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white_robe_love_syndrome:scr00222

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[001]なぎさ先輩と一緒に

[002]バイタルチェックに回っていると……。

[003]【こむやん】

[004]「ねぇねぇ、これ、あげる!」

[005]306号室の子ども部屋で

[006]こむやんが一本の缶ジュースを差し出してきた。

[007]【かおり】

[008]「えっ?」

[009]【こむやん】

[010]「これ、あげる!」

[011]更にジュースを押し付けるように差し出してくる、

[012]こむやん。

[013]意味がわからないんだけど……。

[014]冷たいジュース……美味しそう。

[015]けど、原則、患者さんや家族の方からの差し入れは

[016]もらっちゃいけないことになってるんだよね。

[017]ここは我慢しなきゃ。

[018]【かおり】

[019]「ごめんね、こむやん。 気持ちは嬉しいけど、

[020] お姉ちゃんたち、こういうのもらっちゃいけない

[021] 決まりになってるの」

[022]こむやんは引かない。

[023]【こむやん】

[024]「あげるったら、あげるのっ!」

[025]一瞬、困ったような表情で、背後を振り返り、

[026]断ってるわたしへと、

[027]ぐいぐいとジュースを押し付けてくる。

[028]こ、困ったなぁ……。

[029]【なぎさ】

[030]「いいじゃん、もらっておきなさいよ。

[031] 子どもって言い出したら聞かないし、主任に

[032] 叱られたら、あたしも言い訳してあげるから」

[033]うう、なぎさ先輩ってば、

[034]ヒトゴトだと思って……。

[035]でも、こむやんも泣き出しそうな顔をしてるし、

[036]きっぱり断るのも可哀想だよね。

[037]【かおり】

[038]「わかった、もらうね。

[039] ありがとう、こむやん」

[040]もらったジュースをポケットにしまおうとした途端、

[041]こむやんが慌てたように言った。

[042]【こむやん】

[043]「ダメー!

[044] ちゃんとここで飲まなきゃ、ダメなのー!!」

[045]【かおり】

[046]「こ、ここで!?

[047] さすがに勤務中はダメだよ……」

[048]言いかけたわたしを、なぎさ先輩が軽くつつく。

[049]【なぎさ】

[050]「ここでちょっと飲むフリをして、

[051] あとで詰所に持っていけばいいんじゃない?」

[052]【かおり】

[053]「あ、そっか」

[054]要は、こむやんの気分を害させず、

[055]かつ、誰にも見咎められなきゃいいってわけで……。

[056]【かおり】

[057]「ん?」

[058]ジュースをまじまじと見る。

[059]あ、これ、

[060]高校の時よく飲んだジュースだ。

[061]甘いのに炭酸が効いてて

[062]クセになっちゃうんだよねー。

[063]オレンジ味なんて出てたんだ〜。

[064]美味しそう!

[065]【かおり】

[066]「げ、ひゃあああああぅぁっ!?」

[067]【ひろくん】

[068]「いやったぁ!

[069] 大成功〜っ!」

[070]【こむやん】

[071]「わーい、やったね!」

[072]【かおり】

[073]「…………」

[074]い、一体、何が……。

[075]呆然とするわたしを見て、ひろくんとこむやんが

[076]手を叩いて大喜びしている。

[077]【かおり】

[078]「えっと……」

[079]ぼたぼたと髪から炭酸が滴ってる……。

[080]こ、これって……。

[081]【なぎさ】

[082]「くぉらぁっ!

[083] 悪いことしてーーー!」

[084]【ひろくん】

[085]「うわっ!

[086] 逃げろ〜っ!」

[087]【なぎさ】

[088]「待ちなさいっ、この悪ガキ〜っ!」

[089]【ひろくん】

[090]「へへーんだ、こっこまでおいで〜っ!」

[091]病室内でバタバタと追いかけっこが始まる。

[092]他の患児は楽しそうにそれを見ている。

[093]そうだよね。

[094]入院中なんて、レクリエーション、他にないもんね。

[095]……だからといって、これはひどいよ、ううう。

[096]やがて、なぎさ先輩に捕まえられたこむやんが

[097]わたしの前にやってきた。

[098]【こむやん】

[099]「お、お姉ちゃん、ごめんね?」

[100]そして、わたしはこむやんから語られた言葉により、

[101]この事件の真相を知った。

[102]こむやんはひろくんには逆らえないこと。

[103]そのひろくんに言われて、

[104]思いっきり振りまくった炭酸ジュースを

[105]わたしにあげようってことになったこと。

[106]……つまり、この悪戯の仕掛け人は

[107]ひろくんってことで……。

[108]【かおり】

[109]「あはっ、あははっ」

[110]わたしはおかしくなって笑い出してしまった。

[111]叱ったってしょうがないし、

[112]子どものいたずらだもん、

[113]笑って許してあげないと……うう。

[114]【かおり】

[115]「な、なかなかやるわねー。

[116] お姉ちゃん、一本取られちゃったな!」

[117]こうなりゃ、ヤケだよね。

[118]わたしの言葉に、

[119]こむやんはホッとした表情を浮かべて、

[120]えへへと照れ笑いした。

[121]もう……これだから、子どもって憎めないのよね。

[122]わたしは手にした缶ジュースを

[123]ぐびっと飲んだ。

[124]【かおり】

[125]「悪戯はひどいけど、ジュースは美味しい……」

[126]【なぎさ】

[127]「ちょ、沢井!

[128] 悠長にジュース飲んでる場合じゃなくて、

[129] 着替えてこなくていいの!?」

[130]【かおり】

[131]「はっ!!」

[132]髪も白衣も、

[133]ジュースまみれでベッタベタ……。

[134]【なぎさ】

[135]「んもー、あの悪ガキ、

[136] ホントに逃げ足だけは早いんだからっ!」

[137]【かおり】

[138]「あはは……、じゃあ、ちょっと着替えてきます。

[139] コレ、お願いします」

[140]飲みかけのジュースをなぎさ先輩に手渡して、

[141]白衣を着替えてこようと病室を出ようとした。

[142]【ひろくん】

[143]「あーっ!

[144] 間接キスだーーーっ!

[145] やっらしーの!!」

[146]えっ!?

[147]ひろくんの声に振り返ると、

[148]なぎさ先輩がわたしのジュースに口をつけたところで、

[149]そのまま、なぎさ先輩は固まってしまっていた。

[150]【ひろくん】

[151]「間接キス!

[152] 間接キス!」

[153]【こむやん】

[154]「ラ〜ブラブ!

[155] ラ〜ブラブ!」

[156]【なぎさ】

[157]「なっ!」

[158]【かおり】

[159]「か、かんせつ、きすって……」

[160]【ひろくん】

[161]「キース! キース!」

[162]はやし立てるひろくんや子どもたちの声に、

[163]なぎさ先輩は見る見る真っ赤になっていって……。

[164]ゴツン!!

[165]思いっきりひろくんにゲンコツを振り下ろした。

[166]【ひろくん】

[167]「うっ……うわーーーーーん!!」

[168]【なぎさ】

[169]「えっ、ちょっ!?」

[170]【ひろくん】

[171]「うわーーーーん!

[172] 痛いよーーーっ!」

[173]【かおり】

[174]「な、なぎさ先輩……」

[175]【なぎさ】

[176]「ちょ、ウソでしょう!?

[177] いつも酷いイタズラしておいて、

[178] あれしきで泣くわけ!?」

[179]【なぎさ】

[180]「それに、そんなに強く叩いてないし!

[181] やだ、泣き止んでよー!!」

[182]【ひろくん】

[183]「うわーーーん! 痛いよーーーっ!」

[184]なぎさ先輩は慌ててなだめようとするけれど、

[185]ひろくんの泣き声は大きくなるばかり。

[186]というか、かなりすごい音したし……。

[187]い、痛かったのかも……。

[188]【はつみ】

[189]「……何を騒いでいるのかしら」

[190]ビリッと空気を震わせるような声に、

[191]わたしたちは同時に入り口を振り返った。

[192]【はつみ】

[193]「……藤沢さん、

[194] 患者さんを泣かせた理由を説明してくれるかしら?」

[195]【なぎさ】

[196]「こ、これは、そのっ……」

[197]【はつみ】

[198]「沢井さんも沢井さんよ、

[199] 何なの、その白衣は?」

[200]【かおり】

[201]「あのっ、これは、えっと……、

[202] 炭酸の効いたジュースが噴き出しまして……」

[203]【はつみ】

[204]「ジュース?

[205] まさか、もらったとか言わないでしょうね?」

[206]【かおり】

[207]「え、えーっと……」

[208]主任さんの冷たい視線に射抜かれて、

[209]だらだらとジュース混じりの汗が流れる。

[210]こういう時は……。

[211]【かおり】

[212]「す、すみませんっ!

[213] こむやんにもらったジュースをかぶりました!!」

[214]逃げるが勝ちだよ、謝っちゃおう!!

[215]【ひろくん】

[216]「うわーーーん!

[217] 看護婦さんが、ぶったー!」

[218]【なぎさ】

[219]「ちょっ!?

[220] シーッ!」

[221]【はつみ】

[222]「……ぶった、ですって?」

[223]主任さんの眼鏡がキラッと光る。

[224]うう、ヘビに睨まれたカエル状態だよ、

[225]動けないよぅ!!

[226]【なぎさ】

[227]「ち、違うんですっ!

[228] これにはワケが……っ!」

[229]【ひろくん】

[230]「うわーん、うわーん、いたいよー」

[231]ひろくんは泣くフリをしながら、

[232]チラッとこちらを見て、ペロッと舌を出す。

[233]【なぎさ】

[234]「あっ、泣き真似してる!

[235] この卑怯者ぉっ!」

[236]【はつみ】

[237]「……藤沢さん」

[238]【なぎさ】

[239]「ひゃっ! は、はいっ!」

[240]【はつみ】

[241]「……あなたたち、

[242] 後で休憩室にいらっしゃい」

[243]【かおり】

[244]「……はい……」

[245]【なぎさ】

[246]「…………」

[247]しょんぼりするわたしたちを尻目に、

[248]主任さんは室内の子どもたちをキッと睨んだ。

[249]【はつみ】

[250]「入院中、退屈で面白くないのはわかります。けれど、

[251] あなたたちのために仕事をしている看護師を

[252] 面白半分でからかうことはわたしが許しません!」

[253]【はつみ】

[254]「特に、こむやんとひろくん!

[255] 今回のことは、親御さんに報告します。

[256] きっちりと叱ってもらいなさい」

[257]【こむやん】

[258]「えええ〜!?」

[259]【ひろくん】

[260]「オーボーだぁ!

[261] なんだよ、この年増!」

[262]ひっ!?

[263]この子、主任さんに向かって、

[264]『年増』って言ったよ!?

[265]【はつみ】

[266]「…………」

[267]主任さんは冷たい表情で

[268]ひろくんを見ている。

[269]わたしはなぎさ先輩と手を取り合って

[270]固唾を呑んで見守るしかない。

[271]【はつみ】

[272]「…………」

[273]【ひろくん】

[274]「な、何だよ……っ」

[275]【はつみ】

[276]「…………」

[277]【ひろくん】

[278]「…………っ!!」

[279]ひろくんが泣きそうな顔をした。

[280]【はつみ】

[281]「…………」

[282]【ひろくん】

[283]「……年増だなんて言ってごめんなさい。

[284] 本当はキレイな看護婦さんだって思って……

[285] うわぁぁぁん、ごめんなさぁぁぁぁあいぃ!!」

[286]うわ、ひろくんが謝った!

[287]しかも、大泣きで!!

[288]【はつみ】

[289]「……反省したのなら、それでいいわ」

[290]【ひろくん】

[291]「うわぁぁぁん!

[292] ううう、ひーんひーん……!!」

[293]主任さんは泣いているひろくんを慰めもせず、

[294]何事もなかったように、部屋から出て行く。

[295]子どもたちは、黙ったまま、

[296]自分のベッドに戻ってゆく。

[297]……なんだか、異様な風景だな……。

[298]こむやんが、ひろくんの肩をポンと叩いた。

[299]ひろくんは泣きながら

[300]もぞもぞとベッドに入る。

[301]【なぎさ】

[302]「……沢井も、着替えてきなよ……。

[303] 後は、あたしが処理するから」

[304]【かおり】

[305]「は、はい……」

[306]主任さん……、

[307]わたしたちを守ってくれたのはいいんだけど……

[308]視線ひとつで子どもを泣かすなんて

[309]ただものじゃないよね。

[310]というか、

[311]そもそも、子どもたちに簡単にからかわれちゃう

[312]わたしが悪いんだよね……。

[313]あーあ、

[314]優秀な看護師の道は遠いなぁ〜。

white_robe_love_syndrome/scr00222.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)