User Tools

Site Tools


seisai_no_resonance:sce08_04_24_1
意識が戻ると、そこは祠の舞台の上だった。
>

意識を失っていた間、私は寝かされていたらしい。
>

ゆっくりと身体を起こすと、視界に無数の人影が映る。
>

遠山先輩が松籟会の……お爺さんと何か話していて、
近くでは中村さんが叔母さんに言い寄っていた。
>

全部、終わってくれたのかな……?
>

「ヨーコ先生、カナカナが目を覚ましたよ!」
>

「はーい、でもヤヤちゃんは傷が開いたので、
(BROKEN:8_20)
>

足音が聞こえ、振り返ると学園長が私を見下ろしていた。
>

「高遠さん、無事にやり遂げてくれましたね」
>

どこか優しげに微笑む学園長を見て、私は安堵する。
>

終わってくれたんだ、と実感できた。
>

すぐに奈岐の姿を探すため、学園長に声をかける。
>

「――――」
>

「……?(BROKEN:8_20)
>

「…………、……、……?」
>

何が起きているのか自分でも分からず、まばたきを繰り返す。
>

「高遠さん?(BROKEN:8_20)
>

「…………!」
>

声が出ていなかった。
>

言葉が紡げていなかった。
>

「まさか……高遠さん、返事を」
>

「……、……!」
>

口を動かし、息が漏れるだけで――言葉が出ない。
>

「そんな……高遠さん……?」
>

「……カナカナ?」
>

自分の口を押さえる。異常はない。
>

次に喉を押さえる。異常はない。
>

身体は?(BROKEN:8_20)
>

異常はなかった。
>

でも、声だけは出なかった。
>

「…………!!」
>

視線を彷徨わせ、奈岐の姿を探す。
>

きっと奈岐に会えば、全部分かるような気がしたから――。
>

「――――!」
>

奈岐はすぐ近くで寝かされていた。
>

あれだけの無茶をしたせいか、身体中が傷だらけになっている。
>

「……鼎、無事だったか」
>

駆け寄り、抱き起こすと奈岐がうっすらと瞼を開いた。
>

私が唇を動かし、何度も息を漏らす様子を見ると、
奈岐は僅かに目を細めた。
>

「そうか、鼎も……持って行かれたか……」
>

「そうだな……鼎の言葉に力があった。それを取られるのは、
(BROKEN:8_20)
>

身体に力が入らないのか、
奈岐はぐったりとした様子で語り続ける。
>

「門を閉じる時……奈岐も鼎も……向こうの瘴気を浴びすぎた。
(BROKEN:8_20)
>

魂の一部を……失う?
>

「ああ、そうだ……最も強い力を持っていたもの……
(BROKEN:8_20)
>

「鼎の言葉には……力があるからな……」
>

どこか悲しげに奈岐が微笑み、息を吐き出す。
>

「きっと奈岐も何かを失っただろう……この意識が途切れて、
(BROKEN:8_20)
>

無くしたものは戻らない……?
>

私は言葉を無くし、奈岐は……。
>

「断定は出来ない……だけど、難しいかもしれないな……」
>

「でも、鼎……奈岐達は生きた……約束を果たせたな」
>

「…………、」
>

でも、その約束はこれからも続く。
>

一緒にいること、独りにしないこと。
>

「……そうだな、鼎と一緒にいることが出来る」
>

「良かった……奈岐は幸せだ……」
>

そう言った奈岐が苦しげに息を吐き出す。
>

「はぁっ……ぅ……なあ、鼎……聞こえているか?」
>

呼びかける奈岐に頷き、頭の中でも返事を繰り返した。
>

「奈岐は……何を取られたのだろうな……?」
>

「ただ……無くしたくないものだけはある」
>

奈岐の指先が微かに動いた。
>

きっと腕が上がらないのだろう。
>

私はその手を取ると、指を絡ませあった。
>

「そう、この……感覚だ……」
>

「鼎を思う気持ちだけは……取られたくない……」
>

「…………」
>

「鼎……これからも……一緒に……」
>

言葉が途切れ、奈岐が力尽きるように目を閉じてしまう。
>

だから、頷く。何度も頷く。
>

私が頷いていることが分かってくれるまで頷く。
>

「そうか、ありがとう……これで……安心して、休める……」
>

「鼎……奈岐は……鼎が大好きだ……」
>

私も奈岐が好き。
>

奈岐を愛しているから。
>

だから、安心して眠っていいよ。
>

私に言葉が無くなっても、奈岐には伝わるから――。
>

「…………」
>

あれだけ泣いたのに、まだ頬に涙が零れる。
>

これは生と死の境界を閉じた代償なのだろうか?
>

それとも私のやり方が間違っていたのだろうか?
>

でも、もう戻ることは出来ない。
>

だから、私らしく前を向こう。
>

何があっても、奈岐を独りにしない。
>

約束の言葉を繰り返し、今は奈岐がゆっくりと休めるように、
その身体を床に横たえた。
>

…………。
>

約束という言葉の意味。
>

数ヶ月後、その本当の意味を私は知ることになる。
>

「絶対に……約束だから」
>

「私が奈岐とって唯一なら、絶対にその約束を守らないとね」
>

「……うん」
>

「約束、奈岐を独りにしない」
>

「うん……約束」
>

交わした約束は呪いとなる。
>

身を縛り、心を縛る――呪縛となった。
>
seisai_no_resonance/sce08_04_24_1.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)