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seisai_no_resonance:sce07_04_01_1
夜が訪れると、約束通りに奈岐は寮に戻ってきた。
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外で話したいという彼女に誘われて、
寮から出てしばらく森へ向かって歩く。
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奈岐の様子を見る限り、いつものように落ち着いていて、
特に問題は起きなかったのだろうと安心する。
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ただあまり口を開こうとしなかったことだけが気がかりだった。
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森の中、立ち止まった奈岐が空を見上げる。
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月を眺めるどこか儚げな横顔。
その唇は微笑みをかたどっていた。
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「困ったことに……あの男に賞賛されてしまった」
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「えっ?」
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奈岐から聞こえた意外な一言に耳を疑う。
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「覚悟を伝えて、揺さぶるつもりだったけれど……
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「代わりに、あの男は思考で……こう伝えてきた」
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「高遠鼎を信じて動いたキミに賛辞を<RB='てい'>呈<RB>するよ――
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「この島で鬼と呼ばれる力は……関わる人を不幸にする。
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「今の僕には、僕を信じて一緒に戦ってくれる人がいる。
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「鬼子は、僕達は、孤独であることを強いられてきた」
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「だけど、独りじゃなくなった時――
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「これで、ようやく同じ舞台に立てたね。
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「もちろん、その言葉の全てを鵜呑みにするつもりは無い」
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「ただ……あの男も孤独を知っていたことに安堵した」
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「そして、あの男もまた孤独を脱していたことに納得した」
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「味方になるか敵になるのか、それは分からないけど……
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「今……少しだけ気分がいい」
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フッと微笑み、奈岐が目を細める。
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同じ鬼子として島に生まれたからこそ、伝えられる言葉――
私にはそう聞こえた。
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立場も違えば、性別も違い、思い人も違う。
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だからこその言葉なのかもしれない。
でも一つだけ。
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「成すべきことって、それは奈岐にも見えたの?」
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「――そうだな、見えた」
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そう呟いた奈岐の双眸が私を捉える。
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「前にあの男に言われた。
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「……正直に答える。図星だった」
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静かに奈岐が目を伏せた。
そして唇が次の言葉を紡ぐ。
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「鼎は私の独りを奪ってくれた。そんなことは初めてだった。
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「鼎の意志なんて無くていい。ただの人形でもいい。
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「無意識にそうしていた自分に気付かされた。
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「そうして、自暴自棄になった」
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閉じられていた奈岐の目が開き、再び私を見つめる。
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「でも、奈岐は救われた」
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「鼎がとんでもない無茶をして、気付かせてくれたから」
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「…………」
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無我夢中だったけど、奈岐のことを信じて、私は崖から飛んだ。
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それが結果的に自分だけじゃなくて、奈岐の心も救ってくれた。
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「鼎、質問に答える――奈岐の成すべきことが見えた」
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「伝承の神狼がそうしたように、この命を<RB='と'>賭<RB>してでも、
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「これがその証にもなる」
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月明かりに反射する星霊石が、何故かいつもと違って見えた。
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「理事長――諏訪頼継の家系は、この霊石を加工する技術を
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「あの男が松籟会に属すことが出来ているのも、
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「奈岐、星霊石に何かしたの……?」
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言い様の無い不安感に苛まれ、奈岐に問いかける。
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「人の巫女に扱える力、という枷を外してもらった」
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「えっ……それってどういう?」
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「力を使うことは意識し、イメージすることと似ている。
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「鬼子である理事長も、それがどの程度のものかを知っている。
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「鬼子が鬼子のために霊石を打った――
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「…………」
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だから、奈岐の持った石がいつもと違って見えた。
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納得は出来たけど……でも。
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「その力、大丈夫なんだよね?」
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「その証明は、明日からの茶番で見せるつもりだ」
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「松籟会、そして学園の人間に――神狼の力を見せてやろう。
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奈岐が不敵に微笑み、星霊石を胸元に戻す。
そして再び目を伏せる。
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「明日を迎える前に……鼎に一つ、頼みたい」
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「……?」
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「こっちへ来て」
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奈岐の呼ぶ声に誘われ、側に歩み寄っていく。
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「想いが確かなら……その証が欲しいというのはわがままか?」
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頬をうっすらと赤く染めた奈岐を見て、その言葉の意味に気付く。
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だからだろうか、自然と私の口元に笑みが零れていた。
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「あはは、順番が逆だったかもしれないね」
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「……それもそうだ」
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苦笑した後、奈岐が目を閉じる。
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そして、私は彼女の肩に手をかけ、少しだけ腰をかがめて――。
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「んっ……」
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そっと唇を重ね合わせる。
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ただそれだけの行為でも早まる鼓動が止まらない。
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相手を想うこと、好きでいること、愛するということ。
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誓いの口づけ、また一つ約束を交わした口づけ。
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そして、二人で歩み、決意を貫くという証――。
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「……んっ」
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僅かな吐息に促されるように、うっすらと目を開く。
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すると、目前で奈岐の瞳が微かに揺れていた。
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何か言葉をかけようとして、顔を動かそうとすると、
彼女の手がぎゅっと私の服を握る。
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ああ、そっか――私から想いを伝えるのは簡単なことだ。
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彼女が見てくれているなら、伝えたい想いを形作ればいい。
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《奈岐――大好きだよ》
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秘密の言葉のように頭の中で繰り返して。
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目を閉じると、ついばむようにして奈岐の唇を吸った。
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これからは想いを交わした証を胸に歩み出す。
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名残惜しげに唇が離れる瞬間まで、
私は奈岐のことを想い続けた。
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その全てが彼女に届くことを祈って――。
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seisai_no_resonance/sce07_04_01_1.txt · Last modified: 2014/04/23 18:46 (external edit)