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white_robe_love_syndrome:scr00741

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[001]でも……。

[002]今は勤務時間だから、

[003]そういう個人的な質問は

[004]避けた方がいいよね。

[005]訊く時間なら、

[006]あとで、ふたりきりになった時にでも

[007]ゆっくりと……。

[008]そう思いながら、主任さんを見ると、

[009]わたしを見た主任さんと目が合った。

[010]【はつみ】

[011]「…………」

[012]慌てて目を逸らした主任さん。

[013]あ、あれ?

[014]怒らせちゃったかな、と思ってよく見ると、

[015]耳たぶがほんのりと赤い。

[016]【かおり】

[017]「あ、あの……主任さん?」

[018]【はつみ】

[019]「……そんな目で見ないで。

[020] 照れてしまうわ」

[021]主任さんは

[022]そそくさと詰所を出て行った。

[023]……可愛いなぁ、もう。

[024]部屋番号を確認する。

[025]206号室。

[026]主任さんの部屋。

[027]…………。

[028]あれ?

[029]主任さん、まだ帰ってないのかな?

[030]【かおり】

[031]「そうだよね、

[032] 主任なんて肩書きがあるんだから

[033] 忙しいのは当然よね」

[034]仕方がないので、

[035]メモを残すことにする。

[036]【かおり】

[037]「えっと……『聞きたいことがあるので、

[038] 帰ったら、ご連絡ください』っと」

[039]メモをドアに挟んで、

[040]わたしは主任さんの部屋の前を

[041]後にした。

[042]【かおり】

[043]「はーい!」

[044]【はつみ】

[045]「こ、こんばんは……」

[046]【かおり】

[047]「お疲れ様です!

[048] すみません、わざわざ来ていただいて!」

[049]わたしの部屋に来てくれた主任さん。

[050]ああ、どうしよう、

[051]ドキドキして、主任さんの顔が見られない。

[052]主任さんも緊張しているらしくて、

[053]ふたりで玄関先でモジモジしてる。

[054]【はつみ】

[055]「あ、あの……、

[056] 入ってもいいかしら?」

[057]【かおり】

[058]「すみません、気が利かなくて!

[059] どうぞ、入ってください!」

[060]部屋の真ん中で、

[061]主任さんと向き合って座る。

[062]何か言わなきゃと思うのに、

[063]何て言えばいいのか、言葉が思い浮かばない。

[064]……というか、

[065]わたしにはそういう駆け引きなんて

[066]最初から無理なのよね。

[067]【かおり】

[068]「え、えっと……。

[069] わたし、主任さんのこと、大好きです!」

[070]主任さんは、少し驚いたような顔をして、

[071]それから、にこっと微笑んでくれた。

[072]【はつみ】

[073]「……そう。

[074] わたしもあなたのことが大好きよ」

[075]【かおり】

[076]「嬉しい……!」

[077]わたしたち、両思いなんだよね!

[078]うわ、どうしよう、感激〜!

[079]【かおり】

[080]「わたし、主任さんのこと、

[081] 何でも知りたいんです!」

[082]主任さんが優しく微笑んでくれてる。

[083]よし、今なら訊ける!

[084]直球勝負しかできないわたしだけど、

[085]たぶん、主任さんなら

[086]わたしの気持ちに応えてくれるはず!

[087]【かおり】

[088]「主任さんには

[089] 妹さんがいたんですか?」

[090]【はつみ】

[091]「そうね……いるわ」

[092]【かおり】

[093]「その妹さんって、

[094] もしかしてわたしに似てたりします?」

[095]主任さんは、わたしの顔をじっと見て、

[096]そして、意味深に微笑んだ。

[097]【はつみ】

[098]「そうね……、

[099] 似ているわね」

[100]主任さんの腕が伸びてきて、

[101]そっと柔らかな胸に抱き寄せられる。

[102]【はつみ】

[103]「どうしてそんなことを訊くの?

[104] わたしのことを知りたいだけ、では

[105] ないのでしょう?」

[106]【かおり】

[107]「……はい」

[108]迷いがなかったわけじゃないけれど。

[109]わたしは、主任さんに

[110]夢のことを話すことにした。

[111]【かおり】

[112]「実は……、

[113] わたしにそっくりな女の子が、

[114] 夢の中に出てくるんです」

[115]【かおり】

[116]「その子が、主任さんのことを

[117] 『お姉ちゃん』って呼んだんです……」

[118]【はつみ】

[119]「そう……」

[120]ぎゅっと抱きしめられる。

[121]顔を上げようとしたけれど、

[122]あたたかな戒めが、そうさせてくれない。

[123]【はつみ】

[124]「夢の中に出てきた女の子は、

[125] きっともうひとりのあなたね」

[126]主任さんの声が、頭の中に優しく響く。

[127]【はつみ】

[128]「もうひとりの自分と

[129] 夢の中で会話する症例を聞いたことがあるわ」

[130]【かおり】

[131]「夢の中のもうひとりのわたし……」

[132]そういえば、あの女の子も

[133]そんなことを言っていたっけ……。

[134]【はつみ】

[135]「それに、その女の子は

[136] もう夢に出てこないわ、きっと」

[137]【かおり】

[138]「え……?」

[139]顔を上げようとして、

[140]再び、ぎゅっと抱きしめられた。

[141]頭の中に

[142]優しくて甘いしびれが広がってゆく……。

[143]【はつみ】

[144]「わたしがずっと傍にいてあげる。

[145] あなたは何も心配しなくてもいいのよ」

[146]【かおり】

[147]「…………」

[148]更にぎゅっと抱きしめられて、

[149]ちょっと息が苦しくなってきた。

[150]このまま、ずっと

[151]抱きしめていて欲しいと願う反面、

[152]このままじゃダメだと

[153]甘くしびれる頭の中で誰かが言っている。

[154]【かおり】

[155]「でも……」

[156]【はつみ】

[157]「ストーカーの時も、

[158] わたしが解決してあげたでしょう?」

[159]【はつみ】

[160]「いつもわたしが傍にいて、

[161] ずっとあなたを守ってあげる。

[162] だからあなたは何も心配しなくてもいいの……」

[163]ふと、どこかで誰かが「かおりちゃん……」と呼んだ。

[164]そんな気がした。

[165]けれど、その声ももう聞こえない。

[166]……もう、何も、聞こえないの、

[167]主任さんの声以外は……。

[168]【はつみ】

[169]「わたしが守ってあげる。

[170] あなたは何も心配しなくてもいいわ」

[171]耳に流れ込んで、

[172]全身の細胞のひと粒ひと粒にまで

[173]染み込んでいくような、優しい声。

[174]息苦しさも、不安さも、

[175]何もかもが消えていくような気がする……。

[176]【かおり】

[177]「……はい、わかりました」

[178]【はつみ】

[179]「いい子ね」

[180]額にキス。

[181]このままでいいのかな、と

[182]思わなくもない。

[183]わたしの疑問は何も解決していない。

[184]でも……。

[185]今は、主任さんの優しいキスに

[186]身をゆだねていたい。

[187]わたしは何も知らなくてもいいの。

[188]だって、こうやって

[189]主任さんがずっと傍にいてくれるんだから――。

white_robe_love_syndrome/scr00741.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)