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white_robe_love_syndrome:scr00214

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[001]昼食後、わたしたちは

[002]食事量確認のために、病室を回る。

[003]困ったことに、

[004]306号室のショウちゃんの食事摂取量の記入欄に

[005]『1』と書かれてあった。

[006]それはつまり

[007]お昼ごはんの九割を残したということで……。

[008]【かおり】

[009]「ショウちゃん、どうしたの?

[010] どこか具合でも悪いの?

[011] おなか痛い?」

[012]聞いてもショウちゃんは口をしっかり結んだまま

[013]イヤイヤと首を振るばかり。

[014]【かおり】

[015]「具合が悪いわけじゃないのね?」

[016]確認するように訊くと

[017]ショウちゃんはコクンと頷いた。

[018]それにしては残しすぎだよね……。

[019]【かおり】

[020]「お腹減ってないの?」

[021]再びショウちゃんはイヤイヤと首を振る。

[022]頷いたわけじゃないから、

[023]お腹は減ってる……のかな?

[024]うーん、どうしたんだろう?

[025]【ひろくん】

[026]「好き嫌いしちゃ、ダメなんだぜー!」

[027]向かいのベッドの男の子、

[028]ひろくんがはやし立てる。

[029]たしか、ひろくんは喘息で入院中、なんだっけ……。

[030]そして、ひろくんの隣のベッドには、

[031]季節外れの風邪をこじらせて、肺炎で入院した男の子。

[032]【かおり】

[033]「……好き嫌い?」

[034]ひろくんの言葉に、ピンときた。

[035]なるほど……、そういうことか……。

[036]今日のお昼ごはんって、

[037]おかずはピーマンとお肉の炒め物だっけ。

[038]だから、ごはん、

[039]ほとんど食べてないのね。

[040]【かおり】

[041]「もしかして、

[042] ショウちゃんはピーマンが嫌いなのかな?」

[043]ショウちゃんはコクンと頷いた。

[044]【かおり】

[045]「でも、食べないと、後でお腹減っちゃうよ?

[046] 夕ごはんまで我慢しなきゃいけないよ?」

[047]【ショウ】

[048]「……でも、

[049] ピーマンはいやなんだもん……ぅぅ」

[050]【かおり】

[051]「でもね、

[052] 食べないと栄養のバランスとか……」

[053]【なぎさ】

[054]「沢井、まだ終わらないの?」

[055]【かおり】

[056]「あ、なぎさ先輩!」

[057]病室の入り口でなぎさ先輩がこっちを見てる。

[058]思わず『なぎさ先輩、助けて〜!』と

[059]念を送った。

[060]なぎさ先輩は困ったように笑うと、

[061]思いが通じたのか、そのまま病室に入ってきてくれた。

[062]【なぎさ】

[063]「一体どうしたの?」

[064]【かおり】

[065]「それが……」

[066]【ひろくん】

[067]「ショウがピーマン食べられなくて

[068] いっぱいご飯残してんだ!」

[069]【なぎさ】

[070]「ふーん」

[071]【ひろくん】

[072]「好き嫌いはいけないんだぞー!

[073] 大きくなれないんだぞー!」

[074]【ショウ】

[075]「だって、だって……苦いのヤだもんー!

[076] 食べられないんだもんー、うわーん!」

[077]【かおり】

[078]「えぇ……と。

[079] に、苦くないよ?

[080] ちょっと食べてみない?」

[081]【ショウ】

[082]「ヤダ!

[083] 苦いし、臭いもんっ!」

[084]【かおり】

[085]「ちょっと食べてみたら、

[086] 意外と美味しいかもしれないよ?」

[087]【ショウ】

[088]「ヤダ! ヤダヤダ!」

[089]【かおり】

[090]「うーん……好き嫌いしてると、

[091] 大きくなれないよ?」

[092]【ショウ】

[093]「大きくなれなくてもいいもん〜!

[094] やだよー、食べたくないぃ〜!!」

[095]【なぎさ】

[096]「ふふっ。

[097] ピーマン嫌いな沢井が言っても、

[098] 説得力に欠けるわね〜」

[099]【ひろくん】

[100]「えーっ!?

[101] お姉ちゃんも嫌いなのー?

[102] 看護婦なのに? 大人なのに?」

[103]【かおり】

[104]「ちょっ、なぎさ先輩っ!?」

[105]【なぎさ】

[106]「あらら、バラしちゃった。

[107] ごめんね、沢井」

[108]【ショウ】

[109]「……ピーマン食べられなくても

[110] 大きくなってる……」

[111]【かおり】

[112]「あ、いや、それはね、

[113] わたしはちょっとは食べてきたのよ。

[114] だからね、ほら、ちょっとだけ小さいでしょ?」

[115]【ショウ】

[116]「じゃあ、

[117] 看護婦のお姉ちゃんが食べてみせてよ!」

[118]【かおり】

[119]「えっ!?」

[120]【ショウ】

[121]「このピーマン、苦くないんでしょ?」

[122]【かおり】

[123]「うっ……」

[124]【ショウ】

[125]「食べてみたら美味しいんでしょ?」

[126]【かおり】

[127]「うう……っ!」

[128]【ショウ】

[129]「看護婦のお姉ちゃんが食べられたら、

[130] あたしも食べてあげてもいいよ!」

[131]【かおり】

[132]「そ、それは……」

[133]【なぎさ】

[134]「よし、頑張れ沢井!

[135] 子どもたちの純真な心を踏みにじらないよう

[136] 大人代表として頑張るのよ!」

[137]【かおり】

[138]「そ、そんなぁ〜」

[139]うう……なぎさ先輩のせいで

[140]子どもたち、みんながわたしを見てるよー!

[141]ふえ〜ん、どうすればいいの〜!?

[142]食べる

[143]食べない

[144]うぅぅっ……逃げられ、ない……。

[145]【ショウ】

[146]「さぁ! 食べて!」

[147]【かおり】

[148]「わ、わかったわよ〜っ!」

[149]たしか、臭いがシャットアウトされると、

[150]味も感じにくくなるとか何とか

[151]聞いたことがある。

[152]ような気がする。

[153]ってことは、鼻を摘んで食べたら大丈夫!

[154]……の、はず!!

[155]よしっ!

[156]わたしは目の前のお皿をにらみつけた。

[157]た、食べてやるんだからねっ!

[158]ピーマンとお肉の炒め物が入ったお皿を左手に、

[159]右手で鼻を摘んで……。

[160]って、これじゃ食べられないじゃない!!

[161]【なぎさ】

[162]「骨は拾ってあげるわよ、沢井」

[163]うう、なぎさ先輩のイジワル〜!

[164]【かおり】

[165]「すー……、はー……」

[166]【なぎさ】

[167]「それじゃ食べられないでしょ?

[168] あたしが手伝ってあげるわねー」

[169]【かおり】

[170]「け、結構です!」

[171]【なぎさ】

[172]「そんな遠慮しないで!

[173] はい、あーん!」

[174]ショウちゃんのお箸を手にしたなぎさ先輩に

[175]口に放り込まれた。

[176]【かおり】

[177]「……ん、……っぐ……!!」

[178]【なぎさ】

[179]「ん? どうした? ギブアップ?」

[180]なぎさ先輩ってば、完全に面白がってる!

[181]【かおり】

[182]「む、んぐっ……!!」

[183]ま、不味い!

[184]やっぱり美味しくなぁい!!

[185]【なぎさ】

[186]「あら沢井、大丈夫?

[187] 子どもたちが見てるわよ?」

[188]【かおり】

[189]「だ、だいじょうぶれふっ!

[190] さ、せんふぁい、もっとくらふぁい」

[191]【なぎさ】

[192]「頑張るわねぇ。

[193] はい、あーん」

[194]【かおり】

[195]「んぐっ。

[196] んぐぐっ……」

[197]に、苦いよぅ〜っ!

[198]ピーマン、青臭いよぅ〜っ!

[199]【なぎさ】

[200]「沢井ったら変な汗かいてるけど……。

[201] でも平気よね?

[202] 美味しいわよね?」

[203]ショウちゃんがじっとわたしを見つめてる。

[204]わたしは涙目になりながらも頷いた。

[205]【かおり】

[206]「ふぁい! おいひぃでふっ!」

[207]【なぎさ】

[208]「そう、よかった! じゃぁはい。

[209] あーん!」

[210]【かおり】

[211]「ま、まだ食べるんでふかっ?!」

[212]【なぎさ】

[213]「はい、もいっかいあーん」

[214]ひーんっ!!

[215]次々に口に放り込まれるピーマンに

[216]わたしはマジ泣きしそうになってくる。

[217]で、そのなぎさ先輩といえば

[218]他の子どもたちと一緒になって

[219]とっても楽しそうに笑ってるのよね……うう。

[220]【なぎさ】

[221]「はいあーん……っと、あらら、

[222] もう全部なくなっちゃった」

[223]【かおり】

[224]「ホッ……」

[225]思わずホッとしちゃった。

[226]けど……、これ、

[227]ショウちゃんのピーマンなんだよね……??

[228]【ショウ】

[229]「やったぁ!!」

[230]あわわ……ショウちゃんの分まで食べちゃった!

[231]【かおり】

[232]「だ、ダメだよ! 自分の分はちゃんと自分で

[233] 食べないと、大きくなれないんだよ?

[234] わたしはちゃんと自分の分は食べたもん!」

[235]【ショウ】

[236]「えー!!」

[237]【ひろくん】

[238]「ホントーなのかなぁ〜?

[239] あやしいなぁ〜?」

[240]【かおり】

[241]「ほ、ホントだよ!」

[242]【ひろくん】

[243]「なーんか、変なんだよなー?

[244] 看護婦さん、ホントにピーマン食べられるのぉ?」

[245]【かおり】

[246]「た、食べられるわよ。

[247] だから看護師になれたんだから!

[248] ね? 先輩?!」

[249]【なぎさ】

[250]「へっ!?

[251] あ、う、うん……」

[252]わたしの強引なフリに、

[253]なぎさ先輩は慌てて頷いてくれた。

[254]【なぎさ】

[255]「そうだったような気も、する。うん……」

[256]【はつみ】

[257]「あなたたち、いつまでかかっているの?」

[258]主任さんの声に、慌てて振り返る。

[259]【かおり】

[260]「えっ、と、ですね……。

[261] ショウちゃんがピーマンが苦手で食べられなくて。

[262] だからお昼をいっぱい残しててそれが心配で……」

[263]【はつみ】

[264]「ピーマン?」

[265]怪訝そうな顔をした主任さんは

[266]ショウちゃんのベッドまで歩いてきた。

[267]そして、ショウちゃんの視線の高さに合わせるように

[268]身体をかがめると、その場にしゃがみこんだ。

[269]【はつみ】

[270]「ピーマン、食べられないの?」

[271]【ショウ】

[272]「だって、苦いんだもん……」

[273]【はつみ】

[274]「そう。

[275] 嫌いなものは仕方ないわよね」

[276]【かおり】

[277]「えっ!?

[278] しゅ、主任さん……!?」

[279]【はつみ】

[280]「無理に食べて具合が悪くなったりしたら大変だから、

[281] 何が何でも食べなさいとは言わないわ。

[282] でもね……」

[283]主任さんは優しく微笑んで、ショウちゃんを見る。

[284]【はつみ】

[285]「いろんなものをたくさん食べると、

[286] その分、身体が元気になって、退院が早くなるのよ?」

[287]【ショウ】

[288]「えっ!?」

[289]ショウちゃんの瞳が大きく見開かれる。

[290]【はつみ】

[291]「お野菜の中でも、ピーマンには特に

[292] 元気になれる成分がたくさん入っているのに、

[293] 食べなかったのね……もったいないわぁ?」

[294]【ショウ】

[295]「本当!?」

[296]【はつみ】

[297]「ええ、本当よ。

[298] ピーマンには栄養がいっぱい入っているから

[299] 身体も元気になるのが早いのよね」

[300]【はつみ】

[301]「そういえば、この前退院した子も、

[302] お食事を好き嫌いなくしっかり食べたから

[303] 回復も早くて、元気におうちに帰っていったわ」

[304]【はつみ】

[305]「それだけじゃないわよ?

[306] たとえば、ショウちゃんは自分が悪くないのに、

[307] 誰かから嫌いって言われたらどう思う?」

[308]【ショウ】

[309]「……かなしい……かな」

[310]【はつみ】

[311]「でしょう? ピーマンさんも同じよ?

[312] ショウちゃんのために、千切りにされて、

[313] 火で炒められたのに、嫌いって言われちゃった」

[314]【ショウ】

[315]「…………」

[316]【はつみ】

[317]「ショウちゃんを元気にしてあげようって思ってたのに、

[318] 嫌いだからって、一口も食べてもらえなかったのよ?

[319] きっと今頃、泣いてるわ……しくしく」

[320]【ショウ】

[321]「…………」

[322]【はつみ】

[323]「これからは、ピーマンさんも食べてあげられる?

[324] ニンジンさんも、タマネギさんも食べてね?

[325] 看護婦さんとお約束、できるかしら?」

[326]【ショウ】

[327]「うん!

[328] あたし、頑張って食べる!

[329] 食べなきゃ、ピーマンさん、可哀想だもんね!」

[330]おぉっ!

[331]さすが主任さん!

[332]あんなに嫌がっていたショウちゃんが、

[333]自分からピーマンを食べるって言い出すなんて。

[334]上手な持っていき方だなぁ。

[335]なぎさ先輩とふたりで感心していると、

[336]主任さんはわたしたちを見て微笑んで……。

[337]【はつみ】

[338]「……ところで、あなたたちは

[339] 何をしているのかしら?」

[340]【かおり】

[341]「ひゃ、ひゃい、すみません!」

[342]【なぎさ】

[343]「仕事に戻ります!」

[344]主任さんの声に押されるようにして、

[345]わたしたちは病室を飛び出した。

[346]■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

[347]0214で「食べる」を選択した場合のみ表示

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[349]廊下に出た途端、

[350]なぎさ先輩が、肘でわたしを突付いてきた

[351]【なぎさ】

[352]「……で、実際はどうだったの?」

[353]【かおり】

[354]「はい?

[355] 何がですか?」

[356]【なぎさ】

[357]「鼻、摘んで食べたでしょう?

[358] 苦くなくなってたの?」

[359]楽しそうに訊かれて、

[360]わたしは言葉を濁そうとして、やめた。

[361]どうせ、隠したところで

[362]後でバレちゃうんだし。

[363]【かおり】

[364]「……苦かったです」

[365]【なぎさ】

[366]「おバカ。

[367] 鼻を摘んだだけで味が消えるわけないでしょ?

[368] 味覚と嗅覚は別物なのよ?」

[369]【なぎさ】

[370]「そもそも、嗅覚は第一脳神経の嗅神経で知覚し、

[371] 味覚は第七脳神経の顔面神経と第九脳神経の

[372] 舌咽神経で知覚するって習ったでしょ」

[373]うう……、

[374]習ったかもしれないけど、

[375]そんなの覚えてません……。

[376]【なぎさ】

[377]「ほらほら、そんな顔しないの。

[378] 勉強になって良かったじゃない」

[379]【かおり】

[380]「それはそうなんですけど〜」

[381]【なぎさ】

[382]「それに、沢井がピーマン食べて

[383] 目を白黒させてる面白い顔が見られて

[384] あたしはとっても楽しかったしね!」

[385]【かおり】

[386]「もー、なぎさ先輩のイジワル!!」

[387]ぽかぽかと叩くフリをすると、

[388]笑いながら、するりとなぎさ先輩が逃げた。

[389]【なぎさ】

[390]「あはは、冗談だってばー!」

[391]【やすこ】

[392]「おーい、そこの先輩後輩。

[393] 廊下で暴れんなー」

white_robe_love_syndrome/scr00214.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)