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white_robe_love_syndrome:scr00610

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[001]そして翌日。

[002]なぎさ先輩が外科に異動しちゃったら

[003]わたしのプリセプターはどうなるんだろうと

[004]思ったんだけど……。

[005]なぎさ先輩の代役に、山之内さんが抜擢。

[006]……抜擢っていっても、

[007]内科病棟の常勤看護師って、

[008]主任さんと、山之内さん、そして

[009]なぎさ先輩とわたしの四人なんだよね。

[010]バイトナースさんや派遣看護師さんに

[011]プリセプターをやらせるわけにはいかないし、

[012]主任さんは仕事が多すぎだし、で、

[013]しぶしぶ山之内さんが引き受けてくれたの。

[014]【やすこ】

[015]「戻りました〜」

[016]山之内さんは、ただでさえ多い担当患者さんを抱えてて、

[017]そこになぎさ先輩の受け持っていた患者さんと、

[018]プラスして堺さんが加わり、

[019]更にその上、わたしの指導をしてくれることに……。

[020]うう、すごく大変そう……。

[021]あまり負担をかけないようにしなくちゃ。

[022]【やすこ】

[023]「はー。

[024] あんのワガママ娘、今度は便秘やて!

[025] めっさ手ぇかかるわー」

[026]文句たらたらで戻ってくる、山之内さん。

[027]文句は多いけど、

[028]その文句は本心からの文句じゃなくて

[029]聞き流せるタイプの独り言。

[030]最初はまともに受け取って

[031]正直、戸惑うこともあったけど。

[032]でも、この文句は

[033]山之内さんなりのコミュニケーションだから

[034]乗ってあげるのが礼儀、みたいな感じ?

[035]【かおり】

[036]「また、そんなこと言って。

[037] 便秘とワガママは

[038] あんまり関係ないんじゃないですか?」

[039]【やすこ】

[040]「関係あるねんなぁ、これが」

[041]山之内さんが記録用紙を取り出す。

[042]記録を書くのかと思いきや、

[043]ビシッと、ボールペンを

[044]わたしの目の前に突きつけた。

[045]【やすこ】

[046]「あんた、知ってる人に

[047] 自分の排泄物を見せる度胸、あるか?」

[048]【かおり】

[049]「はいせ……!?」

[050]ギョッとした。

[051]いきなり何を言い出すの、この人!?

[052]【やすこ】

[053]「あるかないか、どっちや?」

[054]言われて、慌てて考える。

[055]自分の排泄物を、

[056]なぎさ先輩や山之内さんに見せることを

[057]想像して……。

[058]…………。

[059]って、無理!!

[060]【かおり】

[061]「……あ、ありません」

[062]【やすこ】

[063]「せやろ?」

[064]ニヤリと

[065]山之内さんが笑った。

[066]【やすこ】

[067]「あの子も同じやねん。

[068] 誰が好き好んで、

[069] 自分の排泄物、人に見せたいと思うねん」

[070]【かおり】

[071]「でも堺さんの場合は病気だから……」

[072]【やすこ】

[073]「……あんたなぁ」

[074]【やすこ】

[075]「もし、ここにドクターがズカズカやってきて、

[076] 『沢井さんの血液にウイルスが見つかりました。

[077] 沢井さんは個室隔離、個室から出るのも禁止!』

[078]【やすこ】

[079]『トイレはポータブル使うてください。

[080] 出たら、コールしてください、捨てますから』

[081] なーんことになったらどうする?」

[082]【かおり】

[083]「え……」

[084]【やすこ】

[085]「たとえ病気やから、いうても、

[086] 羞恥心まで失くしたわけやないやろ?」

[087]【やすこ】

[088]「相手が誰でも、仕事でやってもらってるって

[089] 頭ではわかってても、見られるて思うと

[090] 出るモンも出らんくなって当然や」

[091]【かおり】

[092]「…………」

[093]……そうか。

[094]うん、そうだよね。

[095]堺さんは絶対安静が必要なほどの

[096]大変な病気だけど、

[097]でも、心がどうにかなったわけじゃないもんね。

[098]……便秘にもなるのも無理はないよね。

[099]【やすこ】

[100]「ここまでは理解できたか?」

[101]山之内さんの言葉に

[102]ゆっくりと首を縦に振る。

[103]【やすこ】

[104]「……さて、ここまで理解した沢井に質問です。

[105] 堺さんが便秘になることの、

[106] 何がアカンのやと思う?」

[107]【かおり】

[108]「え……っと……」

[109]突然の質問に、頭をフル回転させる。

[110]【かおり】

[111]「べ、便秘になると……

[112] 排泄がスムーズじゃなくなります……」

[113]【やすこ】

[114]「それで?」

[115]【かおり】

[116]「えっと……、

[117] き、切れやすくなります」

[118]敢えて、ドコが、とは言わない。

[119]言わなくてもわかってくれる……はず、だし。

[120]【やすこ】

[121]「せやね、切れるね」

[122]【やすこ】

[123]「特に肛門周辺は毛細血管が多いから、

[124] フツーの人でも

[125] ちょっとの傷でうっかり大出血に繋がる」

[126]【やすこ】

[127]「それが止血能下がってる堺さんやったら、

[128] もっと大出血してまうな。

[129] 沢井さん、正解です〜、パチパチ〜!」

[130]ホッ、当たってた。

[131]【やすこ】

[132]「で、他には?」

[133]【かおり】

[134]「ほへ!?」

[135]まだあるの!?

[136]【かおり】

[137]「えっと……、えっと、

[138] 切れて出血することで、

[139] 失血状態になります」

[140]【やすこ】

[141]「うん、それはさっきのと同じ答えやね。

[142] 他は?」

[143]【かおり】

[144]「ええっと……」

[145]悩むわたしに、

[146]山之内さんはクスッと笑った。

[147]【やすこ】

[148]「沢井、そこにしゃがんでみ?」

[149]【かおり】

[150]「え?

[151] しゃがむんですか?」

[152]言われた通り、

[153]床にしゃがみこんでみた。

[154]【やすこ】

[155]「動く際に、腹圧、かからへんかったか?」

[156]山之内さんのヒントに

[157]頭の片隅に、ピンとひらめいた!

[158]【かおり】

[159]「あ!

[160] 血圧が高くなる!」

[161]【やすこ】

[162]「んで?」

[163]【かおり】

[164]「血圧が高くなると、血管に負担がかかります。

[165] 血管に負担がかかると、

[166] 負担のかかった場所の血管が破れやすくなります」

[167]【やすこ】

[168]「せやね。

[169] 堺さんの状態で血管が破れるのは

[170] 致命的やね」

[171]【やすこ】

[172]「他にも、血圧が変動することで、

[173] 意識障害が起きる可能性があるやろ、

[174] 赤血球値が低い、貧血状態やねんから」

[175]【やすこ】

[176]「貧血発作を起こしたら、転倒・転落に繋がる。

[177] あの状態で万が一、怪我なんぞしたら、

[178] それもやっぱり致命的」

[179]【かおり】

[180]「……なるほど……」

[181]たかが便秘、されど便秘。

[182]ひとつの側面からだけじゃなくて、

[183]多角的に考えて、

[184]予想できる全ての問題に

[185]対応していかなくちゃいけないのね……。

[186]病気だけじゃなく、

[187]その患者さんの性格や背景を取り入れ、

[188]その人にあった看護をしなくちゃ

[189]意味がないんだ……。

[190]【やすこ】

[191]「看護は技術だけやないのはわかっとるやろ?

[192] でも、患者を思う心だけでもアカンねん」

[193]【やすこ】

[194]「技術・心・知識、全てがあわさって、

[195] 初めて機能するのが看護やねん。

[196] スポーツにおける『心・技・体』みたいなもんや」

[197]【かおり】

[198]「…………」

[199]山之内さんの理論に圧倒された。

[200]なぎさ先輩もすごいと思ったけれど、

[201]なぎさ先輩とは、一緒に勉強する、という感じだった。

[202]それに、なぎさ先輩は

[203]ここまで系統立てて教えてはくれなかった。

[204]……これが、なぎさ先輩と

[205]山之内さんの経験の差、なのかな……。

[206]なぎさ先輩は念願の外科へ行くことで、

[207]きっと今のわたしよりも、ずっと成長するはず。

[208]わたしも、なぎさ先輩に負けてられないよね!

[209]またいつか

[210]なぎさ先輩と一緒に仕事をすることになった時に、

[211]恥ずかしくない仕事ぶりを披露できるようにならないと!

[212]【かおり】

[213]「山之内さん……」

[214]【やすこ】

[215]「なんや?」

[216]【かおり】

[217]「わたし……今より

[218] もっとちゃんと仕事ができるようになりたい!」

[219]山之内さんがフッと笑った。

[220]くしゃっと髪を撫でられる。

[221]【やすこ】

[222]「その思いを忘れんと、

[223] 仕事を続けてさえいけば大丈夫や」

[224]【やすこ】

[225]「看護なんざ、ホンマは

[226] 誰にでもできる簡単な仕事やねんから」

[227]握った拳で、胸元をトンと叩かれた。

[228]【やすこ】

[229]「ここにある、

[230] 大事な根っこの部分さえ忘れんかったら

[231] ……絶対に大丈夫や!」

[232]【かおり】

[233]「はい!

[234] わたし、頑張ります!」

white_robe_love_syndrome/scr00610.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)