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white_robe_love_syndrome:scr00226

Full text: 201 lines Place translations on the >s

[001]お昼過ぎ、事務室から

[002]既に退院した患者さんのカルテが病棟に残ってないかと

[003]問い合わせがあった。

[004]探してみたらあったらしく、

[005]たまたま手の空いていたわたしが

[006]外来の受付まで届けに行ったのだけれど……。

[007]【かおり】

[008]「内科病棟でーす。

[009] 退院済み患者さんの

[010] 病棟に残ってたカルテを持ってきました」

[011]【受付】

[012]「わざわざありがとうございます。

[013] これからは気をつけてくださいね」

[014]【かおり】

[015]「はい、

[016] すみませんでした」

[017]カルテを渡して、

[018]受付を去ろうと一歩、足を後ろに出した途端――。

[019]【かおり】

[020]「ひゃっん!?」

[021]誰かとぶつかってしまった。

[022]【かおり】

[023]「す、すみません!」

[024]ぶつかった相手に頭を下げる。

[025]【男性】

[026]「…………」

[027]驚いたような顔で

[028]わたしをじっと見ているその男性。

[029]患者さん、かな?

[030]どこかで会ったことがある気がする……。

[031]どこで……?

[032]絡みつくような、なのに鋭い視線に

[033]ぞくりと背筋が震える。

[034]何故か、足が動かない。

[035]【男性】

[036]「…………」

[037]男の人は無言で頭を下げ、

[038]その場から立ち去ったんだけれど……。

[039]【かおり】

[040]「……はふぅ〜」

[041]緊張が一度に解けた感じになって

[042]わたしはその場にヘナヘナと崩れそうになった。

[043]何だろう……あの、鋭い視線。

[044]どこかで見たことがあるんだけど……。

[045]【なぎさ】

[046]「これで残り、あとひとりだー!」

[047]書き上がった記録をバインダーのファイルに綴じて、

[048]なぎさ先輩が大きく伸びをした。

[049]【なぎさ】

[050]「沢井?

[051] どうしたの、さっきから元気なくない?」

[052]【かおり】

[053]「……はい……」

[054]【やすこ】

[055]「外来で何かあったん?

[056] カルテ届けに行ってから、口数減ってるやん?」

[057]【かおり】

[058]「……いえ……」

[059]口数が減ったのは理由があるの。

[060]外来でぶつかったあの人のこと、

[061]思い出したから……。

[062]あの人……、ちょっと前に、

[063]この病棟の廊下で

[064]わたしをじっと見てた人だよね。

[065]あの時は、入院患者さんのお見舞いか何かだと思って

[066]気にしなかったんだけど、

[067]よく考えると変なんだよね。

[068]お見舞いの患者さんだったら

[069]詰所に声をかけてくれるだろうし、

[070]今日みたいに外来をウロウロしてないはず。

[071]そうじゃなくて、

[072]外来に来た患者さんだったんだとしたら

[073]病棟をウロウロする理由がない。

[074]外来の患者さんで、

[075]今度、入院するから病棟の様子を見に来た……

[076]というのも考えられなくもないけど。

[077]でも、そうすると

[078]わたしをじっと見てたり、

[079]外来で驚いてたあの顔の理由がわからないし……。

[080]あの男の人、

[081]わたしを知ってるみたいだった。

[082]あの鋭い視線……ものいいたげで、

[083]まるでわたしを憎んでるみたいな……。

[084]ゾクッとする。

[085]わたしの知らない人が

[086]わたしを知っている、恐怖。

[087]そして、その人は

[088]わたしを憎んでいるのかもしれない……。

[089]【なぎさ】

[090]「んもー、辛気臭いよ?

[091] ホラ、仕事も終わったんだから

[092] 元気出して!」

[093]なぎさ先輩が

[094]わたしの背中を叩いてくれた。

[095]うん……なぎさ先輩を

[096]心配させちゃダメだよね。

[097]【なぎさ】

[098]「もし沢井が、あたしが記録書き終わるまで

[099] 待ってくれるんなら、

[100] あたし、夕ごはんおごってあげる!」

[101]【かおり】

[102]「えへへ……じゃあ、待ってようかな〜」

[103]【やすこ】

[104]「ほな、みなさんお先に〜!

[105] 主任もお疲れさん〜」

[106]【はつみ】

[107]「ええ……お疲れ様でした」

[108]なぎさ先輩を待ってたのは、五分くらいだったかな。

[109]一緒に詰所を出た、わたしたち。

[110]隣になぎさ先輩がいるけれど……、

[111]外来にまだあの人がいたらどうしよう。

[112]考えれば考えるほど、足がすくむ。

[113]この階段、下りたくないな……。

[114]でも、階段を下りなきゃ

[115]更衣室のある建物に行けないし、

[116]寮にも帰れない……。

[117]【なぎさ】

[118]「沢井?

[119] ホント、さっきから様子が変よ?」

[120]【かおり】

[121]「…………」

[122]心配そうにわたしの顔を覗き込んでくる、

[123]なぎさ先輩。

[124]どうしよう……、

[125]なぎさ先輩に相談しようか……。

[126]【なぎさ】

[127]「もし良かったら、

[128] あたしに話してみて?」

[129]【なぎさ】

[130]「あたしじゃ力になれないかもしれないけど、

[131] でも、話を聞くことはできるよ?」

[132]【かおり】

[133]「……あ、あの……、

[134] どう話せばいいのか、

[135] わからないんですけど……」

[136]足が、すくむ……。

[137]どうしよう、

[138]身体が動かないよ……。

[139]【なぎさ】

[140]「沢井?

[141] どうしたの?」

[142]立ち止まったわたしを心配して

[143]なぎさ先輩がわたしの顔を覗き込んでくる。

[144]そのなぎさ先輩の背後に

[145]男の人が、いた……!

[146]【かおり】

[147]「ひ……ッ!!」

[148]恐怖に駆られて、

[149]なぎさ先輩に抱きついた。

[150]【なぎさ】

[151]「さ、沢井!?」

[152]【かおり】

[153]「怖い、怖いよ、なぎさ先輩!

[154] わたしを見てる人がいるの!」

[155]【なぎさ】

[156]「え!?」

[157]なぎさ先輩が振り返って

[158]背後を確認してくれた。

[159]【なぎさ】

[160]「誰もいないよ?

[161] 外来診察も終わってるし……

[162] 沢井の気のせいよ」

[163]【かおり】

[164]「でも……、でも……っ!」

[165]わたしの背中に腕を回して

[166]なぎさ先輩が優しく抱き寄せてくれた。

[167]わたしを落ち着かせるように、

[168]優しい手が背中を上下している。

[169]優しいぬくもりに

[170]少しだけ気が楽になる。

[171]【なぎさ】

[172]「大丈夫。

[173] あたしが側にいてあげるから……ね?」

[174]【かおり】

[175]「なぎさ先輩……」

[176]【なぎさ】

[177]「ここは病院だもん、何かあるはずないよ。

[178] それに、何かあったら、

[179] あたしが大声で助けを呼んであげる」

[180]【かおり】

[181]「わたし……、なぎさ先輩……」

[182]【なぎさ】

[183]「あたしじゃ頼りにならないかもだけど、

[184] でも、あたし、沢井のためなら頑張れるよ?」

[185]【なぎさ】

[186]「沢井は……あたしを頼ってくれる?」

[187]不安そうな、それでいて力強さを感じる、

[188]なぎさ先輩の微笑み。

[189]わたしは

[190]取り縋っていたなぎさ先輩の白衣を

[191]更にギュッと握った。

[192]【かおり】

[193]「もちろんです……

[194] なぎさ先輩が側にいてくれるなら……心強いです」

[195]【なぎさ】

[196]「ありがとう、沢井」

[197]なぎさ先輩は、もう一度わたしを

[198]ぎゅっと抱きしめてから、ニコッと笑った。

[199]その笑顔に、わたしは心底ホッとした。

[200]なぎさ先輩が側にいてくれる。

[201]きっとわたしは大丈夫だよね。

white_robe_love_syndrome/scr00226.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)