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white_robe_love_syndrome:scr00803

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[001]詰所で申し送り前の情報収集をしていると

[002]山之内さんがススス〜と近づいてきた。

[003]【やすこ】

[004]「見〜た〜で〜っ!」

[005]【かおり】

[006]「な、何ですか、急に……」

[007]不気味な笑顔に、

[008]わたしは思わず一歩だけ距離をとる。

[009]【やすこ】

[010]「藤沢と同伴出勤やなんて、

[011] 意外と大胆なことやりよるな、新人。

[012] 昨夜はお楽しみやったん!?」

[013]【かおり】

[014]「……っ!」

[015]ボッと、顔が熱くなった。

[016]【やすこ】

[017]「その反応、かーわーいーい」

[018]【かおり】

[019]「おっ、お楽しみって……!

[020] べ、別に、朝一緒になっただけで……」

[021]真っ赤になった顔を慌てて伏せて、

[022]手元の資料をまとめようとした。

[023]なのに、うろたえすぎて

[024]手元の記録メモを取り落としてしまう。

[025]【かおり】

[026]「やぁあん!」

[027]ああもう、わたしのバカ!

[028]【やすこ】

[029]「おーおー、うろたえまくりで初々しいなぁ。

[030] うちらにもあんな時代はあったんかなぁ、

[031] なぁ、主任?」

[032]山之内さんが、主任さんに話を振った。

[033]ぎくりとして、

[034]おそるおそる主任さんを見る。

[035]一瞬、目が合ったと思ったけれど、

[036]主任さんは何事もなかったかのように

[037]視線をそらした。

[038]【はつみ】

[039]「みなさん、おしゃべりはそこまで。

[040] 申し送りをはじめます。

[041] おはようございます」

[042]【やすこ】

[043]「はーい、おはようございますー」

[044]【かおり】

[045]「え、……ちょっ!?」

[046]わたし、まだ準備できてないっ!!

[047]山之内さんたら、

[048]何事もなかったかのように

[049]澄ました顔で申し送りに参加してるし!

[050]主任さんの厳しい視線に、

[051]わたしも慌ててメモの準備をする。

[052]【はつみ】

[053]「では夜勤さん、お願いします」

[054]しっかりしなきゃ!!

[055]今日こそ頑張るんだから!

[056]わたしは改めて気合を入れ直して、

[057]夜勤さんの申し送りに耳を傾けた。

[058]待ちに待ったお昼ごはん!

[059]朝、なぎさ先輩と一緒に作った

[060]手作り弁当を食べる。

[061]あ〜ん、この至福!!

[062]一緒に作ってわかったんだけど、

[063]なぎさ先輩って、すっごくお料理上手なのよね。

[064]わたしはもう、そこにいるだけ、材料を渡すだけで、

[065]このお弁当、ほとんどがなぎさ先輩が作ったの。

[066]そう考えると……。

[067]【かおり】

[068]「……なぎさ先輩の、手作り弁当……うふ」

[069]ちょっとニヤニヤしちゃう。

[070]ニヤニヤして、ハッとした。

[071]わたし、もうほとんど食べちゃったよ!

[072]せっかくのなぎさ先輩の手作り弁当なのに、

[073]もっと味わって食べておけば……!!

[074]【???】

[075]「……何を百面相しているのよ、あなたは?」

[076]【かおり】

[077]「!!」

[078]顔を上げると、

[079]仕出屋のお弁当箱を持った主任さんが

[080]呆れ顔で立っていた。

[081]【かおり】

[082]「しゅ、主任さんも今から……ですか?」

[083]お昼休憩は交代で四十五分ずつ取ることになってるの。

[084]前半の人が休憩から出た後、

[085]後半の人が休憩に入ることになってて、

[086]今日の前半休憩って

[087]わたしと山之内さんだったと思うんだけど……。

[088]【はつみ】

[089]「山之内さんが先に入れないとのことだから。

[090] これ以上、お昼の時間を伸ばしても

[091] 仕方がないでしょう」

[092]【かおり】

[093]「…………」

[094]目の前に座って、

[095]お弁当を食べ始めた主任さんから

[096]そっと視線を逸らす。

[097]なぎさ先輩が外科に行く前は

[098]主任さんにすごく親しみやすさを感じてたのに、

[099]なぎさ先輩が外科に行っちゃってからは

[100]何だか、距離を感じるようになっちゃった……。

[101]……って、わたしがボケーッてしてて

[102]ちゃんと仕事してないのが悪いんだけど。

[103]でも、これからは、ちゃんと頑張るもん!

[104]そしたら、主任さんもガミガミ叱るんじゃなくて、

[105]また以前のように、普通に接してくれるようになるかな。

[106]【はつみ】

[107]「……個人のプライベートのことを

[108] 色々と言うつもりはないのだけれど」

[109]いきなり言われてドキッとした。

[110]顔を上げると、

[111]主任さんの目がまっすぐにわたしを見ている。

[112]【はつみ】

[113]「職場恋愛もいいけれど、

[114] 一人前になってからすることね」

[115]【かおり】

[116]「…………!」

[117]ザブンと冷水をあびせられたような

[118]そんな気がした。

[119]【はつみ】

[120]「……ごちそうさま」

[121]主任さんはもう食べ終わったらしく、

[122]お弁当を片付けて、

[123]休憩室を出て行こうとする。

[124]は、早い!!

[125]【はつみ】

[126]「わたしは仕事があるから戻るけれど、

[127] あなたはちゃんと時間通り

[128] 休憩してから出てきなさい」

[129]そして、そのまま、わたしの方を振り返らずに、

[130]休憩室から出て行ってしまった。

[131]【かおり】

[132]「…………」

[133]     「職場恋愛もいいけれど、

[134]      一人前になってからすることね」

[135]主任さんの言葉が頭から離れない。

[136]わかってる。

[137]主任さんの言う通りだと思う。

[138]半人前でしかないわたしが

[139]恋愛に浮かれて、仕事をおろそかにしてたんだもん、

[140]言われて当然のことだよね。

[141]……でも。

[142]頭ではわかっていても、

[143]すごく……ショックだった。

[144]膝の上に置いたお弁当を見る。

[145]……なぎさ先輩が作ってくれた、お弁当。

[146]さっきまで、すごく胸の中があったかかったのに

[147]今は冷え切ってしまってる……。

[148]【かおり】

[149]「……食べなきゃ」

[150]味なんてわからないけど、

[151]このお弁当を残すわけにはいかない。

[152]大好きななぎさ先輩が

[153]わたしのために作ってくれたお弁当だもの。

[154]ちゃんと味わって食べなくちゃね……。

[155]【かおり】

[156]「…………」

[157]あ、あれ?

[158]……どうして涙が出るんだろう?

[159]わたし、頑張らなくちゃいけないのに。

[160]でも、今だけなら、いいよね……。

[161]誰も見てない、今だけなら……

[162]なぎさ先輩に心配をかけない、今だけなら……。

[163]【さゆり】

[164]「どうぞ」

[165]【かおり】

[166]「失礼します」

[167]堺さんはベッドの上、

[168]開け放した窓から外を眺めている。

[169]【かおり】

[170]「じゃあ、点滴交換しますねー」

[171]【さゆり】

[172]「…………」

[173]返事はない。

[174]【さゆり】

[175]「沢井さん、あの人と仲がいいんですか?」

[176]【かおり】

[177]「あの人?」

[178]あの人、という言葉が

[179]誰のことを指すのかわからなくて、

[180]わたしは堺さんを見る。

[181]【さゆり】

[182]「外科に行った、藤沢さん……。

[183] 今朝、一緒に出勤してたみたいですけど?」

[184]その言葉で、

[185]堺さんの言う『あの人』というのが

[186]なぎさ先輩のことだと思い至った。

[187]【かおり】

[188]「ああ、なぎさ先輩……藤沢さんはね、

[189] わたしの高校の時の先輩で……って、

[190] どうしてそんなことを訊くの?」

[191]【さゆり】

[192]「…………」

[193]ちょっとした疑問を口にしただけなのに、

[194]堺さんは黙って、ふいっと顔をそらす。

[195]【かおり】

[196]「どうかしたの……?」

[197]【さゆり】

[198]「…………」

[199]堺さんは黙って海を見ている。

[200]…………。

[201]堺さんがわたしの言葉を無視するのは

[202]いつものことなので、

[203]わたしは黙々とボトルを交換し、滴下を調整した。

[204]【さゆり】

[205]「……わたし、あの人、嫌い」

[206]【かおり】

[207]「え?」

[208]あの人、って、なぎさ先輩のこと……?

[209]【さゆり】

[210]「あの人、できることをしないから」

[211]堺さんの言葉に、

[212]わたしは手を止めて、堺さんを見た。

[213]【さゆり】

[214]「できないことの言い訳ばかりで、

[215] できるかもしれないことをやりもしない。

[216] 看護師として、あるまじき存在です」

[217]辛らつな言葉。

[218]まるでわたしが言われたことのように、

[219]指先が震えて、冷たくなっていくような感覚。

[220]でも、ショックを受けてる場合じゃない。

[221]……何とかフォローしなくちゃ!

[222]【かおり】

[223]「で、でも、なぎさ先輩、

[224] すごくいい人だよ?」

[225]【さゆり】

[226]「……あなた、バカですか?」

[227]【かおり】

[228]「え……」

[229]【さゆり】

[230]「ここはあなたたちにとっての職場でしょう?

[231] 仕事をしてもらう対価として、

[232] わたしたち患者はお金を払っているんです」

[233]【さゆり】

[234]「その人がいい人かどうかなんて関係ありません。

[235] わたしたち患者の望む100%のサービスを

[236] 提供できるかどうかが問題なんです」

[237]【さゆり】

[238]「そういう意味で、

[239] あの人は問題外だと言っているんです」

[240]【かおり】

[241]「…………」

[242]たしかに、言われてみればそうかもしれない。

[243]わたしたちはつい、

[244]指示された仕事をすればいいって考えるし、

[245]実際にそういう仕事をすることも多いと思う。

[246]でも、患者さんにとっては

[247]そんなわたしたちの仕事に満足してるかというと、

[248]そうじゃないんだよね。

[249]患者さんたちがわたしたちに求めるものは

[250]『医療サービス』だって、頭ではわかってる。

[251]それは、医療的な知識だったり、

[252]注射や採血の手技だったり、

[253]コミュニケーションスキルだったり、

[254]入院中、安全安楽に過ごせる管理能力だったり。

[255]患者さんはそれらの総合的なサービスを求めてる。

[256]けれど……、少なくともわたしは、

[257]患者さんのベッドサイドで、

[258]患者さんが100%満足するようなサービスなんて

[259]提供できない……。

[260]【さゆり】

[261]「外科に行ったあの人も、

[262] そこに突っ立ってるだけのあなたも、

[263] その点で、わたしはまったく尊敬できません」

[264]【さゆり】

[265]「……尊敬以前に、

[266] ちゃんとした看護師だとも思っていませんけどね」

[267]【かおり】

[268]「…………」

[269]冷たい、堺さんの言葉。

[270]とても冷たいけど、

[271]堺さんの言うことは正しい。

[272]看護職は専門技術職でもあり、

[273]またサービス業でもある。

[274]専門技術にしても、サービスにしても、

[275]どちらも患者さんが満足できないレベルなんだから

[276]キツいこと言われても当然なんだよね。

[277]【さゆり】

[278]「……終わったら、

[279] さっさと出て行ってくれませんか。

[280] 邪魔です」

[281]【かおり】

[282]「あ、うん……、失礼しました……」

[283]堺さんの言うことは正しいよ。

[284]正しいんだけど、

[285]……だからこそ、へこむ……。

[286]はぁ。今日も疲れたなぁ。

[287]服も着替えないままベッドに倒れ込む。

[288]このまま眠っちゃいたい気分だけど、

[289]ふと堺さんに言われた言葉が頭に浮かんだ。

[290]  「ここはあなたたちにとっての職場でしょう?

[291]   仕事をしてもらう対価として、

[292]   わたしたち患者はお金を払っているんです」

[293] 「その人がいい人かどうかなんて関係ありません。

[294]  わたしたち患者の望む100%のサービスを

[295]  提供できるかどうかが問題なんです」

[296]……へこんだ。

[297]これ以上ないダメ出しだよね、

[298]的確すぎて涙が出そう。

[299]……でも。

[300]もそもそとベッドから起き上がる。

[301]卒業して、免許を取って、

[302]そこで初めてスタートラインに立てただけ。

[303]それを気づかせてもらえて、

[304]堺さんには感謝しなきゃ、だよね。

[305]よしっ、勉強しよっ!

[306]経験不足なのはともかく、

[307]少なくとも、今入院してる患者さんの

[308]疾患についてくらいは、

[309]しっかり頭に叩き込まないと!

[310]【かおり】

[311]「あれ? なぎさ先輩?」

[312]画面に表示されたなぎさ先輩の名前。

[313]【かおり】

[314]「は、はい」

[315]【なぎさ】

[316]「あ、沢井?

[317] あたし、今から帰るんだけどね、

[318] よかったら今日、そっち行ってもいい?」

[319]【かおり】

[320]「なぎさ先輩……」

[321]【なぎさ】

[322]「今、更衣室なんだけど、

[323] 何か買ってくのがあれば買ってくわよ」

[324]【かおり】

[325]「あ、あの……」

[326]一瞬、答えを迷ってしまった。

[327]なぎさ先輩との飲み会はすごく楽しい。

[328]一晩中おしゃべりして、お菓子を食べて、

[329]また一緒に眠れたら、幸せだと思う。

[330]けれど……。

[331]【かおり】

[332]「わたし、今日は勉強しようと思います。

[333] ……だから、ごめんなさい」

[334]暗い声になっていたのか、

[335]電話の向こうでなぎさ先輩の声が

[336]心配そうに響いた。

[337]【なぎさ】

[338]「沢井? どうかした?

[339] 何かあったの?」

[340]わたしは少しだけ迷って、

[341]なぎさ先輩に話すことにした。

[342]【かおり】

[343]「実は……今日、堺さんに

[344] 看護師として尊敬できないって言われたんです」

[345]【なぎさ】

[346]「堺さん?」

[347]【かおり】

[348]「いい人だろうが何だろうが、

[349] 給料に値する働きをするべきだって言われて、

[350] わたしちょっと悩んでしまって」

[351]【かおり】

[352]「今までは知識や経験が足りないところは、

[353] 一所懸命に接することでカバーできればって

[354] 思ってたんですけど……」

[355]【なぎさ】

[356]「うん、最初はそれでいいと思うよ?」

[357]【かおり】

[358]「でも、患者さんは安らぎを求めて

[359] 病院に来てるわけじゃないじゃないですか……」

[360]【かおり】

[361]「堺さんの言うことももっともだと思うんです。

[362] 患者さんは看護師に『いい人』であることを

[363] 求めてるわけじゃない」

[364]【かおり】

[365]「看護師は、ちゃんとした看護師であることを

[366] 求められてる……そんなの、当たり前ですよね」

[367]【かおり】

[368]「今まで、そんなこともわかってなかったなんて……。

[369] ……わたし、看護師失格ですよね」

[370]【なぎさ】

[371]「それはそうだけど……。

[372] でもね、沢井、看護師っていっても、

[373] 中身は普通の女の子なのよ?」

[374]【なぎさ】

[375]「休みたいし、遊びたいし、

[376] 恋だってしたいって思って当然じゃない?」

[377]【かおり】

[378]「でも……、

[379] 今のわたしは職場では半人前にすらなってなくて……」

[380]【かおり】

[381]「採血だってひとりでできなくて、

[382] 免許を持ってて、白衣を着てるだけの

[383] ハリボテ看護師なんです」

[384]【なぎさ】

[385]「……ハリボテ……」

[386]【かおり】

[387]「……一人前にはまだなれなくても、

[388] せめて半人前にはなりたい……」

[389]【なぎさ】

[390]「……そう、わかったわ」

[391]【かおり】

[392]「なぎさ先輩……。

[393] じゃあ、そういうわけなので……」

[394]……なぎさ先輩、わかってくれた……。

[395]やっぱりわたしのなぎさ先輩だなぁ。

[396]さてと!

[397]わたしも勉強を頑張って、

[398]なぎさ先輩と早く一緒に

[399]働けるようになるんだから!

[400]【かおり】

[401]「……ん?」

[402]あれ?

[403]わたし、寝ちゃってたんだ。

[404]机に突っ伏した姿勢で目が覚めた。

[405]……うう、身体が痛い。

[406]時計を見ると、すでに零時すぎ。

[407]ん、電話?

[408]ケータイの表示は、『非通知着信』。

[409]【かおり】

[410]「…………」

[411]また、だ……。

[412]こんな夜中に非通知でかけてくるなんて、

[413]無視よ、無視!

[414]今度はメールが来た。

[415]…………。

[416]もしかしたら

[417]なぎさ先輩のメールかもしれないし……。

[418]ちょっとだけ、見てみようかな……。

[419]ケータイに手を伸ばした途端、

[420]再びメールの着信音が鳴る。

[421]ケータイを開き、メールの受信箱を開けてみた。

[422]      『ずっとおまえを見ている』

[423]目に飛び込んだ文字に、思わず息を飲んだ。

[424]           『酒乱』

[425]      『もうおまえはにげられない』

[426]         『にがさない』

[427]前のタイトルがないメールと違い、

[428]今度はメールのタイトルだけで、

[429]その中身が何なのかわかってしまった。

[430]これは、見てはいけないもの。

[431]この先を見ては、いけない。

[432]思わずケータイを放り投げた。

[433]怖い!

[434]怖いよ、怖い!

[435]どうして……!?

[436]一体、なんなの!?

[437]わたしが何をしたっていうの!?

[438]ケータイの電源を落としたいと思いつつ、

[439]身体が何かに縛り付けられたように動かない。

[440]誰が、何のためにやっているのかわからない。

[441]けれど、誰かにわたしは恨まれてるの?

[442]殺したいほどに、わたしを恨んでいる人がいるの?

[443]もしかして、またあの人が……!?

[444]ううん、あの人じゃないかもしれない。

[445]わたしの知らない誰かかもしれない。

[446]相手のわからない恐怖。

[447]わけのわからない黒い大きな影に

[448]取り込まれてしまいそう。

[449]誰か助けて!

[450]……誰か、助けてっ!

[451]叫ぶものの、声にはならない。

[452]目に見えない誰かの視線が怖い。

[453]悪意が、怖い。

[454]もう、こんなの見たくない!!

[455]電源を落とそうと手を伸ばして、

[456]チラリと目に入ったタイトルに、ふっと力が抜けた。

[457]ケータイを手にして、

[458]そのメールを見る。

[459]メールタイトルは『頑張って!』。

[460]そして、メールの内容は……。

[461]『勉強頑張ってる?

[462] あんまり張り切りすぎて身体壊さないように!

[463] おやすみ。またゆっくりおしゃべりしようね』

[464]可愛い絵文字が踊る、なぎさ先輩からのメール。

[465]【かおり】

[466]「うっ……」

[467]出したいと思っていた声がようやく出た。

[468]喉の奥から溢れてくる声。

[469]【かおり】

[470]「……ぱい……、

[471] なぎさ、せん、ぱいっ!」

[472]大丈夫だよって、言って欲しい。

[473]あたしがそばにいるよ、って言って

[474]そばにいて、安心させてほしい。

[475]優しい手で、触れてほしい。

[476]なぎさ……なぎさ先輩っ!

[477]【かおり】

[478]「う……、ううっ、

[479] う、うわぁぁぁん!!」

[480]ケータイを握り締めて、

[481]わたしはいつまでも泣き続けた。

[482]……また、あの、夢……。

[483]そして、目の前には、いつもの女の子。

[484]【???】

[485]「どうして泣いているの?」

[486]【かおり】

[487]「え……?」

[488]はっと頬に手をやると、ひたりと濡れた涙の感覚。

[489]わたし……、泣いてたんだ……。

[490]【???】

[491]「どうして、泣いているの?」

[492]女の子がわたしの頬に手を伸ばしてきた。

[493]冷たい手が、優しく触れる。

[494]あなたが優しいから、かも

[495]好きな人にありのままの自分を見せられない

[496]【かおり】

[497]「あなたが優しいから、かも」

[498]何とか笑顔を作る。

[499]だって、こんな小さな女の子に

[500]心配かけるなんてダメだもんね。

[501]……そう……、

[502]わたし、ダメな子だよね。

[503]【かおり】

[504]「……わたしね、いろいろ失敗だらけなの」

[505]【???】

[506]「…………」

[507]女の子は無表情のまま聞いてくれてる。

[508]【かおり】

[509]「なりたくてなった職業なのに、

[510] 指摘されるまで、自分がどうすればいいのか

[511] 全然わかってなかったの……」

[512]【かおり】

[513]「……自分のダメさ加減に

[514] ホントへこんじゃう……」

[515]【かおり】

[516]「好きな人に、

[517] ありのままの自分を見せられないの」

[518]【???】

[519]「…………」

[520]女の子は無表情のまま聞いてくれてる。

[521]反応がないのがさみしいけど、

[522]でも、聞いてくれる人がいるのって心強い気がする。

[523]【かおり】

[524]「……わたしね、好きな人がいるの」

[525]【かおり】

[526]「ずっと憧れてて、やっと追いついたと思ったら、

[527] また引き離されちゃって、ずっとへこんでたの。

[528] 離れたことがさみしくて、拗ねてもいたの……」

[529]【かおり】

[530]「でも、わたし、頑張ろうって思ったのよ、

[531] 頑張ろうって思うまでに、

[532] いろんな人に迷惑かけちゃったけど」

[533]【かおり】

[534]「でも、わたしはまだまだダメダメで、

[535] その度にへこんじゃうの……」

[536]【かおり】

[537]「こんなダメダメなわたしじゃ、

[538] なぎさ先輩にふさわしくないって思ったら

[539] もっとへこんじゃって……」

[540]【かおり】

[541]「……本当はそばにいて欲しいのに、

[542] そばにいて、なんて……言えないよね……」

[543]【???】

[544]「…………」

[545]女の子はやっぱり無表情のまま、

[546]わたしを見上げている。

[547]【???】

[548]「あなたの人生よ、

[549] あなたの思うとおりに生きればいいわ」

[550]え、と思った時には、

[551]既に女の子はわたしの目の前から消えていた……。

white_robe_love_syndrome/scr00803.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)