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white_robe_love_syndrome:scr00518

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[001]一昨日の酒石さんのステルベンから、

[002]堺さんの口撃が一段と苛烈になった。

[003]【まゆき】

[004]「……大丈夫だ。

[005] おまえが気に病むことではない」

[006]【かおり】

[007]「うん……」

[008]今日も、いつものように

[009]堺さんにへこまされた心を、

[010]こうしてまゆきちゃんに癒してもらってる。

[011]こういうのって、

[012]まゆきちゃんの存在を逃げ道に使ってるみたいで、

[013]あんまり良くないって自分でもわかってる。

[014]けど、

[015]こういう『癒し』がないと、

[016]心が壊れてしまいそうで……。

[017]【まゆき】

[018]「あうっ!!」

[019]【かおり】

[020]「まゆきちゃん!?」

[021]いつもの頭痛だ!

[022]慌てて抱き寄せて、

[023]頭痛が良くなるようにと念じながら、頭を撫でる。

[024]プラセボでも何でもいい。

[025]効いてくれるのなら……、

[026]まゆきちゃんの頭痛が軽くなるんなら、何でもいい。

[027]【まゆき】

[028]「も、もういい……」

[029]辛そうなまゆきちゃんの声。

[030]【かおり】

[031]「ダメ。

[032] まだ頭が痛いんでしょ?」

[033]くらりと視界が歪む。

[034]【まゆき】

[035]「これ以上はもう無理だ。

[036] 手を離せ」

[037]手を振り払われた。

[038]【かおり】

[039]「ま、まゆきちゃん?」

[040]【まゆき】

[041]「……謝って済むことではないが……、

[042] 許して欲しい」

[043]【かおり】

[044]「え……、

[045] 別に謝られるほどのことじゃないよ」

[046]叩かれた手はじんじんしてるけど、

[047]別に怪我をしたわけでもないし。

[048]【まゆき】

[049]「違う……そうじゃない……」

[050]【かおり】

[051]「はひ?」

[052]首を傾げるわたしに、

[053]まゆきちゃんは考え込む仕草をしてから、

[054]ゆっくりを深呼吸をした。

[055]【まゆき】

[056]「……おまえが信じていない『癒しの手』だが……。

[057] もし、それが本当に実在していたとしたら、

[058] おまえはどうする?」

[059]【かおり】

[060]「わたしの『癒しの手』が?」

[061]少し考えてみた。

[062]答えは意外なほど、すぐに出た。

[063]【かおり】

[064]「……本当にあったらいいなって思うよ」

[065]【まゆき】

[066]「それが、おまえの生命力を

[067] 他者に分け与えている類の能力だとしても?」

[068]わたしの生命力を

[069]誰かに分け与えている……?

[070]ということは……。

[071]【かおり】

[072]「……まゆきちゃんは、

[073] わたしの癒しの手があると、

[074] 頭痛が治まるんだよね」

[075]【まゆき】

[076]「ああ、そうだ。

[077] 嘘のように引いてゆく」

[078]【かおり】

[079]「そう……。

[080] なら、良かった」

[081]【まゆき】

[082]「は?」

[083]【かおり】

[084]「癒しの手でも何でもいいよ。

[085] わたしはまだ新人で、経験も全然足りなくて、

[086] ちゃんとしたケアが何もできないんだもん」

[087]【かおり】

[088]「わたしのこの手で、

[089] 少しでも患者さんを楽にできるんなら、

[090] 癒しの手でも何でも使ってあげたいって思う」

[091]【まゆき】

[092]「わたしはおまえの『癒しの手』を

[093] 不当に利用しているんだぞ。

[094] 不快ではないのか」

[095]【かおり】

[096]「どうして?

[097] だって、わたしだって、

[098] まゆきちゃんに癒してもらってるんだもん」

[099]【まゆき】

[100]「わたしが?」

[101]意外そうに目を見開いたまゆきちゃんは、

[102]いつもの大人びた雰囲気から

[103]年相応の雰囲気になる。

[104]それが嬉しくて、

[105]わたしは思わず笑ってしまう。

[106]【かおり】

[107]「うん、まゆきちゃんと話してると、ホッとする。

[108] こんなわたしにも、懐いてくれて、

[109] 認めてくれる患者さんがいるんだって」

[110]【まゆき】

[111]「しかし、わたしは

[112] おまえの生命力を食っているんだぞ?」

[113]【かおり】

[114]「いいよ、それくらい。滅私奉公ってわけじゃないけど、

[115] 別に死ぬわけじゃないんだもん、

[116] いくらでも食べて?」

[117]ふっと、まゆきちゃんの表情が翳る。

[118]【まゆき】

[119]「……死ぬとしたら、どうする?」

[120]深刻なまゆきちゃんの表情。

[121]それでも、

[122]わたしはにっこりと微笑む。

[123]いいよ

[124]死なない程度にしてね

[125]【かおり】

[126]「それでもいいよ。

[127] 死んだらそこまでだった、ってことで」

[128]【まゆき】

[129]「…………」

[130]すぅっと、

[131]まゆきちゃんの表情が失せた。

[132]【まゆき】

[133]「話にならんな。

[134] こうも現状把握ができない阿呆だとは思わなかった」

[135]【かおり】

[136]「え?」

[137]【まゆき】

[138]「わたしは阿呆と話す趣味はない。

[139] 出て行け」

[140]【かおり】

[141]「……え……!?」

[142]まゆきちゃんは酷く怒っているらしい。

[143]怒らせたのは……わたし!?

[144]【かおり】

[145]「ご、ごめんね、

[146] わたし、そんなつもりじゃ……!」

[147]【まゆき】

[148]「…………」

[149]それ以降、わたしが何を話しかけても、

[150]まゆきちゃんはわたしなんて部屋にいないような感じで、

[151]無視し続ける。

[152]静かに立ち上がって、

[153]わたしはまゆきちゃんの部屋からそっと出た。

[154]【かおり】

[155]「…………」

[156]【かおり】

[157]「それはちょっと困るから、

[158] 死なない程度にして欲しいな」

[159]【まゆき】

[160]「……おまえ、本気か?」

[161]【かおり】

[162]「だって、それって

[163] わたしにしかできないことなんでしょう?」

[164]【かおり】

[165]「わたしだけがまゆきちゃんの役に立てる、

[166] そう考えると、やっぱり嬉しいなって思う」

[167]まゆきちゃんは一瞬、目を丸くして、

[168]それからしばらく俯いていた。

[169]【まゆき】

[170]「…………」

[171]【かおり】

[172]「まゆきちゃん、どうしたの?

[173] また頭が痛いの?」

[174]まゆきちゃんの顔を覗き込む。

[175]でも、まゆきちゃんは、

[176]ゆっくりと首を横に振ってから顔を上げた。

[177]【まゆき】

[178]「……ああ、善処しよう、

[179] 死なない程度にする、と」

[180]大人びた、けれど、

[181]今にも泣きそうな微笑みが向けられる。

[182]ああ、そうかと思った。

[183]最近、ちょっと立ちくらみがするなって思ってたけど、

[184]わたしの生命力をまゆきちゃんに分け与えてたんなら、

[185]くらくらするのも当然かもね。

[186]……にわかには

[187]信じられない話だけど。

[188]【かおり】

[189]「でも、食べすぎ注意ね。

[190] まゆきちゃんがお腹を壊すと大変だから」

[191]呆れた顔のまゆきちゃんは、

[192]次の瞬間、くすっと笑った。

[193]【まゆき】

[194]「……ただの喩え話だ、

[195] 文字通り受け止めるな、阿呆」

white_robe_love_syndrome/scr00518.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)