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seisai_no_resonance:sce07_04_14_0
夕刻、学園長室に赤い光が差し込んでいた。
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目に映る赤は数時間前のことを思い出させて、
あまり直視出来ない。
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あの後、私と奈岐――それから、中村さんと遠山先輩は
学園長室に呼び出されていた。
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「向山さん、これが前代未聞の出来事だと理解出来ますか?」
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「…………」
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問いかけられた奈岐は目を伏せたまま微動だにしない。
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身体に付いた八弥子さんの血を(BROKEN:8_20)
奈岐は人形のように動かなくなっていた。
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私がどれだけ呼びかけても返事をすることもなく、
まるで奈岐だけ時間が止まっているように思えた。
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「……中村さん、事情を説明出来ますか?」
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学園長は奈岐を見ていたが、一向に反応が無いからか、
中村さんへ顔を向けた。
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「松籟会の許可が無ければ、お答えすることは出来ません」
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「松籟会以前に……中村さん、あなたは巫女候補として、
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「事態は深刻です。どうしてあのような行動を取ったのですか?
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御花会の代表として、この場に呼ばれた遠山先輩が中村さんに言葉をかける。
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「…………」
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答える気がないのか、中村さんも口を閉ざしてしまう。
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「学園長……」
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「…………」
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さすがの学園長も眉間に皺を寄せ、息を漏らしていた。
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その時、卓上にあった電話(BROKEN:8_20)
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「はい、私です……」
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受話器を手に学園長が会話を続けていく。
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相手は松籟会の人だろうか?
険しい顔付きのまま、学園長は相づちを繰り返す。
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そして、重苦しいため息と共に受話器を置いた。
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「中村さん、あなたの身柄は松籟会が預かることになりました。
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「学園長、それでは何の解決にも……!」
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声を荒げた遠山先輩を制するように学園長が言葉を続ける。
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「この一件で……理事長は松籟会の承認を得ず、独断で向山さんの
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「その責任を問われるべき理事長が姿をくらましたため、
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「今は、松籟会の言葉に従うより他にないのです」
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「…………」
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言葉を無くした遠山先輩が視線を落としてしまう。
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この島にいる限り、松籟会の権力は絶対的なもので……
そこに今まで知ってきた常識なんてものは通じない。
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彼らが何かを取り決めれば、それは島にとって絶対の(BROKEN:8_20)
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私を何度も殺そうとしたことも、この島では問題にすらならない。
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八弥子さんの身に起きたことも明るみに出ることなく、
事実はまた嘘に隠されていく。
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「……それでいいんですか?」
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思わず口から言葉が零れていた。
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「高遠さん、いいも悪いもありません。松籟会がどれだけの力を
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「ずっと……この島で行われてきたこと、
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「今はそんな話をしておりません。この島には、この島のルールが
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「ルール、ですか……」
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そう語ることが出来た学園長は大人なんだと思う。
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だから、私が初めてこの部屋に来た時……驚いたのだろう。
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《高遠の娘が戻ってきたような》――そんな言葉と驚き。
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学園を預かる立場からすると、松籟会に従わない私やお母さんの
存在は、非常に危険なものだ。
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お母さんの行動がとても危険だったから、
そして、その姿によく似た娘だから驚いた。
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血の為せる業とも言った学園長の予想通りに、
私も事実を知った危険人物となる。
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でも、その危険は松籟会にとっての危険でしかない。
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だったら、私はどこまでも危険な人間でいようと思った。
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もう戻れないところまで来ていることは知っているから。
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小さく息を吸い込み、はっきりと言葉をする。
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「この島の大人は、ルールで人を殺すんですか?」
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「…………!」
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「…………」
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「高遠……さん?」
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「あなたは、それでいいんですか?」
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自分の言葉がどれだけ危険か、それを分かった上で訊ねる。
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「……個としての力は非常に弱いものです。
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「それ、逃げ口上です」
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「私が意見しても島の仕組みは変わりません。出来ることは、
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「学生の八弥子さんは意識不明の重体です。
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「言葉だけは、立派で……
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「……彼女のことは弁解の余地もありません」
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「ですが、儀式を通して巫女を輩出することは、
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巫女を輩出することが、学生を守る?
学生である巫女を犠牲にして?
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色々限界だった。だから、もう言葉が止まらない。
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「じゃあ、聞きます。贄と封印の先に何があるんですか?」
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「……片倉さんが言い残したのですか?」
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「知っているんですね」
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そう言いながら、学園長を睨み付ける。
殺気を籠めるぐらいに強く睨んだ。
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「それは口にすることすら禁じられています。こうして話している
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「……なら、この目で確かめることにします」
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「高遠さん、あなたは……高遠未来さんと、あなたの母親と
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過ち?(BROKEN:8_20)
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ただ自分の意志に確かめれば、一つだけははっきりと分かる。
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「命を数で天秤にかける人が何を言ってるんですか?」
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「…………」
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二人の犠牲で済めばいいなんて考え方、私には理解出来ない。
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「奈岐、行こう。私達が戦う相手はこの人じゃない」
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私は隣で佇んでいた奈岐の手を掴む。
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夏を目前に控えているのに、奈岐の手は冷え切っていた。
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「奈岐、知ってることを話した以上、もうここにはいられない」
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「…………」
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俯いていた奈岐がゆっくりと顔を上げる。
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そして、どこか生気の抜けた瞳で、それぞれの顔を見渡す。
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「中村真琴、遠山神住……鼎の言葉を聞いたな?(BROKEN:8_20)
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「フッ……私がこの場で何かする必要は無くなったな」
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「別れを惜しむ暇ぐらいはあるだろう、好きにしろ」
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私の手を握りかえし、奈岐が踵を返して歩き出す。
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「っ……向山さん、待ちなさい!(BROKEN:8_20)
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一際、強い口調で学園長が奈岐を止める。
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持っていてはいけないものなら、今の私達にとっては、
最高の武器になってくれるだろう。
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「ああ、学園長はもう呪いにかかっていたな……高遠未来の。
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「…………っ」
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「呪い――だそうですよ。的は射てます。それじゃあ」
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そう言い残して私は学園長室から出て行く。
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言いたいことは言った。
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でも、気分は最悪だった。
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seisai_no_resonance/sce07_04_14_0.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)