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seisai_no_resonance:sce08_04_25_3
あれから半年近くの月日が流れた。
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季節は冬になり、寮から出てくる学生はブレザーを羽織っている。
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吐き出す息も白く、南の島でも当然のように寒さを感じた。
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祠での一件以降、色んなことに変化が起きた。
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学園や松籟会は体制を変えざるを得なくなり、
今後の方針について、今もまだ揉めている最中だ。
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巫女候補を育てる御花会は名前だけとなってしまい、
来年度から廃止されることが決定された。
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きっとこの学園の在り方も大きく変わっていくのだろう。
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「おはよ、カナカナ」
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背中から聞こえた声に振り向き、私は微笑む。
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そして、まだ慣れない手話で挨拶を返す。
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「あーあ、もうすぐ期末テスト、やだねー。
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八弥子さんに首を振って、私は出来る限り微笑んだ。
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あれから私に言葉が戻ることは無かった。
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失われたものは失われたままで、
今までよりも不自由な生活を強いられる。
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でも、それだけなら、まだ良かったと思えただろう。
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「カナカナ、来年から島の外に行くんだよね?」
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八弥子さんに頷く。でも、力強くは頷けない。
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「勉強ついていくの……大変だよね」
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愚痴になるから、と首を振るう。
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「ね、カナカナ……辛くなったら、筆談でもいいから……
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ありがとうございます、と唇を動かして頭を下げる。
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「それじゃ……えっと、奈岐……にもよろしくね」
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八弥子さんが手を振ってから、校舎の方へ消えていく。
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ナギっち、ではなくて……奈岐と呼ぶ。
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その距離感はまだ僅かに私の胸を締め付けた。
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朝の喧噪に包まれる学園の廊下――。
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私は一年生の教室ではなく、三年生の教室へ向かう。
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廊下で雑談を交わす学生達を横切って、
毎日、定時にいつもの場所へ歩いて行く。
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人通りの少ない課外授業教室近く――
彼女はそこで私を待っていた。
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壁にもたれ、目を閉じ、他者を拒絶するように腕を組む。
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そして、私が来たことを知ると、ゆっくりと壁から身を起こす。
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「何をしていた?(BROKEN:8_20)
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出会い頭に私の思考を読み取ったのは奈岐で間違いない。
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二つくくりだった髪を後ろにまとめ、近眼用の眼鏡をかけている。
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愛用していたマントは……もうどこにあるのか記憶にすら無い。
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「期末テストの会話、将来への不安、島から出ること、
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考えを全て口にしたあと――正確には、ひけらかしたあと、
奈岐はわざとらしくため息を漏らした。
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「はぁ、下らない……考えを視るだけで虫唾が走る」
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「おい、お前がここにいる理由を視せろ」
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奈岐に言われて、思考していく。
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一つ、私が門と関わった事で言霊を失ったこと。
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二つ、その事を外部に知られるわけにはいかないこと。
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三つ、門と私の症例の関係は貴重なサンプルとなること。
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最後に――ここにいるのは約束だから。
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「チッ、最後のそれは余計だ。気分を害された」
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でも、約束したのは事実で、私はそれだけは守りたい。
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「…………」
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「私は感情というものを失った。正確には人を思う心だ」
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奈岐が最も大切にしていたもの――
それは私との繋がり、心の繋がりだった。
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死の世界は最も強い魂を奪っていく。
私の言葉がそうであったように、奈岐も失った。
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その気持ち、その感情を紡ぐものは、
全て向こう側へ持って行かれてしまった。
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「だからこそ言えることがある」
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「失せろ」
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強い口調ではっきりと言われてしまう。
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胸が痛かった。でも、泣き言は言えない。
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「私にとって、お前は孤独を埋める材料でしかなかった。
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「私はお前を愛してなどいない。昔も今も、変わらずに、な」
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「お前のことを好きだとは言った。だが、愛ではない」
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「なぜなら、昔の私は孤独を怖がっていたからだ」
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「お前が好きでいる向山奈岐でいれば、お前は私といてくれる」
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「好きだと思える行為を示せば、すぐに孤独を埋めてくれた」
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「全部、ただのパフォーマンスに過ぎない。
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「はぁ……ただ、性行為は論外だったな」
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その理由は奈岐のため息だけで分かる。
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もう聞きたくはなかった。
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「お前は、これからの研究にあたって、いいサンプルになる。
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「それを何度告げても、お前は約束の一点張りだ。
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祠での一件後、奈岐は数週間に渡って眠り続けた。
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そして、目覚めた時……奈岐はもう昔の奈岐じゃなかった。
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徹底的に他者を排し、八弥子さんですら遠ざけていった。
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残ったのは……言葉を失った私だけだった。
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奈岐は学園の卒業と同時に本土の大学へ渡る。
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必要無いとは言い切るものの、自分から感情を奪った仕組みを
もっと具体的に調べたいというのが目的だ。
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だから、同じ症例の私はいいサンプルになる。
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ただ……奈岐が通う予定の大学に行くには、
どうしても高水準の学力が必要になった。
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もし私が合格判定をもらえなければ、きっと奈岐は私を躊躇いなく切り捨てるだろう。
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「……フンッ、分かっているようだな」
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私の考えを覗いた奈岐が(BROKEN:8_20)
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奈岐の冷たい口調、仕草――どれもが胸に痛み、響く。
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でも、これは私が望んだこと。
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約束が呪いとなり、呪縛となっても、
私は彼女の側にいることを望んだ。
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『そうか、ありがとう……これで……安心して、休める……』
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『鼎……奈岐は……鼎が大好きだ……』
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あの言葉が私をずっと縛りつける。
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いつか、きっと……そう信じてしまいそうになる。
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「チッ……」
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私の考えを視た奈岐があからさまに舌打ちをした。
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たとえ、今の奈岐本人が望んでいないとしても……
私はその『いつか』が訪れることを願い、彼女と時を共にする。
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それがどんなに辛くても、交わした約束は絶対だから。
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もしそれを疑ってしまえば、今の私に残るものは何一つ無い。
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「……、…………、」
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伝えられない言葉に意味はあるのだろうか?
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でも、少なくとも――。
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「…………」
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私の言葉が届いたことを示すように、
奈岐は不(BROKEN:8_20)
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もし……その『いつか』が来なくても、
私は奈岐といることを望むだろう。
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彼女が私にとって唯一なのは、
ずっと変わらないから――。
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		SetEndingCharaData( 4 )
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seisai_no_resonance/sce08_04_25_3.txt · Last modified: 2014/04/23 18:46 (external edit)