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white_robe_love_syndrome:scr00703

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[001]          ……あれ。

[002]    また、あの夢の中にいるのね、わたし。

[003]    目の前には、あの女の子が立っている。

[004]   決意した顔で、わたしをじっと見ている。

[005]【???】

[006]「……あなた、

[007] お姉ちゃんのこと、好きなの?」

[008]女の子の言葉に、びっくりした。

[009]【かおり】

[010]「お姉ちゃん……って、誰?」

[011]口にした途端、

[012]脳裏にぱっと顔が浮かんだ。

[013]――照れ笑いを浮かべている、主任さんの顔。

[014]【かおり】

[015]「……お姉ちゃん……?」

[016]これはただのカンなんだけど、

[017]きっと、この子が言っている『お姉ちゃん』は

[018]主任さんのことなんだろう。

[019]そして、同時に

[020]この子が指摘するような感情を……

[021]わたしが好きだと思っている相手は、ひとりだけ。

[022]……ということは……。

[023]【かおり】

[024]「あなた、

[025] 主任さんの妹さん、なの……?」

[026]ズキッと頭の奥が痛んだ。

[027]湧き上がる、わけのわからない恐怖。

[028]思い出してはいけない。

[029]そう、身体中の細胞が叫んでいる感覚。

[030]それでも……!

[031]どんなに痛くても、怖くても、

[032]今、思い出さなければいけないの!

[033]【???】

[034]「かおりちゃん!」

[035]女の子の声。

[036]――記憶の扉が開きそうになる。

[037]【かおり】

[038]「えと……、

[039] 大塚……はつみ、お姉ちゃん……」

[040]あの時、初めて病棟に上がった日、

[041]わたしは、詰所で主任さんを……!

[042]【かおり】

[043]「…………っ」

[044]ハッと目を開けると、

[045]そこはわたしの部屋だった。

[046]……思い出しそうで思い出せない何かが、

[047]胸の奥につかえている気分……。

[048]もう少しで

[049]思い出せそうだったのに。

[050]ゆっくり起き上がって、

[051]洗面台に向かう。

[052]鏡の中のわたし。

[053]主任さんを『お姉ちゃん』と呼んでいる、

[054]幼い頃のわたしに似た女の子。

[055]……何だろう、

[056]あともうちょっとなのに。

[057]思い出せそうなのに、思い出せない……。

[058]なぎさ先輩と山之内さんに渡されたノートの数字を元に、

[059]熱型表に青と赤の鉛筆で線を引く。

[060]つい、体温の青と、脈拍の赤を逆にしそうになるけど、

[061]間違わないように気をつけなくちゃね!

[062]主任さんはいつもの通り、

[063]ドクターデスクで、ドクターの指示に従って

[064]伝票を起こしている。

[065]わたしは線を引きながら、

[066]チラチラと主任さんの横顔を盗み見た。

[067]夢の中のあの女の子は

[068]主任さんの妹さんなのかな?

[069]だとしたら、

[070]どうして、わたしの夢に出てくるんだろう?

[071]あの女の子の顔は

[072]昔の自分にとても似ているけど、

[073]それは関係があるのかな?

[074]主任さんに訊いてみたい……!

[075]でも、今は勤務中だし……どうしよう?

[076]訊く

[077]訊かない

[078]うん、訊いてしまおう。

[079]考えてもわからないことは、

[080]わかりそうな人にさっさと質問して、

[081]さっさと解決した方がいいよね!

[082]【かおり】

[083]「あの、主任さん、

[084] ちょっと質問、いいですか?」

[085]【はつみ】

[086]「ええ、何かしら?」

[087]穏やかな表情で

[088]わたしへと顔を向ける主任さん。

[089]【かおり】

[090]「主任さんって、妹さんとか弟さんとか

[091] いらっしゃいますか?」

[092]【はつみ】

[093]「…………」

[094]主任さんは不快そうに眉を寄せた。

[095]【はつみ】

[096]「今は仕事中よ、

[097] プライベートのことは後になさい」

[098]【かおり】

[099]「は、はい……」

[100]あちゃー、

[101]叱られちゃった……。

[102]うん、そりゃそうだよね、

[103]今は勤務時間だもん、当然かも。

[104]失敗、しっぱい……。

[105]でも……。

[106]今は勤務時間だから、

[107]そういう個人的な質問は

[108]避けた方がいいよね。

[109]訊く時間なら、

[110]あとで、ふたりきりになった時にでも

[111]ゆっくりと……。

[112]そう思いながら、主任さんを見ると、

[113]わたしを見た主任さんと目が合った。

[114]【はつみ】

[115]「…………」

[116]慌てて目を逸らした主任さん。

[117]あ、あれ?

[118]怒らせちゃったかな、と思ってよく見ると、

[119]耳たぶがほんのりと赤い。

[120]【かおり】

[121]「あ、あの……主任さん?」

[122]【はつみ】

[123]「……そんな目で見ないで。

[124] 照れてしまうわ」

[125]主任さんは立ち上がって

[126]赤くなった顔を隠すように

[127]そそくさと出て行ってしまった。

[128]【やすこ】

[129]「……おっと」

[130]入れ替わりに入ってきた山之内さんが

[131]出て行った主任さんの後ろ姿と

[132]熱型表に線を引いているわたしを見て、

[133]ニヤニヤと笑う。

[134]【やすこ】

[135]「……おやおや、お熱いことで。

[136] あーあー、羨ましいなぁ!」

[137]【かおり】

[138]「そ、そんなんじゃないです!

[139] もうっ、からかわないでください!」

[140]ひょいと小さく肩をすくめただけで、

[141]山之内さんはわたしの隣に座って

[142]記録を書き始めた。

[143]ふと、山之内さんに訊いてみようと思いつく。

[144]【かおり】

[145]「あの……主任さんのことですけど、

[146] 主任さんに妹さんがいるとか

[147] 聞いたことあります?」

[148]【やすこ】

[149]「さぁな。

[150] うちは他人のプライベートには興味ないから、

[151] 一切知らん」

[152]【かおり】

[153]「あ、そうですか……」

[154]わたしの期待はサクッと一刀両断。

[155]ま、そりゃそうだよね。

[156]【やすこ】

[157]「ちゅーか、他人のプライベートを

[158] 本人のおらんところで嗅ぎ回るんは、

[159] 褒められたことやないんとちゃう?」

[160]【かおり】

[161]「……そう、ですよね……」

[162]山之内さんの言うことはもっともだよね。

[163]しょぼん、と肩を落としたわたしに、

[164]山之内さんは、にやにやしながら耳打ちしてきた。

[165]【やすこ】

[166]「まぁ、そんな顔すんな、新人。

[167] 代わりにエエこと教えたろ。耳貸せ」

[168]やっとお昼!

[169]今日のお昼の休憩、

[170]シフトの都合で主任さんと一緒なんだよね!

[171]嬉しいけど、ちょっと恥ずかしいな。

[172]主任さんも照れてるみたいで、

[173]会話がぎこちないのもご愛嬌?

[174]【かおり】

[175]「えと……、

[176] きょ、今日は暑いですねー」

[177]【はつみ】

[178]「そ、そうね……」

[179]【かおり】

[180]「こう暑いと、

[181] 白衣の中が蒸れちゃいますよねー」

[182]白衣のスカート部分を指先でつまんで、

[183]パタパタさせて、風を入れてみる。

[184]【はつみ】

[185]「は、はしたないわよ、沢井さん」

[186]主任さんがほんのり頬を赤く染めた。

[187]【かおり】

[188]「学生時代とか、

[189] こういうのやりませんでした?」

[190]【はつみ】

[191]「……やったけど……」

[192]【かおり】

[193]「じゃあ、主任さんもやりましょうよ!

[194] 涼しいですよー?」

[195]誘っても、主任さんはやらないだろうなって

[196]思ってたんだけど……。

[197]【はつみ】

[198]「そ、そう?」

[199]主任さんは、わたしと同じように

[200]白衣の裾を指でつまんで

[201]パタパタさせ始めた。

[202]最初はおずおずと。

[203]そして、だんだん大胆に!

[204]【かおり】

[205]「す、涼しいですねー」

[206]【はつみ】

[207]「ええ、本当に」

[208]【かおり】

[209]「それにしても、

[210] 白衣ってどうしてこう蒸れるんでしょうねー?」

[211]【はつみ】

[212]「白衣なんていうものは蒸れるもの、と

[213] 考えておいた方が気が楽になるわよ?」

[214]【はつみ】

[215]「それに、蒸れているけれど、蒸れていない、

[216] そういう顔をして勤務をするのが

[217] 看護師の美学だって、先輩から教えてもらったわ」

[218]そんなことを言いながら、

[219]主任さんは白衣のスカートをパタパタさせている。

[220]やだ、主任さんったら、

[221]そんなことを考えてたなんて!

[222]主任さんの先輩、かぁ……、

[223]どんな人だったんだろう?

[224]というか、主任さんの新人時代って

[225]どんな新人だったのかな?

[226]……うん、でも、どんな新人だったとしても、

[227]お部屋は昔からあんな感じだったんだろうなぁ。

[228]やだ、どうしよう、

[229]想像したら顔がニヤニヤしちゃう!

[230]【???】

[231]「……うわー、

[232] 主任、コドモみたいやねー」

[233]【はつみ】

[234]「!!」

[235]入り口に、ニヤニヤ顔の山之内さんが立っている。

[236]主任さんは一瞬だけ硬直すると、

[237]バッとスカートを戻して、

[238]無言のまま、バタバタと出て行ってしまった。

[239]【かおり】

[240]「あ、主任さんッ!!」

[241]あああん、せっかくのほのぼのタイムだったのに、

[242]こんな形で強制終了だなんてっ!

[243]【やすこ】

[244]「あーあ、看護師としては一流の人でも、

[245] ちょっと恋しただけで

[246] ああもヘタレになってまうんやねー」

[247]意味深な目で

[248]チラッと山之内さんがわたしを見た。

[249]【やすこ】

[250]「あんたも。

[251] 冗談を真に受けんなって」

[252]【かおり】

[253]「え!?

[254] あれ、冗談だったんですか!?」

[255]ガーンとショックを受ける。

[256]せっかくの主任さんとの甘いお昼休憩、

[257]会話の糸口にと提案されたことを実行したら

[258]たしかに甘い時間を過ごせたけれど!

[259]ああ、もう、わたしのバカ!!

[260]山之内さんの口車に乗って、

[261]スカートパタパタなんてしちゃったから、

[262]主任さん、逃げちゃったじゃないの!

[263]うわぁぁん、主任さーん、カムバーック!!

[264]【はつみ】

[265]「というわけで、

[266] 夜勤さん、よろしくお願いします。

[267] 日勤さん、お疲れ様でした」

[268]今日も無事に勤務終了!

[269]あとは、申し送り直前に訪室した

[270]都知さんの記録を書くだけ!

[271]大きく伸びをしたところ、

[272]主任さんが近づいてきた。

[273]【はつみ】

[274]「沢井さん、ちょっといいかしら?」

[275]【かおり】

[276]「はへ?」

[277]一瞬、また叱られるのかなと思ったけれど、

[278]主任さんは怒った様子もなく、

[279]困ったような表情でもない。

[280]【はつみ】

[281]「バカね、そう警戒しなくてもいいわよ。

[282] とてもいい話よ」

[283]苦笑混じりにそう言うと、

[284]主任さんはにっこりと笑った。

[285]【はつみ】

[286]「あなた、

[287] 堺さんの担当に復帰する気はない?」

[288]【かおり】

[289]「復帰!?」

[290]【はつみ】

[291]「堺さんのデータが全体的に上昇したのよ。

[292] ドクターや師長と相談したところ、

[293] あなたさえ良ければ、という話よ」

[294]どう? と訊かれて、

[295]わたしは大きくうなずいた。

[296]【かおり】

[297]「やります!

[298] わたし、堺さんの担当、戻ります!!」

[299]断る理由なんてない。

[300]だって、

[301]堺さんのことは途中で放り出す形になって、

[302]ずっと気になってたんだから!

[303]【はつみ】

[304]「……そう……」

[305]【なぎさ】

[306]「わー、良かったね、沢井!」

[307]【かおり】

[308]「はい!

[309] ありがとうございます、なぎさ先輩!」

[310]チラッと主任さんを見ると、

[311]主任さんはどこか頼りない表情をしている。

[312]……どうかしたのかな?

[313]【かおり】

[314]「いったーい!!」

[315]いきなり背中を叩かれた。

[316]【やすこ】

[317]「こーぉら、沢井!

[318] あのワガママ娘にあんたを取られるんとちゃうかって

[319] 主任が不安がっとる……モガッ!」

[320]【はつみ】

[321]「や、山之内さん!!」

[322]赤くなった主任さんが

[323]慌てて山之内さんの口をふさぐ。

[324]そんな主任さんを安心させたくて、

[325]わたしは大きな声で言った。

[326]【かおり】

[327]「だ、大丈夫です、そんな心配いらないです!

[328] わたしが好きなのは主任さんだけですからっ!」

[329]一瞬、詰所内がシーンとした。

[330]【なぎさ】

[331]「……そんな大きな声で言わなくても

[332] 聞こえてるわよ……」

[333]【やすこ】

[334]「ひゅーひゅー、お熱いねぇ!」

[335]【はつみ】

[336]「…………」

[337]あああ、わたしのバカ……!

[338]帰る前に、

[339]また堺さんの担当に戻ることになったってことを、

[340]堺さん本人にも挨拶をしておこうと思って

[341]やって来たのはいいんだけど……。

[342]【さゆり】

[343]「…………」

[344]うう、相変わらず、冷たい視線……。

[345]【さゆり】

[346]「あなたがわたしの担当に戻る件は

[347] さっき主任さんから聞いて、知っています。

[348] が……」

[349]【かおり】

[350]「……が?」

[351]【さゆり】

[352]「浅田さんから聞いたのだけれど、

[353] あなた、主任さんと……というのは

[354] 本当ですか?」

[355]げげ!?

[356]あみちゃんったら、

[357]なんてウワサ、流してんの!?

[358]【かおり】

[359]「えーっと……あはは」

[360]笑って誤魔化す。

[361]堺さんは

[362]大きなため息をついた。

[363]【さゆり】

[364]「……あなたと主任さんとじゃ、不釣り合いだわ。

[365] 自分でもそう思わないんですか」

[366]【かおり】

[367]「う……っ!」

[368]……たしかに、

[369]わたしは看護師としてまだまだのペーペーだし、

[370]比べて主任さんは一流の看護師さんだけど。

[371]比べるまでもなく、レベルが違いすぎて、

[372]不釣合いだって言われても仕方がないけど……。

[373]【かおり】

[374]「が、頑張るもん!

[375] 恋する気持ちは止められないんだもん!」

[376]【さゆり】

[377]「ふーん。

[378] 感情論と根性論の合わせ技で

[379] どこまでできるか、見物ですね」

[380]グサッ!

[381]【さゆり】

[382]「それにしても、

[383] 主任さんって見る目ないのねー……。

[384] よりにもよって……コレですか……」

[385]グサグサッ!

[386]【さゆり】

[387]「もう、他に用事もないんでしょう?」

[388]シッシッとばかりに、手で振り払われた。

[389]【かおり】

[390]「し……、失礼しました……」

[391]何度か廊下の壁に頭突きをする。

[392]うう、へこむなぁ……。

white_robe_love_syndrome/scr00703.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)