなのかな?」

[442]【やすこ】

[443]「うわ、しかも天然、や。

[444] ある意味、最強かもな」

[445]【なぎさ】

[446]「……もう……」

[447]コツコツと机をノックするような音がして

[448]ふと振り返る。

[449]怒鳴るべきか、会話に混じろうか、

[450]思い切り迷ってます、といった

[451]複雑な表情の主任さんがいた。

[452]【はつみ】

[453]「……あなたたち、

[454] 情報交換はその辺にして

[455] 仕事をしてくれないかしら?」

[456]【さゆり】

[457]「はい、どうぞ」

[458]中に入ると

[459]堺さんが驚いたような顔で、

[460]慌てて何かを布団の中に隠した。

[461]【さゆり】

[462]「……な、何しにきたんですか。

[463] 点滴交換の時間にはまだ早いでしょう?」

[464]言ったきり、

[465]わたしから顔を背けている。

[466]その頬がまた赤くなっている。

[467]ごくりと堺さんが息を呑んだ。

[468]……怪しい。

[469]布団に隠した瞬間に

[470]わずかに見えたものは……本?

[471]【かおり】

[472]「今、なに読んでたの?」

[473]【さゆり】

[474]「あなたには関係ありません!」

[475]強い拒絶にあった。

[476]そんなに強く言われちゃうと

[477]気になるよね。

[478]【かおり】

[479]「ねぇ、なに読んでたの?」

[480]【さゆり】

[481]「な、何だっていいでしょう!?」

[482]怒鳴るように言って、

[483]わたしを正面から睨みつけている。

[484]珍しく、今回は

[485]イニシアチブはわたしにある。

[486]それだけなのに、

[487]こんなに心に余裕が生まれるなんて。

[488]【かおり】

[489]「ほらほら、怒鳴っちゃダメよ、

[490] 血圧上がるから」

[491]【さゆり】

[492]「あなたが怒鳴らせているのよ!」

[493]また怒鳴る。

[494]押してもだめなら引いてみな。

[495]堺さんは押されると、その分、

[496]同じだけ反発するようだから、

[497]ここはちょっと引いてみようかな。

[498]【かおり】

[499]「……だって、わたし、

[500] 堺さんのこと、もっと知りたいし」

[501]【さゆり】

[502]「…………」

[503]あ、いい反応!?

[504]【かおり】

[505]「点滴の時間じゃないのにここに来たのは、

[506] 堺さんとお話したかったから」

[507]【さゆり】

[508]「…………」

[509]【かおり】

[510]「読書の邪魔しちゃったかもだけど、

[511] わたし、堺さんのこと知りたいから……」

[512]【さゆり】

[513]「お友達ごっこなら、他の人とやってください。

[514] ほら、あの、人に変なあだ名をつける子とか、

[515] 院内には適任者がたくさんいるでしょう?」

[516]【かおり】

[517]「他の人、じゃなくて、

[518] わたしは堺さんとお友達になりたいの」

[519]【かおり】

[520]「最初はお友達ごっこでも、

[521] 最終的にはお友達になれたら嬉しいな」

[522]【さゆり】

[523]「…………」

[524]堺さんが、ぽかんとしてる。

[525]わたし、そんなにヘンなこと

[526]言ったのかな?

[527]【さゆり】

[528]「……どうして、ですか?」

[529]【かおり】

[530]「どうして、って……」

[531]堺さんに問われて、改めて考える。

[532]正直言うと、看護師と患者の関係よりも、

[533]友達になった方がイロイロ都合がいい。

[534]ただ、ケアの方法として

[535]そんなやり方は間違ってるんだってことは

[536]わたしだって、わかってる。

[537]ちゃんとした看護師なら、

[538]そんな風に、患者さんの友情を

[539]アテになんかしない。

[540]看護師と患者という関係性を保ったまま、

[541]患者さんに万全のケアを提供する、

[542]それがプロの仕事というもの。

[543]そんなことはわかってる。

[544]けれど、堺さんの心を開かせるには、

[545]友達になることが一番の近道だということも

[546]またわかってきたことだった。

[547]堺さんに残された時間は

[548]無尽蔵じゃない。

[549]なるべく早く堺さんの心を開いて、

[550]早く治療に……生きることに

[551]前向きになってもらわないといけない。

[552]……さて、

[553]どう言えばいいんだろう?

[554]どう言えば、堺さんの気分を害することなく

[555]わたしの気持ちを伝えられるだろう?

[556]友達になった方が都合がいいから

[557]友達になりたいから

[558]どんなに言い繕ったって、

[559]きっと堺さんにはバレちゃうよね。

[560]だったら、直球勝負よ!

[561]【かおり】

[562]「だって……、

[563] 友達になった方が都合がいいじゃない?」

[564]堺さんはポカンと口を開けて……。

[565]【さゆり】

[566]「……プッ、

[567] ククク……、あははははっ!」

[568]大笑いした。

[569]わたしは戸惑ってしまって、

[570]おろおろとしてしまう。

[571]【かおり】

[572]「え……?

[573] ちょ……、ええっと……??」

[574]【さゆり】

[575]「何でも馬鹿正直に言えばいいって

[576] もんじゃないですよ」

[577]【さゆり】

[578]「本音はオブラートに包んだ方が

[579] 何かと便利です。

[580] これは覚えておいた方がいいです」

[581]笑いながら、堺さんが

[582]布団をめくってくれた。

[583]さっき、慌てて隠した本が

[584]太ももの上に乗っている。

[585]【さゆり】

[586]「笑わせてくれたお礼、です」

[587]【かおり】

[588]「極楽バナナ……」

[589]差し出された本を手に取る。

[590]パラパラとめくると

[591]それはギャグ漫画だった。

[592]しかもブラックジョーク系。

[593]【さゆり】

[594]「それ、実は三冊目なの。

[595] 一冊目は置き引きにあって、

[596] 二冊目は親に捨てられて」

[597]【さゆり】

[598]「うちの親、漫画とか大嫌いだから、

[599] 何でも勝手に捨てるんです。

[600] 絶版になった本は探すのが大変なのに」

[601]【かおり】

[602]「そうなんだ……」

[603]それでも、探して、買って、

[604]こうして入院先まで持ってくるんだもん、

[605]よっぽど、このマンガが好きなのね、堺さん。

[606]ふと見ると、

[607]また堺さんが頬を染めている。

[608]【さゆり】

[609]「……似合わない、って

[610] 思ってるんでしょう?」

[611]【かおり】

[612]「そんなことないよ。

[613] 親しみやすくなった、とは思ってるけど」

[614]堺さんは、今度は耳まで真っ赤になって

[615]またプイッとそっぽを向いた。

[616]【かおり】

[617]「……堺さんと友達になりたいから」

[618]深呼吸をして、

[619]堺さんの目を見て言う。

[620]ウソは言ってない。

[621]堺さんと友達になりたいという気持ちは

[622]ウソじゃない。

[623]【さゆり】

[624]「……そう。

[625] でも、わたしは入院先スタッフと

[626] お友達ごっこをするつもりはありませんから」

[627]堺さんはプイッと横を向いた。

[628]その途端……。

[629]バサッと、床の上に本が落ちた。

[630]【さゆり】

[631]「あ……」

[632]【かおり】

[633]「……あ……」

[634]落ちた本を拾って、タイトルを確認する。

[635]【かおり】

[636]「『極楽バナナ』……?

[637] 見ていい?」

[638]【さゆり】

[639]「…………」

[640]返事がなかったので、

[641]パラパラとページをめくってみた。

[642]ギャグ漫画。

[643]しかもブラックジョーク系。

[644]堺さんが、ギャグ漫画……?

[645]ちょっとギャップが……。

[646]【さゆり】

[647]「もういいでしょ!」

[648]漫画本は、真っ赤になった堺さんに

[649]取り上げられてしまった。

[650]もっと見たかったのに……残念。

[651]【かおり】

[652]「……ってことがあったんですよ、

[653] なぎさ先輩」

[654]堺さんの病室でのマンガ事件を

[655]なぎさ先輩に話してみた。

[656]テーブルの上には、

[657]ビールの缶と、おつまみが数種類。

[658]やっぱり見慣れた光景は安心するなぁ。

[659]【なぎさ】

[660]「入院生活もストレス溜まるもんねぇ。

[661] それにしても、ギャグ漫画……。

[662] あの堺さんが、ねぇ……ふーん」

[663]【なぎさ】

[664]「沢井をいじめるだけじゃ

[665] ストレス発散にはならないってことかしら?」

[666]【かおり】

[667]「えー、酷いですー」

[668]【なぎさ】

[669]「ま、それはともかく、

[670] 身体だけでなく、心もしっかり

[671] ケアしてあげるのよ?」

[672]【なぎさ】

[673]「せっかく担当に戻れたんだから、

[674] 後で後悔することがないように。

[675] あたしもサポートするから。ね?」

[676]【かおり】

[677]「はい!」

[678]優しいなぁ、なぎさ先輩。

[679]【かおり】

[680]「頑張りますっ!」

[681]【なぎさ】

[682]「よしよし、いい返事ね。

[683] はい、スルメあげる!」

[684]【かおり】

[685]「わーい!」

[686]夕方に出勤するのって、

[687]なんだか変な感じ。

[688]そう!

[689]今日は久しぶりの夜勤!

[690]そして、今回の夜勤メンバーは

[691]プリセプターのなぎさ先輩と、

[692]なぎさ先輩のペアとしての山之内さん。

[693]【かおり】

[694]「今夜、よろしくお願いします」

[695]【なぎさ】

[696]「もう、そんなに

[697] かしこまらなくてもいいのに……」

[698]【かおり】

[699]「でも、親しき仲にも礼儀あり、ですから!」

[700]【やすこ】

[701]「せやね。

[702] こちらこそよろしゅう〜。

[703] あ、ちなみに、うちはスパルタで行くで!」

[704]【かおり】

[705]「ばっちこいですよ!

[706] これ、見てください!」

[707]カバンの中からノートを取り出した。

[708]表紙には夜勤ノートって書いたノート。

[709]【かおり】

[710]「前回の夜勤の後で、

[711] ここはポイントだなって思ったとこを

[712] 思い出しながら書き出してみました!」

[713]【なぎさ】

[714]「へぇ、見せて?」

[715]なぎさ先輩に、はい、と見せる。

[716]なぎさ先輩の横から

[717]山之内さんも覗き込んでいる。

[718]【やすこ】

[719]「ほほー、沢井なりの視点で、

[720] 夜勤でのポイントが書かれてあって面白いな」

[721]【なぎさ】

[722]「……これ書くの、

[723] 大変だったんじゃないの?」

[724]心配そうななぎさ先輩。

[725]そんななぎさ先輩を安心させるべく、

[726]わたしは笑顔で、ゆっくりと首を振った。

[727]【かおり】

[728]「大変じゃなかった、とは言いません。

[729] でも、なぎさ先輩に迷惑かけたし、わたし自身、

[730] 早く独り立ちしたいので、全然苦じゃないです」

[731]【なぎさ】

[732]「沢井……」

[733]【やすこ】

[734]「ひゅーひゅー!

[735] 看護師の鑑……は言いすぎやな。

[736] 新人看護師の鑑!!」

[737]【かおり】

[738]「はぁ、やっと消灯……」

[739]初めての夜勤じゃないので、

[740]さすがにもうパニックにはならなかったけど……。

[741]でも、時々、仕事に抜けがあって

[742]なぎさ先輩や山之内さんに

[743]フォローしてもらっちゃった。

[744]わたし、まだまだだなぁ。

[745]頑張ってるのに、上手くできないっ。

[746]【なぎさ】

[747]「お疲れ、沢井。

[748] 消灯までこぎつけたら、

[749] 夜勤の半分は終わったようなものよ」

[750]【かおり】

[751]「……そう、ですか……」

[752]【なぎさ】

[753]「ほら、へこんでないで。

[754] 気持ちを切り替える!

[755] これから山のような記録があるのよ?」

[756]【かおり】

[757]「はーい」

[758]そうだよね、

[759]へこんでる場合じゃないよね。

[760]記録、書かなきゃいけないんだもんね!

[761]【やすこ】

[762]「って、ホイ、記録終了。

[763] あんたらは?」

[764]【なぎさ】

[765]「相変わらず早いですねぇ、山之内さん」

[766]【やすこ】

[767]「ちんたらやったからって

[768] イイ記録が書けるわけやないやろ?

[769] チャチャッとできることはチャチャッとやる!」

[770]【やすこ】

[771]「それに、一人夜勤の病棟やったら、

[772] 記録を早く書き上げたら、その分、

[773] 休憩時間が延びるようなもんやからねぇ」

[774]なるほど……。

[775]【やすこ】

[776]「で、仮眠、どっちが入る?

[777] ……って、訊かんでもわかるか」

[778]【なぎさ】

[779]「はい、すみません……。

[780] あたし、記録がまだ終わってないから……」

[781]【やすこ】

[782]「さよか。

[783] ほな、先に入らせてもらうわ」

[784]え!?

[785]山之内さん、

[786]さっさと休憩室、行っちゃったよ!?

[787]【かおり】

[788]「仮眠って、零時からじゃなかったですか?」

[789]【なぎさ】

[790]「そうだけど?」

[791]不思議そうに言うなぎさ先輩。

[792]【かおり】

[793]「だって、まだ二十三時過ぎですよ!?」

[794]【なぎさ】

[795]「だって、山之内さん、記録終わったんだもん。

[796] 休憩室にいるけど、零時までは

[797] 何かあったら出てきてくれるからいいの」

[798]あ、なるほど。

[799]詰所の中にはいないけど、

[800]休憩室にいても、ちゃんと

[801]詰所にいるつもりでいてくれてるんだ。

[802]【なぎさ】

[803]「……それに、

[804] ここで内職されるの、ヤだし……」

[805]【かおり】

[806]「え?」

[807]【なぎさ】

[808]「うふふふ、何でもないのよー?」

[809]……内職?

[810]内職、って、もしかして……。

[811]一時。

[812]ラウンドの時間。

[813]暗いところが怖いので

[814]おっかなびっくりで各部屋を覗く。

[815]へっぴり腰になってるのが自分でも情けないけど、

[816]患者さんに見られることは少ないから

[817]別に平気だもんっ。

[818]それにしても、もう夜中だというのに、

[819]まだ起きてる患者さんもいる。

[820]静かにしてくれてるから

[821]別にいいんだけど。

[822]ちなみに、今回のラウンドは

[823]廊下のトイレを境目に、

[824]向こう側をなぎさ先輩が、こっち側をわたしが担当。

[825]つまり、わたしは

[826]301〜303の病室の患者さんが

[827]ちゃんと寝てるかをチェックするの。

[828]ただし、311号室の堺さんは

[829]わたしが担当になったからってことで、

[830]ラウンドのチェックもわたしが任されたの。

[831]【なぎさ】

[832]「お疲れ。

[833] そっち終わった?」

[834]【かおり】

[835]「はい、311号室以外は」

[836]【なぎさ】

[837]「じゃ、先に戻ってるから、

[838] 311、よろしくね」

[839]【かおり】

[840]「はい」

[841]そっと311のドアノブを握る。

[842]こそっとドアを開けて、

[843]堺さんがベッドの上にいることを確認して……。

[844]…………。

[845]――って、堺さん、いなくない!?

[846]【かおり】

[847]「さ、堺さん……っ?」

[848]一歩踏み込んで部屋の中に入る。

[849]けれど、やっぱり堺さんはいない。

[850]わたしが担当になった時点で、堺さんは

[851]安静度が上がって、病棟内フリーになったけど、

[852]ラウンドの時に部屋にいないのは困るよ!

[853]どこに行ったんだろう!?

[854]落ち着いて考える。

[855]冷静に、冷静に……。

[856]両手を合わせて、

[857]重ねた手を胸に包み込むようにして

[858]……深呼吸……。

[859]【かおり】

[860]「……あっ」

[861]ふと脳裏に

[862]屋上の風景が思い浮かんだ。

[863]確証はないけど、

[864]きっと堺さんは屋上にいる!

[865]【かおり】

[866]「さ、堺さ〜ん……?

[867] 堺さーん……、いますかー……あ!」

[868]いた!!

[869]良かった、ここにいてくれて!

[870]【かおり】

[871]「びっくりしちゃったよ、

[872] 急にいなくなってたから」

[873]空を見上げている堺さんの隣に立つ。

[874]堺さんはわたしを見ることなく、

[875]星を見上げたまま、ぼそっと呟いた。

[876]【さゆり】

[877]「……ごめんなさい」

[878]素直な謝罪の言葉に思わず驚いてしまった。

[879]【さゆり】

[880]「……無性に星が見たくなって……」

[881]驚いているわたしに気づいていないのか、

[882]堺さんは夜空に手を伸ばした。

[883]何をしてるんだろう……?

[884]【さゆり】

[885]「……焦がれても、焦がれても、

[886] 手に届かないものって、あるんですね」

[887]【さゆり】

[888]「努力をすれば願いは叶う。

[889] そう昔は信じていました」

[890]【さゆり】

[891]「でも現実は、努力したからといって

[892] 願いが叶うわけじゃないんですよね」

[893]淡々とつむがれる、声。

[894]叶わない願い……。

[895]堺さんは何を願ってたんだろう?

[896]何を願って、

[897]今までどんな努力を続けてきたんだろう?

[898]どういう気持ちで、

[899]努力をしても叶わない願いがあるだなんて

[900]言ったんだろう?

[901]【かおり】

[902]「そうね……。

[903] でも、わたしはこう思うよ、

[904] 『努力をしなければ、願いは叶わない』って」

[905]【さゆり】

[906]「…………」

[907]堺さんは黙ったまま、

[908]空へと向けて伸ばす手を下ろした。

[909]【かおり】

[910]「叶う、叶わない、それは結果じゃないかな。

[911] 何か叶えたい願いがあるなら努力をする。

[912] だって、努力する他に、やれることはないから」

[913]【さゆり】

[914]「…………」

[915]黙って星を見ている堺さん。

[916]わたしも星を見る。

[917]ここは、天の川がよく見えるのね。

[918]ああ、こんなことなら

[919]星座の勉強もしておくべきだったな。

[920]そうしたら、今、

[921]何か気の利いたことを話せたかもしれないのに。

[922]【さゆり】

[923]「くちゃん!」

[924]【かおり】

[925]「え?」

[926]もしかして、今の、くしゃみ!?

[927]可愛いくしゃみだったな。

[928]【かおり】

[929]「堺さん、部屋にもどろう?

[930] いくら安静度フリーになっても、風邪引いちゃ、

[931] また病室内安静に逆戻りしちゃうよ?」

[932]堺さんは小さくうなずいて

[933]わたしの促すまま、歩き始めた。

[934]堺さんを病室に帰して、詰所に戻ると、

[935]なぎさ先輩が心配そうな顔で待ってくれていた。

[936]仮眠中のはずの山之内さんも

[937]退屈そうに詰所の椅子に座っている。

[938]【なぎさ】

[939]「あ、戻ってきた!

[940] あたしたち、沢井が戻ってこないから

[941] すごく心配してたのよ?」

[942]【かおり】

[943]「すみません、なぎさ先輩……」

[944]【やすこ】

[945]「逢い引きもほどほどにな。

[946] ってことで、うちは仮眠に戻る」

[947]【かおり】

[948]「へ?

[949] 逢い引き!?」

[950]けれど、山之内さんはそれ以上は何も言わず、

[951]休憩室に引っ込んでしまった。

[952]それ以降は何もなく、

[953]わたしたちは無事に朝を迎えることができた。

[954]       ここは……また、夢の中?

[955]         いつもの、夢。

[956]   わたしによく似た女の子が出てくる、夢。

[957]       今日は女の子が

[958]       わたしの膝枕で寝ていた。

[959]        そっと髪を撫でる。

[960]   その瞬間、ぱちっと女の子の目が開いた。

[961]【???】

[962]「ねぇ……わたしから離れないでいてくれる?

[963] ずっと傍にいてくれる?」

[964]わたしの心の奥底までを

[965]見透かそうとしているかのような、眼差し。

[966]【かおり】

[967]「いきなり何を言い出すのよ……、

[968] びっくりするじゃない」

[969]安心させるように、

[970]笑顔でうなずきかけてみる。

[971]ホッとした様子で女の子が目を閉じた。

[972]【???】

[973]「わたしね、ずっとさみしかったの。

[974] ひとりぼっちで

[975] ずっとずっと、さみしかったの」

[976]【かおり】

[977]「そう……」

[978]女の子の髪をまた撫でる。

[979]ふと、指が女の子の額に触れた。

[980]ひんやりしている。

[981]【かおり】

[982]「…………」

[983]その額の冷たさに、

[984]わたしは言いようのない不安を感じてしまった……。

white_robe_love_syndrome/scr00902.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)