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white_robe_love_syndrome:scr00502

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[001]比較的落ち着いている午後。

[002]午前中はあんなにバタバタしてたのに、

[003]酒石さんの件が終わると

[004]何故か一気にヒマになっちゃった……。

[005]うーん、

[006]やることがなくなっちゃったなぁ。

[007]【はつみ】

[008]「沢井さん、手が空いたの?」

[009]【かおり】

[010]「あ、はい」

[011]【はつみ】

[012]「そうねぇ……特に急ぎの仕事もないし……。

[013] 病棟まわって患者さんとコミュニケーションでも

[014] 取ってきたらどうかしら?」

[015]【かおり】

[016]「えっ?

[017] コミュニケーション?」

[018]【はつみ】

[019]「看護の基礎、でしょう?」

[020]【かおり】

[021]「えっ、あ、そうです、けど……」

[022]【はつみ】

[023]「何かあれば呼ぶから、

[024] それまでは患者さんのベッドサイドに

[025] いってらっしゃい」

[026]【かおり】

[027]「はい……」

[028]【はつみ】

[029]「本当はね、こういう時間がとても大事なのよ。

[030] でも日々の仕事に追われると、医療行為以外で

[031] 患者さんと触れ合う時間なんて取れないでしょう」

[032]【かおり】

[033]「そうですね……」

[034]【はつみ】

[035]「何気ない会話に、情報がたくさん詰まっているの。

[036] ひとつひとつ聞き取っていくことで、

[037] きっとあなたの勉強になると思うわ」

[038]【かおり】

[039]「はい、わかりました!」

[040]わたしは読んでいたカルテを棚に戻し、

[041]詰所を出る。

[042]うーん、コミュニケーションかぁ。

[043]わたしは堺さんを思い浮かべる。

[044]堺さんは、わたしが唯一担当している患者さん。

[045]用もないのに行ったら

[046]邪魔だって言われそうだなぁ。

[047]本当は堺さんのように

[048]普段、コミュニケーションが取れない患者さんと

[049]きちんとお話ができたらいいんだろうけど……。

[050]うーん、自信ないかも。

[051]あとは、あみちゃんとか、つくしちゃんとか?

[052]そういえば、こはくちゃんは

[053]再退院が決まったんだよね。

[054]今度こそ、ちゃんと家族ぐるみで

[055]血糖をコントロールできるようになったはず!

[056]今回はヘルプとして

[057]主任さんがチェックに入ってくれてるし、

[058]きっと大丈夫だよね!!

[059]【???】

[060]「わーい! あたしの勝ちっ!」

[061]【かおり】

[062]「……ん?」

[063]歓声が聞こえてきて、ふと足を止める。

[064]【???】

[065]「今のずっりーよ!」

[066]子どもたちの声。

[067]病棟の一室では患者さんが亡くなり、

[068]同じ病棟の別の部屋では

[069]子どもたちが明るい声を上げている。

[070]……何だか不思議な気分だよね。

[071]306号室、

[072]ちょっと覗いてみようかな……。

[073]【つくし】

[074]「何と言われようと、勝ちは勝ちだわ!

[075] いい加減、認めなさいよ!」

[076]【ひろくん】

[077]「……ぐっ!

[078] 生意気な女だな!!」

[079]ひろくんとつくしちゃんがケンカしそうになってる。

[080]止めた方がいい……んだよね?

[081]その時、ニコニコしながら

[082]ふたりを見守っていたあみちゃんが

[083]わたしに気がついた。

[084]【あみ】

[085]「あ、かおりんさん!」

[086]みんなの視線が一斉に集まって、

[087]ドキッとする。

[088]【あみ】

[089]「かおりんさんも参加していきませんか?」

[090]【かおり】

[091]「えっ?」

[092]【あみ】

[093]「トランプです。

[094] ババ抜きですけど、どうですか?」

[095]【ひろくん】

[096]「ババ抜きなんだから、

[097] 看護婦さん、混じれないじゃん!」

[098]【こはく】

[099]「えー?

[100] どうしてー?」

[101]【ひろくん】

[102]「だって、ババじゃん、

[103] 看護婦さん、おれたちより年寄りだし!」

[104]む!!

[105]【あみ】

[106]「もー、ひろくん!

[107] そんなこと言っちゃダメでしょう!?」

[108]……あみちゃん、

[109]そのフォローも何だかグサッと来るよ……。

[110]【あみ】

[111]「じゃあ、カード切るよー?

[112] 次はかおりんさんも入って五人ねー」

[113]あみちゃんが手際よく

[114]カードを切って、分配していく。

[115]それぞれ、自分の手元に配られたカードを手にして、

[116]ペアになった数字を抜き取って……。

[117]【こはく】

[118]「あ、主任さんだー!」

[119]嬉しそうなこはくちゃんの声に振り返ると、

[120]入り口に主任さんが立っていた。

[121]【かおり】

[122]「あっ、仕事ですか!?」

[123]慌てて立ち上がったわたしに、

[124]主任さんはゆっくりと首を横に振った。

[125]【はつみ】

[126]「いいえ、そうではないの。

[127] わたしもフラフラしていただけ。

[128] 気にしないで続けて?」

[129]フラフラしてたとは言うものの……。

[130]あの仕事の鬼の主任さんが

[131]理由もなくフラフラするとは考えにくい。

[132]……ということは

[133]もしかして、わたしの様子を

[134]見に来てくれた……んだよね……。

[135]【こはく】

[136]「主任さーん!

[137] あたし、主任さんと一緒にやるー!

[138] ね、いいよね、やろうよ!」

[139]【はつみ】

[140]「え?」

[141]【こはく】

[142]「あたしね、トランプ、ちょっと苦手なの。

[143] だから、ね、主任さん、助けて?」

[144]主任さんに向かって、

[145]自分のカードを差し出す、こはくちゃん。

[146]う……、ちょっと、ズルい。

[147]幼い子どもであることを盾に

[148]大人を味方に付けようとは……!

[149]こはくちゃん、あなどれない!

[150]【はつみ】

[151]「仕方がないわね……」

[152]主任さんは

[153]こはくちゃんに寄り添うように、

[154]あみちゃんのベッドに座った。

[155]【はつみ】

[156]「……ふふ、トランプなんて

[157] 何年ぶりかしら……」

[158]【ひろくん】

[159]「ほらー、早く引けよー、ババ!」

[160]【かおり】

[161]「むっ!

[162] ババババ言わないでよ……っと!」

[163]扇状になったひろくんのカードから、一枚抜き取る。

[164]【ひろくん】

[165]「いえ〜、引っかかったー!!

[166] やっぱ、ババはババに行くんだよー!」

[167]【かおり】

[168]「あううう……」

[169]わたしの手には、

[170]不敵な顔で微笑むジョーカーの横顔が描かれたカード。

[171]ジョーカーのカードと、他のカードをシャッフルして、

[172]はい、と主任さんたちの目の前に出す。

[173]【はつみ】

[174]「こはくちゃん、どれにする?」

[175]【こはく】

[176]「うーん、どれでもいい!

[177] 主任さんが決めて?」

[178]【はつみ】

[179]「……そう?

[180] じゃあ、……これ!」

[181]主任さんの指が、わたしのカードの中から

[182]一枚のカードを引き抜いた。

[183]わたしはニヤリとする。

[184]【こはく】

[185]「やだー!

[186] 主任さん、ババ引いちゃったよー!」

[187]【ひろくん】

[188]「そりゃ、主任さんは看護婦さんの大ボスで、

[189] 一番の……ムグ!?」

[190]とっさに、あみちゃんがひろくんの口を手でふさぐ。

[191]あああ……、主任さん、

[192]顔が笑ってるけど、目が笑ってない……!

[193]怖いよー、怖いよー!

[194]【あみ】

[195]「さー、主任さん、

[196] 次はわたしが引く番ですよねー?」

[197]うう、あみちゃん、気配りの子……。

[198]主任さんのカードから

[199]一枚引いて……。

[200]【あみ】

[201]「やだーぁ!

[202] ジョーカー、来ちゃったー!」

[203]……う、あみちゃん、

[204]今、わざとジョーカー引いたよね?

[205]ケラケラとこはくちゃんが笑ってる。

[206]うーん……、

[207]これはこれでいいのかな。

[208]【ひろくん】

[209]「よーし、勝負だ、浅田あみ!」

[210]……ひろくん、

[211]どうしてそこでフルネームで言うわけ?

[212]【あみ】

[213]「望むところよ!」

[214]あみちゃんはひろくんの挑戦を受けて立つ。

[215]にらみ合うふたり。

[216]緊張する空気。

[217]【???】

[218]「ふえっくしょい!」

[219]【かおり】

[220]「!!」

[221]その場にいた全員がビクッとした。

[222]入り口を見ると、

[223]今日、夕方から夜勤に入るはずの

[224]山之内さんが立っている。

[225]【やすこ】

[226]「いやー、せっかくの緊張の対決やったのに、

[227] 水差してもて、悪いなぁ!」

[228]そう言いながら、

[229]チョイチョイと主任さんを手招きする。

[230]【やすこ】

[231]「みんな、ごめんなー?

[232] おねーさんたちは仕事があるから、抜けるで?

[233] これぞまさしく、ババ抜き、やな!」

[234]笑いながら言う山之内さんに、

[235]主任さんが笑顔を引きつらせた。

[236]【はつみ】

[237]「みんなして年増って言うけれど、

[238] わたしだって、まだ若いつもりなのよ?」

[239]【やすこ】

[240]「誰も年増とまでは言うてへんやないですか」

[241]……主任さんほどの人でも、

[242]やっぱ年齢は気にするものなんですね……。

[243]結局、あのままゲームはお開きに。

[244]ちょっと残念だけど、

[245]またあんな風に遊べる機会、あるよね。

[246]【はつみ】

[247]「……記録は書けたの?」

[248]山之内さんと何か話していた主任さんが

[249]休憩室から出てきた。

[250]山之内さんがまだ出てこないということは、

[251]夜勤開始まで、休憩室で仮眠するつもりなのかも。

[252]【かおり】

[253]「遊んでいただけでも、

[254] 記録って必要なんですか?」

[255]【はつみ】

[256]「当然でしょう?

[257] 浅田さんがわたしに気を遣っていた事とか、

[258] こはくちゃんが甘えていた事を書いておかないと」

[259]【はつみ】

[260]「バイタルサインを残すだけが記録じゃないの。

[261] 患者さんの入院生活における全てを書き残すのよ、

[262] 記録から患者さんの人となりが見えてくるように」

[263]【かおり】

[264]「……なるほど」

[265]主任さんの言葉に、

[266]わたしは記録の下書きを作るべく、

[267]白紙の記録用紙を用意した。

[268]主任さんも、いつものように

[269]ドクターデスクに向かう。

[270]【はつみ】

[271]「……楽しかったわね」

[272]誰にともなくつぶやかれた言葉に、

[273]わたしはメモを書きながら、うなずいた。

[274]【かおり】

[275]「わたしも楽しかったんですけど、

[276] みんな、すごく楽しそうでした」

[277]【はつみ】

[278]「浅田さんには

[279] また気を遣わせてしまったわね……」

[280]ふぅ、とため息をつく主任さん。

[281]【かおり】

[282]「え?」

[283]【はつみ】

[284]「酒石さんのこと、他の子が見ないように、

[285] 部屋から出ないよう、集めていてくれてたのよ。

[286] 優しい子よね……」

[287]【かおり】

[288]「…………」

[289]知らなかった……。

[290]わたしは酒石さんのことでいっぱいいっぱいで、

[291]堺さんが倒れてからは、堺さん以外のことなんて

[292]考えられなくなっちゃったけれど。

[293]でも、あみちゃんは、

[294]他の子にショックを与えないように

[295]陰で協力してくれてたんだね……。

[296]ああ、わたしも

[297]もっと視野を広く持たないとダメだよね。

[298]うう、頑張ろう。

white_robe_love_syndrome/scr00502.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)