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white_robe_love_syndrome:scr00425

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[001]今日は何を話しても

[002]まゆきちゃんは上の空でわたしの話を聞いている。

[003]【かおり】

[004]「でね、山之内さんがね……」

[005]【まゆき】

[006]「……無理して元気を装う必要はない」

[007]【かおり】

[008]「え?」

[009]何を言われたのかわからず、

[010]思わず固まってしまった。

[011]【まゆき】

[012]「さっきから無理に元気を装って

[013] 明るい話題を口にしている様子は

[014] 見ているこちらが辛い」

[015]……うっ!

[016]何、この子、鋭すぎる!!

[017]【かおり】

[018]「……ご、ごめん……。

[019] プロなら無理して楽しい話をするべきだと思ったから、

[020] なるべく楽しい話をしようと思ってたんだけど……」

[021]昨日、堺さんにキッツイ一言を食らって、

[022]完全に立ち直れてないところに、

[023]ついさっきも、更にキッツイ追い討ちを

[024]食らっちゃって……。

[025]やっぱり、もうちょっと

[026]時間を空けてから来れば良かったかな。

[027]【まゆき】

[028]「無理に明るい話をするより、

[029] おまえの顔をそこまで曇らせた理由を話せ」

[030]まゆきちゃん、心配してくれてるのかな?

[031]口調はいつもと同じ淡々としてるけど、

[032]まゆきちゃんは感情を表に出すのが苦手らしいから、

[033]きっと心配してくれてるんだと思う。

[034]【かおり】

[035]「ん……、あのね……、

[036] ……って、それはやっぱりダメ」

[037]話をしそうになって、

[038]ギリギリで思い留まった。

[039]【まゆき】

[040]「なんだ、

[041] わたしから誰かに話が漏れるのを

[042] 心配しているのか?」

[043]【まゆき】

[044]「わたしは見ての通り、

[045] ずっと病院暮らしで気の知れた友人もいない。

[046] ……もっとも誰が来ても話す気もない、安心しろ」

[047]【かおり】

[048]「そういう心配じゃないんだけど……」

[049]【まゆき】

[050]「我慢は身体に毒だ。

[051] わたしも無理にあみという子供の話に付き合ったら、

[052] いつもの頭痛が起きただろう?」

[053]【かおり】

[054]「……ん、

[055] そんなことも、あったよね」

[056]【まゆき】

[057]「話せ。

[058] 何があった」

[059]【かおり】

[060]「……うん……まぁ、よくある話なんだけど、

[061] 担当患者さんと上手くいってないってだけで、

[062] 面白い話じゃないよ?」

[063]【まゆき】

[064]「ああ、

[065] あの痩せた長い髪の娘か」

[066]【かおり】

[067]「う、うん……。

[068] 以前、まゆきちゃんが言ってたように、

[069] 気が合う、合わないってあるんだなぁって……」

[070]【まゆき】

[071]「あの娘とは、何度か話したことがある。

[072] 自分の不幸にとらわれ、

[073] まるで周囲が見えていない『子供』だった」

[074]【かおり】

[075]「まゆきちゃん……?」

[076]ふぅ、とまゆきちゃんが溜め息をついた。

[077]【まゆき】

[078]「……自分が不幸と思っている時は、

[079] 他人の優しさや真心は伝わらないだけでなく、

[080] そんな周囲に気付きもしない」

[081]【まゆき】

[082]「自己憐憫に浸るのは居心地がいいものだ。

[083] しかし、自分で立ち上がろうとしない限り、

[084] 自分が不幸なままだとはわからない」

[085]【まゆき】

[086]「あの娘が自らの不幸に酔っている限り、

[087] おまえの状況も変わることはないだろう。

[088] が、それはおまえのせいではない、気にするな」

[089]【かおり】

[090]「……まゆきちゃん……」

[091]まだ幼いのに、すごい観察眼……!

[092]【まゆき】

[093]「……ずっと病院にいれば、

[094] おのずと人間の闇の部分を見ることになる。

[095] それだけだ」

[096]【かおり】

[097]「それだけだ、って……。

[098] まゆきちゃんって……すごく……」

[099]【まゆき】

[100]「すごく、何だ?

[101] はっきり言え」

[102]【かおり】

[103]「あ、うん……。

[104] すごく……達観してるよね」

[105]【まゆき】

[106]「ああ、ずっと病院にいたこと以上に、

[107] わたしの家は占い師の家系だということが

[108] 関係あるのかもしれん」

[109]【まゆき】

[110]「だから、こうして時々、

[111] 託宣めいた言葉が降りてくるのだろ……ううっ」

[112]頭を抑えてうずくまる、まゆきちゃん。

[113]【かおり】

[114]「まゆきちゃん!!」

[115]慌てて、抱き寄せて、頭を撫でる。

[116]少しでもまゆきちゃんの頭痛が和らぐように……。

[117]――どれくらい、そうしていただろう、

[118]腕の中のまゆきちゃんが身動く。

[119]【まゆき】

[120]「もう大丈夫だ……、

[121] だいぶ楽になった」

[122]【かおり】

[123]「……そう?」

[124]抱き寄せていた腕をそっと外そうとした途端、

[125]きゅっと手を握られた。

[126]【まゆき】

[127]「頭痛は治まったが……

[128] もうしばらく、こうしていて

[129] もらえるだろうか……?」

[130]【かおり】

[131]「え?」

[132]【まゆき】

[133]「いや、迷惑ならいい」

[134]身を起こしかけたまゆきちゃんを引き止めるように

[135]ぎゅっと抱き締める。

[136]【まゆき】

[137]「うわっ!?」

[138]【かおり】

[139]「……子供が遠慮なんかしないの!」

[140]【まゆき】

[141]「な、何を……!?」

[142]【かおり】

[143]「まゆきちゃんは子供なんだから、

[144] 大人にいっぱい甘えてもいいんだよ?」

[145]クスクスと笑いながら、

[146]小さな頭を胸に抱いて、

[147]髪を梳くように、優しく頭を撫でる。

[148]【まゆき】

[149]「……そうか……」

[150]ふと、くらりと視界が歪んだ。

[151]それは一瞬で、すぐに元に戻る。

[152]そう言えば最近、

[153]時々だけど立ちくらみがする……気がする。

[154]なかなか心を開いてくれない患者さんを相手にして、

[155]ちょっと疲れてるのかも。

[156]堺さんも、まゆきちゃんみたいに、

[157]懐いてくれたらいいのに。

white_robe_love_syndrome/scr00425.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)