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white_robe_love_syndrome:scr00608

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[001]堺さん転倒事件から一日経った。

[002]主任さんと山之内さんの関係は

[003]傍で見ててもわかるほどに

[004]ギクシャクしている。

[005]そもそも、山之内さんは

[006]堺さんがあまり好きじゃないみたい。

[007]ことあるごとに、

[008]堺さんのことを『ワガママ娘』って

[009]言ってるし。

[010]そのことで

[011]主任さんに注意される場面も

[012]何度か見たけれど……。

[013]でも、山之内さんは山之内さんなりに

[014]看護師として、患者である堺さんに

[015]向き合っていたんだと思う。

[016]それなのに、

[017]主任さんが本人に病状悪化を直接伝えたこと、

[018]それで堺さんがナーバスになってしまったことを

[019]担当看護師として、不満に思っていたみたい。

[020]そういうことがあって、

[021]堺さん転倒事件で、主任さんに対する不満が

[022]表に出てきちゃった、って感じ?

[023]【なぎさ】

[024]「……雰囲気わるー……」

[025]ふたりのギクシャクした……というより

[026]トゲトゲした雰囲気は病棟中に広がって、

[027]今、内科病棟はとても働きにくい雰囲気なの。

[028]【かおり】

[029]「あ、あの……なぎさ先輩、

[030] ちょっといいですか?」

[031]【なぎさ】

[032]「ん?

[033] どうしたの?」

[034]記録から顔を上げた先輩の向こうに、

[035]伝票を書いている主任さんの背中が見える。

[036]ここで話すのは、

[037]かなりまずいよね。

[038]というより、気まずいよね。

[039]【かおり】

[040]「えと……、

[041] ちょっと来てください」

[042]【なぎさ】

[043]「ん?

[044] 何よ……?」

[045]【なぎさ】

[046]「ちょっと、沢井、

[047] どこまで連れていくのよ?」

[048]【かおり】

[049]「その……、もうちょっと……」

[050]ここまで来れば平気かな?

[051]【なぎさ】

[052]「何なのよ、沢井。

[053] こんなところに連れて来て……。

[054] あたし、まだ記録の途中なのよ?」

[055]【かおり】

[056]「あの……、

[057] 主任さんと山之内さんのことなんですけど」

[058]【なぎさ】

[059]「ああ、そのことね」

[060]【なぎさ】

[061]「たまたま今回の引き金に

[062] 沢井が関わってただけでしょ、

[063] 沢井が気にすることじゃないんじゃない?」

[064]【かおり】

[065]「……それはそうかもしれないんですけど」

[066]でも、気になるんだもん。

[067]わたしにとって、

[068]主任さんは憧れの上司で、

[069]山之内さんは頼れる姉御肌の先輩同僚で。

[070]尊敬する人たちだから、

[071]ケンカなんかしてほしくないし、

[072]できれば仲良くしていてほしいよ。

[073]【なぎさ】

[074]「それにね、沢井の件がなくても

[075] どうせケンカしてたわよ、

[076] あのふたりなら」

[077]【かおり】

[078]「え?

[079] そうなんですか?」

[080]【なぎさ】

[081]「看護観が違うでしょ。

[082] それに性格も全然違う」

[083]【なぎさ】

[084]「主任は一見クールだけど、

[085] 実は情に流されやすくて

[086] 意外と優しい」

[087]【なぎさ】

[088]「一方の山之内さんは、

[089] 一見、とっつきやすいけど、

[090] 実はかなりイロイロ計算してる」

[091]【なぎさ】

[092]「患者さんへの対応にしても

[093] ふたりして全然違う」

[094]【なぎさ】

[095]「主任は、言うことは言うけど、

[096] 私生活を犠牲にしてでも

[097] 自分の発言の責任はきっちり取る」

[098]【なぎさ】

[099]「山之内さんは、自分に責任が発生しないよう

[100] 上手に患者さんをコントロールしながら

[101] 看護してるように見える」

[102]…………。

[103]言われてみれば

[104]そうかもしれない。

[105]同じ病院の同じ病棟で働いているとはいえ、

[106]やっぱり別々の人間だし、看護観だって全然違う。

[107]意見が食い違うことだってあるだろうし、

[108]こんな風に、ケンカっぽくなっちゃうことも

[109]あるよね。

[110]【なぎさ】

[111]「それにね、ふたりとも

[112] あたしたちより年上の大人、なのよ?」

[113]【なぎさ】

[114]「その大人が、勤務場所の雰囲気を悪くしてまで

[115] ケンカしてるんだもん、

[116] あたしたちの出る幕、なくない?」

[117]【かおり】

[118]「……それはそうですけど……」

[119]なぎさ先輩の言うことはわかる。

[120]けれど……、

[121]やっぱり気になるし、

[122]知らないフリなんてできないよ。

[123]【なぎさ】

[124]「……あたし、沢井のそういう優しいところ

[125] けっこう好きだけど……、

[126] でも、しんどくならないか心配」

[127]【なぎさ】

[128]「沢井はどう思うかわかんないけど、

[129] 少なくともあたしは

[130] あのふたりに口出しなんてできないし」

[131]【なぎさ】

[132]「口出しができないから、

[133] 仲裁なんて、夢のまた夢、よ」

[134]【かおり】

[135]「…………」

[136]なぎさ先輩の言う通りかもしれない。

[137]わたしが出る幕じゃない、よね。

[138]なぎさ先輩はああ言っていたけど……。

[139]【はつみ】

[140]「山之内さん、

[141] 都知さんの検査結果……」

[142]【やすこ】

[143]「もうカルテに貼ってありますー」

[144]【はつみ】

[145]「そ、そう……。

[146] ありがとう」

[147]ううう、空気が悪い……。

[148]見ていると、

[149]山之内さんが一方的に

[150]主任さんを敵視している感じ、なのよね。

[151]わたしの出る幕じゃないのはわかってる……けど、

[152]じっとしてられないよ。

[153]とはいえ……。

[154]【はつみ】

[155]「……はぁ」

[156]【やすこ】

[157]「……ったく

[158] どいつもこいつも……っ!」

[159]うっ、話しかけにくい……。

[160]話しかけにくいけど……、

[161]頑張って話しかけてみないと

[162]仲裁なんてできないよね。

[163]さて、どちらから説得しよう?

[164]主任さん

[165]山之内さん

[166]何もしない

[167]やっぱ、ここは

[168]主任さんからだよね。

[169]だって……。

[170]【やすこ】

[171]「……わざとらしいため息やなー……」

[172]ううっ、

[173]山之内さん、不機嫌マックス!!

[174]ちょっとどころじゃなくて、

[175]とんでもなく近寄りがたいよ!!

[176]……となると、

[177]やっぱり、消去法で

[178]主任さんになっちゃうよね。

[179]ん?

[180]今、詰所には

[181]わたしと主任さんのふたりっきりじゃない?

[182]決行するなら今しかない!

[183]【かおり】

[184]「あ、あの……っ。

[185] しゅしゅしゅ、主任さん……ッ」

[186]あああ、落ち着け、わたし!

[187]落ち着かないと

[188]主任さんに変に思われちゃうよ!?

[189]【はつみ】

[190]「……何かしら、沢井さん?」

[191]【かおり】

[192]「うぇっと、ほほほ、ほぁぁぁ……」

[193]あああ、口が上手く動かないぃぃ!!

[194]【かおり】

[195]「あああ、あのっ、

[196] う、上手く言えないんですけど……ぉっ」

[197]【はつみ】

[198]「…………」

[199]あ、主任さんが笑った。

[200]でも、困った顔をしてる。

[201]わ、わたし、

[202]主任さんを困らせてる!?

[203]【はつみ】

[204]「……って、沢井さんが心配しているようだけれど、

[205] 山之内さんはどう思う?」

[206]え!?

[207]山之内さん、って……!?

[208]【やすこ】

[209]「あちゃー。

[210] 新人なんぞに心配されるなんて、

[211] うちもまだまだやなぁ」

[212]ひえええ!

[213]休憩室から山之内さん出現!

[214]い、いたんですか!?

[215]【やすこ】

[216]「悪いなぁ、心配かけて」

[217]【やすこ】

[218]「うち、主任さんの包容力に甘えて、

[219] 拗ねてただけやねん。

[220] せやから、あんたは気にすることやないで」

[221]出てきた山之内さんに、頭を撫でられた。

[222]え?

[223]ええ!?

[224]拗ねてただけ……って?

[225]【はつみ】

[226]「わたしも、山之内さんに悪いなぁって

[227] 思ってたから、何も言わなかったの。

[228] ごめんなさいね、沢井さん」

[229]【かおり】

[230]「えっと……?

[231] ……はい……」

[232]……よくわからないけど、

[233]ふたりは別にケンカしてたわけじゃないってこと?

[234]うーん……?

[235]なんだか拍子抜けしちゃうなぁ。

[236]【やすこ】

[237]「……チッ、

[238] わざとらしいため息なんざ

[239] つきおって……」

[240]山之内さんの態度の方が悪いんだから、

[241]先に山之内さんから説得するのが

[242]効率的だよね。

[243]ちょっと怖いけど、当たって砕けろ!

[244]【やすこ】

[245]「……あぁ?

[246] なんや、新人?」

[247]わたしの視線に気づいたらしく、

[248]顔を上げた山之内さんに凄まれた。

[249]うう、わたし

[250]まだ何も言ってないのに……。

[251]やっぱり怖いよぅ!

[252]でも、ここでひるんじゃダメなんだよね!

[253]【かおり】

[254]「えと……、あの、

[255] わたしが悪いなら謝りますから……ッ、

[256] 主任さんに対して、その態度は、あの……」

[257]【やすこ】

[258]「あぁ!?」

[259]ひふーん!

[260]【やすこ】

[261]「あんた、何様のつもりや?」

[262]ひぇぇぇぇ……っ!!

[263]【かおり】

[264]「ななな、何様とか……っ、

[265] そういうんじゃなくてですねぇ……ぇ、

[266] びょっ、病棟の雰囲気が悪くて……ッ!」

[267]【やすこ】

[268]「あーん?

[269] うちが病棟の雰囲気、悪ぅしてる言うんか!?」

[270]【かおり】

[271]「は、はひぃっ!?

[272] めめめ、滅相もごじゃりましぇんっ!!」

[273]【かおり】

[274]「しょ、しょうじゃなくて、と、取り敢えず、

[275] いいい、意思表明をして、

[276] 当たって砕けろと思いまひて……!!」

[277]山之内さんが手を挙げた。

[278]【かおり】

[279]「ひぃぃぃ!!」

[280]ビクッと肩をすくめて、目を瞑った。

[281]わたし、殴られちゃうの!?

[282]ビシィッ!!

[283]うひょああああぇええ!?

[284]【やすこ】

[285]「……アホやなぁ、

[286] うちが殴るとでも思うたんか?」

[287]【かおり】

[288]「ほへ?」

[289]おでこがひりひりする。

[290]これって……、

[291]ただの、デコピン?

[292]【やすこ】

[293]「玉砕覚悟で、年上諌めに来た

[294] あんたの勇気に敬服するわ」

[295]【やすこ】

[296]「ちゅーことで、主任!

[297] 昨日からのうちの態度、すみませんでした!」

[298]【かおり】

[299]「!!」

[300]いつの間にか、

[301]心配そうな顔で立っていた主任さんへと、

[302]山之内さんが頭を下げる。

[303]【はつみ】

[304]「……いえ、わたしも悪いのよ。

[305] ちゃんとやってくれているスタッフの

[306] プライドを守ってあげられなかったんだから」

[307]【やすこ】

[308]「上から目線で申し訳ないけど、

[309] 主任はよくやってくれてると思いますよ」

[310]【やすこ】

[311]「少なくとも、

[312] うちは大塚主任の下やから、

[313] 辞めんとココにいてるねんから」

[314]【はつみ】

[315]「そう言ってもらえて光栄だわ」

[316]主任さんと山之内さんが

[317]目線だけで笑い合う。

[318]【やすこ】

[319]「うちは気質からして、

[320] よほどのことがない限り

[321] ひとつの場所に居つかへんねん」

[322]【やすこ】

[323]「実際、主任に拾われた時も

[324] 半年もおればええかなーって

[325] 思うててんけどねぇ」

[326]【やすこ】

[327]「この病院、何やかんやで居心地良うて、

[328] まだ辞めようかなて思わへんのよ」

[329]ほがらかに言う山之内さんの言葉に、

[330]わたしは引っかかるものを感じて、問いかけてみた。

[331]【かおり】

[332]「山之内さんって拾われた……んですか?」

[333]【はつみ】

[334]「もう……、

[335] 拾うだなんて、犬猫じゃあるまいし」

[336]山之内さんの話に乗って、主任さんが肩をすくめた。

[337]【やすこ】

[338]「まさに『拾われた』んやで、うちは。

[339] 聞きたいか、沢井?」

[340]わたしの知らない、ふたりの過去……。

[341]知りたい、と思ってしまうのは

[342]いけないことじゃないよね。

[343]【かおり】

[344]「はい、良ければ、ですけど」

[345]にっこり笑って、

[346]山之内さんが話し始める。

[347]主任さんは特に止めない。

[348]元の穏やかな詰所の空気が戻ってきてる。

[349]【やすこ】

[350]「たまたま出席した学会が都内であって、な。

[351] その日の夜、たまたま飲み屋で意気投合してん。

[352] きっかけなんて、そんなもんや」

[353]【やすこ】

[354]「学会での席が近くて、顔は覚えてるし、

[355] 飲み屋でも、お互い看護師やっちゅーのわかってたし。

[356] 一気に意気投合や」

[357]【はつみ】

[358]「……あの時は即戦力が欲しかったから。

[359] 言い訳ばかりで動かない古参の職員に

[360] ウンザリしてたのよ」

[361]【やすこ】

[362]「んで、小一時間ほど話しただけで、

[363] 『わたしの病棟に来て!』ときたもんや。

[364] あん時は、めっさビビったわ」

[365]打ち解けた様子のふたり。

[366]わたしが動かなくても、

[367]このふたりなら、きっと仲直りできたはず。

[368]なぎさ先輩の言う通り

[369]余計なお世話だったかな。

[370]……でも。

[371]いいな、こういう関係。

[372]立場上、上司と部下という関係だけど、

[373]お互いがお互いを信頼してる感じ……。

[374]わたしも、主任さんや山之内さん、

[375]そして、なぎさ先輩に

[376]こんな風に信頼されるような

[377]看護師になりたいな。

[378]そのためには

[379]もっと頑張らないとね!

[380]【かおり】

[381]「うーん……」

[382]なぎさ先輩の言う通り、

[383]これはふたりの問題だから

[384]わたしの出る幕じゃないよね。

[385]わたしが動くことで、余計にこじれてもまずいし。

[386]【かおり】

[387]「戻りましたー」

[388]ナースコールの対応をして

[389]詰所に戻ってくる。

[390]【はつみ】

[391]「……肺炎の兆候はないわねぇ」

[392]声のする方を見ると、

[393]主任さんと山之内さんが

[394]一枚のレントゲンフィルムを見ながら

[395]何やら話し込んでいた。

[396]【やすこ】

[397]「ちょっと驚いて

[398] 咳き込んだだけなんと違います?

[399] まぁ、経過観察は必要やろうけど」

[400]【はつみ】

[401]「そうね。

[402] 熱が出たら、ビンゴってことね」

[403]【やすこ】

[404]「ですね。年寄りやから

[405] 高熱は出ないかもしれんのが要注意、

[406] っちゅーわけですね」

[407]【はつみ】

[408]「じゃあ、それでお願い」

[409]【やすこ】

[410]「がってん、了解!」

[411]……なんだ、

[412]もう仲直りしてる……。

[413]すすす、と

[414]なぎさ先輩が近寄ってきた。

[415]【なぎさ】

[416]「……ほらね、

[417] やっぱり沢井の出る幕はなかったでしょ」

[418]勝ち誇ったような言葉に

[419]反論なんてできるわけもなく……。

[420]うう、わたしったら、

[421]役立たず……。

[422]ま、なんにしても

[423]ふたりの仲が戻ってくれて

[424]よかった、よかった。

white_robe_love_syndrome/scr00608.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)