User Tools

Site Tools


white_robe_love_syndrome:scr00811

Full text: 547 lines Place translations on the >s

[001]【???】

[002]「……泣いてるんか……?」

[003]【かおり】

[004]「……え?」

[005]【かおり】

[006]「は……っ!?」

[007]慌てて起き上がった。

[008]ここは山之内さんの部屋。

[009]クスッと笑って、

[010]山之内さんがティッシュボックスを差し出してくれた。

[011]【やすこ】

[012]「疲れとるんやね。

[013] それなのに、悪いな、来てもらって」

[014]【かおり】

[015]「ティッシュ……?」

[016]呆れた表情で、山之内さんが頬を指差す。

[017]【かおり】

[018]「!!」

[019]わたし、泣いてた!?

[020]【やすこ】

[021]「怖い夢でも見た?」

[022]夢……?

[023]そのキーワードが何か心に引っかかる。

[024]夢を見た、ような気がする……。

[025]【かおり】

[026]「わかりません。

[027] でも、何か大切なものを失くしてしまった。

[028] そんな気がするんです……」

[029]わたしが言うと、山之内さんは笑った。

[030]【やすこ】

[031]「……大切なもの、か。

[032] ええやん。

[033] 一番大切な人は守れたんやろ?」

[034]胸の中に浮かぶ、なぎさ先輩の笑顔。

[035]【かおり】

[036]「はい!

[037] そうですよね!」

[038]でも……。

[039]なぎさ先輩の笑顔を守ることはできたけど、

[040]その陰で、何か大切なことを見落としてしまった、

[041]そんな気がするの……。

[042]それが何かはわからないけれど……。

[043]【やすこ】

[044]「これ以上、こき使うんも悪いから、

[045] あんた、もう部屋に戻り。

[046] 藤沢もそろそろ起こした方がええやろ」

[047]【かおり】

[048]「……わたし、どれくらい寝てました?」

[049]【やすこ】

[050]「んー、ほんの小一時間ほどかなぁ?」

[051]【やすこ】

[052]「あとで、藤沢と一緒に食べ」

[053]コンビニ袋の中には、どら焼きが入っていた。

[054]【やすこ】

[055]「疲れたココロには

[056] 甘いモンが一番やからね」

[057]……あの後。

[058]自分の部屋に帰って、

[059]まだ寝ていたなぎさ先輩を、

[060]約束通り、キスで起こしてから。

[061]山之内さんにもらったどら焼きを食べて、

[062]ふたりでいろいろな話をして……。

[063]一緒のベッドに寝て、

[064]そして、朝……。

[065]今日はお休みのなぎさ先輩を残して、

[066]ひとりで出勤したのはいいんだけど……。

[067]なんだろう……、

[068]また詰所がざわついてる……。

[069]今日も朝から師長さんがいるからかな。

[070]周りのみなさんも、

[071]同じように落ち着かない様子で

[072]師長さんや主任さんを見ている。

[073]【はつみ】

[074]「申し送りの前に発表があります。

[075] さ、入ってらっしゃい!」

[076]主任さんが入り口へと声をかける。

[077]おずおずと入ってきた人は……。

[078]【かおり】

[079]「なっ、なぎさ先輩っ!?」

[080]今日はお休みだからって

[081]わたしの部屋にいるはずの、なぎさ先輩だった。

[082]【常盤師長】

[083]「つい最近まで、うちで頑張ってくれていた

[084] 藤沢なぎささんです。

[085] 大塚さんが外科から取り返して来てくれました」

[086]誰からともなくパチパチと拍手が上がる。

[087]もちろんわたしも思いきり拍手した。

[088]【常盤師長】

[089]「藤沢さんのような、優秀な人材が

[090] また戻ってきてくれるのは嬉しいことです。

[091] さ、藤沢さん、一言どうぞ?」

[092]うなずいたなぎさ先輩は、既に涙目になってて……。

[093]もちろん、わたしも既に涙目で……。

[094]【なぎさ】

[095]「あたしは……、

[096] あたしは自分がどれだけ使えない看護師なのか、

[097] 自分が甘かったのか、異動してわかり……ました」

[098]声を詰まらせる、なぎさ先輩。

[099]頑張って!

[100]【なぎさ】

[101]「内科も外科も看護の基本は同じなのに、本心では、

[102] あたしは内科をバカにしてました……だから……

[103] いつまでも成長できなかったんだと思います」

[104]こぼれた涙が、なぎさ先輩の頬を伝う。

[105]【なぎさ】

[106]「これからは、そんなうわべのことを考えず、ここで

[107] もう一度、新人として一から勉強しようと思います

[108] ので、どうかみなさん、ご指導お願いします」

[109]ペコリと頭を下げるなぎさ先輩に、

[110]再び拍手が送られた。

[111]なぎさ先輩が恥ずかしそうに涙を拭いてる。

[112]【かおり】

[113]「なぎさ先輩っ!」

[114]感極まったわたしは

[115]なぎさ先輩に飛びついてしまった。

[116]【かおり】

[117]「またなぎさ先輩と一緒に働けるんですね!」

[118]【なぎさ】

[119]「……沢井。

[120] 今度はあたしも沢井と同じ新人だから、

[121] あたしを先輩って呼ぶのはおかしいわ」

[122]【かおり】

[123]「そんなことありません!

[124] わたしにとって、なぎさ先輩は

[125] ずーっと、憧れの先輩なんですから!」

[126]【なぎさ】

[127]「さ、沢井!」

[128]【かおり】

[129]「なぎさ先輩っ!」

[130]ぎゅっとなぎさ先輩を抱きしめると、

[131]なぎさ先輩も同じようにぎゅっと抱きしめてくれた。

[132]【やすこ】

[133]「あたし、高校の頃から沢井のことが好きだったの。

[134] ……かおりって呼んでもいい?」

[135]【やすこ】

[136]「わたしもなぎさ先輩のことが……。

[137] もうなぎさ先輩以外、何も見えません!」

[138]【やすこ】

[139]「ああ、かおり!

[140] あたしの可愛いかおり!」

[141]【やすこ】

[142]「好きです、なぎさ先輩! 

[143] わたしのこと、強く抱きしめて……、

[144] ああ、もっと、もっと……」

[145]【やすこ】

[146]「いてっ!!」

[147]【はつみ】

[148]「そろそろ申し送りを始めたいのだけれど。

[149] いいかしら?」

[150]わたしたちの後ろで

[151]勝手にアテレコしていた山之内さんは、

[152]主任さんにカルテで軽く叩かれてる。

[153]まったくもう、懲りない人だなぁ……。

[154]【はつみ】

[155]「では、みなさん、集まったことですし、

[156] 改めて、申し送りを始めます」

[157]いつもの主任さんの声で、

[158]詰所内が心地よい緊張感に包まれる。

[159]わたしはチラッとなぎさ先輩を見た。

[160]なぎさ先輩と目が合って……。

[161]……わたしたちは、目で微笑みを交わして、

[162]夜勤さんの申し送り内容を

[163]大慌てでメモする作業に戻った。

[164]なぎさ先輩が戻ってきて、一週間が経った。

[165]あれから外科は

[166]新人に対するいじめが発覚して、

[167]病院をあげての大問題となった。

[168]大問題の責任として、

[169]外科の病棟師長と外科病棟主任のコンビはクビ。

[170]そこから本格的な調査が入ることになった。

[171]調査の主導は内科の大塚主任さんが握っていたので、

[172]主任さんは内科病棟だけでなく、

[173]今は外科病棟の責任者も兼任することになって

[174]とっても大変そう。

[175]内科の常盤師長さんも手伝ってくれてるらしいけど、

[176]常盤師長さんは外来師長も兼任してるから

[177]外科にまでは手が回らないらしいの。

[178]で、なぎさ先輩をいじめていた人達は、というと

[179]ほとんどが退職か、系列の訪問看護ステーションへの

[180]異動となった。

[181]今の外科病棟は、内科病棟以上に

[182]派遣やアルバイトの看護師さんばかりで

[183]相当バタバタしてるらしい。

[184]なぎさ先輩が戻ってきてくれても、

[185]内科病棟は主任さんがほとんど不在で、

[186]山之内さんが主任代理みたいになってるから

[187]結果的には、人手が足りずにいつも大忙し。

[188]まともに休憩も取れない時もあるくらい。

[189]もうしばらくすれば、

[190]主任さんの昔の後輩さんが外科主任として

[191]百合ヶ浜に来てくれるとのことなので、

[192]この忙しさも今だけ!

[193]内科病棟も外科病棟も、

[194]病棟看護師は一致団結してみんなで頑張っているところ。

[195]【なぎさ】

[196]「沢井、来週の処方箋チェック、済んだ?

[197] 定期処方、今日十五時締め切りよ?」

[198]【かおり】

[199]「あっ!

[200] すみません、今からやります!」

[201]【なぎさ】

[202]「もー、しっかりしてよねー!

[203] そんなんじゃいつまでもプリセプター

[204] 辞められないじゃない」

[205]【かおり】

[206]「えー、なぎさ先輩がプリセプターじゃなくなるなら、

[207] わたし、もうちょっとボケッとしてようかなー」

[208]【なぎさ】

[209]「……本気で言ってるなら、殴るわよ?」

[210]【かおり】

[211]「うう……、なぎさ先輩が冷たい……」

[212]なぎさ先輩は

[213]再びわたしのプリセプターにと

[214]主任さんから任命された。

[215]なぎさ先輩は一度断ったらしいんだけど、

[216]主任さんからふたりで一緒に成長すればいいって

[217]説得されたみたい。

[218]プリセプター業務は責任が重いって

[219]なぎさ先輩は嘆いてたけど、

[220]でも、何だかんだ言って、やっぱりなぎさ先輩には

[221]後輩指導って向いてると思う。

[222]教え方、上手だし。

[223]……わたしは怒られてばっかだけど。

[224]【なぎさ】

[225]「目が回るようなって、こういうことを言うのね〜。

[226] 気がついたら申し送りの時間になってるんだもん、

[227] 本当に目が回りそう」

[228]【かおり】

[229]「でも、充実してますよね!」

[230]【なぎさ】

[231]「……まぁね」

[232]そして、堺さんは、というと、

[233]無事にドナーが見つかって、

[234]来週始めに大学病院へ転院することが決まった。

[235]その転院に関する手続きを

[236]わたしが担当することになって、

[237]更に忙しい。

[238]……でも、この忙しさが、ちょっと嬉しい。

[239]隣にはなぎさ先輩がいて、

[240]一緒に仕事できることが、こんなに幸せだなんて……。

[241]今日は堺さんの転院の日。

[242]見送りなんて恥ずかしいという堺さんに気兼ねして、

[243]わたしたちは廊下でお見送りをする。

[244]【さゆり】

[245]「生きて戻れたら、看護学校に復学して、

[246] 卒後の進路はこの病院にしてあげます」

[247]【なぎさ】

[248]「もー! なによ、その上から目線!

[249] してあげます、じゃなくて、

[250] させてください、でしょうに!」

[251]ムッとしてるなぎさ先輩は、

[252]堺さんの上から目線が気に入らないらしい。

[253]【さゆり】

[254]「この病院の人手不足は深刻ですものね。

[255] わたしの卒後、あなた方が

[256] 一人前に育っているのかも不安ですし」

[257]【なぎさ】

[258]「ムキー!

[259] 生意気な……ッ!」

[260]【さゆり】

[261]「本当のことを言っただけですから。 あなた方

[262] って、学生のわたしが不安になるようなスキルと

[263] 知識しか持っていないんだもん、呆れます」

[264]【かおり】

[265]「あああ、せっかくの日なのに

[266] ケンカしちゃダメ……!!」

[267]【なぎさ】

[268]「ムッカー!!

[269] あんたのその性格も

[270] 移植のついでに、直してもらったら!?」

[271]【はつみ】

[272]「藤沢さん、相手は患者さんですよ。

[273] 堺さんも、少し言いすぎね」

[274]主任さんに叱られて、ふたりして黙り込んだ。

[275]堺さんとなぎさ先輩の相性は良くないけど、

[276]でも、このふたりって、ちょっと似てる。かも。

[277]【かおり】

[278]「……わたし、待ってるから」

[279]わたしの言葉に、堺さんがわたしを見た。

[280]そして、フッと笑う。

[281]【さゆり】

[282]「……あなた、本当にドMなんですね」

[283]【かおり】

[284]「はいぃ?」

[285]【さゆり】

[286]「わかりました。

[287] そんなにわたしにいじめてほしいのなら、

[288] わたし、命がけで治療を乗り越えます!」

[289]【なぎさ】

[290]「ちょっ!?」

[291]【やすこ】

[292]「よっしゃー!

[293] 即戦力、ゲットやでー!!

[294] 卒業すんの、めっさ待ってるからな!!」

[295]【なぎさ】

[296]「んもー!

[297] 山之内さんまでッ!!」

[298]【さゆり】

[299]「はい、望むところです!

[300] わたしの卒後は、覚悟しててくださいね、

[301] 藤沢さんに……沢井さん!」

[302]とうとうエレベーターがやってきた。

[303]開いたドアの向こう、

[304]堺さんがエレベーターに乗り込む。

[305]【さゆり】

[306]「復学して、卒業した後の楽しみができました。

[307] ふふふふ……楽しみです、本当に」

[308]強い堺さん。

[309]彼女なら、きっと大丈夫。

[310]見つからない可能性が大きいドナーだって見つかったし、

[311]辛い治療だって、きっと乗り越えるはず!

[312]【なぎさ】

[313]「あの子なら大丈夫よ。

[314] あれだけ憎まれ口を叩けるんだもん、

[315] 死神だって裸足で逃げちゃうわよ、きっと」

[316]なぎさ先輩の言葉に、

[317]主任さんはちょっと嫌そうに眉をひそめる。

[318]どうやら『死神』という単語に反応したらしい。

[319]【なぎさ】

[320]「それで、パワーアップして

[321] 絶対、戻ってきちゃうのよー!

[322] あたしたちも負けないように頑張らないと!」

[323]【かおり】

[324]「……そうですね!」

[325]うん、なぎさ先輩の言う通り、

[326]堺さんはきっと大丈夫!

[327]【はつみ】

[328]「さ、みんな、仕事に戻りましょう?

[329] 患者さんは堺さんだけじゃないのよ」

[330]【やすこ】

[331]「面倒臭い患者さんも

[332] 堺さんだけじゃないのよねー」

[333]【はつみ】

[334]「……山之内さん!」

[335]山之内さんの発言に、

[336]主任さんの眉がつりあがる。

[337]わたしは、なぎさ先輩と顔を見合わせて、

[338]クスクスと笑い合った。

[339]【かおり】

[340]「じゃあ、堺さんのドナー見つかって

[341] おめでとうの会、始めましょう〜!」

[342]【なぎさ】

[343]「本人不在っていうのが

[344] ちょっとアレだけどねー」

[345]【かおり】

[346]「いいんです!

[347] こういうのは気持ちですから!」

[348]【なぎさ】

[349]「ま、お酒飲めるなら何でもいいかー、ってことで、

[350] かんぱーい!」

[351]【かおり】

[352]「わーい、

[353] かんぱいぃ〜!」

[354]今夜は久々の部屋飲み。

[355]堺さんの転院にこじつけたお祝いだけど、

[356]なぎさ先輩が快く応じてくれて良かった。

[357]あっという間に

[358]一本目のビールを空けたなぎさ先輩は、

[359]二本目に手を伸ばそうとして、

[360]ふと、手を引っ込めた。

[361]【かおり】

[362]「どうしたんですか?

[363] 飲まないんですか?」

[364]【なぎさ】

[365]「うん……。

[366] その前に、ちゃんと謝らなくちゃって

[367] ……そう思って」

[368]なぎさ先輩が、

[369]わたしに向かって、居住まいを正す。

[370]【かおり】

[371]「……なぎさ、先輩……?」

[372]【なぎさ】

[373]「電話やメール使って、

[374] 怖がらせて、嫌がらせして、

[375] 本当にごめん……ッ!」

[376]なぎさ先輩が深く頭を下げる。

[377]【かおり】

[378]「ちょ……、

[379] やめてください、そんなこと!」

[380]【なぎさ】

[381]「こういうの、ケジメつけたいから。

[382] だから、ちゃんと謝らせて」

[383]まっすぐななぎさ先輩の眼差し。

[384]ああ、こういうところ、

[385]高校の時と全然変わってない……。

[386]わたしが大好きだった時のままの、なぎさ先輩だ……。

[387]【なぎさ】

[388]「最初はね、怖がらせるつもりじゃなかったの。

[389] ただ、沢井があたしを頼ってくれたのが

[390] すごく嬉しくて……」

[391]【なぎさ】

[392]「でも、だんだん、エスカレートしてきちゃって。

[393] 特に、外科に異動になってからは、

[394] あたしには沢井だけになっちゃってて……」

[395]【なぎさ】

[396]「……今になって思うと、病んでたんだと思う。

[397] 仕事がうまくいかないこと、全部、人のせいにして、

[398] あたし、全然、現実に向き合おうとしなかった」

[399]【なぎさ】

[400]「内科で認められないのは、

[401] 希望した部署じゃないから。

[402] でも、希望の外科へ行っても認められなかった」

[403]【なぎさ】

[404]「あたしね、沢井が羨ましかったの。

[405] 沢井はどこに行っても、可愛がってもらえて、

[406] でも、あたしはそうじゃなくて……」

[407]【なぎさ】

[408]「……でもね、あたし、やっとわかったの。

[409] あたし、今まで素直さが足りなかった。

[410] だから、沢井みたいになれなかった」

[411]【かおり】

[412]「なぎさ先輩……」

[413]【なぎさ】

[414]「内科へ戻ってこいって主任さんに言われた時、

[415] 思い違いを叱られて、初めて気づいたの。

[416] あたしは、あたし以外になれないんだ、って」

[417]【なぎさ】

[418]「沢井みたいになろうとしても、

[419] あたしは沢井にはなれないんだって……。

[420] バカだよね、そんなこと当たり前なのに」

[421]【なぎさ】

[422]「だから……、あたし、

[423] これからは『あたし』として頑張る。

[424] 沢井が慕ってくれた『なぎさ先輩』として!」

[425]【なぎさ】

[426]「……こんなこと、言えた身分じゃないけど、

[427] あたしのこと、嫌いにならないで……くれる?」

[428]【かおり】

[429]「なぎさ先輩!」

[430]高ぶる気持ちのまま、

[431]なぎさ先輩に飛びついて、ぎゅっと抱きしめた。

[432]【かおり】

[433]「嫌いになんかなりません!

[434] わたし、なぎさ先輩が好きです!!」

[435]【かおり】

[436]「それに、謝らないでください!

[437] わたしだって、なぎさ先輩に無神経なこと、

[438] いっぱいしてきました!」

[439]【なぎさ】

[440]「……沢井」

[441]【かおり】

[442]「あと……わたしの秘密、

[443] 聞いてもらえますか?」

[444]なぎさ先輩がこくりとうなずいてくれる。

[445]わたしは、今まで誰にも話せなかったことを、

[446]なぎさ先輩に告白した。

[447]幼い頃、大きな交通事故に遭ったこと。

[448]その時のことはほとんど覚えていないこと。

[449]事故のことは覚えていないのに、

[450]たぶん、その時から、男の人が怖くなってしまったこと。

[451]【なぎさ】

[452]「そうだったんだ……」

[453]【かおり】

[454]「あんなに大げさに騒ぐことじゃないって

[455] 頭ではわかってても、

[456] 男の人とか暗闇とか、すごく怖くて……」

[457]【なぎさ】

[458]「あたしは、沢井のトラウマは知らなかったけど、

[459] 男性恐怖症だってことは、うすうす知ってたよ。

[460] でも、それを逆手にとって、嫌がらせして……」

[461]【なぎさ】

[462]「……あたし、本当に最低だよね……。

[463] 本当に、ごめん」

[464]【かおり】

[465]「もう、いいんです。

[466] もう終わったことですから。

[467] ね、そうでしょう、なぎさ先輩?」

[468]【なぎさ】

[469]「沢井……」

[470]ぎゅっとなぎさ先輩が

[471]わたしを抱きしめてくれる。

[472]【なぎさ】

[473]「……信じてもらえないかもしれないけど、

[474] あの時の、沢井を守りたいって気持ちは本当だから。

[475] 今度こそ本当に、あたしが守るから」

[476]【なぎさ】

[477]「……こんなあたしだけど、

[478] 本当はずっと沢井が好きだったの。

[479] 高校の頃から、ずっと……」

[480]【なぎさ】

[481]「……こんなこと言っても、

[482] あたしのこと、嫌わない……?」

[483]不安に揺れる眼差しに、心の奥がきゅんとした。

[484]【かおり】

[485]「……嫌いません」

[486]きっぱりと言い切る。

[487]【かおり】

[488]「だって、わたしも、

[489] なぎさ先輩のこと……」

[490]【なぎさ】

[491]「沢井……」

[492]なぎさ先輩の両手が、

[493]そっとわたしの頬を包み込んでくれた。

[494]わたしの唇に、なぎさ先輩の吐息を感じる。

[495]ふと、わたしは

[496]なぎさ先輩の唇を人差し指で止めた。

[497]【なぎさ】

[498]「沢井?」

[499]なぎさ先輩が目を丸くしてわたしを見ている。

[500]わたしはニコッと笑いかけてみた。

[501]【かおり】

[502]「その前に……沢井、って呼ぶの、

[503] いい加減やめませんか?」

[504]【なぎさ】

[505]「え……」

[506]わたしの言葉の意味を理解したなぎさ先輩の頬が

[507]さぁっと赤く染まっていく。

[508]【なぎさ】

[509]「えと……。

[510] じゃ、じゃあ……かおり?」

[511]【かおり】

[512]「最後の疑問形はナシがいいです」

[513]【なぎさ】

[514]「……ん、んもうっ、

[515] かおりったらワガママさんね」

[516]なぎさ先輩がくすっと笑ってくれる。

[517]【かおり】

[518]「だって、なぎさ先輩が甘やかしてくれるから。

[519] だからわたしも

[520] 思いっきり甘えようって思うんです」

[521]【なぎさ】

[522]「可愛い、かおり……」

[523]【かおり】

[524]「なぎさ先輩……」

[525]【なぎさ】

[526]「……あたしで、いいの?」

[527]優しいキスを交わしてるのに、

[528]まだ不安らしいなぎさ先輩に、

[529]わたしはにっこりと微笑んでみせた。

[530]【かおり】

[531]「なぎさ先輩がいいんです。

[532] なぎさ先輩だから……いいんです」

[533]なぎさ先輩の頬を、

[534]一筋だけ、涙が伝い落ちて……。

[535]【なぎさ】

[536]「沢井っ!

[537] じゃなくて、かおりっ!」

[538]【かおり】

[539]「なぎさ先輩っ!」

[540]ふたりで、ぎゅっと抱きしめ合う。

[541]【なぎさ】

[542]「これからも、一緒に頑張っていこうね!」

[543]唇を離し、それでも吐息が触れるほど近くで

[544]なぎさ先輩がふわりと微笑んだ。

[545]【かおり】

[546]「はい!

[547] これからもずっと一緒ですよ、なぎさ先輩!!」

white_robe_love_syndrome/scr00811.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)