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seisai_no_resonance:sce07_04_00_0
陽の光を感じて、寝ぼけ眼を擦る。
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昨晩、どんな進路を辿って寮に帰り、ベッドに潜ったか、
あまりにも記憶が曖昧だった。
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とりあえず、いつものパジャマを着ていることから、
帰ってきてすぐに倒れ込んだわけではなさそう。
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「――鼎、起きたか」
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部屋を片付けている奈岐が顔を上げた。
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破棄される予定だった書籍やノートを、
再び机に戻している姿を見て安堵する。
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「おはよ……今、何時ぐらいかな?」
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「もう昼を過ぎたところだ」
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「……昼って」
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記憶が正しければ、今日は平日のはず。
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ま、また授業をサボってしまった……。
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「気にするな。それより、鼎に少し留守を頼みたい」
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「留守?(BROKEN:8_20)
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頷いた奈岐がベッドの側までやってくる。
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「もう一度……理事長に会ってくる。
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「理事長って……奈岐、大丈夫なの?」
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奈岐の様子がおかしくなったのは、あの人と話してからだ。
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どうしてもそれが不安になる。
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「前向きな回答を伝えるだけだ。それ以外に話すことはない」
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「…………」
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少し考えた後、私はベッドから飛び出す。
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「私も行くよ。ダメって言っても――」
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「無様に取り乱したこと、そのケジメをつけたい」
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奈岐が珍しく強い調子で私を静止させる。
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「色んなものから逃げていた自分を終わらせたいんだ」
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「そのために、巫女を目指すことをあの男に伝えたい」
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それは私と一緒に、島で続く因習を終わらせるという意志――。
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「でも、一人で行く必要なんて……」
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「鼎、その必要があるんだ」
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立ち上がった私を奈岐が真剣な眼差しで見上げる。
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「奈岐はずっと独りだった。でも、今は違う。
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「側にいなくても、鼎がいることを、もう独りじゃないことを、
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「同じモノと言われたあの男にだけは、示さないといけない」
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強い言葉をもって、奈岐は私にそう訴えてきていた。
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それでも……頭の中で様々な不安が過ぎる。
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そんな私の気持ちを知ったのか、奈岐が私の手を取った。
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「鼎、奈岐を信じてくれ」
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「……奈岐」
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「同じ鬼と呼ばれたからこそ、示す必要があるんだ」
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そう言った後、奈岐は何故か私に対して不敵な笑みを浮かべる。
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その意味が分からず、まばたきを繰り返していると。
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「奈岐は鬼ではない――と」
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「穢れの<RB='かこん'>禍根<RB>を断つ神狼の眷属だ」
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バサッと音を立てて、奈岐が久々に狼のマントを羽織った。
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「奈岐……」
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そんな奈岐らしい言葉と姿を見て、不安感がやわらいでしまった
自分に思わず吹き出してしまう。
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「あはは、そうだったね。うん、そんな奈岐なら大丈夫か」
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「ああ――礼を言う、鼎」
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そして奈岐はフードを被り、私に背中を向ける。
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「夜には戻る。その時に詳しく話す」
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「うん、待ってる」
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お互いに頷き合うと、奈岐はマントを翻して部屋を出て行く。
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その後ろ姿を見送った後、私は机にあるノートの山へ視線を移す。
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「そうだよね、奈岐は鬼なんかじゃなくて――神狼様だったね」
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破かれたノートは全てテープ繋ぎ止められ、修繕されていて、
いつものマル秘が大きく目立っていた。
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それが積み重ねてきた逃避から、因習と戦うための武器に変わった証にも見える。
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ふと、この地に住んでいたと伝えられる神狼の話を思い出す。
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魔を祓い、人々を災いから救ったといわれる存在――。
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奈岐の見立ては間違ってなかったのかもしれない。
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これから私と奈岐は神狼様と同じことを……
贄を差し出す因習を終わらせないといけないから。
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「…………でも」
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でも、あの伝承の最後って確か……。
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ううんと頭に浮かんだ考えを振り払い、着替えを探す。
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今日は平日だし、制服の方がいいだろう。
そう思い、私は寝巻きに手をかけた。
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夕方になると、多くの学生が寮へ戻ってくる。
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私は手すりに寄りかかりながら、ある人の帰りを待っていた。
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ケジメをつけると言った奈岐にならって……というわけじゃない
けど、私もあの人と話しておかないといけない。
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学生達の姿を見送りながら、帰りを待ち続け――
ようやくロビーに現れた顔に、私は気を引き締める。
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「末来さんっ!」
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三階から届くかどうか分からないけど、声を上げて手を振った。
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「――――」
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ロビーに入ってきたばかりの末来さんが顔をあげ、
僅かに驚いたような表情を見せる。
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でも、すぐにいつもの優しい微笑みを浮かべて、
そっちに行く、と唇の動きで伝えてくれた。
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そして、末来さんが部屋の前までやってきてくれる。
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その顔を見るや否や、私は頭を下げていた。
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「ごめんなさいっ!」
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「……鼎?」
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「私、感情的になって……何も考えず、末来さんとお母さんに
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「鼎……そんなことない。鼎の気持ちを無視したのは、
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「でも、末来さんとお母さんは私を守ろうとしてくれました。
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「だから、ごめんなさいっ」
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「鼎……」
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もう一度、頭を下げた私の髪を末来さんの手が撫でていた。
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「ふふっ、鼎には悪い口癖があるね」
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「口癖……?」
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「よく自分に『しないといけない』って言い聞かせている」
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「…………」
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意識したことは無かったけど、今さっき自分が口にしていたこと
ぐらいは分かる。
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「きっと……未来がいなくなってから、自分に言い聞かせて、
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「鼎、謝るのはボク達の方だよ」
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「そんなこと……ないです。それに謝らないで下さい」
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顔を上げて、末来さんの優しげな双眸――
お母さんと瓜二つな顔を真っ直ぐに見つめる。
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そして、伝えたかった言葉をしっかりと紡ぐ。
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「私は自分の意志を貫くため、巫女になろうと決めました。
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「それがお母さんと末来さんが望んだ形のものになるかは、
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「だから、全部終わってから……その言葉を聞かせて下さい」
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ちゃんと伝えきるつもりだったのに、どうしてか胸が痛んで、
視線がつま先へ落ちていってしまう。
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「でないと、末来さんやお母さんに甘えてしまいそうで怖いです。
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そっと末来さんの手が私の頬に触れる。
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「鼎、また『いけない』って自分を縛っている」
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「……でも」
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「うん、分かってるよ。全部終わってから、だね」
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「未来もボクも鼎に謝って、いっぱい甘えてもらわないとね」
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「末来さん……」
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末来さんの手が頬から離れ、代わりにクスッと微笑みを浮かべた。
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「それとも――鼎がいっぱい甘える相手は、もう奈岐だけになって
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そんなことを言われて、思わず吹き出してしまいそうになる。
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「……末来さんは何でもお見通しですね。でも、その甘えると
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「ふふっ、それは嬉しいね。楽しみにしてるよ」
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優しげに微笑む末来さんの姿はやっぱりお母さんと重なっていく。
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「鼎、ボクの道標はきっとここまで。あとは自分の意志を信じて、
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「……はい、ありがとうございます」
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頷いた私を見た後、末来さんがゆっくりと踵を返す。
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「全部終わったら――未来と一緒に、三人でもっと話そう」
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「そうですね、いっぱい言いたいことはありますから」
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「ふふっ、楽しみにしてる。それじゃあ」
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末来さんが廊下を歩き出していく。
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私はその背中を見送りながら、静かに息を吐いていった。
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私の意志はきっと末来さんに伝わったと思う。
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あとは進むだけ――真っ直ぐ進むだけなんだ。
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seisai_no_resonance/sce07_04_00_0.txt · Last modified: 2014/04/23 18:46 (external edit)