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white_robe_love_syndrome:scr00507

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[001]明かりを落とした、わたしの部屋。

[002]いつもは静かな部屋。

[003]聞こえる音は、

[004]目覚まし時計の秒針が動く音と

[005]わたしの呼吸の音くらい。

[006]なのに、

[007]今日はわたし以外の呼吸の音が聞こえる……。

[008]【はつみ】

[009]「来客用のマットがある、だなんて

[010] 用意がいいわね」

[011]【かおり】

[012]「……実家の妹が来たい、って騒いでいたので……。

[013] 一緒のベッドに寝るのは狭いですから」

[014]主任さんには床に敷いた来客用マットに寝てもらって、

[015]わたしが位置の高いベッドに寝るのが

[016]少し申し訳ないけれど……。

[017]でも、別に変じゃないよね?

[018]【はつみ】

[019]「そう……、沢井さんには

[020] 妹さんがいらっしゃるのね」

[021]暗い中、主任さんが笑う。

[022]【はつみ】

[023]「……妹さんは可愛い?」

[024]そう訊かれて、

[025]わたしは妹の顔を思い出した。

[026]そういえば、

[027]しばらく妹には会ってないな……。

[028]【かおり】

[029]「そうですね……、

[030] 時々、生意気でワガママで天然だけど、

[031] 基本的には可愛いと思います」

[032]二つ年下の妹は

[033]今は実家から離れて、東京で大学生をやっている。

[034]身体を壊してないといいんだけど……。

[035]【かおり】

[036]「頑張り屋さんなのはいいんですけど、

[037] 自分の限界を超えて頑張りすぎるところがあるから、

[038] 見てて少し心配になるんですけどね」

[039]【はつみ】

[040]「そう」

[041]【かおり】

[042]「今でも、わたしが突然いなくなるんじゃないかって

[043] 怯えているみたいなんですよね。 わたしが

[044] 事故に遭った時のイメージが強いみたいで」

[045]【かおり】

[046]「もうわたしも元気になったので

[047] いきなりいなくなることなんてないんですけど。

[048] 妹が怖がってるのが、申し訳なくて……」

[049]【はつみ】

[050]「……そうだったわね、

[051] 沢井さんは、昔、大きな事故に遭ったのよね」

[052]【かおり】

[053]「はい。

[054] わたしはあまり覚えていないんですけど」

[055]【はつみ】

[056]「そう……」

[057]ふと、沈黙が降りてくる。

[058]【はつみ】

[059]「そういえば、あなた、

[060] 患者さんの間で噂になっているようね」

[061]ウワサ?

[062]少し考えて、

[063]あっと思いついた。

[064]【かおり】

[065]「ああ、癒しの手、ってやつですね。

[066] ただのプラセボ効果だと思うんですけど」

[067]【はつみ】

[068]「……本当にそう思う?」

[069]【かおり】

[070]「だって、非科学的でしょう?

[071] 触ることで痛みや辛さが和らぐなら

[072] 病院の存在意義がなくなっちゃうじゃないですか」

[073]【はつみ】

[074]「……そうかしら?」

[075]本心を探るような主任さんの言葉に、

[076]わたしは少し考える。

[077]【かおり】

[078]「うーん、

[079] そういうのがあったらいいなって

[080] ちょっとは思うんですけどね」

[081]【かおり】

[082]「実際、中学とか高校の頃、

[083] 癒しの手がどうのこうのって

[084] 言われたこともあったし」

[085]【はつみ】

[086]「そんな以前からあったのなら、

[087] あなたに癒しの手が実在すると思わない?」

[088]何だか変なの……、

[089]主任さん、やけに絡んできてない?

[090]何かあるのかな……?

[091]この会話、このまま続ける方がいい?

[092]それとも、

[093]主任さんの本意を訊いた方がいいかな?

[094]会話を続ける

[095]本意を訊く

[096]せっかくだから、

[097]会話を続ける方がいいかな。

[098]主任さんとこんな風に

[099]プライベートのことをおしゃべりする機会なんて

[100]そう何度もあるわけじゃないんだし。

[101]【かおり】

[102]「もし癒しの手というものが実在するなら、

[103] わたしにそんな能力があればいいなって思います。

[104] ……少しだけだけど」

[105]【はつみ】

[106]「少しなの?」

[107]静かな声。

[108]意外そうな色は含んでいない。

[109]だからわたしも

[110]静かに思っていることを話す。

[111]【かおり】

[112]「……人と違う能力は、不幸の元ですから」

[113]闇の中、主任さんがクスッと笑った。

[114]【はつみ】

[115]「達観しているのね」

[116]【かおり】

[117]「達観っていうのとは

[118] 少し違うような気がします」

[119]ずっと考えていた気持ちを伝えたくて、

[120]何とか言葉をつむぐ。

[121]【かおり】

[122]「わたしはあまり覚えてないけれど、

[123] 事故に遭ったことで、わたしの人生は

[124] 普通じゃなくなってしまったような気がします」

[125]【かおり】

[126]「わたしは普通になりたいし、

[127] 普通が一番だと思うんですけど、

[128] もうわたしは普通にはなれないから……」

[129]【かおり】

[130]「だから、憧れ、みたいなものかもしれません。

[131] 隣の芝生なのかもしれませんけど」

[132]【はつみ】

[133]「……そうかもしれないわね」

[134]主任さんの本意を訊いてみよう。

[135]何か思うところがあるのかもしれないし。

[136]【かおり】

[137]「あの……それがどうかしたんですか?

[138] ずいぶん気になさってるみたいですけど」

[139]【はつみ】

[140]「気になっただけよ、

[141] 他意はないわ」

[142]サクッと言われた。

[143]……でも、そうなのかな?

[144]わたしと話しながら、

[145]何か聞き出そうとしていた

[146]みたいだったけれど。

[147]わたしの気のせいなのかな?

[148]【はつみ】

[149]「もう夜も遅いわ。

[150] 明日も仕事があるのよ、

[151] 早く寝ましょう」

[152]主任さんが寝返りを打った音が聞こえてきた。

[153]これで会話はおしまい、ということね。

[154]【かおり】

[155]「そうですね。

[156] おやすみなさい」

[157]【はつみ】

[158]「……おやすみなさい」

[159]       「……きなさい。

[160]        あなたは、生きなさい」

[161]          ……え?

[162]     これは、いつもの夢の続き……?

[163]     でも、クラクションも

[164]     ブレーキの音もしなかったけれど。

[165]【はつみ】

[166]「あら、ようやく目が覚めたのね、

[167] おはようございます。

[168] あなた、意外と寝起きは良くないのね」

[169]……あれ?

[170]どうして主任さんがいるの……?

[171]【はつみ】

[172]「わたしは自分の部屋に寄らなければいけないし、

[173] 夜勤さんも気になるから、先に行くわ。

[174] あなたは時間通りに来なさい」

[175]【かおり】

[176]「ふぉえ?」

[177]【はつみ】

[178]「……寝ぼけているの?」

[179]【かおり】

[180]「あうー、おはようごだいましゅ」

[181]【はつみ】

[182]「……まぁいいわ。じゃあね」

[183]んー?

[184]ベッドの上に起き上がって

[185]しばらく考える。

[186]【かおり】

[187]「はっ!?」

[188]そうだ!

[189]昨日の夜、

[190]主任さんを泊めたんだっけ!!

[191]それなのに、わたしったら

[192]盛大に寝ぼけたところを見せちゃった……!

[193]は、恥ずかしいよぅ〜!

[194]今日も日勤なのに、

[195]主任さんと顔を合わせるのが恥ずかしい!

[196]でも、出勤しなきゃいけないよね。

[197]【かおり】

[198]「ううう……」

[199]モゾモゾとベッドから降りる。

[200]今日も仕事、頑張るぞー!!

[201]頑張って汚名挽回しなきゃ!

[202]あれ?

[203]名誉挽回だっけ?

white_robe_love_syndrome/scr00507.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)