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white_robe_love_syndrome:scr00415

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[001]先日の事件以降、主任さんの言葉通り、

[002]なぎさ先輩は部屋持ち業務から外されて

[003]フリー業務ばかりになっている。

[004]実はわたしもよくわかってないんだけど、

[005]フリー業務っていうのは、

[006]その日に担当になる部屋がない人がやる

[007]仕事全般のこと。

[008]看護師の仕事って多岐にわたるから、

[009]部屋持ちとして名前が挙がってると

[010]細々とした仕事にまで手が回らないから、

[011]フリー業務に就いた人が気を回してあげるんだって。

[012]うーん、要は雑用業務?

[013]でも、この雑用業務が意外と大変で、

[014]外来回りやカルテ整理、ドクターの連絡とか

[015]検査の予約、その他もろもろあって、

[016]患者さんとは関わらないけど、大切な業務なの。

[017]でも、なぎさ先輩がフリー業務になることで、

[018]当然ながら、わたしを含めた他のメンバーが

[019]ナースコールの対応に追われるようになるわけで……。

[020]実際、わたしも勤務時間のほとんどを

[021]患者さんのベッドサイドで過ごすことが多くなり、

[022]記録を書く時間を捻出することが難しくなってきた。

[023]【かおり】

[024]「戻りましたー。

[025] さぁてと、記録、記録!」

[026]そして、詰所に戻ってくると

[027]鳴り響くんだよね、ナースコールが……。

[028]そろそろ鳴るかな?

[029]あ、やっぱり鳴った!

[030]しかも、また堺さんだ。

[031]……あの人、わたしの行動を

[032]どこかで見てたりするのかな?

[033]【かおり】

[034]「はーい、どうされました?」

[035]【さゆり】

[036]「輸血、終わりました」

[037]【かおり】

[038]「はい、伺います」

[039]最近、堺さんのイジワル発言にも

[040]ちょっと慣れてきた。ような気がする。

[041]以前ほどへこまないし、

[042]泣きそうになることもないもんね。

[043]このままわたしの苦手意識が薄れていって、

[044]堺さんも心を開いてくれればいいんだけど。

[045]【さゆり】

[046]「どうぞ」

[047]【かおり】

[048]「失礼します」

[049]【かおり】

[050]「じゃあ、輸血バッグ、外しますね」

[051]【さゆり】

[052]「お願いします」

[053]うーん……、

[054]やっぱり素っ気ないなぁ。

[055]【かおり】

[056]「あっ!!」

[057]うっかり手元が滑って、

[058]バッグの中の血液を飛び散らせてしまった!

[059]【さゆり】

[060]「ちょっと!!

[061] 何してるんですかっ!?」

[062]【かおり】

[063]「ごごごごめんなさいっ!」

[064]血が……っ、血が……ッ!!

[065]持っていたアルコール綿で

[066]慌てて、シーツに飛び散った血液を拭く。

[067]けれども、アル綿で拭き取れるはずもなく、

[068]醜い血痕が無様に広がっていって。

[069]あわわ、堺さんのパジャマにも血痕が!!

[070]【かおり】

[071]「ああああ、どうしよう〜!!」

[072]【さゆり】

[073]「そういうのは後にして、

[074] ルートを保護する方が先でしょう!?」

[075]【かおり】

[076]「あ、そっか!」

[077]堺さんの言葉で我に返って、

[078]濃厚赤血球のルートを

[079]生理食塩水でフラッシュしてから

[080]肌に固定する。

[081]一息つくと、

[082]なおさら周囲の惨状が目に入るわけで……。

[083]結果、シーツ交換をすることになったんだけど――。

[084]【なぎさ】

[085]「さ、沢井?

[086] どうしたの、そんなにリネン抱えて?」

[087]レントゲンフィルムの整理をしていたなぎさ先輩が

[088]シーツやらなにやらを抱えて出てきたわたしを

[089]びっくりして見ている。

[090]【かおり】

[091]「堺さんのシーツに、

[092] 濃赤、飛び散らせちゃって……」

[093]【なぎさ】

[094]「シーツ交換しなきゃいけないほど?

[095] オキシドールで取れないの?」

[096]【かおり】

[097]「オキシドール?」

[098]【なぎさ】

[099]「過酸化水素水よ。

[100] ちょっとした血痕なら

[101] オキシドールで取れるわよ?」

[102]へぇ、そうなんだ……。

[103]血痕にはオキシドール。

[104]よし、覚えておこう!

[105]【かおり】

[106]「……それが……、

[107] ちょっとしたってレベルじゃないんです」

[108]【なぎさ】

[109]「あー、なるほど」

[110]苦笑したなぎさ先輩が

[111]わたしの手からシーツを取り上げた。

[112]【なぎさ】

[113]「手伝ってあげるわ、沢井」

[114]【かおり】

[115]「え、でも……」

[116]【なぎさ】

[117]「ひとりでやるより、

[118] ふたりでやった方が効率的でしょ?

[119] それに、その方が患者さんのためだしね」

[120]【かおり】

[121]「それも……そうですね。

[122] じゃあ、一緒にシーツ交換をお願いします」

[123]【さゆり】

[124]「……で。

[125] たかがシーツ交換に、

[126] わざわざふたりで来たわけですか」

[127]うぅ、堺さん、すごく機嫌悪いっ。

[128]わたしは慣れてるけど、

[129]なぎさ先輩はどうなんだろう……。

[130]気を悪くしないといいんだけど。

[131]【さゆり】

[132]「シーツ交換なんて、

[133] 看護学校に入ってすぐにやる看護技術でしょう?

[134] わざわざふたりで来るほどのもの?」

[135]おそるおそる

[136]なぎさ先輩を見ると――。

[137]うわ!!

[138]顔は笑顔だけど、目が笑ってない!!

[139]【なぎさ】

[140]「堺さんの言い分もごもっともですけど、

[141] シーツ交換の間、堺さんには

[142] ベッドから出てもらおうと思っているんですよね」

[143]【なぎさ】

[144]「ですから、短時間で終わらせるために

[145] ふたりで来させていただいたんですが何か」

[146]【さゆり】

[147]「この病棟のスタッフって、ヒマなんですか?」

[148]!!

[149]さ、堺さん!?

[150]【なぎさ】

[151]「はい?

[152] 今、なんと……?」

[153]【さゆり】

[154]「この病棟の看護スタッフって

[155] ものすごくヒマなんですか、って訊いたんです」

[156]うわ!

[157]【なぎさ】

[158]「ひ、ヒマではありませんけれど……、

[159] どうしてそういうことを

[160] おっしゃるのですか……?」

[161]なぎさ先輩の笑顔がヒクヒクしてるよ、

[162]やばいかも!

[163]【さゆり】

[164]「……人の話を聞かない人だらけですね、

[165] ここの看護師さんたちは。

[166] 頭が悪いんですか?」

[167]【さゆり】

[168]「たかがシーツ交換にふたりも来たから、

[169] ここのスタッフはヒマなのかなと思った。

[170] この流れ、理解できませんか?」

[171]なぎさ先輩がプルプルしてる。

[172]【かおり】

[173]「ちょ、堺さん……!」

[174]【なぎさ】

[175]「……もーう、怒った!」

[176]【かおり】

[177]「な、なぎさ先輩!?」

[178]【なぎさ】

[179]「患者だって思って我慢してたら

[180] なんなのよ、んもーーぉっ!」

[181]ぐいっとわたしを押しのけて、

[182]なぎさ先輩が堺さんの前に立った。

[183]【なぎさ】

[184]「ねぇ、なんなのよ、その言い様!!

[185] 人の我慢に付け込んで、その態度は何なわけ!?」

[186]……あちゃー。

[187]【なぎさ】

[188]「あなたは看護学生だったかもしれないけど、

[189] 今は、いち患者でしょう!? 入院先スタッフを

[190] バカにするその態度は何なのよ!」

[191]あああ、なぎさ先輩、

[192]そんな言い方しちゃったら、堺さんが……!

[193]【さゆり】

[194]「フン、その『いち患者』に

[195] バカにされるような隙を作った、その

[196] 『入院先スタッフ』が悪いんじゃないですか?」

[197]【なぎさ】

[198]「なぁんですってぇ!?」

[199]あああ、どうしよう!?

[200]ふたりとも、

[201]このままじゃケンカになっちゃうよ!

[202]なぎさ先輩が

[203]わたしのために怒ってくれたのは嬉しい。

[204]でも、それで堺さんが機嫌を悪くしちゃうと、

[205]今度はわたしが大変な目に遭っちゃう!!

[206]な、何とかこの場を丸く治めないと……!!

[207]なんて言えばいい?

[208]いいの、バカにされるわたしが悪いの

[209]うん、でも、堺さんの態度も悪いよ?

[210]【かおり】

[211]「なぎさ先輩、いいんです!

[212] バカにされるわたしが悪いんです!」

[213]【なぎさ】

[214]「でも、沢井!」

[215]【かおり】

[216]「わたしが悪いんです!

[217] 堺さんが言うことも、もっともだと思うんです」

[218]【なぎさ】

[219]「沢井は悔しくないの、

[220] これだけ好き放題言われて!?」

[221]【かおり】

[222]「悔しくないわけないです。

[223] でも、それとこれとは別問題です」

[224]【かおり】

[225]「ここは病院で、勤務先で、わたしはスタッフで、

[226] そして、堺さんは患者さんです。

[227] できないことを責められるのは当然です」

[228]【なぎさ】

[229]「それは……そうだけど……」

[230]【なぎさ】

[231]「何なのよ、もー。

[232] あたしよりも、こんな生意気な子の言うこと

[233] 聞いちゃうわけ!?」

[234]【かおり】

[235]「そ、そういうつもりじゃないんですけど……っ」

[236]【なぎさ】

[237]「何よ、なによっ。

[238] あたしよりも、こんな子の言うことの方が

[239] 沢井には大事なのね」

[240]【かおり】

[241]「な、なぎさ先輩……」

[242]【なぎさ】

[243]「何よ、なによっ。

[244] どーせね、ふーんだ」

[245]あああ、なぎさ先輩ったら。

[246]【かおり】

[247]「いいからシーツ交換しちゃいましょう?

[248] 手伝ってくれるんですよね?」

[249]【かおり】

[250]「ごめんなさい、堺さん。

[251] ベッドから出てもらってもいい?」

[252]【さゆり】

[253]「ええ、どうぞ。

[254] お好きなようにシーツ交換なさってくださいな、

[255] おふたりで」

[256]【なぎさ】

[257]「……くっ、

[258] 人がおとなしくしていれば……っ」

[259]【なぎさ】

[260]「患者じゃなければ

[261] とっとと追い出してやるのに!」

[262]【さゆり】

[263]「言いたいことがあるなら

[264] 面と向かってはっきり言えばいいのに。

[265] 情けない」

[266]うう、空気が悪い……。

[267]これからは、ひとりじゃできない堺さんのケアは

[268]なぎさ先輩以外の人にお願いした方が

[269]良いかも……。

[270]【かおり】

[271]「堺さんの言うことは間違ってないけど、

[272] でも、堺さんの態度は感じ悪いよ?」

[273]【さゆり】

[274]「…………」

[275]あらら、堺さん、

[276]プイッとそっぽ向いちゃった。

[277]あーあ、

[278]こうなると後が長いんだよね……。

[279]【なぎさ】

[280]「こんなワガママに

[281] かまってる時間がもったいないわ。

[282] シーツ交換、しちゃいましょう?」

[283]あーあ、なぎさ先輩のダメ押し。

[284]なぎさ先輩、すごく嬉しそう。

[285]それに比べて、堺さんは……。

[286]またしばらく仕事に関係ないところでも

[287]たっぷり嫌味を言われちゃいそうだなぁ。

[288]【なぎさ】

[289]「沢井、そっち持って」

[290]堺さんがじっと見てる。

[291]【かおり】

[292]「はい……、えっと……」

[293]うう、穴が開きそうな堺さんの視線に

[294]すっごい緊張するんですけど……。

[295]【なぎさ】

[296]「そうじゃないでしょ、ちゃんと三角作って。

[297] 基本に忠実に」

[298]なぎさ先輩も緊張してるっぽくて、

[299]シーツにちょっとシワが……。

[300]【かおり】

[301]「あ、はい……」

[302]うう……、

[303]なんかあんまりキレイじゃない。

[304]ごめん、堺さん。

[305]【さゆり】

[306]「……あの。

[307] これで出来上がりなんですか?」

[308]【なぎさ】

[309]「な、なによ、文句あるの?」

[310]【さゆり】

[311]「文句?

[312] ないと思える、その自信が不可解ですね」

[313]わたしたちを押しのけて、

[314]堺さんがベッドの脇に立った。

[315]【さゆり】

[316]「こんな美しくないベッドメイクだと

[317] ギャッジアップした時にシワができて、寝たきりの

[318] 患者さんなら一発で褥瘡ができますよね」

[319]そう言いながら、堺さんは

[320]せっかくわたしたちがかぶせたシーツを

[321]一気にはがした。

[322]【なぎさ】

[323]「ちょ、何するのよ!」

[324]堺さんは、無言で

[325]なぎさ先輩をじろりと睨んだ。

[326]その視線の鋭さに、

[327]なぎさ先輩もちょっとひるんだっぽい。

[328]その隙に、堺さんは

[329]一度剥がしたシーツを慣れた手つきで整えてしまった。

[330]【かおり】

[331]「す、すごい……」

[332]言うだけのことはある……。

[333]びしっと角の立ったベッドのシルエット、

[334]まっ平らになったシーツの表面、

[335]まるでシーツ交換のプロが整えたみたいな、

[336]完璧なベッドメイキング。

[337]【さゆり】

[338]「あなたたち、現役ナースのくせに、

[339] これくらいのこともできないんですか?

[340] 明らかに、練習不足ですね」

[341]【さゆり】

[342]「ああ、学生時代、サボりすぎたんですね。

[343] こんな実技の基礎の基礎もできていないなんて、

[344] 職業意識が足りてないんじゃないですか?」

[345]【なぎさ】

[346]「む……むくく……」

[347]言い返せないよね、

[348]わたしも、なぎさ先輩も。

[349]だって、こんなにキレイなベッドメイキングなんて

[350]わたしたち、できなかったんだし

[351]やれって言われても無理だもの。

[352]【さゆり】

[353]「というわけで、

[354] シーツ交換も終わったみたいですし、

[355] もう休んでいいですか?」

[356]【さゆり】

[357]「あーあ、わたしはいち患者なのに、

[358] スタッフの代わりに働かされてしまって、

[359] 疲れてしまったわー」

[360]【なぎさ】

[361]「そ、それは大変申し訳ありませんでした!

[362] どうぞゆっくりお休みください!

[363] 行くわよ、沢井!」

[364]【かおり】

[365]「え、あ、はい。

[366] じゃあ、堺さん、失礼します」

[367]【なぎさ】

[368]「何なのよ、あれ、何なのよッ、

[369] ……何なのよ、何なのよ、何なのよ!」

[370]な、なぎさ先輩が

[371]何かブツブツ言ってる……。

[372]【なぎさ】

[373]「信じられないわ、

[374] 何なのよ、失礼にもほどがあるわ!」

[375]詰所に入るなり、

[376]なぎさ先輩は爆発した。

[377]【なぎさ】

[378]「んもー、何なのよ、あれ!!

[379] 沢井、よく毎日あんなのの相手してられるわね!!」

[380]【かおり】

[381]「え、だって……、

[382] 堺さんはああいう人だし……」

[383]【なぎさ】

[384]「もーっ、信じられないっ!

[385] 何なのよ、あの態度!

[386] 何なのよ、あの言い方、んもー!!」

[387]なぎさ先輩の言うこともわかる。

[388]でも……堺さん、

[389]あんなキレイにベッドメイキングできるようになるまで、

[390]すっごく練習したんだろうな。

[391]そう思うと、

[392]怒りよりもむしろ

[393]別の感情が湧き上がってくる。

[394]【かおり】

[395]「まぁまぁ、なぎさ先輩」

[396]【なぎさ】

[397]「沢井は悔しくないの!?

[398] あたしはすごく悔しいわ!!

[399] もう、許せないくらい!!」

[400]なぎさ先輩の剣幕に、

[401]バイトや派遣の看護師さんが遠巻きに眺めている。

[402]【なぎさ】

[403]「もーぉっ!

[404] ああ、もう、ホント、許せないわ!

[405] もうもう……っ、もうったらもーっ!!」

[406]戻ってきた山之内さんが、

[407]憤慨するなぎさ先輩を見て、ポツリと言った。

[408]【やすこ】

[409]「藤沢……、

[410] 牛みたいやで?」

white_robe_love_syndrome/scr00415.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)