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white_robe_love_syndrome:scr00509

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[001]今日もなんとか勤務終了〜!

[002]はぁ、疲れたなぁ。

[003]だいぶ勤務には慣れてきたけど、

[004]それでも毎日覚えることは多くて、

[005]焦りを感じてしまう。

[006]焦ったところで

[007]いいことなんかないんだけど。

[008]わかってるんだけど、やっぱりね……。

[009]頭に浮かぶのは、堺さんのこと。

[010]入院中の身でありながら、

[011]看護の勉強をしっかり続けていて、

[012]わたしよりも知識が豊富な患者さん。

[013]はぁ……

[014]わたし、情けないなぁ。

[015]白衣着てても、免許も持ってても、

[016]実習生の頃と何も変わってないみたい。

[017]ため息をついて、軽く頭を振った。

[018]ダメダメ、ネガティブになっちゃ。

[019]ため息ついてると幸せが逃げるっていうし、

[020]なんか楽しいこと考えよう!

[021]頭を切り替えて……と。

[022]そうだ、今日の夕飯は何にしようかな。

[023]自炊かコンビニか。

[024]あれ? ケータイ?

[025]わたしは慌ててかばんを探る。

[026]こんな時間に誰だろう?

[027]病院からの呼び出しかな?

[028]表示は『非通知』だった。

[029]【かおり】

[030]「はい、もしもし……」

[031]耳を澄ませても何も聞こえない。

[032]なんだろう?

[033]【かおり】

[034]「あの、もしもし?」

[035]【かおり】

[036]「何、今の……間違い電話?」

[037]かばんにケータイをしまおうとした時、

[038]再びケータイが鳴り出しわたしは表示を確かめる。

[039]また非通知だ……。

[040]【かおり】

[041]「もしもし……」

[042]やっぱり何も聞こえない。

[043]無言。

[044]ゾクリとする。

[045]【かおり】

[046]「誰ですか!?」

[047]二度もかかってくるなんて、

[048]間違い電話……とかじゃないよね?

[049]なんか、気持ち悪い……。

[050]【かおり】

[051]「やだ、早く帰ろう!」

[052]ケータイを握ったまま、足早で寮に向かう。

[053]再びケータイが鳴り始めた。

[054]また、非通知。

[055]……やだ、何なの?

[056]誰なの?

[057]鳴り続けるケータイをかばんに投げ込み、

[058]わたしは駆け出した。

[059]【かおり】

[060]「……っ!」

[061]気持ち悪い!

[062]怖い!

[063]いやだ!

[064]目の前にコンビニが見える。

[065]いつもの行きつけのコンビニの明かり。

[066]煌々としたまぶしい光は

[067]まるでセーフティーゾーンのような気がして

[068]わたしは駆け込んだ。

[069]【かおり】

[070]「はぁ、は……、ハァ……ッ」

[071]肩で大きく息をつくわたしを、

[072]店員さんが不思議そうな表情で見ている。

[073]これから、どうしよう……。

[074]ケータイはあれから何度かかかってきたらしく

[075]着信履歴には「非通知」の文字が並んでいる。

[076]足が震える。

[077]大きく呼吸を繰り返しながら

[078]わたしは本棚の前に立った。

[079]ただそれだけ。

[080]じっと立っているだけなのに

[081]呼吸はどんどん荒くなっていく。

[082]心臓がバクバク大きく鳴り響く。

[083]電話をかけてくるのは誰なの?

[084]何がしたいの?

[085]思考は勝手にどんどん暴走していく。

[086]誰かがわたしを狙っている?

[087]誰かがわたしを……。

[088]――わたしを、ころしたいの?

[089]ドクン!

[090]心臓が大きく脈打った。

[091]激しく大きくなる鼓動。

[092]呼吸が苦しくなってくる。

[093]い、や……!

[094]ころさ、ないで!

[095]痛いほど心臓が脈打ち、耳鳴りがガンガンする。

[096]頭も痛い。

[097]だれかがわたしをころしにくる……。

[098]【かおり】

[099]「い……や……」

[100]だれが、わたしを?

[101]どうして、わたしが?

[102]どうして……。

[103]【???】

[104]「あれ? 沢井?」

[105]【かおり】

[106]「きゃあぁっ!?」

[107]【???】

[108]「ど、どうしたのっ?!」

[109]ポンと肩を叩かれたわたしは

[110]思わず悲鳴を上げて、

[111]その場にしゃがみ込んでしまった。

[112]おそるおそる顔を上げる。

[113]視線の先には

[114]びっくり顔のなぎさ先輩がいた。

[115]【かおり】

[116]「な、ぎさ、先輩?」

[117]【なぎさ】

[118]「……だ、大丈夫?」

[119]心配そうな顔に、ハッと我に返る。

[120]【かおり】

[121]「え、あっ……ご、ごめんなさい。

[122] あの、ちょっと考え事、してて!

[123] 大丈夫です、すみません!」

[124]【なぎさ】

[125]「も〜、びっくりしたわよ。

[126] いきなり悲鳴上げてしゃがみ込むんだもん」

[127]【かおり】

[128]「す、すみません」

[129]【なぎさ】

[130]「でも、ホントに大丈夫?

[131] 顔色悪いよ?」

[132]なぎさ先輩はわたしと同じようにしゃがみ込むと、

[133]心配そうに顔を覗き込んで、

[134]そっと片手をわたしの頬に当ててくれる。

[135]優しい、手。

[136]【かおり】

[137]「大丈夫です。

[138] なんか……なぎさ先輩を見たら、安心しちゃった」

[139]【なぎさ】

[140]「?」

[141]【かおり】

[142]「あはっ、なんでもありません。

[143] なぎさ先輩の手、気持ちいい〜」

[144]わたしは頬に触れてくれてるなぎさ先輩の手に、

[145]顔を押し付けて、スリスリする。

[146]なぎさ先輩がクスッと笑った。

[147]【なぎさ】

[148]「まったく、バカなことやってないで。

[149] ほら、立てる?」

[150]なぎさ先輩が先に立ち上がって、

[151]わたしに向かって手を差し出してくれる。

[152]その手をぎゅっと握ると、

[153]暖かい手が同じように、ぎゅっと握り返してくれた。

[154]【なぎさ】

[155]「沢井……、大丈夫?」

[156]【かおり】

[157]「はい、もう平気です!」

[158]わたしも元気よく立ち上がる。

[159]もう平気。

[160]さっきまでの足がすくむような恐怖は、

[161]もうどこにもない。

[162]立ち上がったわたしの顔を、

[163]なぎさ先輩が少し心配そうに覗き込んだ。

[164]【なぎさ】

[165]「やっぱり顔色が良くないわ。

[166] もう買い物、終わった?

[167] 終わったんなら、一緒に帰ろ?」

[168]【かおり】

[169]「えっ?

[170] いいんですか!?」

[171]【なぎさ】

[172]「いいも何も、帰るトコ同じじゃない」

[173]【かおり】

[174]「そうですけど……。

[175] わーい、じゃあ、急いで買っちゃいます!

[176] んーっと、何にしようかな……」

[177]なぎさ先輩が側にいるだけで、

[178]こんなにも心が楽になる。

[179]【なぎさ】

[180]「買うもの考えてたわけじゃないの?」

[181]怪訝そうななぎさ先輩の言葉に、

[182]わたしは言葉を濁す。

[183]【かおり】

[184]「あ、はい。

[185] 別のことをちょっと……」

[186]【なぎさ】

[187]「仕事のこと?

[188] 悩みでもあるの?」

[189]【かおり】

[190]「いえっ、そういうわけじゃないです。

[191] すみません、心配かけて……」

[192]【なぎさ】

[193]「後輩の面倒を見るのは先輩のつとめ!

[194] 高校の時から、そんな感じでしょ」

[195]【かおり】

[196]「ふふっ、そうでしたっけ」

[197]【なぎさ】

[198]「むしろ高校の時の方が大変だったわ。

[199] 試験前は毎日放課後に勉強みてたし」

[200]【かおり】

[201]「ああ、そんなこともありましたねぇ」

[202]【なぎさ】

[203]「こらこら!

[204] 遠い過去を懐かしむみたいな目をしない!

[205] 試験直前になって焦る癖、もう治ったの?」

[206]なぎさ先輩が怒ったフリをする。

[207]【かおり】

[208]「えへへっ、相変わらずです」

[209]ひょこっと肩をすくめると、

[210]なぎさ先輩はクスッと笑ってくれた。

[211]【なぎさ】

[212]「もー、しょうがないなぁ、沢井は。

[213] 今はもう学生じゃないんだから、

[214] 試験期間が決まってるわけじゃないのよ?」

[215]【なぎさ】

[216]「試験の直前だけ勉強ってわけにはいかないんだから、

[217] ちゃんと普段から頑張らないと!」

[218]【かおり】

[219]「はーい!」

[220]【なぎさ】

[221]「んもー、返事だけはいいんだから」

[222]やれやれといった風にため息をつくなぎさ先輩。

[223]ホントに不思議……。

[224]さっきまでのものすごい恐怖が

[225]いつの間にか、すっかり消えてる。

[226]【なぎさ】

[227]「あたしは何にしようかなー。

[228] 夕飯作るの面倒だし、お弁当にしよっかな」

[229]【かおり】

[230]「あ、じゃあ、一緒に部屋で

[231] お弁当食べません?」

[232]【なぎさ】

[233]「お、いいね!」

[234]【かおり】

[235]「それなら、ついでにお菓子も買っちゃお!」

[236]【なぎさ】

[237]「ついでにビールも、いっちゃう?」

[238]いたずらっ子みたいに笑うなぎさ先輩の笑顔が

[239]とても心強い。

[240]【かおり】

[241]「いいですけど、程ほどにしてくださいよ?

[242] 酔っ払ってピヨピヨ言っても、

[243] 今度はわたし、知りませんからね?」

[244]【なぎさ】

[245]「なによ、ぴよぴよって?」

[246]え……。

[247]【かおり】

[248]「お、覚えてないんですかっ?!」

[249]【なぎさ】

[250]「覚えてないって?」

[251]きょとんとしたなぎさ先輩の表情は、

[252]とても嘘をついているようには見えなかった。

[253]【かおり】

[254]「うわっ、本当に忘れてるんだ……。

[255] やっぱ今度から動画撮っておこう」

[256]【なぎさ】

[257]「ちょっと!?

[258] なにか良からぬことを企んでない!?」

[259]【かおり】

[260]「べ、別にぃ〜?」

[261]【なぎさ】

[262]「うっわ、わざとらしい〜っ!」

[263]【かおり】

[264]「さ、わたし、レジ行ってこようっと」

[265]笑いながらレジに向かって、

[266]店員さんの前に買い物かごを置く。

[267]お財布を出そうとして、その手がケータイに触れた。

[268]無機質なヒヤリとした感触。

[269]一瞬、背中にゾワリとした悪寒が走り……。

[270]【かおり】

[271]「…………」

[272]そういえば、もう鳴ってない……。

[273]ケータイからそっと手を離し、

[274]慎重にお財布を取り出した。

[275]お金を払いながら、慎重に耳を澄ませる。

[276]ケータイの着信音は、聞こえなかった。

[277]わたしはようやく緊張を解いて笑みを浮かべ、

[278]なぎさ先輩の方を振り返った。

[279]【かおり】

[280]「なぎさ先輩の好きなお菓子も、買いましたよ」

[281]【なぎさ】

[282]「やった〜、ありがと、沢井!」

[283]真後ろに並んでにっこりするなぎさ先輩の笑顔。

[284]さっき頬に触れてくれた優しい指先、

[285]ぎゅっと握ってくれた力強い手。

[286]もう、大丈夫。

[287]なぎさ先輩が側にいるから、もう大丈夫。

[288]根拠もなくそう思って

[289]わたしは心からホッとした。

white_robe_love_syndrome/scr00509.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)