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white_robe_love_syndrome:scr00831

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[001]【かおり】

[002]「神庫……?」

[003]よくわかんないけど、

[004]なぎさ先輩、起きたんだ……。

[005]お出かけするくらい回復できて良かった!

[006]おっと、

[007]メールにお返事しておかなきゃ!

[008]【かおり】

[009]「お返事、お返事〜!

[010] えっと、急いで行きます……と。

[011] 送信!!」

[012]うふふ、

[013]これって、久しぶりのなぎさ先輩とデートだよね!

[014]えへへ、楽しみ〜♪

[015]         ……目を開ける。

[016]         何も見えない。

[017]   だって、わたしは目隠しをされているから。

[018]       ここがどこかわからない。

[019]  遠くから、波の音が切れ切れに聞こえてくる。

[020]      誰もいない、知らない、部屋。

[021]    あ……、あの聞き慣れた足音は……。

[022]     誰かが、部屋の中に入ってきた。

[023]      ふわりと漂う、大好きな匂い。

[024]【???】

[025]「お待たせ」

[026]ぎゅっと抱きしめられた。

[027]ぬくもりに包み込まれて、

[028]ホッと身体の力を抜く。

[029]【???】

[030]「さみしかったでしょう?

[031] 明日はお休みだから、一緒にいようね」

[032]【かおり】

[033]「…………」

[034]しゃべろうとして、

[035]のどが痛くてしゃべれないことを思い出す。

[036]こくりとうなずいた。

[037]首からどこかへ続く鎖が

[038]チャリッと軽い音を立てる。

[039]その人はわたしを抱きしめたまま、

[040]その日、『外』で起こったことを話してくれる。

[041]【???】

[042]「ちょっと困ったことが起こっちゃったの」

[043]【???】

[044]「主任がね、

[045] かおりの実家に連絡しちゃったみたいなの。

[046] 今、内科の詰所は大騒ぎみたいよ」

[047]【かおり】

[048]「…………」

[049]内科の詰所……。

[050]【???】

[051]「山之内さんはあたしを疑ってるみたい。

[052] 今日もわざわざ外科にまで

[053] かおりの行方を訊きに来たわ」

[054]山之内さん……。

[055]【???】

[056]「もちろん、誤魔化しておいたけれど、

[057] ……ちょっと厄介かもね、

[058] あの人も主任も、変にカンは鋭いから」

[059]【???】

[060]「ああ、でも、かおりが心配することはないのよ?

[061] かおりがあたしの言う通りにしていてくれれば、

[062] ずっと一緒にいられるからね?」

[063]【かおり】

[064]「…………」

[065]【???】

[066]「大好きよ、わたしのかおり……」

[067]甘い、キス。

[068]大好きな、だいすきなひとからの、優しいキス。

[069]どうしよう……、

[070]逃げなきゃって思うのに。

[071]理性では、こんな生活、ダメだって思うのに。

[072]でも、わたし、

[073]ずっとなぎさ先輩と一緒にいたいって思うの。

[074]このままなぎさ先輩と

[075]ずっと一緒に……。

[076]【かおり】

[077]「……あ」

[078]ふと、意識が浮上した。

[079]目を開けたけれど、

[080]周囲の風景はうすぼんやりしていて、

[081]あまりよく見えないの。

[082]あの足音……。

[083]……なんだか、長い夢を見てたような気がする……。

[084]【???】

[085]「眠っていたのね。

[086] ごめんね、起こしちゃって」

[087]その人は、いつものように、

[088]まるで壊れ物でも扱うような優しい手つきで

[089]わたしをそっと抱き起こしてくれた。

[090]足元から、チャリッと鎖の音がする。

[091]【かおり】

[092]「……幸せな、夢を……見ていました……」

[093]ちゃんと、声が、出ない。

[094]一度、薬品で焼かれたのどからは出るのは

[095]かすれた聞き取りにくい声だけ。

[096]けれど、気持ちを伝えたくて、

[097]何とか言葉をつむぐ。

[098]夢の余韻か、身体がふわふわしてる。

[099]足から伸びている鎖は相変わらず。

[100]こんなものがなくても、

[101]わたしはどこにも行かないのに。

[102]それに、わたしの足は走ることもできないくらいに

[103]弱っているのに。

[104]えっと……、

[105]筋萎縮、っていうんだっけ?

[106]ああ、そうだけど、ちょっと違う……。

[107]廃用症候群(はいようしょうこうぐん)、って

[108]いうんだよね。

[109]冷たい手が額に触れて、そっと頬に触れた。

[110]……そういえば、

[111]なぎさ先輩とこの部屋に引っ越して来て、

[112]どれくらい経ったんだろう?

[113]家族が捜索願を出したらしいけれど、

[114]その後、どうなったのかな……?

[115]【なぎさ】

[116]「かおりの熱、

[117] なかなか下がらないね……」

[118]【かおり】

[119]「大丈夫です、

[120] これくらいの熱……いつものことですから」

[121]少し薄暗い視界には、なぎさ先輩しかいない。

[122]もう、なぎさ先輩しか見えない。

[123]【かおり】

[124]「なぎさ先輩……。

[125] わたし、なぎさ先輩と、

[126] ずっとずっと一緒にいたい……」

[127]腕を伸ばす。

[128]なぎさ先輩がぎゅっと抱きしめてくれた。

[129]【なぎさ】

[130]「あたしもよ、かおり」

[131]【なぎさ】

[132]「あたしたちは、これからもずっと一緒にいるわ。

[133] かおりがいるから、

[134] あたし、どんなに辛くても頑張れるのよ」

[135]【なぎさ】

[136]「あたしだけのかおりが、

[137] あたしが仕事から帰ってくるのを待ってくれてる。

[138] そう思うと、あたし、すごく元気になるの」

[139]【かおり】

[140]「……はい。

[141] 大好きです、なぎさ先輩」

[142]優しいキスが降ってくる。

[143]【なぎさ】

[144]「大好きよ、かおり……」

[145]【かおり】

[146]「……わたしも、大好きです、なぎさ先輩」

[147]わたしたちは愛し合ってるの。

[148]最初は閉じ込められて不本意だったけれど、

[149]今はとても幸せなの。

[150]わたしにはなぎさ先輩だけ。

[151]そして、なぎさ先輩にもわたしだけ。

[152]なぎさ先輩はわたしだけを見ていてくれる。

[153]そして、わたしもなぎさ先輩だけを見ていればいい。

[154]わたしたちだけの世界がここにある。

[155]なのに、

[156]……ごめんなさい、なぎさ先輩……。

[157]この部屋は薄暗くて、

[158]大好きななぎさ先輩の顔がよく見えないの……。

[159]指先もしびれてて、

[160]何だか気も遠くなって、

[161]せっかくのなぎさ先輩のキスなのに

[162]ゆっくりと味わうこともできなくて……。

[163]【なぎさ】

[164]「ずっとここにいてくれる?」

[165]なぎさ先輩の声が遠くから聞こえてくる。

[166]【かおり】

[167]「ずっと、ここにいさせてください」

[168]【なぎさ】

[169]「大好きよ、かおり」

[170]【かおり】

[171]「わたしも……愛しています……」

[172]    わたしの言葉、ちゃんと言えたかな。

[173]  わたしの気持ちは、なぎさ先輩に伝わったかな。

[174]       大好きです、なぎさ先輩。

[175]    ……でも、今は……眠らせてください。

[176]         少しだけ……。

[177] 少し眠れば、また元通り、元気なわたしに戻ります。

[178]   起きたら、またいっぱいキスしましょうね、

[179]   なぎさ先輩……。

[180]    それまでは……おやすみなさい……。

white_robe_love_syndrome/scr00831.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)