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white_robe_love_syndrome:scr00424

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[001]今日もちょっと暇ができたので

[002]何となくまゆきちゃんの部屋に行って、

[003]ちょっと喋ってきた。

[004]大人びた、聞き方によっては偉そうにも見える

[005]口調や表情は相変わらずなんだけど、

[006]どうやらわたしはまゆきちゃんに懐かれているらしい。

[007]堺さんみたいに、何もしてないのに

[008]一方的に嫌ってくる患者さんもいれば、

[009]まゆきちゃんみたいに、何もしなくても

[010]懐いてくれる患者さんもいる。

[011]……人間関係って難しいな……。

[012]【かおり】

[013]「あ……」

[014]ふと、前から

[015]老年に差し掛かった女性が歩いてきた。

[016]年齢の頃は五十代……くらいかな。

[017]すれ違った女性は

[018]まゆきちゃんの部屋の前で立ち止まって、

[019]わたしを見た。

[020]ぺこりとこちらに頭を下げたのを見て、

[021]慌ててわたしも笑顔で頭を下げる。

[022]【かおり】

[023]「こ、こんにちは」

[024]ふっと悲しそうな微笑みを浮かべて、

[025]女性は部屋の中に入っていった。

[026]……まゆきちゃんのお母さん、なのかな。

[027]お母さんじゃなかったとしても、ご家族の方だよね。

[028]あんな小さい子に

[029]病院暮らしをさせなきゃならないなんて、

[030]すごく辛いだろうなぁ……。

[031]【かおり】

[032]「戻りましたー」

[033]【はつみ】

[034]「ああ、沢井さん、戻ってきたわね。

[035] ちょっと奥に来てくれるかしら?」

[036]【かおり】

[037]「ふぁっ……、はいっ!」

[038]主任さん直々の呼び出し!!

[039]しかも、主任さん、

[040]何だか機嫌悪そう……!!

[041]わ、わたし……

[042]何かまずいことでもやっちゃった!?

[043]……うう、

[044]何、言われちゃうんだろう……?

[045]【はつみ】

[046]「沢井さん……、

[047] あなた、何故、呼び出しを受けているのか、

[048] わかっていないようね?」

[049]【かおり】

[050]「は、はい……」

[051]【はつみ】

[052]「あなたの担当患者さんは誰かしら?」

[053]【かおり】

[054]「さ、堺さゆりさんです……」

[055]【はつみ】

[056]「そうね。堺さんよね。

[057] それなのに、あなたは今まで、

[058] 誰の部屋に行っていたのかしら?」

[059]そこまで言われて、

[060]初めて主任さんの言わんとしていることがわかった。

[061]【かおり】

[062]「……若本まゆきさんの部屋です」

[063]【はつみ】

[064]「……あなたはわたしが初日に言った言葉を

[065] すっかり忘れてしまっているようだから、

[066] もう一度、言うわね」

[067]【はつみ】

[068]「若本さんは難しい患者さんです。

[069] ナースコールが鳴っても、

[070] あなたが対応する必要はありません」

[071]【かおり】

[072]「でも……」

[073]【はつみ】

[074]「あなたはまだ新人。

[075] 経験のないあなたでは

[076] 若本さんのケアは無理だと思うわ」

[077]【かおり】

[078]「…………」

[079]主任さんの言うこともわかる。

[080]わたしは新人で、まだ全然経験がない。

[081]まゆきちゃんには、あるのかないのかわからないような

[082]『癒しの手』に頼るんじゃなくて、

[083]ちゃんとした知識と経験で『看護』ができる

[084]ベテラン看護師がつくべきってこともわかる。

[085]【はつみ】

[086]「背伸びして、若本さんの対応をするよりも、

[087] ちゃんと割り振られた担当患者さんのケアを

[088] 優先してください」

[089]【かおり】

[090]「…………」

[091]【はつみ】

[092]「わかったわね」

[093]返事をしなきゃ……。

[094]ケアはできないけど……

[095]……わかりました……

[096]【かおり】

[097]「……た、たしかにケアはできませんけど、

[098] 話し相手にはなれます!」

[099]【はつみ】

[100]「……話し相手」

[101]【かおり】

[102]「少なくとも、まゆきちゃんは

[103] わたしに懐いてくれているようです」

[104]【かおり】

[105]「あんなに小さい子なのに、

[106] 個室入院でひとりぼっちなんです、

[107] 可哀想じゃないですか」

[108]【はつみ】

[109]「……あなたは何も知らないから、

[110] そんな能天気なことが言えるのよ」

[111]【かおり】

[112]「え?」

[113]【はつみ】

[114]「とにかく!

[115] 今後、沢井さんが310号室に立ち入ることを

[116] 禁じます」

[117]【かおり】

[118]「…………っ!」

[119]【はつみ】

[120]「返事がないわね」

[121]全否定されて、涙が溢れそうになった。

[122]主任さんって、

[123]相手がわたしのような新人でも

[124]ちゃんと思ってることを話せば、

[125]話を聞いて、考えてくれる人だって思ったのに……。

[126]こんな風に、

[127]頭ごなしに命令されるなんて……。

[128]【かおり】

[129]「……わかりました……」

[130]ぽろりと、頬に熱いものが伝う。

[131]【かおり】

[132]「……わかりました……」

[133]涙が溢れそうになる。

[134]自分がまだ新人で、

[135]主任さんの言葉を否定できるような力がないことが、

[136]こんなにも悔しい……。

[137]【かおり】

[138]「…………っ」

[139]悔しさが目から溢れて、

[140]ぽろりと頬を伝い落ちた。

[141]【はつみ】

[142]「ごめんなさいね、

[143] あなたを傷つけるような言い方をして」

[144]【はつみ】

[145]「でも、何かあってからでは遅いの。

[146] わたしは患者さんを守るだけでなく、

[147] この病棟のスタッフも守る必要があるの」

[148]【かおり】

[149]「はい……わかって、ます……」

[150]そう、主任さんの言うことはわかるし、

[151]実際に、その通りだとも思う。

[152]何かあってからでは遅い、

[153]それは頭では理解できても、

[154]感情が理解することを拒んでる。

[155]【はつみ】

[156]「……あなたは少しここで休憩していていいわ。

[157] 涙を拭いて、

[158] 落ち着いたら仕事に戻ってください」

[159]【かおり】

[160]「……はい……」

[161]記録を書く手が進まない……。

[162]まゆきちゃんの部屋に

[163]行ってはいけないって言われたことが、

[164]こんなにもショックだなんて……。

[165]なぎさ先輩や山之内さんを含めた

[166]同じ勤務の人たちが心配そうに、

[167]チラチラとわたしの様子を伺っているけど……

[168]今は微笑みを浮かべる余裕さえない。

[169]【はつみ】

[170]「……戻りました」

[171]詰所に戻ってきた主任さんの声に、

[172]ビクリと反応してしまう。

[173]主任さんは悪くないのに……。

[174]【はつみ】

[175]「沢井さん、さっきは若本さんの部屋に

[176] 立ち入ってはいけないと言ったけれど……、

[177] あの発言は撤回します」

[178]【なぎさ】

[179]「はぁ!?」

[180]わたしより先に、なぎさ先輩が反応した。

[181]【なぎさ】

[182]「沢井を傷つけるような命令をしておいて、

[183] あっさり撤回ですか!?」

[184]【はつみ】

[185]「……藤沢さん……。

[186] あなたにはわからない複雑な事情があるのよ……」

[187]【かおり】

[188]「…………」

[189]【やすこ】

[190]「ま、ええやん。

[191] 沢井は元通り、まゆきちさんの部屋に

[192] 入り浸れるようになったわけやし」

[193]【はつみ】

[194]「……山之内さん。

[195] 患者さんをそんなおかしなあだ名で呼ぶのは

[196] 感心しないわね」

[197]【やすこ】

[198]「そんなん、いつものことやん。

[199] 目くじら立てるほどのもんやないやろ」

[200]主任さんの注意に、

[201]山之内さんが面倒臭そうに返事をする。

[202]……うーん、

[203]良くわかんないけど、

[204]またまゆきちゃんの部屋に行ってもいい、って

[205]主任さんの許可が出たってことだよね?

[206]ふと顔を上げると、

[207]なぎさ先輩がビミョーとしか言えない顔で

[208]わたしを見ていた。

[209]【なぎさ】

[210]「……それにしても、

[211] あんな気難しい子のどこがいいのかしら、

[212] 全然、子供らしくないし」

[213]【やすこ】

[214]「チッチッチ、

[215] わかってへんなぁ、藤沢!

[216] その気難しさが攻略しがいがあるんやんかー」

[217]【なぎさ】

[218]「あっ、すみませーん。

[219] あたし、関西弁わかんないんでー」

[220]【やすこ】

[221]「こっの、ウシ沢ぁああ!!」

[222]山之内さんが

[223]がしっとなぎさ先輩の頭を

[224]主任さんほどではないけど、

[225]わたしから見れば十分に豊満な胸に抱え込んだ。

[226]【なぎさ】

[227]「ふごっ!?」

[228]【やすこ】

[229]「クソ生意気なこと言う口は

[230] 山之内さんのこのダイナマイトバストで

[231] 窒息さしたらぁ!!」

[232]【なぎさ】

[233]「く、苦し……い……!」

[234]山之内さんに抱き締められて、

[235]なぎさ先輩がじたばたしてる。

[236]【やすこ】

[237]「ホレホレ、羨ましいやろー。

[238] あんたみたいなひんぬーには

[239] 逆立ちしてもでけん必殺技やもんなー」

[240]【なぎさ】

[241]「大きい胸は……っ、

[242] 垂れやす……ぶふっ!」

[243]【やすこ】

[244]「マジでこのまま窒息させたろかい!」

[245]なぎさ先輩がギブアップを示すように、

[246]バシバシと山之内さんの脇腹を叩いてる。

[247]バイトの看護師さんは

[248]ただ笑って見てるだけで、誰も止める様子はない。

[249]いつもこのへんで止める主任さんは

[250]ふたりのじゃれ合いを無視して、

[251]神妙な顔でわたしを見ていた。

[252]【はつみ】

[253]「…………」

[254]【かおり】

[255]「あ、あの……っ、

[256] ありがとうございますっ!!」

[257]【はつみ】

[258]「……いえ……いいの」

[259]わたしはまだまだ自分が

[260]看護師としても、人間としても

[261]未熟者だってわかってる。

[262]だから、今はまだ

[263]まゆきちゃんの話し相手にしかなれないけど……

[264]いつかちゃんとケアできるようになれるように

[265]頑張らないと……!!

white_robe_love_syndrome/scr00424.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)