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white_robe_love_syndrome:scr00617

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[001]誰にも見つからないように注意して、

[002]人気のない階段を上る。

[003]さっき廊下で306号室の子供から

[004]手紙を渡された。

[005]その手紙には、ただ一言、

[006]『屋上で待ってます』と書いてある。

[007]誰から渡されたのかは聞かなかったけど……。

[008]【かおり】

[009]「……やっぱり」

[010]屋上の柵にもたれて、

[011]こちらに背中を向けたあみちゃんは

[012]海を見てるみたい。

[013]不思議なことに、

[014]いつも屋上に来る時は持ち歩いてるフォルテールは、

[015]足元にない。

[016]いたずら心を刺激されて、

[017]そっと近づいて、目隠ししてみた。

[018]【あみ】

[019]「!!」

[020]【かおり】

[021]「だーれだ!」

[022]【あみ】

[023]「かかかかっか、かおりんさんっ!!」

[024]力いっぱいの声に、

[025]思わずクスッと笑ってしまった。

[026]手を外して、振り向いたあみちゃんは、

[027]何故か首まで真っ赤になってる。

[028]【かおり】

[029]「そんなに驚かせちゃった?

[030] あみちゃん、すごく真っ赤だよ?」

[031]【あみ】

[032]「わ、わ、わ、わたしが赤いのは……

[033] そ、空が青くて、白が雲いからで……!!」

[034]【かおり】

[035]「あみちゃん……、

[036] それじゃ、わけがわからないよ」

[037]【あみ】

[038]「ご、ごめんなさい。

[039] わたし、変なんです、

[040] 変態ってののしってください」

[041]【かおり】

[042]「いや、だから……」

[043]異様にテンパってるっぽいなぁ。

[044]落ち着くまで、

[045]ちょっと話題をそらしてみよう。

[046]【かおり】

[047]「フォルテール、持ってきてないんだね。

[048] あみちゃんとフォルテールは一心同体って思ってた。

[049] 今日は気分じゃなかったの?」

[050]【あみ】

[051]「…………」

[052]あ、あれ?

[053]しょんぼりしちゃった。

[054]【あみ】

[055]「……思っていたようには、いかないんですねぇ。

[056] 気づきそうなものなのに……」

[057]【かおり】

[058]「え、何が?」

[059]【あみ】

[060]「……かおりんさんって、

[061] 鈍感って言われたこと、ないですか?

[062] ……って、わたしが言うのも変ですけど」

[063]【かおり】

[064]「んー……、

[065] なぎさ先輩とか山之内さんから、

[066] しょっちゅう、からかわれてるよ?」

[067]【あみ】

[068]「…………」

[069]何故、あみちゃんが苦笑したのかはわからないけど、

[070]苦笑したあみちゃんは、また柵に頬杖をついた。

[071]【あみ】

[072]「あーあ。

[073] それじゃ、かおりんさんに……っ!」

[074]その小さな背中が、ビクッと震えた。

[075]一歩、二歩と後退さって、柵から離れる。

[076]【かおり】

[077]「あみちゃん?」

[078]名前を呼ぶと、

[079]あみちゃんがゆっくりと振り向いた。

[080]顔色がすごく悪い。

[081]【かおり】

[082]「あみちゃん、どうしたの?

[083] 顔、真っ青よ?」

[084]【あみ】

[085]「な、何でもないです……」

[086]【かおり】

[087]「何でもないって感じじゃないよ?

[088] まだ風が冷たいから、部屋に帰ろう?」

[089]【あみ】

[090]「い、いやです。

[091] もうしばらくここにいたい!」

[092]あみちゃんがこういう風に

[093]強い拒否の言葉を口にすることは珍しい。

[094]よっぽど屋上にいたいのかな……。

[095]【あみ】

[096]「か、かおりんさん。

[097] ナデナデしてください!」

[098]【かおり】

[099]「え……ここで……?」

[100]今はふたりだけだけど、

[101]いつ、他の患者さんが来るかわからないのに……。

[102]【あみ】

[103]「お願いです!

[104] 苦しいんです!」

[105]あみちゃんに抱きつかれた。

[106]その勢いにたたらを踏んで、

[107]少しよろけてしまう。

[108]腰が柵に当たって、ヒヤリとした。

[109]柵がなかったら、

[110]柵が折れてしまったら、と思うと……ゾッとする。

[111]やっぱり、主任さんに

[112]屋上のことを話して、

[113]柵を修理してもらおうかと、一瞬考えた。

[114]……でも……やめておこう、

[115]閉鎖されちゃったら、元も子もないし。

[116]【あみ】

[117]「か、かおりんさん……」

[118]パジャマ越しに、

[119]ほんのりとあみちゃんの体温が伝わってくる。

[120]【かおり】

[121]「苦しいんなら、部屋に戻った方が……」

[122]【あみ】

[123]「……お願い……、

[124] ちょっとだけでいいんです……。

[125] ちょっとだけ、このままで……」

[126]あみちゃんの声は涙が混じってる……。

[127]こういう時は、

[128]どうしたらいいんだろう。

[129]体調を優先し、部屋に戻る

[130]落ち着くまで、このままでいる

[131]【かおり】

[132]「女の子が身体を冷やしちゃダメ。

[133] それに、あみちゃんは入院患者さんなんだから、

[134] 看護師として、そのワガママは聞けないよ」

[135]少し強めの口調で言ってみた。

[136]【あみ】

[137]「そ……う、ですよね。

[138] すみません、ワガママ言って……」

[139]泣きそうな顔のあみちゃん。

[140]トボトボとした足取りで

[141]わたしから離れたあみちゃんは

[142]ひとりで屋上のドアを開けて、

[143]その向こうへと消えてしまった。

[144]わたし、今、言ったことは

[145]間違いじゃなかったと思うけど……。

[146]でも、傷つけちゃったかな。

[147]……うーん……、

[148]女の子って難しいな……。

[149]【かおり】

[150]「そんな泣きそうな声でお願いされたら、

[151] ダメって言えないじゃない」

[152]抱きついてくる身体を、そっと抱き締め返す。

[153]優しく背中をさすってあげると、

[154]あみちゃんも落ち着いてきたらしい。

[155]【あみ】

[156]「……かおりんさんを困らせたくないのに……

[157] ワガママを言って……ごめんなさい……」

[158]【かおり】

[159]「ずっと入院してるんだもん、

[160] そんな気持ちになること、あるよね……」

[161]【あみ】

[162]「……かおりんさん……」

[163]【かおり】

[164]「なぁに?」

[165]【あみ】

[166]「……かおりんさん……」

[167]【かおり】

[168]「だから、何?」

[169]【あみ】

[170]「……名前、呼んでみたかったんです……。

[171] かおりんさん……」

[172]【かおり】

[173]「そっか……。

[174] じゃあ、名前を呼ばれたら、返事しなきゃね。

[175] はーい!」

[176]ぎゅっとあみちゃんが、

[177]強くしがみつくように抱きついている腕に

[178]力を入れてきた。

[179]【あみ】

[180]「……あったかい」

[181]胸に顔を押し付けられる。

[182]子猫が甘えるような仕草に、

[183]胸の中が甘酸っぱい気持ちで一杯になった。

[184]【かおり】

[185]「そうだね、

[186] 人肌って意外とあったかいよね」

[187]【あみ】

[188]「ずっとこうしていたいな……」

[189]【かおり】

[190]「うーん……、

[191] でも、そろそろ部屋に戻らないと、

[192] きっと病院中を探されると思うよ?」

[193]【あみ】

[194]「…………」

[195]身体を離したあみちゃんが、

[196]ぷうっと頬を膨らませている。

[197]あれ?

[198]わたし、また何か変なこと言った?

[199]【あみ】

[200]「かおりんさんのニブチン!」

[201]【かおり】

[202]「ひひょ?」

[203]けれど、怒った顔は、

[204]すぐに笑い顔になり、クスクスと笑い始めた。

[205]【あみ】

[206]「……でも、ニブチンのかおりんさんって、

[207] すごく可愛いっ」

[208]【かおり】

[209]「……か、可愛い……」

[210]今度は可愛いって言われちゃった……。

[211]女の子って難しいな。

[212]でも……あみちゃんの機嫌も直ったみたいで

[213]良かった。

[214]【かおり】

[215]「戻りましたー」

[216]【はつみ】

[217]「ねぇ、沢井さん。

[218] あなた、浅田さんを見なかった?」

[219]つかつかと歩み寄ってきた主任さん。

[220]もしかして、

[221]あみちゃん、検査でも入ってた……とか?

[222]【かおり】

[223]「あ……、あみちゃんなら、

[224] さっきまでわたしと一緒にいましたけど……」

[225]【はつみ】

[226]「そう……」

[227]がっかりした様子の主任さんに、首を傾げる。

[228]【かおり】

[229]「……どうかしたんですか?」

[230]【なぎさ】

[231]「さっきまで、

[232] あみちゃんのお友達が部屋で待ってたのよ」

[233]【やすこ】

[234]「若い女の子を、ショボーンとしたままの顔で帰すんは、

[235] さすがの主任も気が引けた、っちゅうこっちゃねー。

[236] さては主任、年下好きやね?」

[237]【はつみ】

[238]「わたしのことはどうでもいいから。

[239] あなたたち、記録は終わっているの?

[240] もうすぐ夜勤さんが来る時刻よ?」

[241]主任さんの言葉を聞きながら、

[242]あみちゃんに悪いことしちゃったなぁと反省する。

[243]あみちゃんだけでなく、

[244]せっかく来てくれたあみちゃんのお友達にも。

white_robe_love_syndrome/scr00617.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)