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white_robe_love_syndrome:scr00851

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[001]ちょっとドキドキしたけど、

[002]寮から病院まで、誰にも見咎められずに

[003]来ることができた。

[004]チラッと横を見ると、

[005]「ね、大丈夫だったでしょう?」と言いたげに

[006]なぎさ先輩がウィンクしてきた。

[007]こうしてなぎさ先輩と一緒に出勤して、

[008]病棟までを一緒に歩くのって、

[009]もう何回目になるんだろう。

[010]きっとこれからも

[011]何度だって『同伴出勤』ができるんだよね!

[012]……でも、

[013]一緒にいられるのは階段まで。

[014]【なぎさ】

[015]「じゃ、ね!

[016] 今日も頑張ろうね!!」

[017]【かおり】

[018]「はい!

[019] なぎさ先輩の後輩として

[020] 恥ずかしくないように……

[021]ほげぁっ!?」

[022]【???】

[023]「はいはーい。

[024] 朝っぱらから階段でイチャコラしてんな、

[025] 一人モンには目の毒やで!」

[026]ドスンと背中から体当たりされた後、

[027]ガシッと背後から頭を掴まれた。

[028]【かおり】

[029]「はぎょうっ!?」

[030]【やすこ】

[031]「この病院は外科内科の仲がそう悪なくて良かったなぁ。

[032] 仲悪かったら、あんたら、

[033] リアル・ロミジュリやで〜」

[034]【なぎさ】

[035]「だったら、あたしとかおりの力で

[036] 外科と内科の関係を修復してみせますよ!」

[037]【かおり】

[038]「はぐぐぐ……」

[039]【やすこ】

[040]「おーおー、言うてくれるやんけ、

[041] ウシ沢のくせに」

[042]【なぎさ】

[043]「もーっ!

[044] その呼び方やめてくださいって

[045] ずっと言ってるでしょう!?」

[046]【かおり】

[047]「へげげげげ……」

[048]【やすこ】

[049]「そんなん、あんたがモーモー言うからやろ。

[050] 悔しかったら、自分の口癖治さんかいな」

[051]【かおり】

[052]「んもーっ!!

[053] さっきからグリグリしてっ!!

[054] 痛いじゃないですかぁっ!!」

[055]【やすこ】

[056]「おおっ、ウシ2号が現れた!

[057] コマンド?」

[058]【かおり】

[059]「ワケわかんないこと言わないでください!!

[060] それに、わたしのなぎさ先輩を

[061] いじめるのは許しません!!」

[062]【やすこ】

[063]「うわ、沢井、

[064] 今日から三年目になるからって、

[065] めっさ可愛ないこと言いな!!」

[066]【なぎさ】

[067]「かおり……。

[068] すごく嬉しいんだけど、

[069] それから、すごく言いにくいんだけど……」

[070]【なぎさ】

[071]「そろそろ三階に行かないと、

[072] 大塚主任の目が三角になるんじゃないかしら」

[073]【かおり】

[074]「あひゃっ!? じゃ、なぎさ先輩、また後で!!

[075] もー、主任さんに睨まれたら

[076] 山之内さんのせいですからね!!」

[077]【やすこ】

[078]「口動かすより足動かさんかい!」

[079]【かおり】

[080]「おはようございますっ!!」

[081]【やすこ】

[082]「あーら、沢井さんったら、

[083] まるで新人みたいに詰所に駆け込んじゃって〜」

[084]【かおり】

[085]「はい!?」

[086]詰所に駆け込んだのは

[087]わたしだけじゃなかったですよね!?

[088]山之内さんだって同じですよね!?

[089]【???】

[090]「……はぁ」

[091]【はつみ】

[092]「……山之内さん、

[093] 沢井さんをからかうのは

[094] それくらいにしてあげて」

[095]【かおり】

[096]「えっ? ええっ!?」

[097]呆れた顔の主任さんと、

[098]にやにやした顔の山之内さんと、

[099]……主任さんの向こうにいるのは……!!

[100]【さゆり】

[101]「お変わりなくて何よりです、と言うべきか、

[102] 相変わらずで呆れました、と言うべきか、

[103] 何と言うべきなのか、言葉が浮かびません」

[104]【やすこ】

[105]「ん、笑えばいいと思うよ」

[106]【はつみ】

[107]「はいはい、お遊びはその辺で。

[108] バイトさんたちも夜勤さんも揃ったし、

[109] ちょっと早いけど、申し送りを始めます」

[110]【はつみ】

[111]「……その前に、

[112] みなさんに新しい仲間を紹介したく思います」

[113]【はつみ】

[114]「以前からのスタッフは顔見知りですが、

[115] 知らないスタッフもいるので、

[116] 堺さん、自己紹介をお願いします」

[117]主任さんの言葉で、

[118]その背後に控えるように立っていた人が

[119]一歩、進み出てきた。

[120]新人とは思えない落ち着いた態度、

[121]そして、静かな視線がその場にいる全員を

[122]ゆっくりと見回している。

[123]【さゆり】

[124]「はい。堺さゆりです。

[125] 以前、この病院で治療していただき、

[126] やっと恩返しできることになりました」

[127]【さゆり】

[128]「経験不足ゆえに、

[129] ご迷惑をかけてしまうと思いますが、

[130] どうかご指導ご鞭撻をお願いいたします」

[131]【かおり】

[132]「……さかいさん……」

[133]外科へ行って、内科と外科の事情通になった

[134]なぎさ先輩から聞いてたけど

[135]……本当に来たんだ……!!

[136]【やすこ】

[137]「優等生な自己紹介に敬意を表して、

[138] 4月1日の業務を終わります!

[139] みなさん、お疲れ様でしたー!!」

[140]【かおり】

[141]「へひょ!?」

[142]【さゆり】

[143]「……業務を……終わる……?」

[144]堺さんが目を丸くして驚いている。

[145]へぇ、この子、

[146]こんな表情もするんだ……。

[147]その一方で、

[148]主任さんが眉を寄せて、山之内さんを睨んでいた。

[149]【はつみ】

[150]「……山之内さん、仕事放棄ですか?」

[151]【やすこ】

[152]「い、いややわ〜!

[153] ちょっとしたエイプリル・フールの

[154] 可愛い冗談やないですか〜」

[155]【はつみ】

[156]「あなたの冗談はわかりにくいのよ。

[157] では、申し送りを……。

[158] あ、堺さんもそのまま聞いておいてね」

[159]【さゆり】

[160]「は、はぁ……」

[161]主任さんと山之内さんの漫才の間に、

[162]サッと足元にカバンを置いて、メモを出して、

[163]申し送りを聞く準備を整えてから、

[164]わたしは堺さんを見る。

[165]堺さんは戸惑っている様子。

[166]うんうん、わかるよ、その気持ち!

[167]二年前のことを思い出しながら、

[168]わたしはちょっとニヤニヤしてしまった。

[169]申し送りの後、

[170]主任さんに指示されて、

[171]堺さんと一緒におむつ交換。

[172]まずは、301号室――通称・重症部屋から。

[173]【かおり】

[174]「はーい、都知さん、

[175] おはようございまーす!」

[176]【さゆり】

[177]「と、都知さんって……

[178] 大部屋にいた都知さん……ですよね?」

[179]おずおずと堺さんが訊ねてくる。

[180]【かおり】

[181]「うん……一時は施設に行ったんだけど、

[182] メタ起こして戻ってきたんだ」

[183]手を動かしながら、

[184]眠ったままの都知さんのおむつを手早く替える。

[185]【さゆり】

[186]「メタ……がんの転移ですか」

[187]【かおり】

[188]「オピオイドの調整が上手く行ってて、

[189] 最近は寝てばかりなんだけど……

[190] 戻ってきた時は軍人さんだったんだよね」

[191]【加藤】

[192]「おう?

[193] お嬢ちゃんは、たしか……」

[194]【さゆり】

[195]「加藤さん!?」

[196]さすがは堺さん、

[197]三ヶ月程度の入院だったのに、

[198]大部屋の患者さんの顔と名前を

[199]今でもちゃんと覚えてるなんて!

[200]【加藤】

[201]「お嬢ちゃんの言ってた通り、

[202] とうとう透析を受けることになっちまったよ」

[203]【さゆり】

[204]「……だから言ったのに……。

[205] 絶対、後悔するからって……」

[206]堺さんは加藤さんと話している。

[207]せっかくの再会を邪魔するのは気の毒だから、

[208]次の患者さんである戸井さんのおむつを

[209]ひとりで交換する。

[210]【かおり】

[211]「戸井さん、

[212] おむつ、綺麗にしましょうね」

[213]……おむつ交換は腰に負担がかかるから、

[214]なるべく二人組でやるようにって言われてるけど、

[215]少しくらいなら大丈夫。

[216]【さゆり】

[217]「すみません、沢井さん。

[218] つい懐かしい顔を見て、

[219] 話し込んでしまいました」

[220]慌てた様子で戻ってきた堺さんが、

[221]スムーズに手伝ってくれる。

[222]【かおり】

[223]「……手馴れてるね。

[224] 新人さんとは思えないくらい」

[225]【さゆり】

[226]「どうすれば現場で足を引っ張らずに済むかって、

[227] ずっとそればかり考えて

[228] 練習していましたから」

[229]相変わらず、堺さんはすごいなぁ。

[230]【さゆり】

[231]「それにしても……ある程度の覚悟はしていましたけど、

[232] 顔見知りがこんな風に悪化して入院しているのは……

[233] 辛いですね」

[234]【かおり】

[235]「……そうね」

[236]それ以外に、わたしは何も言えなかった。

[237]詰所に戻ると、

[238]主任さんがわたしたちを待っていた。

[239]【はつみ】

[240]「沢井さん、堺さん、ちょっと来てください」

[241]【かおり】

[242]「え、これから堺さんと点滴のチェックを

[243] しようと思ったんですが……」

[244]【やすこ】

[245]「点滴チェックはうちとバイトさんが

[246] ラブラブしながらやるから、

[247] あんたらは主任のとこ行き」

[248]【さゆり】

[249]「らぶらぶ……?」

[250]【かおり】

[251]「山之内さんのことは、

[252] あんまり深く考えない方がいいと思うよ、

[253] さ、行こ?」

[254]【はつみ】

[255]「沢井さんももう三年目ね。

[256] 業務でも狼狽えることはかなり減ったように思うけど、

[257] どうかしら?」

[258]【かおり】

[259]「……そう……ですね。

[260] 自分で言うのもなんですけど、

[261] 夜勤でもわたわたしなくなりました」

[262]【はつみ】

[263]「そう、心強いわ。

[264] それじゃ、堺さんのプリセプターも

[265] お願いできるわね」

[266]主任さんの言葉に、

[267]一瞬、固まってしまう。

[268]【かおり】

[269]「……は?」

[270]【はつみ】

[271]「堺さんもどうかしら。

[272] 今ひとつ反応の鈍い先輩を

[273] ビシビシしごいてみたいと思わない?」

[274]うぇええ?

[275]【さゆり】

[276]「泣かせてしまってもいいなら」

[277]ええぇ……ぅえぇっ!?

[278]サラリと言った堺さんに、

[279]顔色も変えずに主任さんが微笑んだ。

[280]【はつみ】

[281]「そうね……。

[282] その辺は、一年目に泣かされるような

[283] 三年目が悪いわね」

[284]【かおり】

[285]「ええぇぇぃぅええ!?

[286] ちょっと待ってください!!

[287] 主任さん、庇ってくれないんですかぁ!?」

[288]【はつみ】

[289]「もしそれが理不尽ないじめだったら許さないけれど、

[290] 未熟ゆえにされる叱咤であるのなら大歓迎よ。

[291] やられる方が甘いのよ」

[292]【かおり】

[293]「ほぇえー!!」

[294]【さゆり】

[295]「わたしが沢井さんのプリセプティーになることを

[296] お引き受けした代わりに……というのも何ですが、

[297] 主任さんにお願いがあります」

[298]【はつみ】

[299]「何かしら?」

[300]【さゆり】

[301]「わたしを301の担当にしてください」

[302]【はつみ】

[303]「…………」

[304]いきなりの申し出に、

[305]主任さんは無表情になって堺さんを見ている。

[306]【さゆり】

[307]「沢井さんも今はここの戦力になっているようです。

[308] わたしの指導者の沢井さんごと301の担当になれば、

[309] 病棟的に不都合はないと思います」

[310]【はつみ】

[311]「不都合はないけれど……」

[312]【さゆり】

[313]「わたしの能力不足を心配なさるのは当然ですが……」

[314]【はつみ】

[315]「違うの、堺さん。

[316] あなたの知識や技能を心配しているわけではないの。

[317] ただ……」

[318]主任さんの心配は痛いほどにわかる。

[319]言いよどむ主任さんの代わりに

[320]言葉を選んで、わたしが説明をした。

[321]【かおり】

[322]「主任さんが心配しているのは、そこじゃないよ。

[323] 堺さんと同じ時期に入院してた患者さんを見送るのは

[324] ……一年目じゃ辛いんじゃないかって……」

[325]【さゆり】

[326]「…………」

[327]【はつみ】

[328]「入院患者だったあなたが、暇な時間、

[329] 加藤さんにDMの指導をしていたことは

[330] わたしも知っています」

[331]【はつみ】

[332]「その同じ頃に大部屋に入院していた

[333] 都知さんや戸井さんとも面識があって当然だわ。

[334] だからこそ心配なのよ……」

[335]【さゆり】

[336]「わかっています。

[337] 加藤さんはわたしがいた頃から、

[338] 既にかなり重度の糖尿病になっていましたから」

[339]【さゆり】

[340]「だから、加藤さんから透析になると聞いても、

[341] 当然だと思いました」

[342]【さゆり】

[343]「戸井さんについても同様ですし、

[344] 信じたくなかったけど、申し送りの内容から、

[345] 都知さんが末期がんだということも理解しました」

[346]【さゆり】

[347]「……その上で、お願いしているんです」

[348]凛とした、堺さんの表情。

[349]でも……さっき、

[350]加藤さんと話しながら、目が潤んでたよね……?

[351]【はつみ】

[352]「……知り合いを見送るのは……辛いものよ?」

[353]【さゆり】

[354]「その覚悟がなければ、

[355] わたしは百合ヶ浜へは来ませんでした」

[356]【はつみ】

[357]「そう……」

[358]小さく溜め息をついて、主任さんが頷いた。

[359]【はつみ】

[360]「そこまで覚悟できているのなら、

[361] 止める理由はありません。

[362] 沢井さん、しっかりフォローしてあげてください」

[363]【かおり】

[364]「はい」

[365]【さゆり】

[366]「ありがとうございます。

[367] ワガママを聞いてくださって、感謝します」

[368]堺さんが主任さんに頭を下げている。

[369]わたし、新人の頃、

[370]こんな覚悟を抱いて看護師になってなかった……。

[371]すごいな……。

[372]堺さんと一緒に、

[373]新しく担当になった患者さんに挨拶しにいく。

[374]都知さんは傾眠中で、時折目を開けては

[375]「もうすぐ行くからの……」と

[376]天井に向かって呟いていて、

[377]わたしたちの挨拶は聞いていないらしい。

[378]その隣のベッドで、

[379]加藤さんは恥ずかしそうに頭を下げた。

[380]【加藤】

[381]「あんたには何度も怒鳴られたっけね。

[382] あんたの怒鳴り声を聞いてるつもりだったけど、

[383] 俺は結局、聞いてなかったんだなぁ」

[384]【加藤】

[385]「こんな風になって、家族を泣かせて、

[386] あんたの言うことを聞いておけば良かったって

[387] 今は後悔してる」

[388]【さゆり】

[389]「起こってしまったことは……仕方がありません。

[390] これ以上、悪くならないように

[391] 努力していけばいいと思います」

[392]【加藤】

[393]「あんたは強いな。

[394] 患者だったときもそうだったっけ」

[395]【加藤】

[396]「明日死ぬかもしれないと怯えて生きるよりは、

[397] 死ぬかもしれないけど、生きる可能性のある

[398] 苦しい治療を選ぶ……あの言葉、グッと来た」

[399]【加藤】

[400]「こんな若い娘さんが覚悟を決めていたというのに、

[401] 俺ときたら……ってね。

[402] そして、あんたは戻ってきた」

[403]【さゆり】

[404]「はい。透析になったからといって、

[405] 人生が終わるわけじゃないって、

[406] 思い知ってもらうために戻ってきたんですよ」

[407]【かおり】

[408]「そうですよ!

[409] 娘さんに、お子さんができたんでしょう?

[410] お孫さんのためにも長生きしないと!!」

[411]【加藤】

[412]「……孫、か……。

[413] もう目もよく見えなくなったが……」

[414]【さゆり】

[415]「そんなの自業自得です。

[416] 見えなくても、抱っこしてあげて、

[417] 可愛がってあげることはできますよね?」

[418]じ、自業自得って……!

[419]【加藤】

[420]「あんたは相変わらずキツいな。

[421] だが……そうだな、目が見えなくても、

[422] 抱っこして、あやしてやることならできそうだ」

[423]【さゆり】

[424]「目を瞑っておむつも替えられるようになりますよ。

[425] 人間、その気になったら、

[426] 多少の不便は乗り越えられるもんですから」

[427]【加藤】

[428]「……あんたは強いな」

[429]【さゆり】

[430]「ええ、死の淵から戻ってきましたから」

[431]話し込む気配の濃厚なふたりからそっと離れて、

[432]次のベッドの患者さんを見る。

[433]【かおり】

[434]「えっと、戸井さんは……」

[435]目を開けた様子もなく、

[436]静かに胸が上下している。

[437]自宅で心筋梗塞を起こして、

[438]発見が遅かった戸井さんは今日もまだ眠っていた――。

[439]わたしが堺さんに教えるようなことはあまりない。

[440]堺さんは物品の位置を一通り確認してから、

[441]記録を読み始めた。

[442]邪魔をしないように、わたしは記録を書き始める。

[443]【さゆり】

[444]「……沢井さん」

[445]【かおり】

[446]「ほえ?」

[447]【さゆり】

[448]「どうせあなたのことだから、

[449] ほとんど成長なんかしていないと思っていましたが、

[450] 意外とわかりやすい記録を書かれているんですね」

[451]……これって、褒められてる……んだよね?

[452]【かおり】

[453]「うん、記録はなぎさ先輩から

[454] ばっちり指導を受けたから」

[455]【さゆり】

[456]「ああ、あの人、

[457] 今は外科で頑張ってるんですってね。

[458] 先月、セミナーで会いました」

[459]【かおり】

[460]「セミナー?」

[461]一瞬、堺さんが、しまった、という顔をした。

[462]【さゆり】

[463]「……あ、ああ、あなたには黙っておいてと

[464] 言われていたのを忘れていました。

[465] あの人のこと、気になりますか?」

[466]【かおり】

[467]「……き、気にならないわけじゃないけど……っ」

[468]【さゆり】

[469]「気になるなら、藤沢さん本人にどうぞ」

[470]嫌味ったらしい言い方は変わっていないらしい。

[471]堺さんはそれ以上、何も言うつもりはないらしく、

[472]再び、患者さんの記録を読む作業に戻る。

[473]わたしも少し溜め息をついて、

[474]記録を書くことに没頭しようとした。

[475]……こんな様子で、

[476]わたしたち、上手くやっていけるのかなぁ。

[477]いつもはわたしが帰宅してからしばらくして、

[478]なぎさ先輩が帰ってくるんだけど、

[479]今日に限って、帰宅が遅い。

[480]外科は手術の進行次第や術後の経過次第で

[481]残業することも多いらしいから、

[482]きっと今夜もそうなのかもしれない。

[483]帰ってきた!

[484]【なぎさ】

[485]「たっだいまー!」

[486]【かおり】

[487]「お疲れ様でした、なぎさ先輩!

[488] 今日も……」

[489]思わず絶句する。

[490]なぎさ先輩は赤い顔をして、

[491]どうやら酔っ払ってるっぽい。

[492]【かおり】

[493]「……飲んできたんですか?」

[494]【なぎさ】

[495]「そーなのー! 連絡入れようと思ってたん

[496] だけどねー、ちょっと話がねー、ヒートアップ

[497] しちゃって、もうらめぇぇぇだったのー」

[498]【かおり】

[499]「…………」

[500]なぎさ先輩が玄関に座り込んだ。

[501]【なぎさ】

[502]「う……もうらめかもしんない……」

[503]【かおり】

[504]「え? 『らめ』?」

[505]【なぎさ】

[506]「……吐く……」

[507]ほへえぇぇっ!?

[508]【かおり】

[509]「は、吐いちゃらめぇ……!!

[510] ちょっと待って、まだらめぇっ!!」

[511]慌ててなぎさ先輩を抱き起こして、

[512]トイレへ連れてゆく。

[513]……せっかく起きて待ってたのに、

[514]この様子じゃ今夜はあまり話せそうにないなぁ。

[515]堺さんが言ってた

[516]先月会ったってことも訊きたかったのに。

[517]っていうか、

[518]なぎさ先輩、お酒が好きなのはいいんだけど、

[519]弱いんだから、何も吐くまで飲まなくてもいいのに……。

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