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white_robe_love_syndrome:scr00520

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[001]昼間、堺さんに噛まれた傷跡は勤務終了と共に、

[002]ズクズクと熱を持って疼き始めた。

[003]どうしよう……。

[004]これって、受診した方がいいのかな。

[005]でも、近所の病院っていっても

[006]この地域には百合ヶ浜総合病院しかないし、

[007]この時間なら、絶対、主任さんが居残りしてるはず。

[008]ということは、

[009]わたしが受診したら絶対バレちゃうよね。

[010]それ以前に、診察してくれたドクターに

[011]どうしてこんな噛み跡ができたのかって訊かれたら、

[012]何て答えればいいのかわからない。

[013]【かおり】

[014]「うう……っ」

[015]どうしよう、

[016]何を塗ったらいいんだろう。

[017]勤務中は誰にも見つからないように集中してて、

[018]痛いとか思わなかったのに……。

[019]【かおり】

[020]「あ……」

[021]【なぎさ】

[022]「んもー、無用心だぞ!

[023] 鍵くらいちゃんとかけておかないと!!」

[024]【かおり】

[025]「な……なぎさ先輩ぃ〜〜」

[026]【なぎさ】

[027]「ど、どうしたのよ、沢井、

[028] いきなり泣き出して……」

[029]【かおり】

[030]「痛いよー、痛いんですぅ!」

[031]【なぎさ】

[032]「はぁ?」

[033]怪訝そうな顔のなぎさ先輩が部屋に上がってくる。

[034]けど、わたしの腕の傷を見た途端、

[035]手に持ってたコンビニの袋を放り出して、

[036]わたしの腕をそっと持ち上げてくれた。

[037]【なぎさ】

[038]「ちょっ!

[039] これ、どうしたのよ!!」

[040]【かおり】

[041]「噛まれました〜」

[042]【なぎさ】

[043]「誰に!?」

[044]【かおり】

[045]「……うぅ……」

[046]堺さんです、なんて、

[047]とても言えない……!

[048]【なぎさ】

[049]「あ……あの子ね!

[050] あの子なんでしょう!?」

[051]【かおり】

[052]「…………」

[053]なぎさ先輩の剣幕に、思わず頷いてしまった。

[054]【なぎさ】

[055]「……あの女、

[056] 気の弱い沢井の優しさにつけ込んで……

[057] 許せない……」

[058]……なぎさ先輩が何て言ったのか、

[059]声が小さくて、聞き取れなかった。

[060]それ以前に、傷口が……痛い……!

[061]【かおり】

[062]「うう……」

[063]【なぎさ】

[064]「やだっ、炎症を起こしてるじゃない!

[065] 発赤・熱感・腫脹・疼痛・機能障害!」

[066]【かおり】

[067]「え……?」

[068]【なぎさ】

[069]「炎症の5大主徴よ、習ったでしょう!?」

[070]うう、

[071]そんなこと考える余裕なんかないよぅ……。

[072]【なぎさ】

[073]「まずは消毒して冷やすわね。

[074] 消毒液、ある?」

[075]【かおり】

[076]「ありません〜」

[077]【なぎさ】

[078]「わかったわ。

[079] じゃあ、ちょっと待ってて!」

[080]【かおり】

[081]「なぎさ先輩……?」

[082]すん、と鼻を啜る。

[083]【なぎさ】

[084]「お待たせっ!」

[085]なぎさ先輩の呼吸が荒くなってる。

[086]【なぎさ】

[087]「ちょっと染みるわよ……ごめんね?」

[088]わざわざ自分の部屋に戻って、

[089]消毒薬を持ってきてくれたのね……。

[090]その優しさが、

[091]ささくれだっていた心を、穏やかにしてくれる。

[092]【かおり】

[093]「あっ、つ……ぅ!」

[094]【なぎさ】

[095]「ごめんね、痛いわよね……」

[096]【かおり】

[097]「へ、平気です……」

[098]【なぎさ】

[099]「後は、ガーゼの内側に化膿止めを塗って……」

[100]チューブから、ガーゼにひねり出した軟膏を、

[101]手早くガーゼ同士を擦り合わせることで

[102]塗り広げた。

[103]【なぎさ】

[104]「これで、傷口を保護する」

[105]ぺたり、とガーゼを噛み跡の上に貼り付ける。

[106]これを、テープで固定しておしまい。

[107]……かと思いきや、

[108]なぎさ先輩は冷凍庫に入れてあった

[109]ケーキ用の保冷材をガーゼの上から押し当ててきた。

[110]【かおり】

[111]「…………?」

[112]【なぎさ】

[113]「炎症が起こっている場所は冷やす、

[114] 炎症が取れてきたら温める。

[115] これが基本よ?」

[116]【かおり】

[117]「……ありがとうございます」

[118]【なぎさ】

[119]「しばらく痛いと思うけど……

[120] 今日はお風呂はやめておくこと」

[121]【かおり】

[122]「……はい」

[123]なぎさ先輩の手当てのお陰で、

[124]随分と痛みは楽になった。

[125]【なぎさ】

[126]「これじゃあ、アルコールもナシかー、

[127] 一緒に飲もうって思ったのに、残念〜っ!」

[128]残念そうな声に、申し訳なくなってしまう。

[129]【かおり】

[130]「すみません……。

[131] わたしが不注意だったから……」

[132]【なぎさ】

[133]「沢井は悪くないでしょ!

[134] 悪いのは……あの女……」

[135]【かおり】

[136]「な、なぎさ先輩、

[137] 相手は一応、患者さんなんだから……」

[138]【なぎさ】

[139]「患者だからって

[140] 何をしてもいいってわけじゃないでしょう?」

[141]【なぎさ】

[142]「……あいつがもし看護師になんかなったりしたら、

[143] あたし、あいつの勤務先に乗り込んで……

[144] フフフ……」

[145]【かおり】

[146]「な、なぎさ先輩?」

[147]【なぎさ】

[148]「って、ウソに決まってんでしょー!

[149] 沢井ったら、あたしが本気であの子なんかのために

[150] 自分の人生潰すとでも思う? やーねぇ!」

[151]【かおり】

[152]「いえ……

[153] そういうわけじゃないですけど……」

[154]何だろう、

[155]心のどこかが落ち着かない気がする……。

[156]【なぎさ】

[157]「せっかく沢井と一緒に勤務できるようになったのに、

[158] あたしがそんなおバカなことして

[159] 何もかもを無駄にするわけないでしょー?」

[160]明るく笑い飛ばす、なぎさ先輩に

[161]ちょっとだけホッとした。

[162]【なぎさ】

[163]「あの子のことより、

[164] 沢井、お風呂は入れないんだから、

[165] あたし、身体、拭いてあげようか?」

[166]【かおり】

[167]「ひへっ!?

[168] そ、そんな、手当てまでしてもらっておいて、

[169] その上、清拭だなんて、申し訳なさ過ぎです!!」

[170]【なぎさ】

[171]「何よぅ、水臭いわねぇ!

[172] 沢井とあたしの仲じゃないの、

[173] 遠慮しなくてもいいのに!」

[174]【かおり】

[175]「遠慮なんかじゃなくて……、

[176] そこまでなぎさ先輩に甘えちゃ、わたし自身が

[177] 自分を嫌いになっちゃいそうで嫌なんです!」

[178]【なぎさ】

[179]「……沢井ったら、変なところで真面目なんだから。

[180] あたしにだけ甘えてくれるなら、

[181] いーっぱい甘えさせてあげるのに、もーもー」

[182]【かおり】

[183]「もう十分、甘えさせてもらってます。

[184] ありがとうございます」

[185]ニコッと微笑むと、

[186]なぎさ先輩が苦笑めいた微笑みを浮かべた。

[187]【なぎさ】

[188]「んもう、沢井のこういうところに、

[189] いっつも負けちゃうのよねー」

[190]【かおり】

[191]「わたし、勝ってるんですか?」

[192]【なぎさ】

[193]「そーよ。

[194] だからあたしも、沢井の意思を尊重して、

[195] あんまり口を出さないようにしてるでしょ?」

[196]きっとなぎさ先輩なら、

[197]わたしをベッタベタに甘やかしてくれるはず。

[198]でも……それじゃいけないと思うの。

[199]自立した大人になるためには、

[200]甘えるだけじゃなくて、

[201]甘えさせてあげられるようにならなきゃ。

[202]【かおり】

[203]「じゃあ、なぎさ先輩も、

[204] わたしに甘えてくれてもいいですよ?

[205] 甘えさせてあげます」

[206]【なぎさ】

[207]「…………」

[208]なぎさ先輩は、呆れたような顔をして……。

[209]【なぎさ】

[210]「あたしに向かって『甘えさせてあげる』なんて

[211] 百年早いことを言う口はこの口かしらぁ?」

[212]ぎゅむーと、ほっぺを抓られた。

[213]【かおり】

[214]「い、いひゃいいひゃい!

[215] ご、ごめんなひゃーいっ!!」

[216]悲鳴を上げると、すぐに手を離してくれた。

[217]【なぎさ】

[218]「わかればいいのよ」

[219]にっこり笑って、

[220]やわやわと、ちょっとヒリヒリする頬を

[221]撫でてくれる、優しい手。

[222]【なぎさ】

[223]「んもー、沢井って、ほんと、おバカ。

[224] 背伸びしなくてもいいのよ。

[225] 沢井はこのまんまで……」

[226]撫でてくれる手に、そっと手を重ねる。

[227]【かおり】

[228]「……なぎさ先輩……」

[229]なぎさ先輩の優しさが、

[230]あたたかい手のひらから伝わってくる気がした。

white_robe_love_syndrome/scr00520.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)