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white_robe_love_syndrome:scr00512

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[001]堺さんの部屋の前に立つ。

[002]【かおり】

[003]「……ふぅ」

[004]昨日、いきなりお休みしてしまったことで、

[005]堺さんに迷惑をかけてしまった。

[006]今、わたしの担当患者さんは堺さんだけ。

[007]わたしが休んだことで、他の看護師さんの仕事に、

[008]いきなり堺さんの点滴管理が組み込まれることになって、

[009]堺さんの点滴の時間がずれちゃったんだよね。

[010]堺さんはきっちりした性格だから、

[011]点滴の時間が遅れ気味になったせいで

[012]すごく機嫌が悪かったらしいの。

[013]それなのに、

[014]わざわざわたしを心配して

[015]電話してきてくれたんだよね。

[016]すごく嬉しい。

[017]相変わらずの堺さん節で

[018]最後は嫌味っぽいことを言われちゃったけど。

[019]でも、わざわざ電話をかけてきてくれるなんて

[020]まるで堺さんが心を開いてくれたみたいじゃない?

[021]本当は、顔を合わせづらいんだけど、

[022]お礼、言わなくちゃね!

[023]【さゆり】

[024]「どうぞ」

[025]【かおり】

[026]「失礼します」

[027]【かおり】

[028]「あの……昨日は、ありがとう。

[029] それから、心配をかけてごめんなさい」

[030]【さゆり】

[031]「……昨日も電話で言ったけれど、

[032] わたしはあなたの心配なんてしていないわ、

[033] 勝手に誤解しないで」

[034]う。

[035]【さゆり】

[036]「言ったでしょう?

[037] あなたは退屈な入院生活の暇つぶしなの。

[038] いなくなってもらっては困る、それだけよ」

[039]……相変わらずだな。

[040]でも、この相変わらずさ加減が

[041]ちょっとホッとするっていうか……。

[042]ああ、

[043]堺さんとしゃべってるんだなぁって

[044]思うんだよね。

[045]……で、謝るために、ここに来たんだけど。

[046]うう、気が重いなぁ。

[047]【さゆり】

[048]「どうぞ」

[049]【かおり】

[050]「失礼します」

[051]【さゆり】

[052]「昨日はお休みだったんですってね」

[053]うわ、いきなり嫌味口調だ……。

[054]【かおり】

[055]「ええ、まぁ……。

[056] ちょっと体調を崩して……」

[057]【さゆり】

[058]「ふーんそう。

[059] 看護師は身体が資本で、体調管理が基本なのに、

[060] 職業意識が足りないんじゃないかしら」

[061]ううう……、

[062]この相変わらずな堺さん節……。

[063]【さゆり】

[064]「看護はチームで動くというのに、

[065] そんな学生意識で働く人がいるなんて、

[066] 同僚も患者も迷惑よね」

[067]はい、その通りでございます。

[068]……堺さんの言う通りすぎて

[069]何も言い返せないよ。

[070]【さゆり】

[071]「あなたがいなくてせいせいした反面、

[072] いちいちナースコールしなきゃ

[073] 点滴持ってきてくれないのがウザかったわ」

[074]【さゆり】

[075]「コールしなくても点滴が来るのが

[076] あなたが担当になった唯一のメリットなのに、

[077] 急な欠勤は迷惑以外の何ものでもないわね」

[078]【かおり】

[079]「……ご、ごめんなさい……」

[080]ふと、堺さんの腕に

[081]黒ずんだ跡が見えた。

[082]内出血の跡。

[083]よく見れば、その周辺に

[084]細かい点状出血も見える。

[085]痛々しいなぁと思いながら

[086]堺さんの腕をじっと見てしまった。

[087]わたしの視線に気づいた堺さんが

[088]さっと腕を布団の中に隠す。

[089]【かおり】

[090]「隠さなくてもいいのに」

[091]【さゆり】

[092]「…………」

[093]ムッとした顔で、

[094]堺さんがわたしを睨んだ。

[095]わたし……、

[096]何か気に障ること、言った?

[097]【さゆり】

[098]「あなたの手を出して」

[099]【かおり】

[100]「?」

[101]【さゆり】

[102]「そうね……、

[103] 右手がいいわね、右手を出して」

[104]わけがわからないながらも、

[105]堺さんの方に右手を出した。

[106]その途端、手首を掴まれる。

[107]【かおり】

[108]「え……っ!?」

[109]慌てて引っ込めようとしたけれど

[110]掴まれた腕はびくともしない。

[111]病人なのに、すごい力。

[112]【かおり】

[113]「い、痛いよ!」

[114]けれど、堺さんは離さない。

[115]更に、ぐいっと引っ張られる。

[116]バランスを崩して

[117]堺さんのベッドに倒れ込んだ。

[118]わたしが辛うじてできたことは、

[119]堺さんの身体の上に乗らないように

[120]倒れることだけ。

[121]【かおり】

[122]「い……ッ!?」

[123]突然、腕に鋭い痛みが走る。

[124]見ると、堺さんが腕に噛み付いていた。

[125]堺さんの口元から、

[126]ううん、わたしの腕にできた傷跡から

[127]赤い血が滴っている。

[128]【かおり】

[129]「え……?」

[130]何、これ?

[131]何なの……、これ?

[132]呆然としている間に、堺さんの唇が離れた。

[133]わたしの腕に残った、浅くはない歯型の跡。

[134]裂けた皮膚からじわじわと血が滲み出している。

[135]【さゆり】

[136]「……あなたにも

[137] 恥ずかしい傷をつけてやったわ」

[138]【かおり】

[139]「え?」

[140]【さゆり】

[141]「歯型なんて、

[142] そんな無様なものをさらして

[143] 仕事なんてできないわよね」

[144]せせら笑う堺さん。

[145]口元が血に染まっている。

[146]――わたしの、血に。

[147]【さゆり】

[148]「これでチャラにしてあげる」

[149]【かおり】

[150]「……え?」

[151]【さゆり】

[152]「……あなたの血を啜ることで

[153] わたしの病気が治ればいいのに」

[154]今、何て言ったの?

[155]堺さんの言ったことも、

[156]やったことも、

[157]意味がわからないよ……。

[158]【さゆり】

[159]「で、そこの看護師さん、

[160] 他に用事はないんですか?」

[161]冷たい口調で質問されて、

[162]何とか自分を取り戻す。

[163]【かおり】

[164]「えーっと……、

[165] 今は特に、ない、です」

[166]【さゆり】

[167]「そう。

[168] だったら、こんなところに長居せず

[169] とっとと仕事に戻ったらどうなんですか」

[170]【かおり】

[171]「あ、うん……、そうだね」

[172]ぺこりと頭を下げる。

[173]混乱してる……わたし。

[174]混乱してるけど……、

[175]でも、今は仕事に戻らなきゃ。

[176]堺さんの言動の意味はわからないけれど、

[177]わたしが看護師で、しかも勤務中だってことは

[178]わかってるから。

[179]【かおり】

[180]「今回のことは、

[181] 本当にご迷惑をおかけしました」

[182]顔を上げて、堺さんを見て、

[183]にっこりと笑ってみる。

[184]わたしはもう大丈夫だよって

[185]メッセージを込めて。

[186]噛まれた腕の傷跡はじんじんと熱い痛みを放ってて、

[187]指先からは血が滴り落ちそうになっているけれど、

[188]でも、笑顔が作れないほどじゃない。

[189]【さゆり】

[190]「…………」

[191]【かおり】

[192]「何かあったら

[193] ナースコールで呼んでくださいね。

[194] ……じゃあ、また」

white_robe_love_syndrome/scr00512.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)