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white_robe_love_syndrome:scr00605

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[001]【かおり】

[002]「おはようございまーす」

[003]朝、詰所に入っていくと、

[004]主任さんとなぎさ先輩が

[005]深刻そうな顔で話し合っていた。

[006]【はつみ】

[007]「沢井さん……」

[008]何だろう?

[009]主任さん、すごく気まずそう……。

[010]なぎさ先輩も

[011]わたしから目を逸らしている。

[012]何かあったのかな?

[013]言いにくそうな主任さんに代わって、

[014]夜勤さんの記録を読んでいた山之内さんが

[015]わたしの前に立った。

[016]【やすこ】

[017]「沢井。

[018] あんた、堺さんの担当、外れる気はない?」

[019]【かおり】

[020]「え?」

[021]山之内さんの言葉に

[022]わたしは一瞬だけ絶句した。

[023]そりゃ、昨日は腹を立ててたから

[024]あんな子、知らないって思ったけど。

[025]でも、それは本心じゃなくて……!

[026]それとも、わたしの手に負えない状況……、

[027]たとえば急変とかが起こったりしたとか!?

[028]【かおり】

[029]「……あ、あのっ!

[030] 堺さん、急変したんですか?」

[031]【やすこ】

[032]「いや、急変ってほどやない。

[033] ……ほどやないけど、

[034] いつ急変してもおかしない状況ではある」

[035]【かおり】

[036]「……え?

[037] どういうことですか……?」

[038]不安になって

[039]なぎさ先輩を見る。

[040]【なぎさ】

[041]「…………」

[042]なぎさ先輩は

[043]また、無言で目を逸らした。

[044]主任さんを見る。

[045]主任さんは

[046]少し迷う素振りを見せた後、

[047]小さくため息をついた。

[048]【はつみ】

[049]「……検査データが悪いの。

[050] 元々悪かった赤血球・血小板に加えて、

[051] ロイコ……白血球値も悪くなったの」

[052]【はつみ】

[053]「あなたを担当から外す話が挙がった理由は

[054] 今までそんなに悪くなかった白血球値が

[055] 今回は下がっているからで……」

[056]言いにくそうな主任さんの言葉の後を引き継ぐように、

[057]山之内さんがはっきりと言った。

[058]【やすこ】

[059]「つまり、技術が半端な新人が入ったら

[060] 免疫力の下がった病人に

[061] 病原体、撒き散らす危険がある、ちゅーことや」

[062]【かおり】

[063]「!!」

[064]グサッと来る。

[065]技術が半端……。

[066]それはそうかもしれないけど、

[067]でも……っ。

[068]【かおり】

[069]「さ、堺さんは

[070] 何て言ってるんですか……?」

[071]【はつみ】

[072]「人事に関しては

[073] 自分は口を出せる立場にはない、と」

[074]ということは

[075]積極的にわたしを外して欲しいと

[076]言ってるわけじゃない、ってこと?

[077]昨日、あんな言い争いをしたのに。

[078]【かおり】

[079]「わ、わたし……、

[080] 堺さんに会ってきます」

[081]【やすこ】

[082]「はぁ?

[083] 白血球が下がってるって、さっき……」

[084]山之内さんの言葉を

[085]主任さんが止めてくれる。

[086]それから、主任さんは

[087]さみしげな表情で微笑んでくれた。

[088]【はつみ】

[089]「……申し送りが始まる前に戻ってきなさい。

[090] くれぐれも、堺さんを興奮させないように……。

[091] 穏便にね」

[092]【かおり】

[093]「は、はい!」

[094]不満そうな山之内さんの後ろで、

[095]なぎさ先輩が心配そうな顔をしていたけれど、

[096]わたしは軽く頭を下げて、

[097]堺さんの病室へと向かった。

[098]堺さんの病室に来たのはいいけど、

[099]堺さんはわたしと

[100]目を合わせようともしてくれない。

[101]【かおり】

[102]「あ、あの……」

[103]【さゆり】

[104]「……何しにきたんですか」

[105]【さゆり】

[106]「今のわたしの病状は、

[107] あなたのような新人看護師の

[108] 手に負えるようなものではないはずです」

[109]【かおり】

[110]「…………」

[111]堺さんはそっとベッドから足を出した。

[112]【さゆり】

[113]「……見てください、これ」

[114]足の甲には、点状出血。

[115]【さゆり】

[116]「夜中、少し痒かったから、

[117] 指でポリポリと掻いただけで、コレ」

[118]【さゆり】

[119]「痛みとかないから

[120] 自分ではよくわからないけれど、

[121] 血小板値が下がる、ってこういうことなのね」

[122]【さゆり】

[123]「少し立ちくらみがするけれど、

[124] 赤血球が少なくなってるなんて

[125] そんな実感もない」

[126]【さゆり】

[127]「白血球に関しても同じこと。

[128] 自分の免疫力が低下してるなんて実感は

[129] カケラもないの」

[130]【かおり】

[131]「…………」

[132]実感がない、ということは

[133]病識もない、ということ。

[134]患者本人に病識がないと、

[135]わたしみたいな新人看護師は、つい

[136]元気な患者さんだという扱いをしてしまいそうになる。

[137]それはつまり、

[138]堺さんのような病気の人にとっては

[139]とても危険なこと。

[140]平たく言うと、

[141]わたしという存在が

[142]堺さんの生命をおびやかしかねない――ということ。

[143]【さゆり】

[144]「わかったら出て行ってください」

[145]【さゆり】

[146]「今のわたしにとって

[147] 興奮して血圧を上げることがいかに危険か

[148] 新人のあなたにもわかるでしょう?」

[149]血小板が下がるということは、

[150]血が止まらなくなる、ということ。

[151]そして、もし、血圧が上がって

[152]血管のどこかから出血した場合、

[153]血が止まらなくて、

[154]大出血になってしまう可能性もある。

[155]【さゆり】

[156]「……言ったでしょう、

[157] あなたの顔なんて見たくないと。

[158] だから早く出て行ってください」

[159]【かおり】

[160]「……わかり、ました……」

[161]泣いちゃいけない。

[162]泣いたら

[163]きっとみんな心配する。

[164]それに……、

[165]きっと泣きたいのは

[166]堺さんの方だと思うから……。

[167]【かおり】

[168]「戻りました……。

[169] すみません、遅くなって……」

[170]みんなが心配そうな顔で

[171]わたしを見ている。

[172]その視線が心苦しくて……胸が痛くて、

[173]少しだけ、嬉しい。

[174]患者さんと本気でケンカするような

[175]ダメなわたしでも、

[176]受け入れてもらっているという実感がある。

[177]この人たちに、恩返しがしたい。

[178]そのためには……。

[179]【かおり】

[180]「や、やだなぁ、

[181] そんなに心配しないでくださいってば!」

[182]【かおり】

[183]「今回の担当を外された件は

[184] わたしが未熟だったから、ですよ。

[185] だから、心配しないでくださいねっ」

[186]【なぎさ】

[187]「……沢井……」

[188]【かおり】

[189]「わたし、これからも

[190] 今までより、もっと頑張りますから!

[191] ご指導ご鞭撻、よろしくお願いします!」

[192]【やすこ】

[193]「おーおー、健気ですこと」

[194]【はつみ】

[195]「……沢井さんも来たことだし、

[196] 申し送りを始めます。

[197] みなさん、おはようございます……」

white_robe_love_syndrome/scr00605.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)