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seisai_no_resonance:sce08_04_00_0
朝が来て、ペットボトルに汲んでおいた水で顔を洗う。
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陽が差すと、不気味に感じていた社の雰囲気は一蹴された。
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それどころか、森を抜けて吹き付けてくる風が清らかで心地良い。
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「――神社を取り囲む森は<RB='ちんじゅ'>鎮守<RB>の森と呼ばれる。
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私と同じく顔を洗い終えた奈岐が涼しげに目を細めた。
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「神域かぁ……もしかして穢れは入ってこれないのかな?」
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「本来はな。今は社がこのような状態だ。神がいるかも怪しい」
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振り返ると、いつ崩れても不思議でないほどの社が佇む。
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それでも、私達が身を隠すには必要な場所である。
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「神様がいるいないにしても、
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「……それもそうだな」
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奈岐がマントを纏うと軒下に座り、荷物から栄養食を取り出す。
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「腹は膨れないだろうが、食べておいた方がいい」
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「葉子先生が入れておいてくれたの?」
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「ああ。もし戻ることが出来れば、礼を言わねばな」
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「うん、先生に感謝だね」
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ペットボトルに数日分の栄養食、まるでこうなることを
予想していたかのような荷物だった。
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奈岐の隣に座り、ビスケット型の栄養食を囓る。
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「それを食べ終えたら、少し情報収集に出よう」
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「そうだね、今は一つでも多くの情報が欲しい」
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でも、学園方向は松籟会が網を張ってる可能性も高い。
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そうなると、他に有力そうな場所は限られてくる。
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「ああ、あの祠を調べるのが手っ取り早い」
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私の考えに奈岐が頷いた時――
ガサッと木々を掻き分ける音が耳に入った。
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「ッ――!?」
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息を殺し、腰の勾玉を握り締める。
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穢れか、それとも松籟会の人間か……?
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いずれにしても、今はあまり事を構えたくないんだけど。
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奈岐に目配せすると、すぐに頷き、同意してくれた。
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そっとその場から立ち上がり、社の反対側へ移動を開始する。
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しかし――。
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「あー、ちょっと待って待って。僕達だよ、僕達」
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聞こえた声に耳を疑いながら、茂みへ視線を戻す。
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「やあ、無事に逃げられたようだね」
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理事長と秘書の二人が平然とした様子で現れる。
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「……そちらこそ、無事だったんですね」
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特に秘書の人は中村さんと戦ったはずだけど、
いつものように理事長の隣に控えている。
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「一対こそ相手に出来ないけど、今回は一人だったからね。
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「勿体無きお言葉。<RB='さ'>然<RB>れど、巫女と渡り合えたのは頼継様の
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この人、奈岐の予測では、確か修験者だったかな……?
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「へえ、すごい洞(BROKEN:8_20)
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「あっ……あはは……」
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考えをそのまま読まれてしまい、私は苦笑する。
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「何の用だ?(BROKEN:8_20)
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「まあまあ、今日は情報共有に来たわけさ。
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「……そちらの目的を知らないわけだが?」
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理事長は苦笑すると、わざとらしく肩をすくめてみせた。
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「ああ、話してなかったね。どうりで警戒されてるわけだ」
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そして、視線を私の手――勾玉を握る手に移す。
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「…………」
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「ずばり大きなところで、キミ達と目的は同じなんだよ」
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「僕もこの島の因習を(BROKEN:8_20)
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「えっ……?」
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とんでもなことを理事長が語って見せたので、
聞かされた私は口をぽかんと開いてしまう。
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「た、(BROKEN:8_20)
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「あっははっ、普通はそう思っちゃうよね?
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「さしずめ、七年前のリベンジみたいなものかな」
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「七年前って……お母さんがこの島に来た時……」
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どうせ考えが読まれてしまうので、そのまま口にする。
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「僕はね、色々と悪い事をして諏訪家の当主に上り詰めた後、
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「本土から力を持った修験者を集め、この島で続いている儀式、
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「結果は失敗。敗戦したところを松籟会の追っ手に襲われて、
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「その事件、お母さんは……関係しているんですか?」
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私が訊ねると、理事長は重いため息を漏らした。
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「ああ、そうだね……キミのお母さんが助けに来なければ、
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「…………」
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「彼女の魂は今もあの祠に囚われている。僕はそれを救いたい。
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そこまで語った理事長が両手を広げて見せる。
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「――と、これで信じてもらえるかな?」
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「何故、お前が高遠未来に拘る?(BROKEN:8_20)
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奈岐の指摘に、理事長は片眉をあげて……
と、これもわざとらしく驚いた様子だった。
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「やっぱり、それは話しておいた方がいいよね。仕方ないなあ」
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こほんと咳払いをした後、理事長が真っ直ぐに私を見据える。
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そして、はっきりと言葉を紡いだ。
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「高遠未来はね――僕の姉だ」
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「…………えっ?」
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口が開いたまま、私の中で時間が静止する。
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あ、姉……?
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姉って……理事長のお姉さん……?(BROKEN:8_20)
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「本名は諏訪未来、高遠は母方の旧姓だよ。島の内情を知った後、(BROKEN:8_20)
>

「姉さんが事実を知ったのは巫女に選ばれ、儀式が行われた時。
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「あっははっ、ホント、破天荒な人だったよ――で、事実を知った
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>

「それが事の始まり。僕は姉さんの意志を継いで、儀式の崩壊を
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理事長の話に、私はただ唖然とすることしか出来ない。
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奈岐も難しい顔をしたまま、理事長と向かい合っている。
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「さ、どうかな?(BROKEN:8_20)
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「…………」
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「……にわかに信じがたい。証拠はあるのか?」
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「んー、キミの目に映るものが証拠でいいんじゃないかな?」
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「そんなもの、慣れれば偽ることも出来る」
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「それを言い出すと、何もかもが嘘に見えるよ?
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>

「上手く話を逸らしたつもりか?」
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「奈岐、ストップ。この人、嘘は言ってないと思う」
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奈岐の手を引いて、論争になりかけたところを止める。
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「嘘なら、もっと上手に嘘をつける人だと思うから」
>

「…………」
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奈岐は私に視線を向けた後、小さく息を吐いた。
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「……それもそうだ。判断は鼎に任せる」
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「うん、ありがとう」
>

「素直に頷けないけど、なかなか冷静だね」
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「どうも……」
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冷静だって言われても、頭の中はごちゃごちゃ。
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でも、一つ確認したいことだけは見えている。
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「一つ……聞いてもいいですか?」
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「いいよ、何かな?」
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「あなたはお母さんのことが好きでしたか?」
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「――――」
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理事長は僅かに驚いた表情を見せた後、優しげに微笑む。
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「ああ、大好きだったよ」
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その言葉を聞いて、この人は嘘を言っていないと確信が出来る。
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ただ『大好きだった』という過去形が……頭に響いた。
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「さてと、今年の巫女だけど、もう予想はついてるよね?(BROKEN:8_20)
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>

理事長が早速とばかりに状況の報告を始める。
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全部信用すると答えたわけじゃなく……
今はこうするより他に選択肢が無かった。
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奈岐の星霊石のこともあるし、
どうしてもまだ引っかかる部分がある。
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それを踏まえた上で、一時的な協力関係を継続するという形に
今は落ち着いている。
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「儀式の準備と称して、二人は学園と別の場所で軟禁状態だ。
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>

「重要なのは儀式の日取りだ。本来ならば八月に行うところを、
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「一週間後だと……?(BROKEN:8_20)
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「地震が起きたのを覚えていないかい?(BROKEN:8_20)
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「関係があるというのか?」
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訊ねる奈岐に理事長がうんうんと二度頷いた。
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「震源地は儀式が行われている場所、随分と厄介なモノを
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「封印……」
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ここ数日で何度か聞いた言葉に私は眉を顰める。
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「その際に地震が起きちゃったのさ。何とか今は抑え込んでいる
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>

「ちょっと、ほころびが出ただけで、祠を中心に大量の穢れが
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>

地震直後に現れた穢れの存在……私達は祓っていないけど、
その痕跡の多くを見てきた。
>

でも、穢れが大量に溢れ出すような封印っていったい何?
>

「松籟会としては、どうしてもそれを止めたいわけさ。
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「封印って……いったい何を封印しているんですか?」
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私の問いに理事長は開きかけた口に指を当てた。
>

「――っと、危ない。口にすることは禁じられているんだ。
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>

「…………」
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学園長も同じようなことを言っていた記憶がある。
>

でも、口にすることも出来ないような封印って……?
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「言葉には魂が宿る。言霊って聞いたことあるよね?
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>

「魂の存在は、この織戸伏だと繋がりが深いものだから、
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>

「だから口にすることも出来ないわけさ。迷信かもしれないけど、
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苦笑した理事長がやれやれと頭を振るった。
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「それを目で確かめるとしても……
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>

「それだけ危険な状態ってことさ。
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>

「それで本題に移りたいんだけど、いいかな?」
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理事長が私と奈岐に対し、交互に視線を向ける。
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そして、理事長が話した内容は単純明快なものだった。
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儀式の当日、祠へ乗り込み、贄を使わずに封印を行う。
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聞こえは簡単だけど、まず祠へ辿り着くには松籟会が敷いた防備を突破する必要がある。
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次に封印が行われている広間に辿り着く必要――
これは私と奈岐が既に方(BROKEN:8_20)
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最後に、封印を完全な形で行う、というもの。
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「……完全な封印方(BROKEN:8_20)
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「僕達とキミ達の到着が間に合えば、あの場所には中村真琴と
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「巫女二人の協力が得られれば、封印は可能だよ」
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理事長の返答に奈岐は苛立って眉をしかめた。
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「私は方(BROKEN:8_20)
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「うーん、参ったな……」
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例の言霊を気にしているのか、理事長は重いため息を吐く。
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「頼継様、お許しがあれば、私からこの者達へ伝達を行います」
>

「いや、昌次郎の力は必要だ。失えないよ」
>

「ですが……」
>

「仕方ない、向山奈岐――ココで話そう。僕らの特権だ」
>

理事長が目を指さし、それから自分の頭を指さした。
>

鬼子同士、意識下でやりとりをすることで、
言霊の危険を回避するつもりなんだろうか?
>

「……分かった」
>

奈岐は理事長に頷き、険しい視線で彼を見つめる。
>

意識下でやりとりを開始したのか、無言の時間が流れていく。
>

奈岐も理事長も互いを真剣な表情で見つめ、
時折どちらかが眉をしかめていた。
>

そして数分後、奈岐が長い息を吐き出す。
>

「<RB='おおむ'>概<RB>ね把握した。だが、こちらの条件を呑まない限り、
(BROKEN:8_20)
>

「……正直、キミの言っていることは無謀だよ」
>

挑発ではなく、理事長が真面目な口調で奈岐を咎めていた。
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奈岐は気にする様子も見せず、マントを脱ぎ、星霊石を手に取る。
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「今から三日やる。私の望み通りに霊石を調整しろ」
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ぶっきらぼうに奈岐が星霊石を理事長へ投げ渡す。
>

「以前、鬼子の演算に耐えられるだけの調整はした。
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「それがこちらの条件だ。無茶と言われようが、呑んでもらう」
>

「知っているとは思うけど、肉体への負担は限界を越える。
(BROKEN:8_20)
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「負担は考えなくていい。とにかく、やれ――以上だ」
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理事長は奈岐の星霊石を見て、重いため息をつく。
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「困った子だ……昌次郎、諏訪家に道具を取りに戻るよ」
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「諏訪家に?(BROKEN:8_20)
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「その掃除はキミ達の仕事だ。頼めるね、昌次郎?」
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「はっ、頼継様の為ならば――承知致しました」
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秘書と話し終えた理事長が一度私へ振り返る。
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「三日後、連絡を入れる。詳しい事情は向山奈岐に聞くといい」
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「その小鬼を止められるのはキミだけだよ、高遠鼎――」
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理事長は軽く手を挙げると、神社の入口へ向かって歩き出す。
それに秘書の人が足早に続いていった。
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「……奈岐、星霊石をどうするつもり?」
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「封印に対応出来るだけの調整をかける」
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調整って……あれ以上は無茶だと目に見えている。
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中村さんと戦った時、奈岐は肉体の限界に動けなくなった。
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その危険性は本人が一番よく分かっているはずなのに……。
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「そこまでしないといけない封印って……何?」
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そこに納得出来るだけの答えが無ければ、
奈岐に星霊石を渡してはいけない気がした。
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この無茶の先にあるのは、間違いなく――。
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「少し場所を変えよう」
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抑揚の無い調子で言った奈岐が森へ向かい出す。
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「……奈岐」
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長い髪を揺らして歩く彼女の背中が、
何故か今はとても遠くに感じた。
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seisai_no_resonance/sce08_04_00_0.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)