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white_robe_love_syndrome:scr00413

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[001]【???】

[002]「もう少し二年目としての自覚と、

[003] 内科看護師としての責任を持って

[004] 仕事をしてちょうだい!」

[005]あれ?

[006]【???】

[007]「してるつもりです!」

[008]なんだろう?

[009]【はつみ】

[010]「あなたはそのつもりでも、

[011] あなたの勤務態度に不安や不満を持つ患者さんが

[012] いることは確かなのよ」

[013]詰所に戻ってきた時、

[014]珍しく声を荒げている主任さんと

[015]反論しているなぎさ先輩の姿があった。

[016]【はつみ】

[017]「処置が雑、話を聞き流す、何か頼んでも

[018] 人任せにしてやってくれない。

[019] そういうクレームが複数来ているわ」

[020]珍しいな……。

[021]あの主任さんが、

[022]患者さんの目を気にしないくらいに

[023]声を荒げるなんて。

[024]邪魔にならないよう、そっと詰所に入ると

[025]山之内さんが立てた人差し指を唇に当てて、

[026]静かにと合図を送ってきた。

[027]【かおり】

[028]「…………」

[029]わたしは頷いて、

[030]黙って席に座って、記録を開いた。

[031]【なぎさ】

[032]「やるべきことはきちんとやっています!

[033] 患者さんからの要望も看護師がすべきじゃないことは

[034] 介護士に頼んでいますけど!」

[035]【はつみ】

[036]「看護師がすべきじゃないこと、だなんて

[037] 誰が判断したの?

[038] そして、誰がそうしろと指示を出したの?」

[039]【なぎさ】

[040]「それは……」

[041]なぎさ先輩は唇を噛んで、うつむいた。

[042]【なぎさ】

[043]「だ、だって、ゴミを捨てて欲しいとか

[044] おむつを替えてくれとか。

[045] そういうのは別に看護師じゃなくても……」

[046]【はつみ】

[047]「ゴミ捨てもおむつ交換も、

[048] 看護師の仕事ではなく、

[049] 介護士の仕事だと言いたいのね?」

[050]【なぎさ】

[051]「……はい。

[052] だって看護師は看護師としての仕事が

[053] 他にもたくさんあるし……」

[054]主任さんはふぅと軽く息を吐いた。

[055]【はつみ】

[056]「……仕事が多いのは介護士さんも同じよ。

[057] 医療行為の垣根は越えられないけれど、

[058] それ以外のところは協力すべきじゃないかしら?」

[059]【なぎさ】

[060]「でも……っ」

[061]【はつみ】

[062]「患者さんは汚れたおむつが気持ち悪くて、

[063] 少しでも早く綺麗にしてほしいと思っているわ。

[064] あなたが患者さんの立場だったら、どう思う?」

[065]【なぎさ】

[066]「…………」

[067]【はつみ】

[068]「おむつが汚れたから替えてほしいと頼んだら、

[069] 自分の仕事じゃないから、って断られたらどう?

[070] あなただったら、どう思う? 待てる?」

[071]主任さんの質問に、

[072]なぎさ先輩はキッと顔を上げた。

[073]睨むような視線からは、

[074]どうしてわかってくれないのかという

[075]苛立ちがにじんでる。

[076]【なぎさ】

[077]「あたしは……っ!

[078] あたしはおむつを替えるために

[079] 看護師になったわけじゃありません!」

[080]しばらくふたりのにらみ合いが続く。

[081]わたしはオロオロしながら、

[082]口出しするなという山之内さんの指示に従って

[083]黙ってふたりの様子を伺うだけ。

[084]【はつみ】

[085]「……わかりました。

[086] そういうことなら、藤沢さんは部屋持ち業務除外の上、

[087] しばらくコールも取らなくて結構よ」

[088]【なぎさ】

[089]「えっ……?」

[090]【はつみ】

[091]「必要があるからコールをしてくる患者さんの要望を、

[092] 個人の都合で選り好みして、

[093] 受けたり受けなかったりするのは迷惑です」

[094]【はつみ】

[095]「あなたは看護師として何をすべきで、

[096] 誰のためにここにいるのか、

[097] 頭を冷やして、しっかり考えなさい」

[098]【なぎさ】

[099]「あたし……」

[100]真っ赤になって、

[101]何か言葉を紡ごうとしているなぎさ先輩は、

[102]今にも泣き出しそうになってる。

[103]わたしは駆け寄って

[104]なぎさ先輩を慰めたかったけれど

[105]そんな雰囲気じゃないこともわかってた。

[106]【はつみ】

[107]「取り敢えず、しばらくはフリー業務をお願いします。

[108] 部屋持ちに戻すかどうかは、

[109] あなたの態度で判断しますから、そのつもりで」

[110]【なぎさ】

[111]「……はい」

[112]有無を言わせない迫力に、

[113]なぎさ先輩は頷くことしかできないようだった。

[114]主任さんは、それきり

[115]なぎさ先輩とのやり取りなんてなかったような顔で、

[116]壁の時計を見上げた。

[117]【はつみ】

[118]「……そろそろ点滴交換の時間ね……。

[119] 申し訳ないけれど、沢井さん」

[120]突然、名前を呼ばれて、ドキッとする。

[121]【かおり】

[122]「はっ、はひっ!?」

[123]【はつみ】

[124]「点滴回り、今日はひとりでやってくれる?

[125] わからないことがあれば

[126] すぐコールして、誰かを呼んでください」

[127]【かおり】

[128]「で、でもっ。

[129] まだひとりなんて……」

[130]無理です、と続けようとしたところで、

[131]主任さんは微笑みながら首を振った。

[132]【はつみ】

[133]「無理、ではないはずよ?

[134] 最近のあなたは、知識も増えてきたし、

[135] 患者さんへの対応も落ち着いてきているわ」

[136]【かおり】

[137]「そんなこと……」

[138]【はつみ】

[139]「病棟を預かる主任として

[140] あなたを見ていてもハラハラしなくなったし、

[141] なにより、患者さんからの評判も良いの」

[142]主任さんに褒められて、

[143]居心地が悪いようなくすぐったい気持ちになる。

[144]わたしが勉強したのは、自分のためで……。

[145]そう考えた時、ふと、堺さんの顔が浮かんだ。

[146]もしかしたら、堺さんのおかげなのかも?

[147]堺さんの病室に行く度に、

[148]色々とへこまされて帰ってきて、

[149]その度に、今度こそ何も言わせないもんって考えて

[150]しっかり復習してるわけだし。

[151]堺さん部屋で鍛えられてるのかも……。

[152]【はつみ】

[153]「無菌操作の必要な、少し難しい処置は

[154] まだ単独でやらせるわけにはいかないけれど、

[155] 点滴くらいはもう大丈夫だと判断します」

[156]【はつみ】

[157]「自信をもって、

[158] いつも通りにやってごらんなさい」

[159]【かおり】

[160]「は、はいっ!」

[161]いつも厳しい主任さんに、

[162]ちょっぴり認められたっぽいことが、

[163]すごく嬉しかった。

[164]堺さんとのやりとりは

[165]毎回、本当に心が折れそうになるけど、

[166]あれはあれで、わたしにとっては

[167]プラスに働いているのね……。

[168]不思議な気分。

[169]【やすこ】

[170]「おー、やったな!

[171] 独り立ちへの第一歩、おめ!」

[172]コツンと山之内さんに軽く突かれて、

[173]わたしは慌てて首を振った。

[174]【かおり】

[175]「ぜ、全然……!

[176] わたしなんてまだまだですよ!!」

[177]【やすこ】

[178]「謙遜すんな。

[179] 沢井が頑張ってることはみんな認めてる。

[180] ま、後は空回りの回数を減らすことやね」

[181]【かおり】

[182]「うっ……」

[183]【やすこ】

[184]「いつも通り、適度に慎重にやれば大丈夫や。

[185] スピードアップとか、患者さんのウケ狙いとか

[186] 変な色気出さん限り問題ないんちゃう?」

[187]【かおり】

[188]「はい」

[189]変な色気……?

[190]【やすこ】

[191]「あ、薬剤の確認はダブルチェックやからな。

[192] 藤沢、沢井と一緒に確認してくれるか?」

[193]山之内さんがなぎさ先輩に視線を向けた瞬間、

[194]なぎさ先輩はフイッと顔を背けてしまった。

[195]【なぎさ】

[196]「あたし、今日は

[197] カルテとレントゲンの整理をしますので!」

[198]【かおり】

[199]「なぎさ、先輩……」

[200]あ……、完全に拗ねちゃってる……。

[201]【やすこ】

[202]「……あっそ。

[203] ほな、うちがやるわ。

[204] 沢井、行こか」

[205]【かおり】

[206]「は、はい……」

[207]わたしは、主任さんに認められたことが嬉しくて、

[208]すぐ隣で落ち込んでいるなぎさ先輩の気持ち、

[209]考えてなかった。

[210]なぎさ先輩にとって、嬉しいはずないよね。

[211]自分が叱られた後に、

[212]まるで比べるように褒められた後輩と

[213]一緒に何かするなんて。

[214]わたし、空気読めてなかったな。

[215]なぎさ先輩に嫌われちゃったかも……。

[216]【やすこ】

[217]「沢井、早よ来い」

[218]【かおり】

[219]「はい」

[220]チェック前の点滴ボトルが並べられた

[221]処置スペースに立つ。

[222]【やすこ】

[223]「沢井が悪いわけやない。

[224] 気にすることあらへんよ。

[225] 藤沢もそこはわかっとるはずやから」

[226]山之内さんが

[227]ボトルをチェックしやすいように並べ直しながら

[228]気を遣ってくれる。

[229]【かおり】

[230]「……はい」

[231]【やすこ】

[232]「沢井はまだまだやけど、

[233] 新人なりによく頑張ってると思う。

[234] そこは、主任もうちも認めとる」

[235]優しい言葉に、不意に目頭が熱くなった。

[236]【かおり】

[237]「はい……」

[238]【やすこ】

[239]「……藤沢は二年目か、

[240] いろいろと難儀な時期突入やね」

[241]【かおり】

[242]「難儀な時期……?」

[243]【やすこ】

[244]「知識も経験も全然やのに、下に新人が来て、

[245] 先輩の立場になって、気ばかり焦る」

[246]【やすこ】

[247]「それに藤沢は、看護師に憧れて

[248] 看護師になったクチやろ?」

[249]【やすこ】

[250]「憧れていた看護師像と、現実のジレンマ。

[251] これもキッツイ。

[252] でも、それは看護師続ける限り、延々と続く」

[253]【かおり】

[254]「……そういうものなんですか」

[255]山之内さんはゆっくりと頷いた。

[256]そして、少し離れたところで

[257]カルテ整理してる、なぎさ先輩を見る。

[258]なぎさ先輩は涙をこらえた膨れっ面で……。

[259]【やすこ】

[260]「これは藤沢が乗り越えるべき壁や。

[261] でも他人事やないで。

[262] 誰にでも……、沢井にも必ず来る壁や」

[263]山之内さんの言葉にゴクリと息を呑んだ。

[264]わたしにも、いずれ必ず訪れる、壁……。

[265]【かおり】

[266]「……はい」

[267]【やすこ】

[268]「じゃ、チェックいくで」

[269]【かおり】

[270]「はいっ!」

[271]山之内さんって、

[272]掴みどころがなくてよくわからない人だけど

[273]……良い人だな。

[274]親しみやすいんだけど、

[275]時々、突き放したような冷たいことを言う。

[276]かと思えば、同じ看護の道を歩む先輩として、

[277]ものすごく親身になったフォローをしてくれる。

[278]わたしも、山之内さんみたいに

[279]周囲のフォローができる看護師になりたいな。

[280]……帰りになぎさ先輩に

[281]声、かけてみよう。

[282]夕食を一緒して、お部屋でのんびりして、

[283]愚痴大会でもしようかな。

[284]わたし、

[285]いつもなぎさ先輩に助けてもらってるから、

[286]たまにはわたしが話を聞いてみるのもいいよね。

[287]吐き出すことで少しでも楽になるなら、

[288]少しでもなぎさ先輩のためになることをしたいもん。

[289]どんなに完璧に見えるなぎさ先輩だって、

[290]やっぱり悩んだり迷ったりしてるだろうし、

[291]嫌なこともあるんだろうな。

[292]わたし、なぎさ先輩に頼るばっかりで、

[293]そんな当たり前のことが見えていなかった。

[294]ううん、見ようともしていなかった。

[295]ごめんなさい、なぎさ先輩……。

[296]これからは、わたしがフォローできるよう

[297]頑張りますね!

white_robe_love_syndrome/scr00413.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)