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white_robe_love_syndrome:scr00855

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[001]それから――。

[002]以前と変わらない日常が戻ってきた。

[003]堺さんの書いたサマリーを手に、

[004]加藤さんは透析専門の病院へと転院していった。

[005]一緒にお見送りした堺さんが

[006]感極まって泣いている。

[007]そんな堺さんを見て、

[008]わたしも初心を思い出して、

[009]ついホロリとしてしまった。

[010]主任さんや山之内さんが微笑ましい顔で、

[011]わたしたちを見ている。

[012]……いつかわたしも、

[013]こんな風に患者さんの見送りで泣く新人さんを見て、

[014]懐かしむような顔で今日のことを思い出すのかな。

[015]【なぎさ】

[016]「そっかー、あのDMの加藤さん、

[017] とうとう透析病院に行っちゃったのかー」

[018]【かおり】

[019]「お見送りの時、堺さんが泣いてたんですよ、

[020] もう号泣してましたよ!」

[021]【なぎさ】

[022]「へー、鬼の目にも涙なのね」

[023]【かおり】

[024]「またそんなこと言って……。

[025] ああ見えて、堺さん、いい看護しますよ?」

[026]【なぎさ】

[027]「そりゃあ、ボケボケかおりたんの新人時代と比べりゃ、

[028] 月とすっぽん、ってゆーか、比べようってこと自体が

[029] 申し訳ないってゆーか……」

[030]【かおり】

[031]「ひ、ひどいっ!!

[032] なぎさ先輩ったら、わたしをそんな目で

[033] 見てたんですね……!」

[034]【なぎさ】

[035]「まぁ、ダメダメっぷりでは、

[036] あたしも人のことは言えないけどね!!」

[037]わたしの携帯に、メール……?

[038]わたしたちの和やかな雰囲気を壊すような着信音に、

[039]ちらりとなぎさ先輩を見た。

[040]【なぎさ】

[041]「……なんでこっち見るの?」

[042]【かおり】

[043]「え、深い意味はありませんけど……」

[044]【なぎさ】

[045]「い、いぢわるっ! かおりたんのいじめっ子!!

[046] もうあたし、かおりに悪戯メールしないもん!!

[047] 泣いてやるんだから、ひーんひーん」

[048]【かおり】

[049]「はいはい、後でナデナデしてあげますから、

[050] 機嫌治しまちょうねー……って、

[051] ……あっ!!」

[052]知らないアドレスからのメール。

[053]開いて思わず、絶句した。

[054]いろんな感情が溢れてきて、

[055]言葉にならない。

[056]【なぎさ】

[057]「どうしたの?」

[058]【かおり】

[059]「……か、看護学校の時の親友から……」

[060]【なぎさ】

[061]「親友からのメールなのに、

[062] そんなに固まるようなもの?」

[063]【かおり】

[064]「事情があって、お互いの連絡先を消したんです……。

[065] だから……連絡が来たことに驚いて……」

[066]【なぎさ】

[067]「その子とはケンカ別れでもしたの……?」

[068]なぎさ先輩がムッとしてる。

[069]嫉妬してくれてるのかなって思うと、

[070]ちょっとだけ、こそばゆい。

[071]【かおり】

[072]「いえ、そういうのじゃないんですけど。

[073] ……高校時代のなぎさ先輩と同じだったんですよね、

[074] 彼女」

[075]【なぎさ】

[076]「は?」

[077]【かおり】

[078]「依存しすぎるわたしを心配して、

[079] わたしの前から消えるんだって宣言したんです」

[080]【かおり】

[081]「一人前になるまで、

[082] お互い、連絡しないようにしよう、って」

[083]【なぎさ】

[084]「…………」

[085]【かおり】

[086]「お母さんが水沢の師長さんで、お姉さんも

[087] 水沢の救外でバリバリの中堅ナースで、

[088] その子自身も水沢に行って……」

[089]【なぎさ】

[090]「…………」

[091]【かおり】

[092]「卒業以来、初めてですよ、

[093] 彼女がメールくれたのって……」

[094]そこまで言って、

[095]ふと、根本的なことに思い至った。

[096]【かおり】

[097]「あれれ?

[098] でも、ららちゃん、

[099] どうやってわたしのメアド、知ったんだろう?」

[100]【なぎさ】

[101]「えと……。

[102] ららちゃんって、その子の名前?」

[103]【かおり】

[104]「はい、寿ららって子なんです。

[105] 自己紹介の時に、『きららって呼んでね、キラッ☆』

[106] ってことを……って、どうしたんですか?」

[107]わたしの言葉が終わらない内に、

[108]見る見る複雑な顔になったなぎさ先輩が、

[109]テーブルに突っ伏してしまった。

[110]【なぎさ】

[111]「……その人よ」

[112]【かおり】

[113]「ほ?

[114] 何がですか?」

[115]【なぎさ】

[116]「セミナーで意気投合して、

[117] あたしを水沢に誘ってくれた人……!」

[118]【かおり】

[119]「ほへっ!!

[120] ららちゃんが!?」

[121]【なぎさ】

[122]「ああっ、だから、寿さん、

[123] しつこくかおりのこと聞いてきたのね!!

[124] メアド教えちゃったじゃない、んもー!!」

[125]【かおり】

[126]「……ららちゃん……」

[127]【なぎさ】

[128]「そういうことは、もっと早く言いなさいよね、

[129] すっごく悩んじゃったじゃないの、

[130] もーもーもー!!」

[131]【かおり】

[132]「もー、なぎさ先輩だって

[133] ららちゃんの名前、言わなかったじゃないですか!

[134] 責任転嫁しないでくださいよ、もー!」

[135]【なぎさ】

[136]「もー、何よぅ!

[137] かおりのお馬鹿ぁ、

[138] もう、大好きっ!!」

[139]この話題はここでおしまい、とばかりに、

[140]ぎゅむっと抱き締められた。

[141]……んもう、

[142]なぎさ先輩ってば困った人だなぁ……。

[143]そんなところも大好きなんだけど……ね。

[144]なぎさ先輩とくっついたまま、

[145]ららちゃんとメールの遣り取りをする。

[146]なぎさ先輩は席を外そうとしてくれたけど、

[147]わたしが一緒にいたくて、ワガママを言った。

[148]わたしはもう一人前の内科看護師として頑張ってて、

[149]後輩のプリセプターをやっているってことを

[150]メールでららちゃんに伝える。

[151]即返事があって、

[152]ららちゃんは去年からプリセプをやっているのだと

[153]自慢された。

[154]こういう素直なところ、全然変わってない。

[155]ららちゃんからのメールを読んで、

[156]ふたり、クスクスと笑う。

[157]【なぎさ】

[158]「それにしても逃げの手口に使うなって、

[159] 随分ときっぱり言ってくれちゃって、

[160] いい根性してるよね、あの子」

[161]【かおり】

[162]「ららちゃんはハッキリものを言う子でしたから。

[163] 生粋の外科系看護師さん、なんですよね」

[164]【なぎさ】

[165]「そうよねぇ、

[166] 外科の人って、ホント、結論からモノ言うよね」

[167]【かおり】

[168]「階下にフィルムとか何か届けものに行く時、

[169] 慣れるまで、素っ気ない人たちだなぁって

[170] 思ってました」

[171]【なぎさ】

[172]「素っ気ないんじゃなくて、無駄口を叩かないだけよ。

[173] 中身は、内科の人と同じ、

[174] 噂好きでおしゃべり好きな女の人たちなのよ」

[175]何か思い出したのだろう、

[176]クスクスと笑っているなぎさ先輩と目が合った。

[177]【かおり】

[178]「わたし、本当はなぎさ先輩が離れていくの、

[179] ずっと引き止めたかったんです」

[180]【なぎさ】

[181]「あたしも、

[182] 本当はかおりと離れたくなかった、

[183] それだけなの」

[184]クスクスと笑い合う。

[185]【かおり】

[186]「覚えていますか?

[187] 卒業式の後、抱き合って泣いたこと」

[188]【なぎさ】

[189]「……うん、

[190] 卒業したくないって、道の真ん中で……。

[191] あの時はもう、気持ちを抑えられなくて……」

[192]【かおり】

[193]「……わたしたち、あの頃から

[194] ぜんぜん成長してないのかも」

[195]【なぎさ】

[196]「もし、あの時、離れなかったら

[197] また違った『今』があるのかもしれないわね」

[198]【かおり】

[199]「それもアリですけど、こうして同じ職業、同じ病院で、

[200] 勤務場所は違うけど、同じ寮で、こんな風に

[201] 一緒に過ごせてる『今』が一番だと思うんです」

[202]【なぎさ】

[203]「……あたしもよ。

[204] どんな未来より、あたしたちが泣きながら、

[205] 苦労しながらも掴み取った『今』がいいわ」

[206]近づく顔。

[207]キスしたいと思ったのに、

[208]イジワルななぎさ先輩は、唇が触れる寸前で

[209]顔を止めた。

[210]【なぎさ】

[211]「それにしても……」

[212]う……、嫌な予感が……。

[213]【なぎさ】

[214]「高校の頃は、あんなになぎさ先輩なぎさ先輩って

[215] くっついてきてたのに、看護学校に行ったら、

[216] 今度はららちゃん? かおりの浮気者っ!」

[217]【かおり】

[218]「そ、そんなんじゃないですよぅ!

[219] 今はなぎさ先輩だけですよぅ」

[220]【なぎさ】

[221]「じゃ、証明してよ!」

[222]【かおり】

[223]「証明?」

[224]【なぎさ】

[225]「一生をかけて、あたしに証明してみせなさい!

[226] かおりにはあたしだけ、という証明ね」

[227]【かおり】

[228]「じゃあ、なぎさ先輩も証明してくださいよ?

[229] なぎさ先輩には、わたしだけなんですからね」

[230]【なぎさ】

[231]「ええ、ええ!

[232] 望むところだわ!」

[233]【かおり】

[234]「わたしだって、望むところです!!」

[235]至近距離で、クスッと笑い合う。

[236]【なぎさ】

[237]「じゃ、誓いのキス……」

[238]【かおり】

[239]「……大好きですよ、なぎさ先輩」

[240]こんな風に、時々立ち止まって、不安になりながらも、

[241]ふたりで手探りで、今後も歩いていくんだと思う。

[242]  たまにはケンカしながら、

[243]  その度に許し合って、

[244]  こんな風に、誓いのキスで仲直りをする――

[245]    そんな未来が見えるような気がした。

white_robe_love_syndrome/scr00855.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)