User Tools

Site Tools


white_robe_love_syndrome:scr00402

Full text: 312 lines Place translations on the >s

[001]午前中の記録の目処をつけて、

[002]ふと時計を見る。

[003]【かおり】

[004]「うっ……、

[005] そろそろ堺さんの点滴を交換する時間……」

[006]堺さんにイロイロ嫌味を言われるので、

[007]滴下はかなり厳密に調整してるし、

[008]ボトル自体の交換も時間通りにしてるから、

[009]最近は遅れることも早まることも少ない。

[010]おかげで、堺さんの

[011]点滴に関する嫌味は減ったような気がする。

[012]でも、点滴以外のことに関する嫌味は

[013]相変わらず、なんだよね……。

[014]あの子、あんな風にツンツンしてて

[015]気持ちが疲れないのかなぁ。

[016]わたしのことが嫌いらしいけど、

[017]そもそも、同じ看護学校だってだけで、

[018]どうしてそこまで嫌うんだろう?

[019]わたし、看護学校時代に彼女に何かしたのかな、

[020]わたしが何も覚えてないだけで。

[021]もしそうだとしたら失礼な話だけど、

[022]だったら、ちゃんと言ってくれればいいのに……。

[023]でも、堺さんをあんな風にさせる理由が

[024]わたしにあるのだとしたら、

[025]原因を見つけて謝りたいな。

[026]……どうしたら、歩み寄れるんだろう?

[027]そう考えるものの、

[028]良い案は浮かんでこない。

[029]堺さんも聞く耳を持ってない感じだしね。

[030]【はつみ】

[031]「沢井さん、

[032] そろそろ堺さんの点滴交換の時間じゃないかしら?」

[033]【かおり】

[034]「はい、行きます」

[035]……しょうがない、

[036]長期戦覚悟でいくか。

[037]【???】

[038]「はーい、どうぞー!」

[039]ん?

[040]今の声、堺さんじゃないよね?

[041]【かおり】

[042]「し……、失礼します……」

[043]【かおり】

[044]「あみちゃん!?」

[045]【あみ】

[046]「あー、かおりんさんだー、

[047] こんにちはー」

[048]【かおり】

[049]「あ、こんにちは」

[050]堺さんの病室には、あみちゃんがいた。

[051]部屋の主の堺さんは、というと

[052]いつもと同じ仏頂面。

[053]……何だか変な組み合わせだなぁ。

[054]【かおり】

[055]「じゃあ、点滴を交換しますねー」

[056]そう言って、点滴を交換しながら、

[057]ふたりの様子を伺ってみる。

[058]いつものニコニコ顔のあみちゃんと、

[059]いつものムッスリ顔の堺さん。

[060]う……、

[061]この二人の共通点が見つからない。

[062]【かおり】

[063]「あ、あみちゃんと堺さんはお友達なの?」

[064]【あみ】

[065]「そーなんです、お友達なんですー!」

[066]【さゆり】

[067]「ええっ!?」

[068]堺さん?

[069]なぜ、そこで驚く!?

[070]一方のあみちゃんも

[071]堺さんのその驚きが不満だったらしい。

[072]【あみ】

[073]「えええー!?

[074] お友達だよね、わたしたち!」

[075]【さゆり】

[076]「た、たまたまお手洗いで

[077] 何度か一緒になっただけでしょう?」

[078]【あみ】

[079]「袖すりあうも他生の縁、って言うでしょー?」

[080]【さゆり】

[081]「鏡を占拠しているあなたに

[082] そこを退いて、と言っただけじゃない」

[083]【あみ】

[084]「わたしたちが、同じ病院の同じ病棟に、

[085] 同じ時期に入院してるのは、

[086] きっと縁があるからだよ! ねっ!?」

[087]【さゆり】

[088]「…………」

[089]堺さんが戸惑った目でわたしを見る。

[090]……うん、堺さんが何を言いたいのか、

[091]ちょっとわかる気がする……。

[092]【あみ】

[093]「ねぇねぇ、かおりんさん!

[094] さゆりんの腕が可哀想なの!」

[095]【さゆり】

[096]「さゆりん!?」

[097]堺さんが素っ頓狂な声を出した。

[098]【さゆり】

[099]「この前も思ったけど、

[100] その『さゆりん』って何なの!?」

[101]【あみ】

[102]「え? 堺さゆり、だから、さゆりん。

[103] 何か変かなぁ?」

[104]【さゆり】

[105]「へ、変、っていうか……その……」

[106]あ、困ってる、困ってる。

[107]【あみ】

[108]「変じゃないなら、いいよね。

[109] ねっ、さゆりん?」

[110]【さゆり】

[111]「…………」

[112]へぇ、堺さんも

[113]こんな年相応の表情できるんだ……。

[114]吹き出しそうになるのを懸命にこらえる。

[115]うっかり笑ってしまったら

[116]きっと堺さん、不機嫌マックスになっちゃうもんね。

[117]【あみ】

[118]「ねぇねぇ、かおりんさん、

[119] あのね、あの……あれぇ?」

[120]あみちゃんの表情はくるくる変わる。

[121]【かおり】

[122]「どうしたの、あみちゃん?」

[123]【あみ】

[124]「かおりんさんとさゆりんの名前、

[125] 何だか似てるね!」

[126]【かおり】

[127]「そうかな?」

[128]【あみ】

[129]「そうだよ!

[130] さわいかおり、さかいさゆり。

[131] ホラ、似てる!」

[132]……言われてみれば……そうかも。

[133]【あみ】

[134]「いいなー、さゆりん!

[135] わたしも似てる名前の人いないかなー」

[136]【さゆり】

[137]「……別に。

[138] そんなに良いものじゃないし、

[139] 全然嬉しくないわ」

[140]うっ、そうだよね。

[141]堺さんにとっては、

[142]嫌いなわたしと名前が似てるって言われて

[143]嬉しいはずがないもんね。

[144]【あみ】

[145]「さゆりん、こういうのはね、

[146] いい悪いじゃないんだよ?

[147] 『運命』なんだよ?」

[148]う、運命!!

[149]たかが名前が似てるだけで

[150]運命なんて、すごい単語が出てきたよ!!

[151]【さゆり】

[152]「……大げさな」

[153]【あみ】

[154]「大げさじゃないよっ!

[155] あ! 大げさといえば!!」

[156]……本当にあみちゃんは

[157]くるくると表情がよく変わる。

[158]表情だけでなく、話題もくるくると変わる。

[159]見ていて飽きない。

[160]【あみ】

[161]「ねぇねぇ、かおりんさん!

[162] さゆりんの腕、可哀想だよ!

[163] 治してあげて!」

[164]あみちゃんの言葉で、

[165]堺さんは視線をそらせて、さっと腕を隠した。

[166]堺さんの腕には

[167]内出血の跡があって、とても痛々しい。

[168]ううん、腕だけじゃないの。

[169]足にも、それに見えないけど、お腹にも、

[170]至るところに赤黒い内出血の跡があるの。

[171]しかも、あみちゃんが指差した先の内出血の跡って

[172]この間、わたしが点滴の針を刺し損ねた場所で……。

[173]【あみ】

[174]「さゆりんはね、痛くない、って言うけど、

[175] 見ててすごく痛そうなの!」

[176]【かおり】

[177]「……う、うん、

[178] すごく痛そうだよね」

[179]【さゆり】

[180]「仕方がないじゃない、

[181] そういう病気なんだから……」

[182]【あみ】

[183]「ええー!?

[184] そうなの!?」

[185]……う、あみちゃん。

[186]もうちょっと空気読んで……。

[187]【さゆり】

[188]「……看護師さん、

[189] この子にわたしの病気を説明してあげて……」

[190]【かおり】

[191]「え、でも……」

[192]病気のことなんて、

[193]プライベートなことなのに……。

[194]【さゆり】

[195]「患者本人がいいと言ってるんだから、

[196] どうぞ説明して差し上げてください」

[197]【さゆり】

[198]「……それとも、疾患を理解してなくて、

[199] 説明できないんですか?」

[200]む。

[201]説明くらいできるわよ、

[202]わたしだって勉強してるんだから!!

[203]【かおり】

[204]「あみちゃん、堺さんの病気はね、

[205] 再生不良性貧血っていう病気なの」

[206]【あみ】

[207]「さいせいふりょうせいひんけつ?」

[208]【かおり】

[209]「そう。血液の中には、酸素を運ぶ赤血球とか

[210] ばい菌と戦う白血球、血を止める血小板とか

[211] いろいろあるっていうのは知ってる?」

[212]【あみ】

[213]「うーん、

[214] その辺は理科で習った……ような気がします!

[215] ホントはあんまり覚えてないんですけどね!!」

[216]……覚えてないのか……。

[217]【かおり】

[218]「堺さんの病気は、

[219] その赤血球や白血球、血小板などが

[220] 作られにくくなる病気なの」

[221]【かおり】

[222]「赤血球が減るから、貧血になって、息切れするし、

[223] 白血球が減るから、風邪を引きやすくなるし、

[224] 血小板が減るから、血が止まらなくなるの」

[225]【かおり】

[226]「堺さんの腕の内出血は、

[227] 血小板が減ったから、血が止まりにくくなった

[228] その結果なんだよ」

[229]【あみ】

[230]「ふぅん……そうなんだ……」

[231]他にもいろいろあるけど……、

[232]高校生の子相手の説明としては

[233]こんな感じかな?

[234]【さゆり】

[235]「そういうわけで、

[236] わたしは個室に隔離されているの」

[237]【さゆり】

[238]「もっとも

[239] 他の患者と付き合うのが面倒だから、って

[240] いうのもあるのだけど」

[241]うわ、堺さん!

[242]それって、

[243]あみちゃんとも付き合うのが面倒だって

[244]言ってるようなもんだよ!

[245]【あみ】

[246]「……そうなんだ……」

[247]けれど、あみちゃんは強かった。

[248]ベッドにずいっと歩み寄って、

[249]堺さんの手をぎゅっと握った。

[250]【あみ】

[251]「わたし、さゆりんがさみしくないように

[252] なるべくココに来るようにするね!」

[253]【さゆり】

[254]「は?」

[255]堺さんが目を丸くしている。

[256]わたしも、ちょっとびっくりした。

[257]【あみ】

[258]「わたしは、さゆりんの友達だから!

[259] ねっ!?」

[260]……あみちゃんには

[261]嫌味は通じなかったらしい。

[262]【さゆり】

[263]「え……、え……?」

[264]堺さんが戸惑った顔で

[265]再びわたしを見る。

[266]まるでわたしに助けを求めてるみたい。

[267]【かおり】

[268]「あ、あみちゃん?

[269] あんまりおしゃべりすると、

[270] 堺さんは疲れちゃうから……ね?」

[271]うん……、

[272]実際、堺さん、すごく疲れてるみたいだから、

[273]ウソはついてない……よね?

[274]それにあみちゃんだって、

[275]ネフローゼ症候群で、安静にしなきゃいけないのに。

[276]【あみ】

[277]「そっかー。

[278] 残念だけど……またね?」

[279]【さゆり】

[280]「え……あ、あ、はい」

[281]あみちゃんはいつものニコニコ顔で、

[282]堺さんに手を振りながら

[283]病室を出て行った。

[284]【さゆり】

[285]「……あの子、

[286] いつもあんな感じなんですか?」

[287]あああ、堺さん、

[288]すごくぐったりしてない?

[289]【かおり】

[290]「えっと……悪い子じゃないんだけどね……。

[291] あははは……」

[292]【さゆり】

[293]「……悪気がないのはわかるけど……。

[294] 悪気がなければ

[295] 何をしてもいいということにはなりません」

[296]【かおり】

[297]「う、うん」

[298]堺さんは疲れた顔で

[299]もぞもぞとベッドに横になった。

[300]【さゆり】

[301]「……少し眠ります。

[302] 何だかとても疲れました……」

[303]【かおり】

[304]「おやすみなさい」

[305]点滴の滴下をきっちりと合わせ直して、

[306]疲れた顔をしている堺さんの邪魔にならないよう、

[307]そっとドアを開けて、

[308]わたしは堺さんの部屋を出た。

[309]……それにしても。

[310]あみちゃんと堺さん。

[311]【かおり】

[312]「変な組み合わせ」

white_robe_love_syndrome/scr00402.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)