User Tools

Site Tools


white_robe_love_syndrome:scr00519

Full text: 181 lines Place translations on the >s

[001]なぎさ先輩に、

[002]あみちゃんのトイレの回数を聞いて来いって言われて

[003]病棟を探してるんだけど、

[004]あみちゃんは部屋にいなかった……。

[005]勇気を出して、

[006]堺さんの部屋にも行ったけど、

[007]そこにもいない。

[008]うーん。

[009]もしかして……?

[010]あ、やっぱり!!

[011]子供たちに囲まれて、

[012]あみちゃんはフォルテールをひいていた。

[013]どうやら子供たちにせがまれたらしい。

[014]小さい音で鳴らしてるのは、

[015]フォルテールのすぐ傍に

[016]子どもたちがいるから……かな。

[017]いつもの音量で鳴らしたら、

[018]耳が痛くなっちゃいそうだもんね。

[019]子供の内から大きな音に触れてると

[020]難聴になっちゃうって言うし、

[021]気を遣ってあげてるのかな、

[022]偉いなぁ、あみちゃん。

[023]そんなことを考えながら、

[024]演奏が一段落したところで、声をかけてみた。

[025]【かおり】

[026]「あみちゃん」

[027]【あみ】

[028]「あ……、かおりんさん……」

[029]【ひろくん】

[030]「わー、鬼が来たー

[031] 逃げろー!」

[032]【こむやん】

[033]「逃げろー!」

[034]キャーキャー言いながら、

[035]子供たちが一目散に逃げ出した。

[036]しかも、鬼……って、どゆこと?

[037]わたし、鬼じゃないよぅ……。

[038]【かおり】

[039]「ううっ、

[040] 逃げなくてもいいじゃない……」

[041]ショックだったからか、

[042]思っていたことが口に出てしまった。

[043]ハッとしてあみちゃんを見る。

[044]きっと苦笑してるだろうなと思ってたけど、

[045]そこには曇った表情があった。

[046]あんな風に子供たちに囲まれて演奏してたのに、

[047]……楽しくなかったのかな?

[048]【かおり】

[049]「どうかしたの?」

[050]そっと訊ねる。

[051]【かおり】

[052]「子供たちに囲まれて、

[053] ちょっと疲れちゃったのかな?」

[054]【あみ】

[055]「……死神の音」

[056]【かおり】

[057]「え?」

[058]あみちゃんは今にも泣きそうな顔で

[059]わたしを見た。

[060]【あみ】

[061]「酒石さんがあんな風になったの、

[062] わたしのせいなんです!

[063] わたしがいけなかったんです!!」

[064]【かおり】

[065]「は?」

[066]【あみ】

[067]「みんなにお願いされて、断れなくて、

[068] なるべく小さい音で演奏したけど……

[069] あの子たちに何かあったら、わたし……!!」

[070]【あみ】

[071]「かおりんさん、

[072] わたしを……わたしを罰してください!!」

[073]【かおり】

[074]「ちょ、ちょっと待って!!

[075] 何のことかわかんないよ!」

[076]【あみ】

[077]「…………」

[078]どうしたんだろう、すごくしょんぼりしてる。

[079]【かおり】

[080]「あみちゃんが何に悩んでるのか判らないけど、

[081] 酒石さんは……遅かれ早かれ、ああなってたって

[082] 主任さんが言ってたよ」

[083]【あみ】

[084]「え……?」

[085]【かおり】

[086]「肝臓がね、もうダメだったの。

[087] 外科での治療を期待できるくらいには、

[088] ダメージを軽減できてたってだけで……」

[089]【かおり】

[090]「詳しく言うと長くなっちゃうから省略するけど、

[091] 肝臓以上に血管がもう保たなかったの。

[092] だから、大出血しちゃった……」

[093]【あみ】

[094]「…………」

[095]ああっ、

[096]ますます暗い顔にさせちゃった!

[097]あんな血まみれの事件を

[098]まだ高校生のあみちゃんに思い出させちゃうなんて、

[099]わたしって、ほんとバカ!!

[100]【かおり】

[101]「で、でも、酒石さんはね、

[102] 自分がどうなるのか、わかってたと思う。

[103] 自業自得だって笑ってたって記録があったもん」

[104]【かおり】

[105]「それでもね、残される家族のために、

[106] 精一杯生きながらえようって考えたんじゃないかな。

[107] ……酒石さんに演奏を聴かせてあげたの?」

[108]【あみ】

[109]「……はい」

[110]ためらうように、あみちゃんが頷いた。

[111]【かおり】

[112]「そっかー。

[113] 酒石さんも、きっとあみちゃんの演奏で、

[114] 前向きに頑張ろうって勇気を貰ったと思うよ」

[115]【あみ】

[116]「……そんなこと……」

[117]【かおり】

[118]「そんなことあるよ。

[119] 子供たちだって、すごく楽しそうだったじゃない。

[120] わたしが来て、邪魔しちゃったけど」

[121]【あみ】

[122]「…………」

[123]【かおり】

[124]「ホントは子供たちと

[125] みんなで一緒に聴きたかったなぁ……

[126] あみちゃんのフォルテール」

[127]【かおり】

[128]「だって、すごく素敵な音色だし、

[129] 聴いてるとホッとするんだもの」

[130]【あみ】

[131]「本当に……?」

[132]【かおり】

[133]「うん、ホント! ウソは言わないよ。

[134] だって、わたし、あみちゃんのフォルテール

[135] 大好きだもの!」

[136]【あみ】

[137]「……はい……」

[138]嬉し泣きの瞳が、

[139]わたしをじっと見つめてくれる。

[140]【かおり】

[141]「酒石さんのことは、酒石さんのこと。

[142] あみちゃんは、あみちゃん。

[143] 全く違うことなの、わかった?」

[144]【あみ】

[145]「……そうですよね……。

[146] 病院って、イロイロな人が

[147] イロイロな事情を抱えて入院してますものね」

[148]【かおり】

[149]「そういうこと!

[150] だから、あみちゃんは気にすることないの!

[151] ねっ!?」

[152]冷え切ったあみちゃんの手を

[153]そっと握り締めた。

[154]【かおり】

[155]「ほら、こんなに手が冷たくなってる。

[156] 主任さんに見つかると叱られるよ、

[157] 『女の子が身体を冷やすなんて!』って」

[158]【かおり】

[159]「さ、一緒に行ってあげるから、

[160] 早く部屋に帰ろう?」

[161]【あみ】

[162]「……叱られるなら、

[163] かおりんさんも一緒ですね」

[164]【かおり】

[165]「もー、しょうがないなー。

[166] じゃあ、一緒に叱られてあげる!」

[167]【あみ】

[168]「…………」

[169]あれ、あみちゃんから返事がない。

[170]あみちゃんの横顔は

[171]やっぱりまだ沈んでいるようで、

[172]それだけ酒石さんのステルベンに

[173]衝撃を受けてたのかもしれない……。

[174]……でも。

[175]あみちゃんって

[176]周囲の人の顔色とか見すぎなんじゃないかな。

[177]まだ高校生なんだから、

[178]あんまり深く考えない方がいいのにね。

[179]病室に戻る道すがら、

[180]なぎさ先輩に頼まれてたことを訊いて、

[181]メモしながら、わたしはそんなことを考えていた。

white_robe_love_syndrome/scr00519.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)