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white_robe_love_syndrome:scr00316

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[001]【やすこ】

[002]「お、新人!

[003] 311、鳴ってるでー!」

[004]う……。

[005]311って、堺さんだよね……。

[006]何の用だろう?

[007]【やすこ】

[008]「そろそろ持続終わる頃やから

[009] 次のボトルに交換するんとちゃう?

[010] 準備できてる?」

[011]【かおり】

[012]「あ、はい!」

[013]持続点滴のボトルが終わるのかな。

[014]それだけだったらいいんだけど……。

[015]【かおり】

[016]「はい、どうされました?」

[017]【さゆり】

[018]「点滴が終わりそうです」

[019]【かおり】

[020]「はい、伺います」

[021]やっぱ山之内さんの言う通りだったな……。

[022]詰所の一角にある処置台に並んでいるボトルを探す。

[023]えーっと、堺さんの次の点滴は……あった!

[024]十二時に交換するはずが少し遅れたのね。

[025]滴下速度、気をつけなきゃ。

[026]【かおり】

[027]「じゃ、行ってきます!」

[028]【かおり】

[029]「失礼します」

[030]【さゆり】

[031]「点滴が終わりそうだったので、

[032] 滴下を絞っておきました」

[033]【かおり】

[034]「すみません、

[035] すぐに交換しますね」

[036]【さゆり】

[037]「……患者にそんなことをさせるなんて

[038] 看護師としてどうなのかしら」

[039]【かおり】

[040]「うう……っ」

[041]堺さんって、

[042]全身でわたしを拒絶してるんだよね……。

[043]どうして?

[044]理由があるのなら、その理由が知りたい。

[045]そう思うのは

[046]別におかしなことじゃないよね?

[047]【かおり】

[048]「あの……ね、

[049] この間から思ってたんだけど、

[050] 堺さん、わたしのこと、嫌い?」

[051]【さゆり】

[052]「ええ、嫌いです」

[053]…………!!

[054]きっぱり言われた!!

[055]しかも、サクッとあっさりと!!

[056]初日にも言われたけど、

[057]あの時は、わたしもお迎えが遅れたし、

[058]不機嫌になる理由があったから

[059]不満をわたしにぶつけているんだと思ってたのに!

[060]堺さんの態度は初日から気になってたけど、

[061]あの時は、わたしもお迎えが遅れたし、

[062]不機嫌になる理由があったから

[063]不満をわたしにぶつけているんだと思ってたけど。

[064]というか、

[065]普通は言わないよね、こんなこと

[066]面と向かって、その相手に「嫌いです」だなんて。

[067]【かおり】

[068]「…………」

[069]うう……本当は逃げ出したいけど、

[070]でも、まだダメ!

[071]堺さんがわたしに冷たく当たる理由を

[072]ちゃんと聞いておかないと!

[073]【かおり】

[074]「ど……どうして?

[075] わたしたち、会ってまだ間もないよね?」

[076]【さゆり】

[077]「人が人を好きになるのに理由はないように、

[078] 嫌いになるのにも理由はないんじゃないですか?

[079] ただムシが好かない、ってだけで十分でしょう?」

[080]……それはそうなんだけど……。

[081]【さゆり】

[082]「……フッ……」

[083]【さゆり】

[084]「自分のことを嫌いだって言う相手に

[085] 怯まずに挑んできたあなたの勇気に免じて

[086] 教えてあげてもいいですよ」

[087]【かおり】

[088]「え?」

[089]【さゆり】

[090]「沢井かおりさん……。

[091] 蕾ヶ崎高等看護学院を

[092] どうにか卒業できて良かったですね」

[093]【かおり】

[094]「え……?」

[095]どうして堺さんが

[096]わたしの卒業校を知ってるの!?

[097]【さゆり】

[098]「……ちゃんと外来カルテを見なかったんですか?

[099] 発病してすぐに、わたし

[100] 蕾ヶ崎を休学しているんですよ」

[101]【かおり】

[102]「後輩……なの?」

[103]【さゆり】

[104]「今のところは、ですけどね」

[105]【さゆり】

[106]「病気が治らなければ、復学もできないし、

[107] そもそもいつまで生きられるか……」

[108]堺さんは笑っている。

[109]なのに、その笑顔が胸に痛い。

[110]笑わなくてもいいのに、

[111]辛いって言ってもいいのに、

[112]どうしてこの子は、こんなに

[113]張らなくてもいい意地を張ってるんだろう?

[114]【かおり】

[115]「あ、あの……訊いていいかな?」

[116]【さゆり】

[117]「質問内容を聞かないと

[118] 返答のしようもないんですけど」

[119]それはそうなんだけど……。

[120]うう、やりにくいなぁ。

[121]【かおり】

[122]「堺さんは、何故

[123] 看護師を目指そうと思ったの?」

[124]【さゆり】

[125]「…………」

[126]【さゆり】

[127]「それは、わたしが嫌味っぽくて

[128] 看護師に向いていない性格をしている

[129] ……とでも言いたいんですか?」

[130]【かおり】

[131]「そ、そういう意味じゃないよ!

[132] どうして素直に受け取ってくれないの?

[133] わたしは堺さんのことを知りたいだけなのに!」

[134]【さゆり】

[135]「…………」

[136]【さゆり】

[137]「……わたしのことを訊く前に、

[138] あなたのことを話す方が

[139] フェアだと思うんですけど」

[140]……それもそうかも。

[141]隠すようなことでもないし、

[142]話してもいいかな。

[143]【かおり】

[144]「わたしは小さい頃、

[145] 交通事故で瀕死の重傷を負ったことがあるの。

[146] ……とはいっても、覚えてないんだけど」

[147]【かおり】

[148]「でも、ぼんやりと覚えてることがあるの……。

[149] たくさんの人がわたしを生かそうと

[150] 消えそうな命を守るために頑張ってくれたこと」

[151]【かおり】

[152]「『生きなさい』、『死んではだめ』。

[153] はっきりとは覚えてはいないんだけど、

[154] そんな言葉をかけられたのは覚えてる」

[155]【かおり】

[156]「正直言うと、わたしはトロいし鈍いし、

[157] 看護師という職業には向いてないかもしれないって

[158] 考えることもあるの……恥ずかしいけどね」

[159]【かおり】

[160]「でもね、こんなわたしにもできることがある、

[161] 少なくとも、この業界の人材不足を

[162] 半人前分くらい埋めることはできる。かも」

[163]【かおり】

[164]「だから……」

[165]【さゆり】

[166]「月並みな理由ですね」

[167]堺さんが

[168]わたしの言葉を遮った。

[169]こういう喋り方が

[170]きっと堺さんの喋り方なのかもしれない。

[171]抜き身のナイフのように、

[172]相手を傷つけることで

[173]自分の中の何かを守っているのかもしれない……。

[174]【かおり】

[175]「うん、月並みだとは自分でも思ってるよ。

[176] ……でも、誰かのために何かができるなら、って

[177] そう思うの」

[178]【さゆり】

[179]「…………」

[180]【かおり】

[181]「堺さんだって、そうでしょう?

[182] 誰かのために自分ができることがあるなら

[183] 頑張ってみたい、って思ってるんでしょう?」

[184]【さゆり】

[185]「あなたには、わたしが

[186] そんな間抜けなお人好しに見えるんですね、

[187] ……傑作だわ」

[188]【かおり】

[189]「え?」

[190]【さゆり】

[191]「誰かのために?

[192] 本当におめでたい人ですね」

[193]【さゆり】

[194]「誰かに何かしてあげたところで、

[195] 依存されて終わりですよ。

[196] 骨までしゃぶり尽くされて、ポイ」

[197]【さゆり】

[198]「他人には何も施さないのが親切ってもの。

[199] いつも助けてもらえるって思うと、

[200] その人は自分で努力しなくなってしまうわ」

[201]【さゆり】

[202]「人間は堕落するものでしょう?

[203] 他人の施しなんて、毒にしかならないものよ。

[204] ご親切なあなたにはわからないかもしれないけど」

[205]【さゆり】

[206]「もっとも、お優しい沢井先輩はご自分の

[207] おキレイな優しさを見せ付けるために可哀想な

[208] 人に施しを与えてらっしゃるんでしょうね」

[209]【かおり】

[210]「…………」

[211]強烈な言葉。

[212]堺さんがわたしを嫌いだってことは

[213]言葉と態度でよくわかっているつもり。

[214]けれど、こんな風に

[215]わたしの思いそのものを否定して

[216]踏みにじる必要はないんじゃないかな。

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[218]0304で「できません」を選択した場合のみ表示

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[220]どうして、堺さんはこんな風に

[221]相手の言葉をゆがめて捉えてしまうんだろう?

[222]入院の時もそうだったよね。

[223]わたしという人間に対して

[224]警戒しているからなのかな?

[225]だったら、どうしたら

[226]わたしという人間が

[227]敵じゃないってわかってもらえるんだろう?

[228]どうしたら、堺さんの心の壁を

[229]取り除くことができるんだろう?

[230]本音でぶつかるしかない

[231]今は黙って身を引く

[232]……うん、

[233]ここは本音でぶつかるしかないよね。

[234]【かおり】

[235]「そうやって人の思いを決め付けて

[236] 足で踏みつけにして、

[237] ……それで気が済むの?」

[238]【さゆり】

[239]「な……!?」

[240]【かおり】

[241]「堺さんはわたしが嫌い、それはわかった。

[242] でもさ、その感情をむき出しにして

[243] それでどうしようって言うの?」

[244]【さゆり】

[245]「あ、あんたに何がわかるのよ!?」

[246]【かおり】

[247]「何もわかんないよっ!」

[248]【さゆり】

[249]「っ!!」

[250]【かおり】

[251]「……でも……、だから、何もわかんないから、

[252] 歩み寄る必要があるんじゃないかって

[253] わたしは言いたいの!」

[254]【かおり】

[255]「わたしのこと、嫌いだったら嫌いでいいよ。

[256] 嫌われるのはイヤだけど、仕方がないよ、

[257] 堺さんの気持ちをあれこれ言う権利はないしね」

[258]【かおり】

[259]「……でもね、はっきりした理由もなく

[260] 嫌いって感情をぶつけられるのは

[261] すごく感じが悪い……」

[262]【さゆり】

[263]「は……、そうやって、腹に感情を隠して

[264] 上辺だけのお付き合いがお望みですか。

[265] お幸せなんですね」

[266]上辺だけの付き合い……。

[267]そんなつもりはなかったけど、

[268]堺さんの言う通りかもしれない。

[269]この病棟に新人として入って、

[270]それなりに受け入れてもらえてるって思ってたけど、

[271]もしかしたら、みなさん、わたしの存在に

[272]迷惑しているのかもしれない。

[273]でも、わたしはそんなことにも気づかずに、

[274]受け入れてもらってるって

[275]勘違いしてるだけかも……?

[276]……でも。

[277]【かおり】

[278]「…………」

[279]それでも、いい。

[280]今は気づかないふりをして、

[281]波風を立てないように仕事をして、

[282]その内に、ちゃんと仕事を覚えて

[283]恩返しができたら……。

[284]【かおり】

[285]「……うん、それでいい。

[286] それでもいいよ、わたし」

[287]【さゆり】

[288]「はぁ?」

[289]【かおり】

[290]「今は上辺だけの付き合いでも、

[291] その内に、認められるようになれば

[292] それでいい」

[293]【かおり】

[294]「甘いかもしれないけど……

[295] 波風立てずに済むのなら、

[296] それで、周囲に迷惑をかけずに済むのなら……」

[297]【かおり】

[298]「陰でどんなにバカにされててもいい、

[299] いつか迷惑をかけた人に恩返しができたら

[300] それでいいの」

[301]【かおり】

[302]「それで、『頑張ったね』って

[303] 言ってもらえるようになるなら、

[304] それだけで頑張った甲斐はあるよ」

[305]【さゆり】

[306]「…………」

[307]【さゆり】

[308]「……筋金入りのお人好しですね」

[309]【かおり】

[310]「うん、そうかもしれない」

[311]今は……堺さんが興奮している今は

[312]何を言っても通じないかもしれない。

[313]でも、いつかは分かり合える……って

[314]思っていてもいいよね?

[315]【さゆり】

[316]「…………」

[317]【さゆり】

[318]「ところで、こんなところで

[319] 油を売っていてもいいんですか」

[320]【かおり】

[321]「うん……そうだね」

[322]堺さん……、

[323]ちょっと対応が難しい患者さんだけど

[324]仲良くなれたらいいのに。

[325]またいろいろ話してくれるかな。

[326]【かおり】

[327]「じゃ……また何かあったら

[328] ナースコールで呼んでくださいね」

[329]【さゆり】

[330]「…………」

[331]どうしたら

[332]堺さんは心を開いてくれるんだろう?

[333]どうしたら

[334]堺さんは仲良くしてくれるんだろう?

[335]ううん、してもらうばかりじゃなくて、

[336]わたしが堺さんにできることはあるのかな?

[337]わたしが堺さんにしてあげられることって

[338]何だろう……?

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[340]0304で「ちょっと聞いてきます」を選択した場合

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[342]【さゆり】

[343]「すぐに泣きそうな顔をするのね、

[344] 『沢井先輩』は」

[345]【さゆり】

[346]「わたし、弱い人は嫌い。

[347] 誰かに守られなきゃ死んでしまう弱者なんて、

[348] とっとと死ねばいいと思う」

[349]【さゆり】

[350]「嫌いな人が視界にいるのは不愉快です。

[351] 用が終わったのなら、

[352] 出て行ってもらえますか」

[353]わたしを拒絶する、堺さん……。

[354]いつか、堺さんの心を開くことはできるのかな?

[355]【かおり】

[356]「その……また何かあったら

[357] ナースコールで呼んでくださいね」

[358]【さゆり】

[359]「なるべくなら

[360] 他の人に……『ちゃんとした看護師さん』に

[361] 来ていただきたいんですけど」

[362]【かおり】

[363]「……はぁ」

[364]わたし、本当に堺さんに嫌われてるんだなぁ……。

[365]うう、へこむ……。

white_robe_love_syndrome/scr00316.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)