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white_robe_love_syndrome:scr00230

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[001]【なぎさ】

[002]「沢井ー、午前の記録終わったぁ?」

[003]【かおり】

[004]「……ま、まだです……」

[005]だって、何書いていいんだか、

[006]全然わかんないんだもんっ、

[007]書きようがないよぅっ!!

[008]あうう、

[009]そんな風に、逆ギレできるものならしてみたい……!

[010]けど、単にわたしがデキないだけなんだよね、

[011]ううう。

[012]【はつみ】

[013]「ふたりとも、そろそろ昼休憩に入ってくれないかしら。

[014] このままだと、後半さんが休憩に入れなくて

[015] 困ってしまうわ」

[016]【なぎさ】

[017]「そ、そうですよね!

[018] すみません、すぐ行きます」

[019]【かおり】

[020]「なぎさ先輩、記録は……?」

[021]【なぎさ】

[022]「午後の分とまとめて書くしかないわね」

[023]【かおり】

[024]「そんなぁ〜」

[025]午前の記録も終わってないのに

[026]午後の記録まで……と考えると……ううう。

[027]とはいえ、昼休憩を無視して

[028]ずっと記録とにらめっこしてるわけにはいかないし。

[029]渋々ながら、

[030]なぎさ先輩に手を引かれて、休憩室に入る。

[031]【やすこ】

[032]「よ、お先しとるで〜!」

[033]休憩室には山之内さんがいた。

[034]そっか、

[035]山之内さんも先組だったのね。

[036]で、

[037]その今日の山之内さんのお昼ゴハンは……

[038]レンチンごはんにふりかけ。

[039]【やすこ】

[040]「何や、沢井、そんな泣きそうな顔して。

[041] 藤沢にいじめられたんか?」

[042]【なぎさ】

[043]「ちょ!

[044] あたしが沢井をいじめるわけがないでしょうっ!?」

[045]【やすこ】

[046]「ほら、良く言うやん、

[047] 好きな子ほどいじめたいって。

[048] 藤沢は、アレちゃうかなって」

[049]【なぎさ】

[050]「な、何言ってんですか!!

[051] だいたい、それって幼稚園くらいの

[052] 男の子の話でしょう!?」

[053]【やすこ】

[054]「藤沢も似たようなモンやろ」

[055]【なぎさ】

[056]「似てませんっ! 似てませんからっ!!

[057] あたし、女の子ですっ、女の子なんですー!!」

[058]【やすこ】

[059]「女の子、なぁ……。

[060] 女の『子』……」

[061]【かおり】

[062]「…………」

[063]山之内さんの掌の上で転がされるように、

[064]なぎさ先輩が遊ばれてる……。

[065]でも、とてもじゃないけど

[066]それを楽しむ気分にはなれない。

[067]【なぎさ】

[068]「何ですか!

[069] 言いたいことあるなら

[070] はっきり言ってみてください!!」

[071]山之内さんはおもむろにお箸を置いて、

[072]足を組んだ。

[073]【やすこ】

[074]「フッ、

[075] ――言うてもええんか?」

[076]不穏な何かを感じ取ったのか、

[077]なぎさ先輩は慌てて首をぶんぶんと横に振った。

[078]【なぎさ】

[079]「けけけ、結構ですっ!!」

[080]【やすこ】

[081]「……そーんな全力で拒否らんでもええやん、

[082] 傷つくわぁ」

[083]【かおり】

[084]「…………」

[085]【やすこ】

[086]「このハートブレイクは、

[087] 藤沢の代わりに、後輩にあたる

[088] そこの新人にでも癒してもらおかねぇ」

[089]【かおり】

[090]「……ほぇ?」

[091]【なぎさ】

[092]「逃げてー、沢井、逃げてー!!」

[093]名前を呼ばれて、はっと我に返る。

[094]【かおり】

[095]「えと……何がですか?」

[096]【やすこ】

[097]「あんたの先輩がうちを癒してくれへんから、

[098] 代わりにあんたがうちを癒してくれへんかなーって

[099] そういう話や」

[100]【なぎさ】

[101]「ダメよ、沢井!

[102] 山之内さんの口車に乗っちゃダメ!!」

[103]【かおり】

[104]「…………」

[105]何だか良くわかんないけど……。

[106]【かおり】

[107]「山之内さんが癒してくれるなら、

[108] いくらでも癒してあげますよ」

[109]無力感のまま、思ったままを口にした。

[110]【やすこ】

[111]「聞いたか、藤沢!

[112] 沢井、癒してくれる言うとるで!」

[113]【なぎさ】

[114]「山之内さんこそ、ちゃんと聞いてました?

[115] 『癒してくれるなら』っていう

[116] 条件付けがありましたよね!?」

[117]【やすこ】

[118]「おお、そうやった! どないしたん、沢井?

[119] 悩み事があるんやったら、

[120] この山之内ねーさんに相談し?」

[121]【やすこ】

[122]「この、藤沢にはない豊満な胸で

[123] いっくらでも癒したるで」

[124]【なぎさ】

[125]「し、失礼な!!」

[126]なぎさ先輩が憤慨してるけど、

[127]そんな様子も目に入らない。

[128]【かおり】

[129]「わたし……どうして

[130] 記録、書けないんでしょうか……」

[131]【やすこ】

[132]「…………」

[133]【なぎさ】

[134]「…………」

[135]【かおり】

[136]「なぎさ先輩はわかりやすく指導してくれてるのに、

[137] 記録用紙を目の前にすると、

[138] 頭が真っ白になっちゃって……」

[139]【かおり】

[140]「そうしたら、もう

[141] 何を書けばいいのかわかんなくなっちゃうんです」

[142]【なぎさ】

[143]「……沢井……」

[144]【やすこ】

[145]「そらまたエラい『深刻』な悩みやねー」

[146]うう、

[147]山之内さんが呆れてる……。

[148]【やすこ】

[149]「あのなー、沢井。

[150] あんた、看護師になって何年目や?」

[151]【なぎさ】

[152]「や、山之内さん!

[153] 沢井はまだ看護師になったばかりで……」

[154]【やすこ】

[155]「あんたに訊いたんちゃう、うちは沢井に訊いたんや。

[156] 何年目や?」

[157]【かおり】

[158]「……初日は何も仕事をしなかったので、

[159] 一週間しか経ってません」

[160]自分が悔しくて、情けなくて、

[161]涙が出そうなのをグッと堪える。

[162]【やすこ】

[163]「せやろ?

[164] 三年目の子が同じこと言うたらシバキ倒すけど、

[165] あんたはまだ入ったばっかの新人や」

[166]【やすこ】

[167]「なーんも知らん、まっさらな状態やねん。

[168] 頭真っ白になって当たり前やねん」

[169]【かおり】

[170]「でも……学校でちゃんと習ったのに……」

[171]【やすこ】

[172]「学校と現場は違う。

[173] 藤沢はどうやった?」

[174]【なぎさ】

[175]「……全然違いました……。

[176] 現場は思い通りにならないことばっかりで……」

[177]【やすこ】

[178]「藤沢は毎日泣いとったもんなぁ」

[179]【なぎさ】

[180]「ちょ!

[181] やめてください、沢井の前で……!」

[182]【かおり】

[183]「なぎさ先輩が……?」

[184]【やすこ】

[185]「患者に嫌味言われた、仕事に抜けがあった、

[186] 主任にキツく言われた、記録が時間内に終わらん、

[187] 寝坊した……えーっと、他に何があったかなぁ?」

[188]【なぎさ】

[189]「……ううう……やめてくださいぃ……」

[190]【やすこ】

[191]「誰もが通る道や。

[192] できん自分が悔しくて、切なくて、情けなくて……

[193] なんて自分はアカン子なんやろう……」

[194]【やすこ】

[195]「だからこそ、少しはできるようになろう、

[196] たとえ、昨日よりできんかっても、

[197] 先週・先月よりはできるようになっていよう」

[198]【やすこ】

[199]「そう思いながら、仕事して、

[200] ある日、ふと気がついたら

[201] できるようになってるモンやで」

[202]【かおり】

[203]「……そう……でしょうか……」

[204]【やすこ】

[205]「藤沢。うちが去年のあんたにも、

[206] 沢井の病棟勤務初日にも言うた言葉、

[207] 覚えとるか?」

[208]【なぎさ】

[209]「……『新人笑うな、来た道だ』って

[210] やつですよね?」

[211]……さすが、なぎさ先輩。

[212]わたしは少しも覚えてなかった言葉だったけど、

[213]なぎさ先輩はちゃんと覚えてたんだ……。

[214]【やすこ】

[215]「看護師が一人前になるには五年はかかる。

[216] 経験者は新人がデキへんのを笑たらアカン、

[217] 誰にでも新人時代はあってんから」

[218]【やすこ】

[219]「新人は自分が何もデキへんのを、我がの心に刻み込め。

[220] それやのに、たかだか一週間程度で

[221] 泣き入れんな、っちゅー話や」

[222]【かおり】

[223]「…………」

[224]山之内さんの言葉が、すっと胸の中に入ってゆく。

[225]不思議と、

[226]今まで心をいっぱいにしてた劣等感は薄らいで、

[227]代わりに、何かあたたかいものが

[228]溢れてくるような感じがした。

[229]【やすこ】

[230]「そうやって、悩んで、泣いて、

[231] 悔しい思いをしたことは、絶対に忘れへん。

[232] そういう気持ちが、あんたを育てる糧になる」

[233]【かおり】

[234]「山之内さん……」

[235]優しい言葉に、ポロッと涙が零れた。

[236]【やすこ】

[237]「泣きたいことがあったら、うちのこの巨乳を貸したる。

[238] 主任の爆乳には負けるけど、

[239] それでも慰めにはなるやろ」

[240]【やすこ】

[241]「去年の藤沢みたいに

[242] 可愛くない遠慮なんかせんでええねんで」

[243]【なぎさ】

[244]「……せっかくいい話だったのに……」

[245]冗談めかした山之内さんの言葉と、

[246]呆れたようななぎさ先輩の口調に、

[247]思わず笑ってしまう。

[248]【はつみ】

[249]「せっかく盛り上がっているのに、

[250] 話の腰を折るのはとても気が引けるのだけれど

[251] ……休憩はあと10分よ」

[252]はふっ、10分!?

[253]【はつみ】

[254]「藤沢さんと沢井さんには、

[255] 昼食抜きで午後の勤務はさせたくないの。

[256] 山之内さん、その辺も気を遣ってあげてください」

[257]【なぎさ】

[258]「沢井! お昼ごはん!!」

[259]【かおり】

[260]「えへへ、ちょこっと泣いたら、

[261] お腹減ってたことに気がつきました!!」

[262]ふたりで、慌ててお弁当箱の蓋を開ける。

[263]その途端――!

[264]【やすこ】

[265]「いただきっ!!」

[266]またたく間に、お弁当のおかずが1個減った。

[267]【なぎさ】

[268]「あーっ!

[269] あたしのチーズ巻きハンバーグ!!」

[270]【かおり】

[271]「ひゃふ!?

[272] わたしのチキンナゲットも1個ないっ!!」

[273]【やすこ】

[274]「授業料や。

[275] ケチケチすんな」

[276]満足そうな表情で、

[277]口をモグモグさせている山之内さんを見て、

[278]怒る気が失せた。

[279]なぎさ先輩を見ると、

[280]やっぱり同じことを考えたようで、

[281]「困った人ね」という顔でクスッと笑ってる。

[282]わたしたちは慌ててお弁当を食べることに集中した。

white_robe_love_syndrome/scr00230.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)