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white_robe_love_syndrome:scr00755

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[001]あれから、特に何事もなく

[002]一週間が過ぎた。

[003]奪っちゃうかも宣言をした堺さんは、

[004]特に何のアクションも起こすこともなく、

[005]わたしたちは平和に日々の勤務をこなしている。

[006]主任さんの脅しが効いてるのかな?

[007]相も変わらず、病棟は忙しい。

[008]はつみさんの部屋に泊まりに行く時以外は、

[009]なぎさ先輩と電話をして、

[010]情報交換なんかしちゃったりしてるけど、

[011]忙しさは外科も同様らしい。

[012]【さゆり】

[013]「306、行ってきます!」

[014]【かおり】

[015]「大丈夫?

[016] 子供部屋だけど、わたしもついて行こうか?」

[017]【さゆり】

[018]「ふっ……わたしを誰だと思っているんですか?

[019] 百合ヶ浜に戻ってこなければ、

[020] 今頃は帝大の小児科でバリバリと……」

[021]【やすこ】

[022]「はーい、そこのふたり。

[023] クチ動かさんと、手ェ動かし」

[024]【かおり】

[025]「はーい!」

[026]【さゆり】

[027]「では、行ってきます!」

[028]――とまぁ、こんな感じで

[029]内科病棟は外科病棟とは違う忙しさで、

[030]それでも、ゆるゆると回っている。

[031]少し離れたドクターデスクで、

[032]主任であるはつみさんが

[033]眩しいものを見るように、こちらを見ていた。

[034]【かおり】

[035]「はつ……主任さん、

[036] どうかしたんですか?」

[037]【はつみ】

[038]「いえ……、

[039] 何でもないのよ」

[040]【はつみ】

[041]「ただ……あなたと堺さんの遣り取りを見ていると

[042] まるで本当の姉妹のようにも見えて、

[043] ちょっと懐かしい気分になっただけ」

[044]【かおり】

[045]「わたし、堺さんのプリセプターですから。

[046] でも、デキのいい妹を持つと大変ですね、

[047] 口じゃ勝てませんから」

[048]【はつみ】

[049]「……ふふ。

[050] そうね、そうかもしれないわね」

[051]はつみさんが遠い目をしている。

[052]もしかしたら、

[053]はづきちゃんを思い出しているのかもしれない。

[054]【やすこ】

[055]「甘ーいフンイキ壊すようで申し訳ないんですが、

[056] 今な、めっさ忙しいねんやんか。

[057] 猫の手も借りたいくらいやねんやんか」

[058]【やすこ】

[059]「イチャつくんは帰ってから、寮でやってんか!」

[060]山之内さんの一喝に、

[061]わたしたちは一瞬だけ顔を見合わせ、

[062]どちらからともなく吹き出した。

[063]【かおり】

[064]「……何だか、こうして

[065] はつみさんの部屋でくつろぐの、

[066] 久しぶりのような気がします……」

[067]【はつみ】

[068]「そうね。

[069] 堺さんの相談の時は、

[070] わたしが彼女の部屋に行っていたし……」

[071]苦笑しながらも、

[072]はつみさんが紅茶を出してくれた。

[073]あれから随分と研究したらしく、

[074]最近のはつみさんの紅茶は

[075]意外と美味しくなってるの。

[076]……ただ、時々、

[077]とんでもない味の飲み物が出てくる時もあって、

[078]ちょっとしたロシアンルーレットだけど。

[079]【かおり】

[080]「それって、

[081] 部屋が散らかってるのを

[082] 堺さんに見られたくなかったからですか?」

[083]【はつみ】

[084]「あなた以外の人を

[085] この部屋に入れたくなかったからよ!」

[086]すかさず、ムッとした顔で

[087]はつみさんが言い返してくる。

[088]【かおり】

[089]「は、はつみさん……!!」

[090]嬉しくなって、うっとりと

[091]見慣れたはつみさんの顔を見つめていると、

[092]どんどんと頬から耳へと、そして、顔全体へと

[093]顔が赤らんでゆく。

[094]【はつみ】

[095]「も、もう……嫌だわ。

[096] こんなこと言わせないでちょうだい。

[097] ……ばか」

[098]照れるはつみさんが

[099]チョー可愛いんですけど!!

[100]あああ、キスしたい……っ!!

[101]【かおり】

[102]「あれ?

[103] 誰か来た……」

[104]気を削がれて、がっかりする。

[105]そう、相手は病棟主任、

[106]勤務外の時間でも、

[107]仕事の件で訪ねてくる人もいるだろう。

[108]【はつみ】

[109]「そんなの、放っておきなさい、

[110] 今はプライベートよ。

[111] 居留守していれば、その内、諦めてどっか行くわ」

[112]【かおり】

[113]「もう、そういうわけにもいかないでしょう、

[114] 仮にも主任さんなんだから!

[115] こういうところ、ホント、ズボラですよ……ね」

[116]ドアの向こうにいたのは――!!

[117]【さゆり】

[118]「こんばんわ。

[119] 勉強を教えてもらいに来ました!

[120] お邪魔します!!」

[121]【かおり】

[122]「え……?

[123] あの、えぇ……っと!?」

[124]唖然としている間に、

[125]堺さんは、はつみさんの部屋に上がり込んでしまった。

[126]あああああっ、

[127]わたしとはつみさんだけの甘い空間が……っ!!

[128]【さゆり】

[129]「昼間、沢井さんにわからないことを質問したんですが

[130] 埒が明かなかったので、

[131] お部屋を襲撃させていただきました」

[132]【かおり】

[133]「しゅ、襲撃……って……」

[134]堺さんの言葉に、

[135]はつみさんは苦笑を浮かべている。

[136]ああ……、

[137]はつみさんの言う通り、

[138]ドアなんか開けるんじゃなかった……。

[139]【はつみ】

[140]「来ちゃった以上は仕方がないけれど、

[141] この部屋はわたしとかおりの愛の巣だってこと、

[142] 忘れないでちょうだいね?」

[143]一応、とばかりに、

[144]チクリとはつみさんが釘を刺す。

[145]けど、聞いてるんだかいないんだか、

[146]堺さんは、ぐるりと興味深そうに

[147]部屋を見回している。

[148]【さゆり】

[149]「……わたし、聞いたことがあるんですけど、

[150] 自分の部屋を最も快適な『巣』にしちゃうナースって

[151] 結構いるんですってね」

[152]【さゆり】

[153]「そんな風に『巣作り』してしまうから、

[154] 恋人ができないんですって」

[155]【はつみ】

[156]「わたしにはかおりという恋人がいます!!」

[157]【かおり】

[158]「はつみさん……」

[159]【さゆり】

[160]「……あー、はいはい、おふたりがバカップルなのは

[161] もう十分にわかりましたから、この抗がん剤の

[162] 薬理的作用と副作用について教えてください!」

[163]堺さんが持ってきた用紙には、

[164]病棟でも見たことのある抗がん剤のリストが

[165]書かれてある。

[166]チラッと、はつみさんを見ると、

[167]顔つきが看護師モードになってた。

[168]こりゃダメだ。

[169]あーあ、

[170]せっかくの甘い時間だったのに……。

[171]【かおり】

[172]「うう……、

[173] 堺さんのお邪魔虫ぃ……」

[174]【さゆり】

[175]「悔しかったら、沢井さんも、

[176] 後輩の質問くらいすぐ返せるように

[177] お勉強しておいてください」

[178]【かおり】

[179]「あうう……」

[180]何も言い返せなくて、

[181]その場は堺さんの緊急勉強会の場になってしまった……。

[182]ひとしきり勉強してから、

[183]堺さんはおとなしく帰っていった。

[184]もしかしたら、

[185]ちょっとイジワルしたくなっただけなのかも

[186]しれないよね。

[187]【はつみ】

[188]「まったく困ったものね。

[189] ここはわたしとあなただけの『愛の巣』だって

[190] あなたも認識してくれなくては」

[191]うっ、

[192]はつみさんったら、

[193]わたしが勝手にドアを開けたこと、

[194]根に持ってる……?

[195]【かおり】

[196]「あ、愛の巣、って……何だか

[197] 言葉自体が照れ臭いです」

[198]【はつみ】

[199]「馬鹿ね、それがいいのよ、

[200] わかっていないわね」

[201]くすくすとはつみさんが笑ってる。

[202]……ふと、

[203]もし、今、はづきちゃんがいたら、

[204]こんな感じなのかもしれないって考えた。

[205]わたしとはつみさんがイチャイチャしてたら、

[206]はづきちゃんがヤキモチ焼いて。

[207]わたしとはづきちゃんが遊んでたら、

[208]はつみさんが拗ねた顔で

[209]勉強は終わったの、って注意して。

[210]それで、

[211]はつみさんとはづきちゃんの姉妹の絆を感じたら、

[212]わたしが卑屈になって、拗ねるの。

[213]はづきちゃんが堺さんになっただけで、

[214]わたしたちの関係は何も変わらないのかもしれない。

[215]もっとも、当時のはつみさんは

[216]事故があって初めて

[217]わたしの存在を知ったみたいだけど。

[218]【かおり】

[219]「……でも、堺さん、

[220] 気を利かせてくれたんですよね」

[221]【はつみ】

[222]「ふふ、あの子は頭の良い子だもの、

[223] わたしたちの自慢の妹だわ」

[224]【かおり】

[225]「妹……ですか?」

[226]【はつみ】

[227]「そうよ。

[228] 不安定だったあの子の心をあなたが支えて、

[229] そのサポートをわたしがした」

[230]【はつみ】

[231]「あなたがいなければ、

[232] あの子は頭でっかちのまま、

[233] 現実に押し潰されていたわね、きっと」

[234]【はつみ】

[235]「それを救ったのが……かおり、あなたよ」

[236]【かおり】

[237]「はつみさんだって、

[238] わたしを救ってくれました……」

[239]【はつみ】

[240]「……そうだったわね」

[241]【はつみ】

[242]「堺さんがわたしたちの妹であると同じく、

[243] あなたもわたしの妹であり、

[244] 大切な恋人なのよ」

[245]【かおり】

[246]「はつみさん……」

[247]【はつみ】

[248]「姉として、

[249] あなたたちの成長が楽しみでならないわ」

[250]【かおり】

[251]「はい、わたし、

[252] はつみさんの隣に立っても恥ずかしくない

[253] ちゃんとした看護師になります!」

[254]【かおり】

[255]「だから……ね?」

[256]はつみさんにしなだれかかって、

[257]そっと目を閉じた。

[258]【はつみ】

[259]「んもう、

[260] かおりは甘えん坊さんね」

[261]はつみさんからのキスは

[262]とても甘い、ハニーミルクティーの味がした。

white_robe_love_syndrome/scr00755.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)