User Tools

Site Tools


white_robe_love_syndrome:scr00506

Full text: 249 lines Place translations on the >s

[001]今日も、勤務後に

[002]主任さんの部屋でお勉強。

[003]なぎさ先輩も誘ったんだけど、

[004]今日も用事があって合流できないんだって。

[005]残念だなー。

[006]でも、こうして

[007]誰かとお勉強するのはいいよね。

[008]サボらずに済むし、

[009]なんといっても、わからないところを、すぐさま、

[010]完璧に理解できるまで教えてもらえるのがいい。

[011]理解が難しいところって

[012]考えてもよくわかんないから、

[013]ついつい集中力が途切れちゃうんだよね。

[014]集中力が途切れちゃうと

[015]もうダメなの、

[016]やる気がなくなっちゃう。

[017]やらなきゃいけないんだけど、

[018]それはわかってるんだけど、

[019]でも、やる気にならないっ!!

[020]受験はもう終わったのに、

[021]延々と受験前の追い込みをやってる

[022]気分になるのよね……。

[023]でも、目の前に主任さんがいると、

[024]集中力が途切れそうになる頃に

[025]わかりやすい解説を入れてくれるの。

[026]集中力は持続するし、

[027]しかも、更に理解も深まるし、で、一石二鳥!

[028]おかげで、堺さんの病気、

[029]再生不良性貧血の理解も深まってきた。

[030]理解すればするほど

[031]シビアな病気なんだなということがわかって

[032]ちょっとブルーになっちゃうんだけどね。

[033]時々、堺さんに

[034]ツッコミっぽい質問をされるけど、

[035]ほとんどクリアできているのは主任さんのおかげ。

[036]今までは腫れ物に触るような態度で接してたけど、

[037]疾患の理解が深まるにつれて、心の底から堺さんに、

[038]気持ちよく入院生活を送ってもらえればって

[039]思えるようになってきたの。

[040]でも、最近、堺さんと仲良くなっている

[041]つくしちゃんの病状は

[042]まだしっかり理解できてないの。

[043]つくしちゃんの病気は

[044]こはくちゃんと同じ病気で、

[045]糖尿病でも一型糖尿病というもの。

[046]糖尿病には一型と二型があって、

[047]生活習慣病の糖尿病は二型。

[048]二型糖尿病は、長年の不摂生で

[049]血糖を下げるホルモンのインスリンの

[050]分泌量が低下するとか、感受性が悪くなるとかで

[051]血糖値が高くなってしまう病気なの。

[052]こはくちゃんやつくしちゃんのように、

[053]何らかの病気があって、そのせいで

[054]インスリンが作られなくなったことによる糖尿病を

[055]一型糖尿病というの。

[056]一型糖尿病には『小児糖尿病』って別名があるように、

[057]子どもに多くて、それゆえのケアの難しさもあるのよね。

[058]だから、今日は糖尿病のお勉強。

[059]【はつみ】

[060]「糖尿病は難しいのよ……。

[061] これはどの病気でもそうだけど、

[062] 一度に全て理解しようとしてはだめなの」

[063]【はつみ】

[064]「いま、目の前にある、ひとつの症状だけ見てもだめ。

[065] 出てくる症状には理由があるのだから、

[066] なぜ今この症状が出ているのかを理解しないとね」

[067]【はつみ】

[068]「糖尿病の原因はいろいろあるけれど、

[069] 要は糖尿病というのは、血液の中で

[070] 砂糖が飽和しているようなものと思っていいわ」

[071]【はつみ】

[072]「砂糖の分子は赤血球よりも大きいの。

[073] ……ということは、赤血球がぎりぎり通れる太さの

[074] 毛細血管は砂糖の分子は通れない」

[075]【はつみ】

[076]「さて、砂糖が飽和状態の血液を

[077] 毛細血管に流そうとすると、どうなると思う?」

[078]【かおり】

[079]「血管が詰まります」

[080]【はつみ】

[081]「血管が詰まると、どうなる?」

[082]【かおり】

[083]「……えっと……」

[084]全身の細胞は、

[085]血管から栄養を運ばれて

[086]新陳代謝をしているのは習った。

[087]血管が詰まると、

[088]その先への栄養の運搬が途絶えてしまう。

[089]【はつみ】

[090]「血管が詰まることで、栄養が届かなくなるわ。

[091] つまり、細胞の新陳代謝が行われなくなるの」

[092]【はつみ】

[093]「怪我をしたら治りにくくなるわね。 だって

[094] 新しい細胞がほとんどできないのだから。 これが

[095] 糖尿病の皮膚障害、ひいては壊疽に繋がるの」

[096]【はつみ】

[097]「あと、神経系統も不具合が出るわ。

[098] 痺れ感とか、運動障害とか麻痺とかね。

[099] 相当、ストレスが溜まるらしいわよ、神経障害は」

[100]【はつみ】

[101]「そして、詰まった血管の部位によって、

[102] 出てくる症状も変わるわ」

[103]【はつみ】

[104]「たとえば、目の奥には細い血管があって、

[105] それが詰まることが、糖尿病性網膜症。

[106] やがて失明するわ」

[107]【はつみ】

[108]「腎臓も細い血管の集合体なので、

[109] この血管が詰まったことであらわれる症状群を、

[110] 糖尿病性腎症と言うの」

[111]【はつみ】

[112]「糖尿病性腎症が進んで

[113] 腎不全になると、一生、透析が必要になるのよ」

[114]……ん?

[115]【はつみ】

[116]「脳の血管が詰まれば、脳梗塞に、

[117] 肺の血管が詰まれば、肺梗塞」

[118]今の音は……?

[119]【はつみ】

[120]「糖尿病は、じわじわと全身の細胞が

[121] 痛めつけられる病気よ、

[122] 楽には死ねないわね……って、聞いているの?」

[123]キョロキョロしているわたしを

[124]主任さんがキッと睨んだ。

[125]【かおり】

[126]「いえ……その、聞いてますけど……」

[127]何か、それどころじゃない音が……。

[128]【かおり】

[129]「!!」

[130]ま、間違いない!

[131]【はつみ】

[132]「もう!

[133] 何なのよ、あなたは!」

[134]この音は……、

[135]この不吉な音は……っ!!

[136]【かおり】

[137]「だって、主任さん!

[138] 今、すっごく不吉な音が!」

[139]【はつみ】

[140]「あら」

[141]【かおり】

[142]「キャーッ!!」

[143]出たぁああっ!!

[144]【はつみ】

[145]「……なによ、大騒ぎして。

[146] たかがゴキブリじゃない。

[147] ほっときゃ、どっか行くわよ」

[148]ほ、ほっときゃって、

[149]本気ですか、主任さん!?

[150]正気なんですか!?

[151]てか、ほっとくってことは

[152]この部屋のどこかに

[153]常に黒光りするアレがいるってことですよ!?

[154]【かおり】

[155]「イヤーッ!

[156] そんなのイヤーッ!!」

[157]【はつみ】

[158]「……もう、仕方がないわね」

[159]主任さんは

[160]手近にあった書類を丸めて

[161]黒光りするアレをバシッと叩いた。

[162]思わず顔を背ける。

[163]【はつみ】

[164]「はい、一丁上がり!」

[165]丸めたメモ用紙で触覚を掴み、

[166]黒光りするアレをゴミ箱に捨ててるし!

[167]あ、ありえない!!

[168]【はつみ】

[169]「さ、勉強の続きをするわよ」

[170]【かおり】

[171]「できませんよ、そんなの!」

[172]それに、その黒光りするアレ、

[173]書類で叩いて、ゴミ箱に捨てただけじゃないですか!

[174]まだ死んでないかもしれないじゃないですか!

[175]って、そういう問題じゃなくて!

[176]【はつみ】

[177]「もう勉強に飽きたの?」

[178]【かおり】

[179]「そ、そうじゃないです!

[180] アレは一匹見つければ、

[181] 三十匹はいるって言うじゃないですか!」

[182]【はつみ】

[183]「……は?

[184] 何をバカなことを言っているの、あなたは?」

[185]【かおり】

[186]「ってことは、

[187] 残り二十九匹がこの部屋のどこかに……

[188] イヤーッ!!」

[189]考えただけで

[190]全身がゾワゾワする!!

[191]【はつみ】

[192]「んもう、

[193] うるさい子ねぇ……」

[194]【かおり】

[195]「片付けましょう!

[196] 全力で片付けましょう!!

[197] キレイに片付けましょう!!」

[198]【かおり】

[199]「んで、片付けた後は、アレ、焚きましょう!

[200] 煙がシュワーってなるやつ!!

[201] アレを皆殺しにするやつ!!」

[202]【はつみ】

[203]「……面倒臭いわねぇ。

[204] それに、うちだけ焚いても

[205] あまり意味はないんじゃないかしら」

[206]【かおり】

[207]「ややや、やってくれないと、

[208] もう二度とこの部屋に来ません!」

[209]黒光りするアレが潜んでるかもしれない部屋で

[210]落ち着いて勉強なんてできないっ!!

[211]【はつみ】

[212]「……仕方がないわね、

[213] やればいいんでしょう?」

[214]【はつみ】

[215]「でも、そんなものを焚いてしまったら、

[216] わたし、今夜はここで眠れなくなってしまうわ」

[217]【かおり】

[218]「わたしの部屋に泊まればいいんです!

[219] 明日はわたしも主任さんも日勤ですから、

[220] 何も問題はないですよね!」

[221]【はつみ】

[222]「…………」

[223]主任さんは

[224]無言でわたしの顔を見た。

[225]……あれ?

[226]わたし、何か変なこと、言った?

[227]【はつみ】

[228]「……仕方がないわね」

[229]主任さんが立ち上がった。

[230]仕方がなさそうに

[231]片付け始めた主任さんと一緒に、

[232]わたしも全力で片付け始める。

[233]……結局、主任さんの勉強会は

[234]大抵、こんな風にお片付け大会になるのよね……。

[235]【はつみ】

[236]「ま、こんなもんかしらね?」

[237]【かおり】

[238]「じゃあ、アレ焚きましょう、

[239] アレ!!」

[240]【はつみ】

[241]「……さっきから『アレ』ばっかりね」

[242]【はつみ】

[243]「あなたは先に出てなさい。

[244] わたしはお泊まりセットを持って

[245] あなたの部屋に行くから」

[246]【かおり】

[247]「はい、わかりました!」

[248]ごそごそしている主任さんを残して

[249]わたしは先に自分の部屋に帰ることにした。

white_robe_love_syndrome/scr00506.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)