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seisai_no_resonance:sce07_04_15_0
学園長室を出て、寮に向かうために中庭を通る。
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先を歩いていた奈岐がふと立ち止まり、
その場に屈みこんだ。
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「奈岐?」
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道の真ん中で私達を待っていたかのように、
一匹の猫が座り込んでいた。
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「ニャーン……」
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奈岐は八弥子さんの猫を無言で抱きかかえる。
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「――覚えておけ、これがお前の主人を刺した鬼の顔だ」
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「私は過ちを犯した。だが、選択を誤ったとは思っていない」
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「中村真琴がまだ鼎の命を狙うならば、最低でも数ヶ月は動けなく(BROKEN:8_20)
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奈岐は抱きかかえたガジの顔をジッと見つめていた。
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「……情けない顔をしているだろう?(BROKEN:8_20)
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奈岐が私に振り返り、腕に抱いていたガジを見せる。
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「鼎、この猫は禰津が戻るまで私が預かろう。
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「…………」
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「すまない……どうしたらいいのか分からない」
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八弥子さんは意識不明の重体のまま――
とても『大丈夫だよ』と言うことなんて出来なかった。
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「しばらく一緒だね、ガジ」
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奈岐の腕に収まっているガジの頭を撫でてやる。
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すると、ガジは心地良さそうに目を細めてくれた。
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「……鼎、事態はすぐに動く。私達にも追っ手が差し向けられる」
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「松籟会が今から巫女を任命して、祠で贄として捧げる。
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「調整を含めて七日前後、二週間もかからないだろう」
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そう言った後、奈岐が私に背を向けて歩き出す。
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「さて、急ごう。寮にはまだ資料が残っている」
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「うん、分かった」
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私はガジを抱きかかえた奈岐の隣に並ぶ。
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少しだけ無言で歩いた後、奈岐がぽつりと言葉を零した。
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「鼎……今、私は泣いているか?」
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「ううん、まだ泣いてない」
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「そうか、ならいい」
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会話を区切り、私達は寮へ続く道を早足で歩いて行く。
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寮の前では、葉子先生が私達を待っていた。
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足下には少し大きなスポーツバッグが二つ地面に並べてある。
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「高遠さん、向山さん、おかえりなさい」
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「……病(BROKEN:8_20)
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「先生は先にやらないといけないことがあったので、
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そう答えた後、葉子先生が足下のスポーツバッグに顔を向けた。
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「一時間ぐらい前に、松籟会の人達から立ち入りがありまして、
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「でも、女の子の部屋なので、少しだけ待ってもらって、
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それが足下にある大きなバッグらしい。
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「顔を合わせる時は、頬を(BROKEN:8_20)
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「話は聞きました。でも、ヤヤちゃんが望んでやったことに、
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「だが、血の繋がりがある。可愛い従姉妹だろう?」
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奈岐の言葉に私は思わず目をしばたたかせた。
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「従姉妹って……えっ、先生と八弥子さんが……?」
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「ふふっ、少し歳は離れてますけど、可愛い従姉妹ですよ。
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少し茶化すように言う葉子先生はいつもと変わらない。
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「じゃあ、右の頬を引っぱたけ。左は口内炎があるからダメだ」
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「こーら、先生に手をあげさせようとしちゃダメですよ?
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「……禰津がそんなことを望むはずが無いからか?」
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「ふふっ、ヤヤちゃんのこと、よく分かってくれてるんですね。
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奈岐は葉子先生から視線を逸らして、目を伏せる。
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見鬼の業で内心を見たことを後悔している様子だった。
願わくば、その答えを自分で出したかったのだろう。
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「葉子先生、一つ聞いてもいいですか?」
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「はい、高遠さん、どうぞ」
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「私と奈岐は停学になるんでしょうか?(BROKEN:8_20)
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うーん、と葉子先生が唇に指を当てて考える。
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「先生が聞いたのは、実家での謹慎処分というお話でした。
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「そうですか、ありがとうございます」
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実家での謹慎と言われると、この島で行くあては無い。
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港町の方で過ごせる場所はあるだろうか?
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そんなことを考えていると、奈岐が抱いていたガジを葉子先生に
見せる。
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「禰津の猫はしばらく預かっていてもいいか?」
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「はい、その方がヤヤちゃんも喜びますし、先生は賛成ですよ」
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「……分かった。見舞いの際、伝えておいて欲しい」
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「はい、分かりました。さて、向山さんなら気付いていると
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「ああ、そうさせてもらう」
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奈岐は荷物に手を伸ばそうとするが、ガジを抱いているせいか、
スポーツバッグを持つのは難しそうだった。
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「鞄は私が持つから、奈岐はどこに行くか考えて」
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「身を隠すにはいい場所がある。そこへ行こう」
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そう言った奈岐は葉子先生に再び顔を向ける。
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「私達は北の神社に身を隠す。禰津が心配するようなら……
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「ヤヤちゃんなら無理しそうですね。ふふっ、分かりました」
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「あと……」
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僅かに口籠もった後、奈岐がうっすらと瞳を揺らした。
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「先生、禰津のこと……本当にごめんなさい……」
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そして、奈岐は長い髪を垂らし、深く頭を下げていた。
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そんな奈岐の姿に葉子先生は少し驚いた後、
すぐにいつもの微笑みを浮かべる。
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「ふふっ……向山さん、初めて先生って呼ばれましたね。
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「それは……考えておく」
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「はい、期待してますね。じゃあ、二人とも気を付けて下さい」
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「葉子先生、ありがとうございました」
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私も先生に頭を下げてから、スポーツバッグを両手に持つ。
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「鼎、進路がバレる前に急ごう」
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「……うん」
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昨日までは帰る場所だった寮にもう戻れない。
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少し未練がましく思えるけれど、考えるのは全部後回しだ。
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今は安全な場所まで逃げないといけない。
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この数時間で私達の立場は一転して危険なものとなった。
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元より事実を知っているという意味では、危険な状態であったことは確かだけど……今はそれ以上に危うい。
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中村さんの行動により、八弥子さんは重症を負い、前代未聞の
出来事として、松籟会が私達を処分出来るだけの口実を得る。
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これで巫女にせずとも、口を封じることが出来るのだ。
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だから、今の私達を松籟会は見逃そうとしないだろう。
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seisai_no_resonance/sce07_04_15_0.txt · Last modified: 2014/04/23 18:46 (external edit)